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閑話.彼女は幻想に撫でられて、狂う。

閑話です。 マオ視点になります。

☆ マオ


「ふぁ~……眠い、まだ昨日の疲れが残ってるのかな」


 あたしはベッドの上から身体を起して、両手を上に上げて「うーん」と声を出しながら伸びをする。

 背筋が伸びる感覚が、目が覚めるようで気持ちが良い。


「んんっ……」


 未だに大きくなっている豊満な胸が伸びの動作に合わせて窮屈そうに、パジャマを内側から押し上げる。

 成長中の敏感な胸が一時的に圧迫される刺激に、あたしは思わず声を漏らす。

 まだまだ大きくなるあたしの胸は凄く敏感で、少しの刺激でも眉をひそめる程刺激を感じてしまう。


「はぁ……朝ご飯にするか、そう言えば冷蔵庫に何かあったかな? 昨日はコンビニ弁当を買ってきて、そのまま食べちゃったから……冷蔵庫に食べられる物が残ってるか、寝る前に確認していないや」


 あたしは冷蔵庫の中を確認するために、読みかけのラノベや雑誌が散乱するベッドから出る。 床の上に置いてある積んであるゲームや、ラノベを避けながらあたしは冷蔵庫に向かう。

 脚の踏み場があまり無い中、裸足で冷蔵庫に向かう最中……あたしは小指を、積んであるラノベの角に直撃させた。


「痛た!? うぐ~……あ、あたしの小指がぁ……!」


 あたしは脳天を突き抜けるほどの凄まじい痛みに、眼をぎゅっと瞑ると片足立ちになり……ラノベの角にぶつけた足を、色白の手で撫でた。 このまま倒れて床を転げ回りたいけど……床にはラノベやゲームが積んであるので、後で片付けるのが大変そうだから我慢した。


「ぐすっ……後で片付けないとなぁ。 ……それにしても、冷蔵庫にはおかずしか残ってないな……ごはんパックは、もう買い置きないし。 朝ご飯は、どうしようかな?」


 大変痛い思いして冷蔵庫についたのは、良いけど……いざ、冷蔵庫を開けるとおかずしかなかった。

 ごはんパックや袋麺などは、もう買い置きが無かったみたい。

 あたしは振り返り、現在の時刻を確認するためにベッドの傍に置いてあるアナログの目覚まし時計を見た。


「ん~……何時ものあたしなら、ぐっすり寝てる時間だ。 このまま二度寝しても良いけど……寝て起きても食べる物が無いのは、変わら無いしなぁ……」


 色素の薄い前髪を弄りながら、あたしはそう呟く。

 親と一緒に暮らして居た時は、寝て起きても食べ物に困らなかったけど……独り暮らし始めてから、たびたび朝起きて食べる物が無いなんて事態が起きていた。

 あたしは、右手の親指の爪を噛む。


 ―――こんな時間だから人通りも少ないだろうし、今ならあまり人に会わずにコンビニ行けるか?


 こんな生活をしているあたしは、仕事や学生をしている人達を見ると自分が劣っていると自覚させれるので用事がある時はなるべく人通りが少ない時間に家を出る事にしている。

 もちろん、小守さんが関わる事なら人が多かろうが外に出るけどね。


 爪をガジガジ噛んで悩んでいると、ぐぎゅるる……とお腹の音が鳴った。


 ―――はぁ、面倒だけど……行くかどうか悩んでる間にお腹が空いてきたし、さっさとコンビニ行って食べて二度寝しよっと。


 外に出る決心がついたあたしは、唇から爪を離して外着に着替える事にした。

 あたしはパジャマの上着の裾に手を掛けて、一気に脱ぐ。

 その時に豊満な胸が擦れて、ビリビリと甘い痺れが背筋を駆け抜けて身体が勝手に男を誘うように身体をくねらせた。


「んっ……はぁ」


 口から、熱い吐息が漏れる。

 思春期の若い身体は、感じやすいと言うけど……特に胸は敏感すぎだ。

 毎朝ただ着替えるだけで、朝から変な気分になってしまう自分の身体に文句を言いたくなる。

 あたしは脱いだパジャマの上着を丸めて、ベッドに投げると……。

 ふいに小守さんと過ごした昨日の事が、脳裏に浮かんだ。


「そういえば……昨日、小守さんの左手を握ったんだよなあたしの右手は……」


 あたしは自分の右手を、見る。

 陽の光にあまり当たらないので肌は白く、鍛えていないので痩せた右手。


 このあたしの右手が昨日小守さんと、繋いだ手だと思えると……なんだか、この右手が小守さんの手に思えてきた。 もちろん自分の手だとは、頭では分かっているけど……小守さんと繋いだ手ってだけで、特別に思えてしまう。


 ―――この手が小守さんと……。


「ごくりっ」


 口の中に溜まった、唾を呑み込む。

 自然とその右手を、自分の頭の上に持っていく。


 ―――誰も見ていないよな……?


 あたしは自分が独り暮らしているのも関わらず、今から行う行為に警戒して周囲を見渡す。

 もちろんあたし以外は、この薄暗い部屋に居ない。

 だけどあたしは警戒を緩めず、窓のカーテンがしっかり閉まっているか確認を忘れない。 朝起きてカーテンに触っても居ないので、もちろん閉まっている。


「良し……準備できた。 少しだけだから……」


 眼を瞑り……あたしは深呼吸をして、目の前に小守さんが立っている想像する。

 昨日一緒に行動した小守さんを、細部まで思い浮かべた。

 暗闇の中、すっと目の前に小守さんが現れる。

 現れた小守さんは何時もの無表情なので、あたしは想像力を働かせて笑顔にしてみた。


『………』


 目の前に立っているあたしより背の高い小守さんが、想像通りの優しい表情を浮かべる。

 その想像した小守さんの笑顔にあたしは、自分が生み出した想像だと分かってはいても……かぁっと頬が熱くなってしまう。

 あたしが想像した小守さんは本物とたいして変わらないほどのクオリティーなので、本物の小守さんもきっとこんな胸がきゅんと疼く笑顔を浮かべるに違いない。


 今のようにパソコンやゲームが無かった頃、あたしは遊ぶ友達が居なかったので……何時も自分の部屋のベッドの上で、脳裏に想像した好きなアニメのキャラや好みの異性を想像して一緒に遊んでいた。

 その独り遊びを、何年も続けていたせいか……あたしの想像力は、とんでもないレベルに達している。


 そう……自分が想像したキャラが、あたしの願望に添って勝手に話したり動いたりする程のレベルになっていた。 世間で言われている”イマジナリーフレンド”に近いと思う。


『マオさんに、実はお願いがあるんだ』


 想像した小守さんが、照れた表情であたしに何かお願いをしている。

 何のお願いだろうと、あたしは胸をドキドキさせながら小守さんの次の言葉を待つ。

 自分自身も、想像したキャラに合わせるのも独り遊びのポイントだ。


『その……マオさんの頭を、俺に撫でさせて欲しい。 駄目かな?』


 想像した小守さんは、あたしに身体を寄せて耳元で囁くように言った。

 その言葉に顔が熱くなり……言葉では無く、頷きで了承する。


『ありがとう……マオさん。 じゃあ、行くよ』

「………っ!」


 あたしの頭の上に、想像した小守さんの手がポンと乗せられる。

 現実にはあたしの右手が、想像した小守さんの動きに合わせて自分の頭に乗せただけだ。

 だけど……例え想像の小守さんだとしても、触れられてると思うと気分が高揚してくる。


『やっぱり、触り心地が良いねマオさんの髪。 毎回会うたびに、マオさんの髪が綺麗になっている気がするよ』


 なでなで。


 想像した小守さんの手があたしの頭を撫でながら、嬉しい事を言ってくれる。

 毎日小守さんに”髪綺麗だね”って言って貰うために、ヘアケアしているのだ。

 例え自分が想像した小守さんでも、頬が緩むほど嬉しくなってしまう。

 でも……現実の小守さんにも、今度あたしの髪にもう一度、触れる機会があったら。 あたしが嬉し泣きするくらい、褒めてもらいたいと思っている。


『俺のために、こんなにも綺麗になってくれてるマオさんは頑張ってるよ。これ以上綺麗になったマオさんを、俺は見たい。 だから、もっと頑張ってマオさん。 俺は応援してるよ』


 なでなで。


 最近、挫けそうになっているあたしの事を応援してくれる想像した小守さん。

 毎日のヘアケアや、その他の綺麗になる努力にあたしの心が挫けそうだった。

 小守さんのために、努力をしている事が分かって貰えて嬉しい例え自分の想像した存在でも。

 今まで怠惰に暮らしていたあたしが、毎日欠かさず努力しないといけないのは大変な事だから。


 なでなで……なでなで……と想像した小守さんに、あたしは褒められたり、慰められながら頭を撫でられ続けた。


 ………そんな独り遊びを続けて、数十分後。


「マオさんが大人になったら、俺と結婚して子供を作ろう……大丈夫、俺はマオさん以外の女には興味がないから。 ほ、本当にあたしだけと結婚してくれるの? 本当さ、俺にはマオさんだけ居れば十分だからね。 それとも俺の言葉が信じられないかい? 小守さんの言葉を……あたしは信じたいけど、小守さんは他の女にモテるからどうしても……。 じゃあ、どうしたらマオさんに信じてもらえる? そ、それは……はぁ、はぁ」


 あたしの独り遊びは、少しの筈が予想以上に楽しすぎて止められない止まらない状態になっていた。

 口からはあたしの言葉と想像した小守さんの言葉が入り混じり、右手は自分の頭を撫で続けたせいか……ぷるぷると痙攣している。 脚は太腿をモジモジさせて、何かを我慢しているみたいだ。


 独り遊びを拗らせたあたしは、完全に正気を失っていた……。

 想像した小守さんとのラブラブな状態に、あたしは魅入られてしまっていたのだ。


 ………正気を失って数分後。


 独り遊びは、途中で正気に戻って中断される事になった。

 想像した小守さんも、脳裏から消えてしまった。


「はぁはぁ……あたし……何をやっているんだろう」


 確かコンビニに行くから外着に着替える筈だったのに……この状態は、なんだ?

 正気に戻ったあたしは、乱れたベッドの上で目を開けた。

 露出した白い肌は汗だくで、むわっとした汗の少し酸っぱい匂いと女の匂いで部屋は充満していて、パジャマのズボンも半脱ぎ状態。 身体は気だるく、マラソンしたかのように疲れている。

 だけど……不思議と気分はすっきりしていて、疲れているのに悪くない気分だった。


「はぁ……コンビニに行く前に、シャワーを先に浴びないと行けないな」


 朝からこんな事するつもりは、あたしにはなかった……。

 ただちょうど昨日小守さんに触れた右手で、想像した小守さんに優しく撫でて貰うだけだったのに……なんだか、気持ちが高ぶったり……思春期の衝動が抑え切れなかったりといろいろあったせいで、こうなってしまっていた。


 ………。


 あたしはシャワーを浴びて、汗を流し……外着に着替えて家を出た。

 朝起きてからだいぶ時間が経ってしまったので、外にはサラリーウーマンや学生が居る。

 自業自得なので、あたしはあきらめて歩きだす。


 それから数分後。


 コンビニに向かうために、歩道を歩いていると……知っている後ろ姿が見えた。

 この街では珍しい銀色の髪の女の子。最近知り合った、中二病のマンガ家だ。


「……誰に会いに行くかは、………のだ」


 中二病は隣のポニーテールのお姉さんと何かを話しているみたいだ。

 何かお姉さんが中二病に謝っているみたいだけど……中二病は、何か謝られる事でもされたのか?

 あたしは、信号待ちの二人を眺めていると……赤の信号が青になり、二人の側の歩行者も車も動き出した。


 ―――別にあたしは中二病にようがないから、このままコンビニに向かうとするかな?


 そう心の中で呟きながら、二人から視線を外そうとしたその瞬間……お姉さんが、一瞬こちらを見たような気がした。 チラっと見えた、そのお姉さんの顔は昨日どこかで……?

マオは想像力、豊かな女の子です。

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