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19.どうやら話を聞かれていたらしい……。

19話です。

『つまり……アタシとちーちゃんは、お兄ちゃんともっと……もーっと仲良くしたくて電話したんだよ?』


『みーちゃんとワタシは、おにいさんともっと仲良くなりたいの!』


 みーちゃんが言うには、昼間に出会った俺ともっと仲良くなるために電話したらしい。

 だが……実際連絡してみると、最初に話す筈だったちーちゃんが緊張して何を話して良いか分からなくなったみたいだ。


「俺も何を話して良いか分からないけど……どんな話をする?」


 元居た世界でも小学生の女の子と話す機会なんて皆無な俺が、初めて会ったばかりのこの子達と話せるような話題はない……。

 普通に考えて……引き篭もりの俺と現役小学生の女の子達との、共通の話題なんてあるのか?


『えっとね……おにいちゃんの、好きな食べ物ってあるのかな?』


『おおっ……みーちゃん、良い質問なの♪』


 好きな食べ物の質問は、確かに外れは無い気がする。

 どんな人でも一つぐらいは好きな食べ物はある筈だから、訊かれた相手も困らない良い質問だ。


「俺の好きな食べ物は……」


『うん、うん♪お兄ちゃんの好きな食べ物は?』


『何かな?何かな?』


 ここ最近の食べた物で、美味しかった物を頭に思い浮かべる……。

 うーん……この世界に来て、食べたのはほとんど母さんの料理ばかり。その母さんの料理は、今まで食べてきた物より美味しいので……。

 今までの母さんの料理で、美味しかった物を答えれば良いのかな?


「うーん……」


 考えながら俺は床に足をつけて、ベッドから立ち上がり……通話中のスマホを耳に当てたまま、俺はさっきから気になっているドアに足を進める。

 一応誰かいないか確認のために、ドアを開けて確認をしたい……ずっと気になっていたままだと、気分が悪くなりそうだったから。

 ちょうど……胃が痛いから尚更だ。


「オムライスかな……母さんの」


 俺の好きな食べ物は、ふわふわのオムライスだ。

 お昼ご飯に時々作ってくれる母さんが作るオムライスは、中が若干半熟で美味しい。特にふわとろっとした所がたまらない。


『ふむ、ふむ、お兄ちゃんはおむら……』


 ガタッ……。


 みーちゃんの話の途中に、部屋のドアが確かに揺れた……さっきのは俺の勘違いでは無くドアの先に、本当に誰かが居るらしい。もしかしたら、俺と女の子達の会話を聞かれていたかもしれない。


「ごめん、みーちゃん……誰か来たから、後でまた掛けなおすね」


『お、お兄ちゃん……!?』


『え、ええ……!?』


 スマホの操作して、通話を切った。


 話の途中で、通話を切って悪い事したと思っているけど……。

 もし……このドアの先に妹が居た場合、みーちゃんとちーちゃんと電話している場合じゃないので……先に、通話を切らせて貰った。


「………」


 俺は緊張した面持ちで……ドアのノブを回して、慎重にドアを開ける。

 段々と開いていくドアの隙間から、廊下の空気が部屋に流れ込み……嗅いだ事のある、上品な香りを鼻に感じた。

 今俺が嗅いでいる匂いは妹の香水の匂いでは無く、ここ最近の母さんの匂いだ。


 まさかと俺は思って、ドアを完全に開くと……妹が成長して、お淑やかになったような綺麗な女性が俺の部屋の前に居た。


「か、母さん……?」

 

 ドアの先に居たのは妹では無く……俺の母さんだった。

 母さんはおっとりとした様子で、部屋の前にただずんでいる。


 俺がこの世界に転移してから初めてこの世界の母さんに会った時、初めは従姉かなって思った。


 だって俺の知っている母さんは年相応の見た目でお腹が膨れてて、今俺の前に立っている二十代にしか見えないスタイルの良い美人のお淑やかそうなお姉さんじゃなかったからだ。

 だから随分会っていない従姉のメグミ姉さんと、勘違いしてもしょうがない。


「あら……コモルさん、ちょうど良かったです。遅くなりましたが、お昼ご飯のご用意が出来ましたよ?冷めない内に、食べてしまいましょう」


 優しい笑みを浮かべた母さんは、左手を頬に当てて俺にそう言った。

 母さんの柔らかい声が、俺の耳に届く。


 何故だろう?


 少し前からドアの前に居たのなら、俺とみーちゃん達が話しているのを聞いていた筈なのに……母さんは普段と変わらない様子で、お昼ご飯が出来たので食べようと言っている……。

 何で……俺が誰かと電話していた事を、母さんは訊いてこないのだろう?


「もう……コモルさん、そんなに私の顔をじっと見つめられると照れてしまいますよ?」


 その事について何も言ってこない母さんの事を、俺は思わずじっと顔を見つめてしまう。まあ、見つめても今の母さんの考えなんて……一切、俺には分からないのだが。


「本当にどうしたんですか……今日のコモルさんは……」


 俺に見つめられた母さんは俯き加減になり、ポッと頬を赤く染めて照れてしまっている。

 今の母さんを別の世界から来た俺が見た感じ……お淑やかな美人のお姉さんが、頬を抑えて照れているようにしか見えない。

 正直……今の母さんに、俺は少し動揺してしまう。

 もしかしたら……俺は、マザコンに目覚めたのだろうか?


 まあ、それはそれとして……今は、別の事が気になる。


「その……」


 聞いて良いのか?

 俺が電話していた所を、ドアの前で聞いていたのかを母さんに?

 外に出ている事も母さんに、黙っているのに?


「コモルさん、言いたい事があるのならどうぞ遠慮無く言ってください。早くしないと、お昼ご飯が本当に冷めてしまいますよ?」


 顔を上げた母さんは相変わらず照れているのか、赤い顔のままだけど……俺がはっきりと言わないので、続きを促した。

 ……母さんがそこまで言うなら、聞いてみよう。それに訊かないままだと何だかモヤモヤするし、後で訊くのも躊躇しそうだから。


「俺が電話で誰かと話をしているところを、聞いてたよね母さん?」


 俺は噛まずに言い切った。

 スマホを握る手が、緊張で手汗が酷い。

 質問してから、1分……いや、2分か?母さんは俺が質問してから、何も言わずに全く表情を変えないで俺を見つめている。


「あの……」


 さすがに俺も母さんが何も言わずに沈黙しているのは、とても辛い……それに母さんが言ったように、お昼ご飯が冷めてしまいそうで心配だ。

 俺は母さんが作る料理は、全て好きだから温かい内に食べたい……と言うか、運動したのでお腹が空いているので説教するなら早くして欲しいと思ってすらいる。


「コモルさんの手に持っている、スマホを少し貸して頂けませんか?」


「スマホ……?はい、どうぞ……」


 母さんはさっきとは違う笑顔を、ニコニコと顔に浮かべながら俺にスマホを貸して欲しいと言ってきた。

 スマホなら母さんも持っている筈だけど……母さんは今手元に無いのかなっと思って……つい、向こう見ずに、母さんにスマホを渡してしまった。

 母さんは、俺のスマホの画面を一瞥する。


「さっきの部屋の中で誰かとお話しているコモルさんの声は……私の幻聴だと思っていたのですが……。そうですか……誰かとお話をしていたのですか……こんなの与えるんじゃ無かったですね」


 ぼそぼそと小さな声で呟いているだけで、手元にあるスマホを操作する気配の無い母さん。

 あれっ?母さんはスマホで何かするために、俺から借りたんじゃないのか?

 使わないなら……返して貰おうかな。


「母さん、スマホを使わないなら返して欲しい」


 俺が腕を伸ばして、母さんが持っているスマホを取ろうとしたら……ひょいとスマホを遠ざけられる。

 どうしてと母さんの顔を窺うと……気のせいかもしれないが、一瞬俺の事を暗い瞳で見た気がした。


「ちゃんと使いますよコモルさん?少し待ってくださいね?」


 母さんは俺のスマホを操作して、何かをしているみたいだ。

 電話する訳じゃなくて、俺のスマホで何をしているんだ母さんは?


「はい、完了です。お返ししますねコモルさん♪」


「……?」


 俺は帰ってきたスマホを、画面を見ようとしたが……。


「あっ、もうこんな時間になってしまいました……ごめんなさいコモルさん?お昼ご飯は……まだ、温かいと思いますから急いで食べてしまいましょう」


 母さんは俺に背を向けて、一階に降りて行った。

 腰まで長い黒髪が、宙にさらさらと舞う。


「そういえば、お昼ご飯」


 そう言ったと同時に俺のお腹から、ぐぅっと音が鳴った。

 俺も母さんの後を追い、階段を下る。


☆ ミナト


「俺が電話で誰かと話をしているところを、聞いてたよね母さん?」


 一瞬何を言われたのか、私には分かりませんでした。


 部屋の中のコモルさんが誰かと話している声は、私の酷い幻聴だと思っていたのですけど……どうやら現実みたいです。

 何時の間にか私のコモルさんに、虫が付いてしまっていたみたいでした。

 ユキちゃんがコモルさんに、べたべたしているだけでも我慢の限界が近いと言うのに……。


 以前の私がコモルさんのために緊急時に連絡出来る様に、スマホを与えてしまったのがいけなかったみたいです。あの頃の私は、どうかしていたのでしょう。


「でも……もう安心です、ふふふ」


 階段を降りながら、私はコモルさんに聞こえないように呟く。


 今の私の顔は、とてもコモルさんに見せられないような顔になっているでしょう。

 愉快すぎて、笑顔が引きつっているのが分かります。

 頬が痙攣して痛いです……。

 お昼ご飯を用意してある、居間に着く前に表情をなんとかしないとコモルさんに嫌われてしまうかもしれませんね?


 ところで、私はコモルさんの母親……子供の安全のために、スマホに制限を掛ける権利があります。

 そう……子供の安全のために、親が権利を使うのは当たり前。


 だから今私のコモルさんに、危機が迫っているので……母親の私が権利を使うのは当たり前ですよね?

主人公の母親の登場回です。

最近までまともだった母親相手なので、主人公の警戒心が薄れているようです。

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