とけた
熱中症になりそうな、暑い日差しの中。
私と光輝はアイスを頬張る。
「あっちぃ」
死んじまうよ、これじゃあ。なんて言いながら。
二人並んだ帰り道。
「口に出して言わないで。余計暑くなる」
「だってあちぃじゃん、勝手に出ちまうんだよ」
幼馴染みの光輝は、ムダに背が高くて。自信家で。
目つきも悪いから、周りによく怖がられるけど。
「あとこれ、タオル。頭かぶっとけ」
本当は面倒見がよくて、優しいところ。
私は知ってる。
そんなことをぼーっと考えていると、しゃりしゃりと音を立てていたアイスは、いつの間にか溶けはじめていて
「おい、すず。溶けてんぞ」
暑くて、暑くて。自分も一緒に溶けちゃいそう。
目の前が歪んでいって、どろどろになって。
汗と一緒に、地面に落ちて……。
「…!おいッ 大丈夫かよ!?」
知らぬ間に、がしっと肩を抱きとめられていた。
──…あ、れ?
「マジ大丈夫かよ?ふらふらじゃねーか」
「…大丈夫。いつものことだよ」
「それ、やばいんじゃねーの」
心配して覗き込むように近づいた、光輝の顔。
顔あけーぞ?って。長い指が、前髪に触れる。
ぽたりと垂れた、汗とアイス。
いつの間に、こんなに大きくなったんだ。
ずっと傍にいたのに。男らしい顔つきになっちゃって。
どくんと脈打つ、私の心臓。そして
『あ』
たらりと溶け落ちそうになったアイス、光輝はすかさず反応すると、反射よくパクリと食べてしまった。
最後の一口だったのに。
「返せ、ばか」
お陰で手はべたべただ。
「あ?んなもんとろとろ食ってんのがワリィんじゃねーか。落ちるとこだったぞ、今の」
つーかお前、手やべーな。
言って当然のように私の手をとると、指先から付け根まで。ぺろりと舐めた。
「ちょ、」 急に、なに…ッ!
突然のことに驚いて掴まれた手をすぐさま引っ込めようとしたけれど、離してくれる気配はない。
「ッ!?…な、ん」
あまりの出来事に、身体が固まった。
丁寧に。優しく。時折こちらを伺いながら。
赤い舌先と濡れる指。出たり入ったり。
───なに、これ。
暑い日差しの中。きらきら。眩しい。
恥ずかしいのに、逸らすことなんてできなくて。
短く、息を吐いた。
私の顔は、きっと赤い。あつすぎる。
私の知らない、光輝の顔が。そこにはあった。
どくんと脈打つ胸を抑えて
───そんな目で、見るな。
小さく、震えた。
「おっし。アイスも食い終わったし、早く帰ろーぜ」
何事も無かったかのように、するりと離れた私の手。
歩き出した広い背中を、じっと見つめた。
たぶん。あんたとって私は、ただの幼馴染みか妹ぐらいにしか、思ってないんでしょう。
だけど、こんな気持ちになるなんて。
「はやく……気づけ、ばか。」
隠すように顔を覆えば、ふわりと香る。
光輝の匂いと夏の音。
息があがるのも。心臓が早いのも。顔が熱いのも。
ぜんぶ全部、君のせい。
いつか必ず、伝えよう。