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21.母さんとお話

21話です。

 母さんから解放された俺は、自分の部屋に帰ってきた。

 ベッドの上で仰向けになって、特にやる事なく天井をじっと見上げる。


 ―――手元にはスマホがあるけど……母さんにしか繋がらないんだよな。


 試にもう一回手動で、電話番号を入力してみるが……結果は繋がらなかった。

 どうやら本当に俺のスマホは母さんに、制限されてしまったらしい……。


 ―――ちーちゃんとみーちゃんに、外で会ったら電話の件について謝らないとな。二人とも引き篭もりの俺なんかに電話してきてくれたんだし。


 俺はベッドの上に、電話の機能が制限されてしまったスマホを置いた。

 眠くはないが、目を瞑って少し前の記憶を思い起こしてみる。

 転移したての頃を特に。


 ………。


 ゆっくりと目を開ける。

 いろいろとこの世界の母さんとの思い出を、思い返してみると……。


「本当にどうしたんだろ母さん……前はあんな感じじゃなかったのに」


 以前の母さんは優しく包んでくれるような人だったのに、この頃の母さんは優しく締め付けてくるような感じがする。最近何かあったのかな母さん?

 俺がベッドの上で母さんの事について、考えていたら……。


 ガチャ……。ドアノブが回る音がして、この部屋に母さんが入ってきたみたいだ。


 頭を億劫そうに動かして、母さんの方に向く。

 お淑やかな美人のお姉さんが、ベッドの上でだらけている俺を見て微笑んでいた。


 ―――もう、母さんは姉さんで良いんじゃないかと思えてきた。あれで二人子供を産んでるとか、世界の法則を超えているんじゃ?それとも……この世界の人間は、あまり老化しないのかな?あれっ、そう言えば……俺はこの世界に来てから、老人見ていないな。まあ、たまたまだろうけど。


 あれから服を着替えたのか、今度は落ち着いた衣装を着ている母さん。

 お淑やかな見た目も合わさって、美人大学生と言っても俺は通じると思った。


「この服どうですかコモルさん?大学生の頃に着ていた服なんですけど……まだ私に似合いますか?」


 照れた表情の母さんは俺に服を見せつけるように、その場で一回転をしてみせた。

 その時、ぶわっと母さんの膝まであるスカートが遠心力に引かれて揺らめく。

 そしてピタっと俺の前に止まり、母さんは何かを期待するかのような目線を俺に送る。


「………じー♪」


 ―――きっと綺麗だよとか本当に大学生に見えるとか、言って貰いたいのだろうけど……。


 俺は母さんの息子なのだ、その歯の浮くような言葉はどこかに居る父さんにでも言って貰ってくれ。

 ちょっとあなたの息子は今は、精神的に身体的に疲れているんだ……今日はいろいろありすぎたからね。


「………」


 何も言わずにぼーっと母さんを見ていると、何だか照れてきたのか母さんの顔がだんだんと赤くなってきた。


「ゴホン……そう言えば、コモルさんに聞いてもらいたい事があるのでした」


 わざとらしい咳払いをした母さんは、俺が寝転がっているベッドにゆっくりと腰を掛ける。

 聞いて貰いたい事があるというので、俺は仰向けのまま母さんを見上げた。

 俺を見下ろす母さんの表情は、蛍光灯の光で若干陰になっているので見え難い……だから目を細めて、今の母さんの表情を確かめようとしたその時。


「これから毎日……私とコモルさんの、二人だけの時間を作りませんか?もちろん、ユキちゃんには秘密ですけど」


 そう言うと母さんはゆっくりとした動作で、俺の頬に右手で触れる。

 すべすべの柔らかい指の感触が、頬に感じた。


「お昼の時にも、二人で話をしたりしてるけど?」


「確かにその時に、二人でお話はしますけど……ですが食後に少しお話をするだけなので、コモルさんとゆっくりとお話をする時間は無いですよね?それに……私はコモルさんとお話をするだけじゃなくて……こうやって、肌と肌を触れ合ったりする時間が欲しいのです。駄目でしょうか?」


 そして母さんは、俺の頬を優しく撫で始めた。

 さわさわと頬を撫でる柔らかい指の感触が、なんだか気持ちが良い……それに安心する。

 なんだか懐かしい気分になる。元居た世界でも……小さい頃に良く母さんに、こうやって撫でて貰った記憶がある。


「ふふ……やっぱりコモルさんは、こういうところは変わらないのですね。少し安心しました。最近のコモルさんは、私の知らないコモルさんで……少し不安になっていたのです」


 俺を見下ろす母さんは、嬉しそうな声でそう言った。

 今の母さんの言葉で分かった事は……俺が母さんの変化に戸惑った様に、母さんも息子の突然の変化に戸惑いを覚えていたのかもしれない。

 確かに母さんが言うように、お互いの事を知るためにゆっくりと話す時間が必要なのかも。

 今まで話をする時間が短いせいで、相手の変化に追いついていけなかったから不安な気持ちになったような気がする。


「平日なら良いけど」


 土日祝日は学校が休みだから……妹が家に居る確率が高いので、母さんと二人になるなんて無理。

 母さんも日頃の妹の行動見ていれば分かると思うんだけど、毎日なんて出来ない事を。


「平日ですか……そうですよね。平日にユキちゃんが学校に行っている時にしか……私とコモルさんの二人だけの時間を”今”は、取れませんから……」


「………っ」


 母さんの前髪の影が目元を隠しているので、表情が分かり辛いせいだと思うけど……一瞬底冷えするような暗い表情をしていた気がする。

俺はもう一度今の事を確かめるために、じっと母さんの顔を凝視した。


「あらっ……どうかしましたかコモルさん?もしかして……私の顔に”お弁当”がついてありました?」


 母さんは俺の視線に気がついて、少し慌てた様子で左手で自分の顔を触っている。

 今の慌てている母さんを見ると、どうやらさっきの暗い表情は俺の勘違いだったのかもしれないと思えた。そうだよな……ふんわりとした優しい笑顔の母さんが、あんな表情をする筈がないじゃないか。


 それよりも気になった事が一つ……母さんが今言った、顔に”お弁当”とは何か?うーん、俺が引き篭もりで外の流行語に疎いせいなのか……それとも、顔に弁当と言う言葉が日常会話で当たり前に使われているのか……意味が分からない。


「お弁当?」


「ああ……ご飯粒の事ですよ。私の子供の頃は、ご飯粒が口元につけていると良くお母さんに「ミナトちゃん、お顔にお弁当ついているわよ?」って注意されたものです」


 そう言って母さんは左手の人差し指で、自分の艶のある唇の端を指差した。

 その時……少しばかり大人の色気のある母さんの唇に意識が行ってしまって、ドキっとしたのはしょうがない。


「ご飯粒か」


 ご飯粒がお弁当ね。元の世界では聞いた事がないけど……たぶん、元の世界でもご飯粒が顔についていると”お弁当”がついてると言う人がいるような気がする。もう、確認が出来ないけど俺は。


「ふふ……話が脱線してしまいましたね。それでは話を戻しますが平日の明るい時間に、私とコモルさんの時間を設けましょう。良いですよねコモルさん?」


 母さんは人差し指を口元から離して、垂れ眼で俺を見つめて同意を求めた。

 俺は上半身を起して、母さんと目腺を合わせる。

 

「うん、それで良いよ」


 元の世界に戻るのかこのままこの世界に永住するのか知らないけど、この世界の俺の家族の母さんとはもっと話をした方が良いと思ったからだ。

 

「コモルさんが同意してくれて、とても嬉しいです。もしかしたら、コモルさんに断られるんじゃないかと……少しばかり考えてしまって、実は緊張していたんですよ私?」


 まあ、スマホを制限して直ぐだし……俺が反抗期だったら断る展開もあったかもね。

 もしスマホじゃなくて、PCが制限されたら怒って断っていたけど。

主人公はスマホよりPCを制限されてたら切れてました。

元の世界では主人公に友達なんていなかったので、スマホが使えないのはあまり気にならないみたいです。

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