IF話.どうやら従姉が家に来るらしい。
時系列的に、『3.そうだお菓子を買いにコンビニへ』の直ぐ後。
俺は引き篭もり。
引き篭もりの俺は、基本的に親戚の人達と会いたくない。
もし正月などのイベントの時に、久しぶりに会う親戚の人は俺にこう言うに違いない……。
「あら~……コモルちゃん、大きくなったわねぇ。今は……」
その後に続く言葉は、”何をしてるの?””今は高校生……何年生?”だ。
久しぶりに会った親戚の子に掛ける言葉としては、間違いじゃないが……。
俺が今何をしているのと言われれば……引き篭もりをやってますと答えるしかない。
親戚の集まりで、引き篭もりカミングアウトは正直キツイ。
だから俺はそれを回避するために、親戚が家に着た場合は基本的に自分の部屋から出ない事にしてる。
親戚の人達に失礼になる事は、分かっているが……背に腹は代えられないのだ。
だが……まさか、俺の部屋に直接親戚が訪ねてくるとは予想外だったが……。
「こんにちわ。見ない内に大きくなったわね、コモル君?」
ぱっと花が咲いたような、優しい笑みを浮かべるお姉さん。
昼間俺の部屋に、艶々な黒髪セミロングの垂れ目のお姉さんがやって来た。
初めは平日だし母さんかと思っていたら、部屋に入って来たのは若干俺より歳が上だと思われるお姉さん。
当然、俺は突然の事で慌てて飲もうと手に持っていた蓋を閉めたペットボトルを床に落としてしまった……お姉さんは俺を知ってるらしいけど、俺はお姉さんの事を知らない。
当たり前だ、たぶんお姉さんは親戚だろうけど……ここ最近の俺は親戚が家にきても顔出さないから、親戚の顔なんて覚えていないのだから。
「ん~、コモル君?」
お姉さんは俺が黙っているのが不思議に思ったのか、その幼さが残る優しい顔で俺の顔を覗く。
近くに感じる美人のお姉さんに、俺はさらに硬直する……。
その時、ふわりと大人の女性の香りがした。
女性は妹で慣れてると勘違いされそうだが……それは違う。
妹とは何だかんだで、一つ屋根の下でずっと一緒に暮らして来たのだ。
慣れない方がおかしい。
まあ、妹相手に若干コミュ症してるが気にしない。
後、コンビニで出会った女の子は……俺と同類臭がして親近感が沸いたので、とても安心が出来て喋る事が出来た。
例えるなら……海外で日本人と出会えた時の、ほっとする気持ちと言えば良いのかな?
……俺は引き篭もりだから、海外に言った事ないので想像だけどね。
だが……だが……!
目の前のお姉さんは、俺のような引き篭もりと違う……リアルを生きている存在。
価値観が違う存在が目の前に居たら、どうして良いか分からず固まってしまうのはしょうがない……。
と、とりあえず、何か言わないと。
「お、お久しぶりです……えーっと」
名前、名前、分からない!かすかに……どこかで見た記憶が……あるが何時どこでだ?
「会ったのはずいぶん前だから、私の事を忘れたのかしら?私の名前は小守メグミ。コモル君とは従姉。今日は仕事で近くに来てたから、帰りにコモル君の家に寄ったのよ?」
メグミさんは俺が自分の事を忘れているのを察してくれて、簡単だけど自己紹介をしてくれた。
ああ……何だかどこかで見たような、気がしたけど……従姉のメグミさんだったのか。
元の世界では小さい頃に、年上のメグミさんに面倒を見てもらった事がある。
だが……この世界の元の俺は、どうだったんだ?
メグミさんが言うには”あったのはずいぶん前”との事、俺と元の俺のメグミさんと会わない期間は同じ位なのだろうか?
「最近、叔母様とお話する事があって……コモル君が良く話をしてくれるようになったって聞いたわ」
叔母様……ああ、母さんか。
引き篭もりの俺でも、さすがに母さんとは話をするよ?
えっ……もしかして、この世界の元の俺は母さんと話をあまりしてなかったのか……?
少し気になる。
「気になるの?えーと……コモル君は前はあまり表情も変えない静かな子だったけど、最近はお昼ご飯の時にお話してくれるようになって嬉しいって叔母様が嬉しそうにお話をしていたわよ?」
今の俺よりコミュ症だったのか……この世界の俺は。
「だから……私も今のコモル君とお話したいと思って。ユキちゃんが居ないこの時間に叔母様にお願いして、コモル君とお話させて貰える時間貰ったのよ」
「俺とお話、ですか?」
「うん、今はどんな事をしているのか気になるわ」
メグミさんは、俺のベッドの上に座り……手招きのジャスチャーの後、自分の横に俺が座るように促す。
俺は促されるままに、メグミさんの横に座る。
「えと……引き篭もりをしてます……」
昼間に家に居るんだから、引き篭もりだと察して欲しい……。
メグミさんは慌てて俺の言葉に、違う違うと手を振る。
「私の言葉、なんか紛らわしかったわね。うーん、最近何か楽しい事を見つけたのかな?」
「楽しい事ですか……」
世界は変わったが、生活は変わらない。
引き篭もりライフをエンジョイしてる俺は、何時も楽しいわけだが……。
この世界の元の俺を知っている人達から見たら、今の俺は何か楽しい事を見つけたように見えるのか?
「特に何も……」
「そっか……でも、今のコモル君って前あった時よりずいぶん楽しそうにしているわ。もちろん、私の勘違いだったらごめんなさいね?」
「いえ……あっ、質問して良いですか?」
「はい、どうぞ?」
この世界の元の俺は、どんな俺だったのか。
聞いといて損はないだろう。
「メグミさんと前会った時の俺ってどんな印象でした?」
「印象ね……印象が無いのが印象って言えば良いのかしら?何時も無表情でその隣に妹のユキちゃんが居たわ。あの頃のコモル君は私が話し掛けても、隣のユキちゃんで遮られちゃってほとんど話を出来なかったの。だから……こうやってちゃんと話すのは、これが初めてなんだよ?」
ふむ、ふむ、無表情で会話はほとんど妹が代わりに対応してたと……メグミさんの話を聞いても、俺はこの世界の俺がわからない。
コミュ症と言うレベルじゃない気がする。
この世界の俺は、感情がちゃんとあったのか?
「そうだったんですか……」
そう答えた俺に、メグミさんは俺の眼を覗きこむ。
メグミさんの瞳に俺が映る。
「あの時の事、コモル君は覚えてないの?」
「ええ……少し、ぼんやりしてたんだと思います。あの時の俺は、だから妹が代わりに対応してくれてたみたいです」
それらしい事を、言ってみた。
あの時と言われてもそれ俺じゃないし、覚えて無いのは当たり前。
元の世界では、メグミさんとの初対面の時は俺はちゃんとお話して遊んでもらっていた。
「私とお話した事を覚えていて貰えなかったのは少し寂しいけど……でもこうやって今日は、ちゃんとコモル君とお話出来て良かったぁ」
少し寂しそうに笑うメグミさん。
じわりと罪悪感が沸く……この世界の俺、もう少しメグミさんと話をしてやれよ……。
緊張していたせいか、喉が渇く。
足元に落ちているペットボトルを拾い、蓋を開けて飲むが……。
「げふぉ!ごふぉ!」
思いっきりむせた……。
ちょっと、急ぎ過ぎて気管に入ったようだ……。
さらに運が悪い事に上着が濡れてしまい、中のシャツも濡れてるような気がする。
「ちょっとぉ、大丈夫?ほらぁ、ティッシュだよ」
「ありがとう……ございます」
メグミさんから、ティッシュを貰い口元を拭く。
すーはー、すーはーと深呼吸をして落ち着かせる。
なんかカッコ悪いとこ見せてしまった……。
「服が濡れちゃったね……」
メグミさんは、俺の上着を見てそう言った。
上着とシャツが濡れて気持ち悪い……着替えたい。
チラっとメグミさんを見る。
まあ、良いか……従姉だし。
2017年4月2日あたりに書いて放置して、ずっと忘れてた話です。
今日執筆中を整理していたら、出てきたので投稿しました。




