20.どうやら母さんと一緒にお昼ご飯らしい。
20話です。最後あたりに、マオさん視点が少し入ります。
お昼ご飯を頂くには少し遅い時間に俺と母さんは、居間で少し冷めたお昼ご飯を静かに食べた。
静かに食べるのは俺が口数少ないからと言うのあるけど、お昼ご飯を食べる時は母さんも俺もあまり喋らないからだ。
「ごちそうさまでした」
母さんは俺の花柄のお茶碗よりもサイズが大きめで、シンプルなデザインのお茶碗の中身を空にする。
初めは母さんのご飯の量に驚いたが、今はこの世界の女性にはそれが普通なんだって今は理解した。
ネットで調べてみると……どうやらこの世界の女性は身体能力が高いせいか、エネルギーの消費も多いらしくご飯もそれに伴って大食いになるそうだ。
「ごちそうさまでした……」
俺も自分のお茶碗を、空にした。
せっかく母さんが引き篭もりの俺のために作ってくれたご飯を、俺は残さず綺麗に食べる事にしている。
まあ、母さんのご飯は美味しいのでたまにおかわりをしてしまう事もあるけど。
次に手に持ったお箸を、俺は手前に置いてある箸置きの上に静かに置く。
元の世界に居た時は箸置きなんて一切使わなかったので、この世界の母さんは元居た世界の母さんと見た目が違うのは当然の如く……趣向も違うんだと最近になってわかった。
だからこの部屋もよーく見回してみると元の世界ではデザイン重視の物が多かったが、この世界では実用性が有る物が多い事が分かる。
「……」
お昼ご飯も食べてお腹も満腹になり、俺は横目でチラッと隣に座る母さんの横顔を盗み見る。
―――母さんは、今日もしっかりと化粧をしてるけど……誰かと会うのかな?昨日も一昨日も、誰も家に来た様子もなかったし……外出もしてないよね?
別に家の中でフルメイクをしてはいけないと、言う訳じゃないけど……この世界の母さんに初めて会った時は、薄く化粧をしている程度だったのでこの頃の母さんの変わりように戸惑いを覚えている。
メイクなしでも十分美人な母さんが、フルメイクをすれば……妖艶な色気のある美女に様変わりして、女らしい仕草一つで息子の筈の俺もドキッとしてしまうからだ。
……現に今も、胸がどきどきしている。
「うふふ……またコモルさんは、私の顔をじっと見て……そんなにも私の顔が気になりますか?」
俺が母さんの顔を盗み見ている事が、バレたみたいだ。
優しく微笑む母さんは口元に左手を当てて、また照れているのか頬を赤く染めて俺を見返す。
こっそりと母さんを見るつもりが……何時の間にか、本格的に見ていたらしい。
「その……えーと」
俺は視線を逸らし、頬を指で掻きながら口ごもる。
こっそり母さんの顔を覗いていて……さらに母親にドキドキしたなんて、恥ずかしくて言えない。
どうやらまだ俺は隣に座る……美人のお淑やかなお姉さんの事を、母親と認識できていないみたいだ。
何か別な事を言わないと……と考えた時。
『俺が電話で誰かと話をしているところを、聞いてたよね母さん?』
部屋の前で母さんに質問をしていて、その返答がまだだった事を思い出した。
あの時は、返答も貰えずに母さんにスマホを貸しただけで終わってしまったから……。
俺は視線を母さんに戻して、口を開く。
「部屋の前で、質問した事の返答がまだ……だけど」
「……そういえば、私はコモルさんの質問に答えていませんでしたね。ごめんなさいコモルさん」
母さんは申し訳なさそうにそう言って、垂れ目をスッと細めて隣に座る俺と目を合わせる。
その時、鼻先を甘い香りがかすめる。母さんが最近つけている香水の匂いに混ざって、ほんのりと優しい甘い匂いを感じた。もしかして、この甘い匂いは母さんの体臭なのかなと俺は思った。
「確かにコモルさんが言うとおり、部屋の中で誰かとお話している声を廊下で私は聞いていましたよ?それがどうかしましたか?」
それが何か問題でも?と、言いたげな様子の母さん。
母さんは首を傾げて、優しげな表情で俺に続きを促す。
俺は母さんの返答が、少し変だと思った。
何でかって?俺は引き篭もりなんだぞ?おそらくこの世界の俺も、家族以外に電話をする相手なんて居なかった筈だ。
――もし俺が母さんの立場なら……引き篭もりの息子が電話で誰かと喋っていたら、気になって「誰とお話していたの?もしかして、お友達?」と一言二言聞いてしまうと思うんだけど……。本当に”聞いていた”で終わりなのかな?もっといろいろと、俺に訊く事がある筈だと思うけど?
俺は母さんの反応に戸惑って、続きの言葉が発せられなくなる。
そんな俺を見た母さんは、膝の上に乗せていた俺の左手の上に自分の右手を乗せてきた。
母さんのすべすべの綺麗な手の平の感触が、左手の甲に感じる。
「もしかしてコモルさんは……電話で誰かとお話をしていた事について、私が何も訊かないのを不思議に思っていますか?」
「うん……」
俺が疑問に思っていた事を、母さん自身も分かっているらしい。
母さんは俺の手の甲を、安心させるかのように優しく撫でる。
スベスベとした綺麗な指が手の甲を、撫でるたびにゾクゾクとした感覚が俺の首筋に走った。
「私もコモルさんが何時の間にか、家族以外の誰かと電話でお話している事に驚いていますよ?何時何処でコモルさんが、その人と出会ったのかも凄く気になります……ですが」
母さんはそこまで言うと一旦言葉を止めて、左手で髪をかき上げて顔を俺の耳元に近づける……そして息子の俺の耳元で、しっとりとした声で続きを言った。
「電話に関しては私が心配する事は”もう”無くなりましたので、コモルさんが誰かと電話していた事については訊きません」
耳元で母さんが話すので息が耳の穴を刺激して、ぴくぴくと背筋が痙攣してしまう。俺が顔を本の少し動かせば……どうみてもお淑やかなお姉さんにしか見えない母さんの色気のある濡れた唇に、触れてしまいそうだから……。
―――電話に関して心配する事が、無くなった?母さんは何を言っているんだ?
「それは……どう言う意味?」
今俺は顔を母さんの方に向けないので、口だけ動かして理由を聞いて見る。
先ほど部屋の前で母さんにスマホを貸した様子が頭を過ぎり、何だか嫌な予感がした……。
あの時何とも思ってなかったけど……母さんは、俺のスマホで何をしていたんだろう?
「ふふ……先ほどコモルさんにスマホをお借りした時に、コモルさんのスマホに私以外に連絡出来ないよう制限を付けさせて頂きました。これなら私以外と一切電話が繋がる心配がないので、さっき部屋で電話して居た相手とも今後繋がらないと言う事ですから……電話で誰と話していたか何て、聞かなくても良いですよね?」
そう言って母さんは、俺の耳元でくすくすと可笑しそうに笑う。
それを聞いて、俺はまさか!?と思い……お昼ご飯を食べる時に、ついでに持ってきたスマホを起動した。慌てて右手で操作していくと……俺のスマホの現状が分かってくる。
「アドレスも履歴も消えてる……それに手動で入力しても、電話もメールも母さん以外にする事が出来なくなってる……!?」
そんな……何で母さんが、俺の携帯に制限が付けられるんだ?
「コモルさん、親は子供の安全のためにスマホに制限が付けられるのは知っていますか?」
「制限?」
「そう、制限です」
元居た世界で聞いた事があるような……そうだ確か、親が子供を心配してスマホに制限をつけるとかニュースで言っていた。まさか……母さんも、俺のスマホに制限を付けたって言うのか?
何で母さんは俺にそんな事をするのか、俺は動揺してしまう。
「制限知ってるけど、どうして?」
「大丈夫ですか?少し震えていますよ?」
俺が動揺しているのが分かったのか、母さんは撫でていた俺の手をギュッと優しく握った。
母さんの右手の暖かさが、俺の左手にじんわりと伝わる。
本の少し、動揺が治まった。
「どうしてと思われるでしょうが……廊下で話している声を聞いて……私のコモルさんが悪質な人に騙されていると思いました。私はコモルさんの母親です……もし、コモルさんが誰かに騙されて傷ついてしまうかも知れないと思うと……コモルさんの安全のために、心を鬼にしてスマホに制限を施させて頂きました」
母さんは声を震わせて、哀しそうに耳元でそう言った。
未だに耳元に母さんが喋っているので、母さんの表情を確認できない。
本の少し今の母さんの表情が気になった。
☆ ミナト
「でも、電話で話をしていた女の子達は……悪質な人じゃないよ?」
どうやらコモルさんは、電話をしていた相手の事を気遣っているみたいです。
私のコモルさんが優しい心を持つ男の人に育ってくれたみたいで、母親の私は大変嬉しく思います。
ですが……私のコモルさんに近づく人が、悪質じゃない訳が無いのです。
現にこうして、コモルさんに良い印象を抱かせています。
電話の相手の女の子達とこのまま交流を深めて行けば、いずれコモルさんを私から奪うに決まっています。
それに愛していた夫が私の事を相手をしてくれない今……私に優しくしてくれる男であり息子でもあるコモルさんしか私には残されて居ないのです。
だから……絶対にコモルさんを、誰にも奪わせる訳には行きません。
例え、実の娘のユキちゃんにもです。
「いいえ、コモルさん……そんな事は、分かりません。いずれこのまま交流を深めて行けば、電話の相手の女の子達は本性を現して男性のコモルさんの身体に、消えない傷をつけてしまうかもしれない。もしかしたら……今もコモルさんを、騙す計画などしているのかもしれないですよ?」
「あの女の子達がそんな事をすると思えないけど……」
私の言葉にコモルさんは、戸惑いを含んだ声でそう言った。
優しいコモルさんは信じているのでしょう、女の子達が自分の事を傷つけないと。
「いいえ、女の子達はきっとコモルさんに酷い事をすると思います」
私はコモルさんが電話をしていた女の子達を何度でも否定する。
コモルさんが女の子達の事を、悪質な人と理解するまで。
☆ マオ
「小守さんに繋がらない……バッテリー切れてるのかな?」
あたしはベットの上でだらーっと、下着姿でだらけている。
今日は良く運動したので、だらけるのはしょうがないと自分に良い訳をする。
何時ものように、運動した後……大きな胸が汗で蒸れて大変だ。
それにしても……あの後女の子達から電話かメールを貰ったか、聞こうとしたけど……小守さんに連絡がまったく繋がらない。
連絡先はこの前交換したから、間違いは無い筈なんだけど……おっかしいなぁ。
「今度会った時に連絡する時に困るから、小守さんに小まめに充電するようにいわないとなぁ……くしゅん!身体が熱いのに、くしゃみが出るとか……つらいんだが?シャワーでも浴びて、さっさと寝たほうが良いのか……ふぅ」
あたしはブラジャーのホックを、腕を後ろに回して外す。
外に露出した大きな胸に、ヒンヤリとした部屋の空気が触れる。
ブラの中で蒸れていたので、涼しくて気持ちが良い……。
「ふひぃ~気持ち良い……。それにしても、マジで大きいコレどうにかしたいんですけど……重いし、胸に合うブラも少ない、お金が掛かる、寝辛い、その他諸々。でもなー……小守さんはそんなあたしの胸をちらちら見てたけど、もしかしたら……あたしの胸が好きなのかな?それなら邪魔なこれも、悪くはないと思えるけど」
手でがっしりと掴んでみる……汗でつるつるすべるので、凄く持ち難いな。
上下に動かすと……たぷんたぷんと揺れて、なんだか変な気持ちになる。
「んっ……って何してんだあたしは?寒くなってきたし、パンツを脱いでシャワーを浴びよっと」
あたしはパンツに指を引っ掛けて、一気に足首まで下ろして脱ぐ。
ブラより蒸れていたソコが空気に触れて、冷えていく。
胸と違って、ソコが冷えるとさすがにお腹の調子が大変な事になるので急いでバスルームに向かう。
「こんなところは、小守さんやナナシキさんに見せられないな……うぅ、さむさむ」
あたしはバスルームに入り、急いでシャワーのお湯を出す……今回はお風呂にお湯を張ってないから、ヘアークリップは机の上に置いてきちゃったけど別に良いよね。
「はふぅ……生き返るわ~~~って、なんだか年寄り臭くなってないかあたし?」
シャワー暖かいし、冷えた身体が癒されて年寄り臭くなるのもしょうがないよね?
少しの間シャワーの温かさに浸る。
頭ばかりシャワーのお湯を当てる訳にも行かないので、シャワーのヘッドを掴んで汗を掻いた胸の下もお湯で洗い流す。
ここをちゃんと洗わないと汗臭くなるので、良く洗わないといけない。
大分身体が温まった事を確認したら、一旦シャワーを止めて恒例のヘアケアタイムのお時間です。
「さて、さて、コレめんどいけど……ヘアケアしないとね」
ヘアケアは最近始めた事だけど、本当に大変だ。
今までしてこなかった事をするのは、マジ辛いけど……目標があるから頑張れる。
あたしが頑張れるのは小守さんやナナシキさんに、良い目で見られたいから。
自己満足だけど、将来に繋がると信じて続けるのだ。
「頑張って、小守さんやナナシキさんに好きになって貰うんだ。だから大変でも、やるんだあたし!」
自分を鼓舞しながら、バスルームで一人全裸であたしはヘアケアを頑張った。
主人公の電話に制限が入ります。けれど、主人公の住所を知っているヒロインが、結構いる気がする。




