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7.どうやら誰かがピリピリしてるようだ……?

7話目です。8話は明日か明後日かも。


 カチ……カチ……。


 薄暗い部屋で、右クリックする音が響く。

 パソコンの画面には、剣士の男と神官の女が森のフィールど内で一緒に魔物を狩っている。

 ちょうど剣士の男が最後の魔物を倒し、これから二人は休憩するようだ。


 今日も深夜に、ネトゲでステラさんにお世話になっている。


 俺はネトゲを始めてまだ日は浅いが、ステラさんのサポートのお陰で剣士になる事が出来た。

 ノービスだった頃の無いに等しかったスキルが、剣士に変わったとたんに覚えられるスキルが増えたのは素直に嬉しい。


『ノービス卒業、おめでとう!だけど……ナナシキさんはまだノービスを卒業したばかりで、このゲームの本当の面白さを知るのはこれからだよ?』


 確かに俺は剣士となり冒険の幅が増えて、前よりもこのゲームを面白いと思えるようになった。

 その原因は、ノービス時代に苦戦していたモンスターを一方的に倒す充実感を得られた事も大きいけど……。


 俺は画面に映る、女性の神官キャラのステラさんを見る。

 もう一つは何時も一緒に遊んでくれる人が居た事が、このゲームをもっと面白いと思える要因だと思えた。


 ところで俺とステラさんは今は何をしているかと言うと……狩りを一通り終えて、少し休憩をしているところだ。


「ぐっ……!」


 もう……限界だ。

 やっと、休憩できる……はっ、まだ力を抜いたら駄目だ……!


 俺はステラさんと二人で狩りをしている途中……突如トイレに行きたくなった。


 一言断りを入れて、トイレに行けば良いのだが……ちょうど狩を始めたばかりで、女性のステラさんに俺がトイレに行きたいと言うタイミングが見つからなかったのだ。


 最近知り合ったばかりの異性の友達にトイレに行きたいですって言うのは、俺のメンタルでは無理だ!

 でも、この休憩のタイミングならやっと言える……。


 ガタガタガタ……。

 俺の右脚の貧乏ゆすりが止まらない……なんだかこうしてると若干我慢できるから不思議だ。


『すみませんステラさん、飲み物取ってくるんで少し席を外しても良いですか?』


 飲み物取ってくる時間なら、少し遅れても不自然じゃないだろ……。

 変に思われても部屋が2階にあるって、言えば良いか。

 

『どうぞどうぞ。私はその間、ナナシキさんを守っていますから大丈夫ですよ♪』


 ステラさんは俺の剣士の男キャラの隣に座って、笑顔のアイコンを頭上に表示させる。

 現在の場所が敵が沸くフィールドなので、俺が離席している間はステラさんが守ってくれるみたいだ。

 ステラさんに申し訳ないので、早く行って帰ってこないとな……。


『ステラさん、ありがとう。すぐに行ってきます』


 俺は椅子からなんとか立ち上がり、部屋を出て一階にあるお手洗いに飛び込む。

 ギリセーフだった……。


「ふぅ……」


 お手洗いから出て、自分の部屋に帰ろうとしたら……ちょうどお手洗いの前で妹と出くわした。


「に、兄さん……!?」


 お手洗いの電灯の明かりで、妹の姿が露になった。

 妹は大きめな上着を着ているだけみたいで……上着の裾の先から瑞々しい生脚が覗いている。

 少し上着の裾を捲くったら、妹の下着が見えてしまいそうでハラハラしてしまう……。


「あれっ……その上着、俺のじゃないか?」


 そうだ……お手洗いの照らす光だけで分かり難いが、妹が今上に着ているのは……今朝、洗濯すると言って持って行った俺が脱いだパジャマの上着だ。

 顔を背けるほどじゃないが俺の寝汗の香りが染み付いていたので、洗濯してくれるのは有り難かったのだが……何で妹が着ているんだろう?それ、洗濯するんじゃなかったのか?


「えと……そのぉ……ご、ごめんなさい兄さん。実は今朝の兄さんのパジャマを洗濯するって言うのは……嘘なんです。本当は、に、兄さんのパジャマを貸して欲しかったの!」


 妹は目を左右に泳がせながらも、俺に向けてそう言った。

 頬を赤く染めながら、若干真剣な表情の妹……。

 白魚のような白い手は、上着の裾をぎゅっと掴んでいる。


 俺のパジャマが欲しいとは、どう言う事だ妹よ……。

 自分のパジャマがあるじゃないか……どうして、絶賛引き篭もり生活をエンジョイしてる兄の匂いが染み付いたパジャマが欲しいと言えるのか……。

 この世界の妹の思考が、未だに理解出来ないよ俺は。


 それでもまあ、妹には生活面を世話になってる恩もあるし……パジャマを貸すくらいお安い御用だ。

 

「まあ、良いけど……今度から、言えば俺のパジャマくらい貸すよ」

「兄さん……ありがとうございます。あっ、ちゃんと洗ってお返ししますので安心してください♪」


 俺にそのアイドルのような小さな頭を下げる妹。

 今は髪を下ろした状態なので、少し大人っぽい……腰まで長い黒い髪でパッツン前髪とか、最高だ。


「髪が気になりますか兄さん?私は寝る前に、髪を下ろす事にしていたのですが……兄さんが私の髪は下ろしては駄目と言うなら、寝る時も髪をそのままにしますけど……?」


 妹は自分の艶のある髪を手で撫でながら、俺にどうするか聞いた。


「別に、好きにすれば良いと思う」

「そうですか?分かりました」


 首を傾げた妹は、俺が自分の髪を見ていたのを少し不思議そうにしていたが……。

 少ししたら急に焦るような表情になり足をモジモジさせて、妹は俺に懇願するような顔で見つめる。


「と、ところで兄さん……?先ほどまで、お手洗いを使っていたのですか?」

「ああ……そうだけど?」

「なら……女の私がお手洗いを使うのは……もう少し、後の方が良いのでしょうか?」


 妹は先ほどの俺みたいに、余裕の無い表情をしている……。

 内股で、我慢しているみたい。

 今すぐお手洗いに行きたそうだ。

 でも……お手洗いに入るのは、もう少し後にした方が良いか聞いてきた。


 別に気にしないが?

 どうして、そんな事を聞くんだ?


「お、男の人は……んんっ……自分が使った……お手洗いの匂いが気になるって……聞いた事があります。だから……女の私が、男の兄さんが使用した後に……くっ……直ぐに入って良いか聞いたのです……!」


 涙目になりながら妹は、俺の思っている疑問を説明してくれた……口に出してないのだが、どうやら顔にでてたみたいだ。

 妹は足をガクガク震えさせて、歯を食いしばって我慢している。

 顔に薄っすらと汗が浮かび、妹の髪が顔に張り付く。


「に、兄さん、どうなんです……か?」


 目をぎゅっと瞑り、妹は中腰になり身体を震わせてを我慢している。

 ……その状態の妹を見て本当に、前の世界とは逆なんだなっと俺は思った。


 前の世界では、俺が今の妹と同じだった。

 前の世界で深夜に起きて、先に使用してた妹がトイレを流して出てきた所を俺が使おうとしたら……。


「兄さんにはデリカシーが無いのですか?」と怒られて、トイレの前で我慢を強いられたもんだ。


「俺は気にしないから、どうぞ」

「ああ……!ありがとうございます兄さん!」


 苦しみから解放される喜びからか妹は、なんとも表現し辛い表情で俺を見つめる。

 ここでの解放は、アウトなので俺は妹に先を急ぐよう促す。


「早くした方が良いんじゃ無いか?」

「そ、そうでした!兄さん、失礼します」


 俺の横を慎重な足取りで、妹はお手洗いに入る。

 ガチャリと扉がしまり、俺はお手洗いから背を向けて自分の部屋に戻った。


 パソコンの前の椅子に座り画面を見て見ると、さっきと少し座っている位置が違うステラさんが俺を待っていてくれていた。


『すみません、少し用事があって遅れました。』


 ……あれっ?ステラさんからの返答が無い?

 もしかして……ステラさんも離席中かな?


『おかえりナナシキさん!少し考え事してて、無視した訳じゃないの……ごめんねナナシキさん?』

『いえ、俺も飲み物取りに行って帰ってくるのが遅くなりましたから』

『それじゃあ、お互い様って事で良いのかな?』

『はい、そうです』

『じゃあ、狩の続きをしようか?ナナシキさんのサポートは私に任せて!』

『お願いします』


 俺とステラさんはその後、始発の時間帯まで狩りをしていた。


☆ ステラ


「ナナシキさんは、飲み物取りに行ったみたいだから……あたしはお菓子でも食べて待ってるかな」


 最近、剣士になったナナシキさん。

 ノービスとは違う、剣士のスキルの豊富さに驚いていたのを思い出す。


「ふふ……あたしも最初はスキルの多さにわくわくしたなぁ。自分のキャラクターの成長傾向を決めないで、その場の乗りで選んじゃって……後で作り直さないと行け無くなったっけ……もぐもぐ」


 初心時代を思い出して、笑うあたし。

 誰にでも初心者時代があったのだ、他の人も初心者時代に何かしらやらかした事がある筈。

 あたしもそうだ……きっとナナシキさんも、何か失敗すると思う。

 その時は、一緒に悲しんでゲームの先輩として慰めてあげようっと♪


 んっ、誰かこっち着たぞ?

 個人チャットモードに変わったな……。

 いいか、時間はあるし。


『こんばんわ……ステラさん』


 あたしのゲームの名前を知っているのか?

 いや……キャラクターに、カーソルを当てると名前が表示されるから……それを読み上げたのか?


『こんばんわ……えーと、リトルスノーさん?』


 あたしと同じ女性キャラで、髪型をツインテールにしている。

 それにしても……ノービスがどうしてここに?

 まあ、慎重にモンスターを避けて行けばここまでこれると思うけど……。


『時間が無いから……手短に用件を言うね』

『あたしにか?』

『そうです』


 なんかナナシキさん見たいに、チャットに慣れてない感じがする。

 ナナシキさんは未だに言葉が、硬いけど……前よりは少しずつ柔らかくなってきたよね。

 おっと、今はこの人の話を聞かないと……何か用があるみたいだし。


『兄さんから離れろ、お前は要らない。兄さんは私だけの兄さん。お前が要ると兄さんが、私を愛してくれない。兄さんは私を愛しているの、だからその他の女のお前はじゃま。……』


 なんだコイツ……!

 兄さん兄さんって誰の事だよ……んんっ?

 もしかして、コイツはナナシキさんの妹のプレイヤーキャラかぁ!!

 わざわざ、ナナシキさんの留守に着たところを見ると……妹しかありえない。


『うるさいよ……兄さん、兄さん、兄さんって、そんなに兄さんが取られるのが怖いのかい・も・う・とさん?そうだよなぁ……妹のお前は、愛しの兄さんと結婚できないから……邪魔しないと一緒に家に要られないもんなぁ?』


 やっぱり妹は害悪だ。

 まともじゃないんだよ……この世界の妹は。

 兄を独り占めする事しか、考えてない生物だ。

 その証拠に、仮想世界のあたしとナナシキさんの居場所にまで土足でやってきた。

 赦せない……赦せないよなぁ……あたしとナナシキさんの場所に来るなんて……。


『だから邪魔をする。でもおまえはココでしか兄さんと要られない。わかるよね?』

『……っ!』


 コイツ……!

 あたしとナナシキさんは所詮ネット上の繋がり、リアルの繋がりはない。

 なんらかの理由で、ネットから消えればそれまで……。

 コイツはそれをあたしに言っているのだ!


『もう時間。残念。今日はココまでにしとく』


 そう言ってアイツは消えて言った。


「ナナシキさん……」


 あたしは……あたしは……ネットだけじゃなく……リアルともナナシキさんと仲良くなりたい。

 でも、もしリアルで会うのを拒否されるかもしれないと思うと……。

 ……まだ、この心地よい関係を続けても良いんじゃないかと思えた。

 臆病なあたしは、未だに決められない。


 どうすれば……どうすれば良いんだあたしは!?


リトルスノーさんがネトゲにログインしました。

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