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十七章 任務前日~参謀の大臣&戦闘使用人~動(2)

 趣味のよく似た友人がいる。アヴェインより二歳上で、自分よりも三つ年上。彼は愛称名でジーンと呼ばれている。


 かなり頭が切れる男で、十三歳で即位したアヴェインを十五歳の彼が手助けしていた。『ジーン』としても当時と変わらず忙しくしているが、今は大臣の身だ、自由に出来ない部分も増えた。


 だから、そのためには、それぞれで動く各グループの情報を共有させるための、パイプとなる人間が必要だった。



 それが、現在は銀色騎士団第一師団長としてある、グイードのもっとも大きな役割の一つだ。



 貴族として普段の広い社交性を駆使しつつ、一番にフットワークの軽い軍人として所属を超えて顔を出す。疑われず幅広く、現在進行形の新鮮な情報を得る事が出来る立ち場だ。適任だとして本格的にそれを自分から名乗り出てから、もう十数年が過ぎようとしている。


 不器用な後輩を持つと大変だ。軍のトップであり、銀色騎士団の総隊長であるロイドは仕事馬鹿である。体力底なしのせいか、自分の限界を把握していない部分もあって、自身ではバランスの調整が難しいとする男なのだ。


 一人で抱え込むなと、らしくなく説教して十数年。


 それでも奴は頑固なままで、その調整役にもグイードは買って出ていた。


 総隊長側と国王陛下側、機密と共に動く大臣側と貴族界の動き。軍のトップより下の現場を直で確認して彼らに情報を共有させ、最近は『裏』の事情も少し噛んでいる。


 何も苦ではない。グイードは根っからの社交好きで、人とのやりとりを好んでいて、友人たちの役に立つ事を望んでいる。臨機応変が利き、それでいて縛りを嫌う自由な男だったからだ。


 何より、彼自身が気になるというのも理由にはある。そして、友人の誰一人欠ける事なく伝えて、同じ目線と立ち場から共に進んでいきたい。

 知らない方が、きっと心配して気になって、そわそわしてしまうだろうから。十六年前の自分がそうだった。



 あの時だけ、嫌な予感というものさえ感じさせない男がいた。


 大切な後輩だった。それでも生きていて欲しいと言ったじゃないか、と、つい取り乱してしまって……――



 昨日の夜、急とはいえ決定された事により、本日も現場の仕事の前に会うべき人間が二組いた。その件があってか、本日はアルバート・アーバンドは休みとなっている。


 前日というタイミングだから、ただ単にアーバンド侯爵が休日としたのかもしれないけれど、相変わらず『あちら』の動きは不明だ。グイードはそこまで深く『裏』には関われていない。


 ハーパーの件は明日、決行される事になっていた。


 人員の用意は整っている。後はハーパーの件での突入時刻が決まり次第に、全ての動きのスケジュールが細部まで決定する。


 情報の横流しをしている一部の警備隊に直前まで気付かせないまま、けれど貴族裁判の権を発行しハーパーを逮捕。そして全関係者の捕獲となると、どの部隊と組織を、どのように配置して動かすのかが重要になってくるだろう。


 全ては、総隊長ロイドの、今日の決定と指示にかかっている。


 相手が他の誰かであれば、さてどうなる事やらと思うところではあるが、だてに最年少で師団長、そして歴代最年少で総隊長に就任していない。彼の事だから、あらゆるパターンから絞り込み、絶対のルートを選ぶだろう。


 だから不安も心配もない。全員が一任していた。


「それにしても、あいつら、これでよく生きてこれたなぁ…………」


 早朝一番、グイードは冷めてしまった珈琲を片手に、一つの分厚い調査報告書を前にそう呟いた。数回ほどざっと読み返したものの、わざわざ最優先の重要任務として調べに行かされた人間を想像して、誰かは分からないが少し同情した。



 ここは、本日の午前中は休みを取っているはずの、大臣の執務室である。戸棚の後ろの隠し通路から進んできたので、まさかその室内に第一師団のグイード師団長がいるとは、誰も知らない。



 その調査報告書は、現在ハーパーの屋敷の用心棒として組み込まれているという、とあるチンピラグループの物である。下が十九歳、上は二十一歳と若い男たちで構成されており、どうやら全員が同郷者で、幼少からずっと共にいるメンバーであるらしい。


 この青年たちが完全なる『白』である事は分かった。何せ非常に分かりやすいというか、幼少期から現在に至るまでの経歴と経緯が、これマジな話なのだろうか、と読み返してしまうくらい珍しい感じになっているせいでもある。


 とある友人たちのそれぞれの言葉を借りるのなら、このチンピラは『阿呆』であり『馬鹿』であると言うべきか。


 グイードとしては、ちょっと心配になるくらいに「こいつら大丈夫か?」という感じで、この報告書が仕上がっている気もしている。


「つかさ、この『裏』から届いた調査報告書に金まで同封されていたとか、珍しくね? まぁ報告内容を見たら、恐らくは食う分の金だとは思うんだけどさ」


 一人でこれを全部回るのは無理だろうし、何人かの班で動いたのかもしれないけれど、一緒にメシまで食った人物の顔が知りたいものである。いや本音を言うと、この調査報告書のその部分を読んだ時が一番面白かったので、是非とも本人の口から聞いて大爆笑したい。


 グイードは楽しい事には目がないので、個人的な感想からそう強く感じた。しかし、先の疑問の方が強かったので、そちらについては自己完結する事にした。


 話を戻すように「うん、マジでよく生きてこれたよなぁ」と再び口にし、この部屋の主であり、向かいのソファに腰を降ろしている同年代の友人、ジーンに視線で問い掛ける。


 午前中に急きょ休暇を入れていたジーンは、平隊員の軍服に身を包んでいた。グイードに視線を寄越される前から、どこか楽しげに口角を引き上げて、明るくなり始めている窓の向こうを眺めていたのだ。


 ジーンは、手に持っていた大臣のバッジを投げた。それはキレイな放物線を描いて、狙った通り窓の前にある書斎机のケースの中に落ちる。それを見届けたグイードが「お見事」と言うと、彼は「どうも」と答えながらこう続けた。


「たまにいるんだよ。まるで神様に愛されたみてぇな、とんでもない『運』の持ち主ってやつがな」


 それが吉であるか凶の方の運なのかを判断するのは、人によっては意見が別れるかもしれない。けれど本人たちの意思に関係なく、決定的な危ない事は全て避けられているとしたら、少なくとも『とんでもなく運が良い』とも言えるだろう。


 グイードは、ジーンの言い分もあながち間違ってはいないと思ったから、意見する事なく調査報告書に視線を戻した。ハーパーの件が終わって落ち着いたら、これ、ロイドのところに行くんだろうかと想像してしまう。


 まぁ、それはそれで面白そうなので、反応を間近で見てみたい気もする。


 機嫌が急降下する事があるのなら問題なので、それを行動に移すべきかどうかについては、実に悩ましいところである。多分、切れるよりも呆れるのが七割だろうか。その確率と可能性を前提として、あの問題児の後輩ロイドの反応を、自分の目で見るべきかどうか……。


「うーん。それにしても、殺生無しでここまでやってきたとか、逆に会ってみたくなったわ」


 しげしげと調査報告書をパラパラめくるグイードを横目に、ジーンは再び窓の向こうに目をやって、昨夜の事を思い出して意地悪そうにニヤリとした。


「ロイドも、いい感じに切羽詰まってんなぁ」


 昨日ハーパーの顔を拝みがてら、共にメシを食ったポルペオが、タイミング良く彼に何事か愚痴りでもしたらしい。おかげで、こちらから吹っ掛ける手間もかからず、ジーンはロイドが一人で頭を抱えて葛藤する後ろ姿をこっそり観察し、声を殺してめちゃくちゃ笑った。


「ふっふっふ、この調子だと、上手い事いきそうだぜ」

「ジーン、お前またなんか企んでんのか?」


 グイードは、無精鬚を撫でる友人に問い掛けた。


「面白い事なら、是非とも混ぜて欲しいんだが」

「はははは、すまんな、明日までは『秘密』だ。昨日は一日中楽しかった、とだけ言っておく」


 そう言うと、ジーンは膝を叩いて立ち上がった。ソファの肘掛に引っかけていた旅用のローブを手に取り、慣れたようにそれに身を包む。


「さて。明日の件の前に、まずは『話し合い』に行ってくっかな」


 そのおかげで、昨日は王宮に戻ってきてしばらく経ってからが、とても大忙しだったのだ。ニールも引っ張り出さなければならなかったし、ついでに近衛騎士隊の区の近くの用事の品を、ヴァンレットに持たせておつかいにもやったくらいである。


 隠し通路に入る直前に、ジーンはグイードを肩越しに振り返り「適当に片付けて帰れよ~」と告げて、身軽な軍人姿で部屋を出て行った。

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