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23.どうやら首元の”痕”が消えていたらしい。

23話です。

☆ 銀髪の女の子


 ―――レイヴンがこの衣装を見れば、きっと前世の記憶を思い出すに違いない!


 我はレイヴンに前世の記憶を思い出させるために、仮装衣装作りを得意な知り合いに頼みこんで、前世のレイヴンの衣装を再現して頂いた。


 知り合いは有名な魔道書作成者の我の頼みなので、タダで良いと言ってくれたが……もちろんタダでは申し訳が無いので、結果に見合ったお礼はちゃんとしたので問題は無い。

 知り合いの事を信じていない訳では無いけど……タダより高いものはない……と言う言葉もあるので、一応気をつけた方が良いと思ったのだ。


「………」


 それにしても……レイヴンの反応が無い。

 我をじっと眺めてさらに何も言わないので、少しばかり不安になる……。 


 ―――もしかして……我は余計な事をしてしまったのでは無いか?我は……レイヴンの記憶を思い出させるために、早まった事をしてしまったのでは無いのか?


 レイヴンの深い闇の底のような瞳で黙って見つめられると、我の心臓がきゅっと締め付けられて……我の愛しい人を不快にさせてしまったのでは無いかと、胸を掻き毟りたくなるほど不安になる……。


 ―――何か……何か言ってくれレイヴン! もし……我のこの行動が気に入らないのなら、遠慮無くそう言ってくれ……。我は愛しているレイヴンに、嫌われたくないのだから……。


☆ コモル


 夜遅くにやってきた銀髪の女の子は、俺の目の前に大きな紙袋を置いて……どうだ嬉しいだろ?と言うような顔で俺を見上げた。

 その際、窓から風が入ってきて銀色の髪の毛が月の光をキラキラと反射しながら宙にゆらゆら揺れて……その様子は、とても幻想的に見え……少しばかり心を奪われてしまった。


 ―――やっぱり……綺麗な銀髪だな。


 元の世界ではゲームやアニメなど以外で、実際にお目にかかる機会がなかったので……余計にその光景に目を奪われるのはしょうがない。


「……あの……その……レイヴン?」


 得意げな顔で俺のリアクションを待っていたらしい銀髪の女の子は、俺が何時まで経っても何も言わないので困惑した表情で俺を見上げる。

 俺は銀髪の女の子の困惑した声に、ハッと気がつき……慌てて口を開いた。


「あ、ああ……その中に俺の前世の衣装が?」


 床のカーペットの上には、大きめな紙袋が置いてある。

 紙袋の表面には物々しい幾何学模様がプリントされていて、銀髪の女の子の趣味だとはっきりと分かった。銀髪の女の子の、紙袋一つでも手を抜かない所は関心出来るところだ。


「う、うむっ! この中には、レイヴンが前世で着ていた衣装が入っているのだ」


 銀髪の女の子は毅然とした表情に戻してそう言うと、紙袋の中に細い腕を入れて……中から取り出したのは、執事服風の衣装だった。執事服風と表現したのは、俺が執事服の事に詳しくないので……アニメで見た事ある執事服に似ていたから、そう表現しただけだ。


「これを着ていたのか俺?」


 銀髪の女の子の手元にある衣装を見て、俺はそう言った。

 この子の頭の中では、前世の俺がこれを着ていたのかな?

 銀髪の女の子の傍らに居る執事服を着た俺……うーむ、あまり想像出来ないな。


「そうだぞ、レイヴン。前世のお主が、良く好んで着ていた衣装だ……どうだ? 記憶を思い出したか?」


 俺に薄暗い部屋の中でも良く見えるように、銀髪の女の子は手に持った衣装を掲げた。


「んっ……ほら、この衣装を着ていたのだぞ?良く見て欲しいのだ」


 細い身体でふらふらさせて、つま先立ちで俺に良く見えるように衣装を掲げて貰っても……前世の記憶なんて思い出せる訳が無い。

 ここは前世の記憶を思い出したフリをして、気の利いた言葉を言ってあげれば中二病の銀髪の女の子が飛び上がるほど喜んでくれそうだけど……絶対その後、俺と銀髪の女の子の関係が余計に拗れる気がする。


 ―――ここは正直に思い出せないと言った方が、良いだろうな……。


「いや……全然思い出せない」


 俺が申し訳なさそうにそう言うと……銀髪の女の子は、悔しそうに包帯が腕に巻かれた右手を押さえて何か仰々しい事を言い始めた。


「くっ……これでも駄目なのか。うぅ……我の魔の力で、レイヴンの前世の記憶を無理やり思い出させても良いのだが……それだと……レイヴンが我の力に耐えられずに、物言わぬ人形になってしまう危険性がある……!そんな危険がある事は、我には出来ぬが……万が一成功したらと思うと、試してみても良いような気がするのだ……チラッ」


 銀髪の女の子はそう言うと頬を紅潮させ下心ありそうな笑みを浮かべて、チラッと俺を一瞥する。

 その表情を見て……前世の記憶を思い出すためだけに銀髪の女の子に何をされるか分からないが、とりあえず断っていた方が良い気がした。


「危ない事は、止めとくよ」


「そ、そうか……レイヴンが……そう、言うなら……止めとくか。うん、レイヴンの身の安全が第一だからな……危険な事はできぬよな……はぁ……くしゅん」


 俺がそう言うと銀髪の女の子は、例えようの無いとても残念そうな顔をした……。

 眉も八の字になり……危険と口では良いながら、実はしたかったのかも知れない……何をされるか知らないけど。チラチラと名残惜しそうに、銀髪の女の子の視線が俺の下腹部に向けられてる気がするが……きっと気のせいだろ……。


「うむ……見て思い出さないのなら、今度は見るだけじゃなくて、実際にこの衣装を着てみないか?実際に着てみれば、記憶を思い出す可能生も高いかもしれないのだ」


「おっと……」


 そう言って、俺に執事服(?)を押しつける銀髪の女の子。


 つい手に取ってしまった執事服をどうしようかと考える。

 執事服を銀髪の女の子に返して、着る事を断っても良いけど……手に持っている執事服は、以外にも確り作り込まれているので着ないのは勿体無いなと思えた。


 ―――たぶんこの執事服は俺に合わせて作られた……オーダーメイドだと思う、俺が着ないなんて言ったら。この男が少ない世界で、誰も着ないままになるんじゃないのか?


 俺のために作られた服を着ないままでは、服が可哀想だと思えてくる。

 別に一度くらい、袖を通してもバチは当たらないし……着ても良いかな。


 俺は執事服を一旦ベッドの上に置いて、パジャマの第一ボタンに手を掛けた。

 集中して次々にボタンを外して……ボタンが全部外し終えると何時の間にか、銀髪の女の子が顔に息が掛かる位置に来ていた。

 銀髪の女の子の香りだろうか、微かに上品な匂いがする。


 女の子はどうやら俺の首元が気になるのか、爪先立ちをしながら……じろじろと何かを確認しているみたいだ。


「な、何?」


「レイヴンの首元は”綺麗”だなと、関心していただけなのだ。もし我に鋭い牙が生えていたならば、迷わずレイヴンの……白く美しい肌に、牙を突き立てて赤い血を啜っていただろうな?」


「……実際にやらないよね?」


「さて、どうだろうな?」


 俺の質問に銀髪の女の子はニヤリと口角を上げて、不敵な笑みで答えた。

 月の光を反射する銀色の髪の毛に、血のような赤い瞳……俺はてっきり銀髪の女の子には、吸血鬼設定もあると思っていたけど……どうやらその設定は無かったみたい。

 その容姿で吸血鬼設定が無いのは、なんだが少し惜しいなっと思ってしまったが……実際に吸血鬼の設定を銀髪の女の子が設定していたら、俺が噛まれていたので無くて良いと思い直した。


☆ 銀髪の女の子


 近づいて確認したが……やはりレイヴンの首元に、我が刻み付けた証が綺麗に消えていた。賢者達の書(ネット掲示板)の言うとおり、証は数日で消えてしまうものらしい。

 それが永劫ではないと知ってはいたので、証が消えても我の驚きは少なかったが……少し残念な気持ちになる。


 ―――まあ、良い……。消えたのなら、またレイヴンに刻み付ければ良いのだ。この前と違い今はレイヴンが覚醒しているので、新たに証を刻み付ける隙は無いが……。いずれまた、我の証が刻みつける機会がおとずれた時に今度はもっと……もーっとレイヴンに我の証を刻み付けてやろう。


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