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18.どうやらドアの先に誰か居るらしい……?

18話です。後半は、主人公の母親の日記です。

「マオさんに止められたけど、結局女の子達と連絡先を交換しちゃったな……」


 汗で濡れた服を着替えてから……俺は自分の部屋のベッドの上で寝転んで、左手でスマホを持ってアドレス帳の画面を眺める。


「少し汗臭いかな?」


 俺は、くんくんと鼻をひくつかせる。

 うーん……運動した後なので、服を着替えても若干汗臭く感じてしまうのはしょうがない……風呂に入るまで我慢しよう。


 小学生くらいの女の子の二人と俺は、昼間の公園で連絡先を交換した。

 その時にマオさんが俺に、女の子二人に連絡先を教えないようにと言っていたけど……俺が事情を話して渋々納得してくれた。


「ふぅ……マオさん、納得してない顔だったなぁ」


 落ち着いて来た今ならマオさんが言いたい事は分かるけど、それでも……もし俺が原因で女の子の二人の仲が悪くなったりしたらと思うと……。


「痛たた……」


 俺はスマホの画面から一旦視線を外して、服が皺になるのも気にせずに右手でギュッとお腹を押さえる。

 この通り責任を感じて、胃がキリキリと痛くなってしまう。

 だから後で胃薬を、貰っておこうと思っていたら……。


 ブルブルブルとスマホが震えて、誰かからの連絡を俺に伝えてきた。


 画面を覗くとスマホに、あの女の子の二人の片割れのちーちゃんと言う子からの呼び出しみたい。

 ちーちゃんと言うのはあの清楚そうな女の子の事だ。


「お淑やかそうなお嬢様みたいな雰囲気の女の子なのに、以外と攻撃力があるんだよな……」


 昼間の光景が頭を過ぎる。

 小学生の女の子から繰り出されるボディーブローは、未だに忘れられない。

 お人形のような小さな手で、体格が同じくらいの女の子を浮かせる程の衝撃を与えたのだ。


「それにしても、本当にみーちゃんって言う子は身体は大丈夫だったのかな」


 みーちゃんは帰り際も、別に痛くも何ともない様子だったけど心配になる。

 まあ、その事についてはちーちゃんに訊けば良いか……ちょうどちーちゃんも俺に用があるみたいだし。

 左手でスマホを操作して、呼び出しに答える。


「もしもし、小守ですけど?」


『お、おにいさんと電話が繋がったよ、みーちゃん……!』


『な、何かお話しないとちーちゃん……!?』


 スマホの受話器から、昼間出会った二人の慌てたような声が聞こえてきた。

 さらにドタドタと床を、走る音も聞こえてくる。

 このままだと通話時間がただ過ぎるだけだから、俺は少し大きな声を出す事にした。


「何か用なのかな?」


『ふぇ……!?』


『ちーちゃん、お兄ちゃんが待ってるよ……!最初はちーちゃんが、お兄ちゃんとお話をするんでしょ?』


『でも、みーちゃん……おにいさんと、何を話せば良いのか分からないの……ぐすん』


 もうすでに、泣きそうな声のちーちゃん。

 うーん、何を話せば良いのか分からないなら……ちーちゃんは何で俺に電話してきたんだ?


 カタッ……。


 電話越しに女の子の二人が話しているのを聞いていたその時……ふと何かが気に成って、俺はベッドから上半身を起してドアを一瞥する。


 ―――今……ドアが、少し揺れなかったか?


 俺の気のせいか……ドアが少し揺れた気がする。

 緊張して、俺はスマホを強く握ってドアを凝視してしまう。そして、あんなに騒がしい女の子の二人の会話が遠くに感じるようになる。


 そういえば……学校は先生達の事情で、生徒が早く下校する事もあると聞いた事がある。

 もしかしたら、今日は早く下校出来て……妹は、家に帰って来ているのか?

 俺が電話しているのを、あのドアの先で聞いているとしたら……。


「ごくっ……」


 俺は、口に溜まった唾を呑み込む。

 ブゥーンと外の車の音が、俺の部屋に良く響く。


『……ちゃん?お兄ちゃん!?どうしたのお兄ちゃん、もしかして……何か合ったの!?ねえ、ちーちゃん!お兄ちゃんが……お兄ちゃんが!?』


『お、落ち着いてみーちゃん!急いで、救急車を呼ぶのみーちゃん!』


「あっ……」


 受話器から俺を心配する声で、今は電話の最中なんだと思い出した。

 ちーちゃんとみーちゃんの二人が、受話器越しに俺に何か合ったと慌てているのが聞こえてくる。

 みーちゃんが、救急車を呼ぶみたいな事を言っているので俺は慌てた。


「ちょっと待って!」


『大丈夫お兄ちゃん!?ずっと黙ってたけど、もしかして……どこか悪いの?』


 短いツインテールのみーちゃんから、不安げな声で俺の身体の様子を訊いてきた。どうやら俺が何も言わずに黙っていたせいで、二人に心配を掛けてしまったみたい。

 俺はなるべく元気な声で、大丈夫だと伝えようと口を開く。


「大丈夫どこも悪くないよ……ただ、ぼーっとしてただけだから」


 ふぅ……俺にたいして愛が重いこの世界の妹について、最近ちょっと神経質になっているのかも。

 もし他の女の子と喋っている所を見られたら、妹がどんな暴走するか分からないと言う不安が常に心の奥に根を張っている。

 被害が俺だけなら、別に先日のような事をされるだけで終わるかも知れないので構わないのだが……万が一に他人様に迷惑掛けないか、一応心配なのだ。


『もう……お兄ちゃんが急に黙っちゃったから、アタシ達は凄く心配したんだからね!ちーちゃんなんて……救急車なんて待ってられないって言って、お兄ちゃんの家を知らないのに向かおうとしてたんだから』


『発……機……知ってるの……むぐっ』


 ちーちゃんの声が小さいのと、途中で声が途絶えたので良く聞こえなかった。

 また、受話器越しにドタバタと何か激しい音が聞こえる。


「……良く聞こえなかったから、もう一度言ってくれないかな?」


『お、お兄ちゃん、何でも無いよ?ちーちゃんがちょっと慌ててたから、つい口が滑っただけだよ……アハハ』


 つい口が滑っただけ?何か不穏な言葉を、ちーちゃんが言ったとみーちゃんが言っているような?

 そんな事を思いながら、俺は壁に掛けてある時計を見上げる。

 時刻は既に午後。


 妹が通う学校の先生の用事などが無ければ、このまま女の子の二人と話している余裕はあるけど……何時まで余裕なのかは、俺は知らない。


☆ 日記帳 小守 ミナト


 ○月×日


 人形のようになってしまった愛しの息子が、最近になって……まるで生まれ変わったように、明るくなりました。

 その事について母親としての不満はありませんが……今の息子を見ると、本当に私の息子なのかと疑ってしまいます。

 実の息子を疑ってしまう……そんな事を思ってしまう私はきっと母親失格なのかも知れませんね。


 ○月△日


 変わってしまった息子と一緒に、お昼ご飯を食べるようになりました。

 口数は少ないですが、私が話し掛けるとちゃんと返してくれます。

 時々ハニカム息子の顔に、私の胸が苦しくなるのは何ででしょう?


 ○月γ日


 今日も息子とお昼ご飯を、一緒に食べました。

 息子は私の事を、「なんか母さん、ずいぶん若返って美人になった」とか嬉しい事を言ってくれます。

 冗談ですよね?と訊くと、息子は「いや、本当だけど?」と冗談言っている顔ではありませんでした。


 息子から見て、私はまだ若い女性なのでしょうか?

 それに私が美人なんて、例え息子でも嬉しく思えてしまいます。


 ○月○日


 今日も息子と、お昼ご飯を一緒に食べました。

 私が作ったお昼ご飯を美味しいと言ってくれて、母親として嬉しいです。

 でも、母親として嬉しい筈なのに……同時に女として嬉しいと思ってしまいます……。


 最近の私は何かおかしい……。


 ○月∑日


 今日も息子と……コモルとお昼ご飯を食べました。

 私の作ったお昼ご飯を美味しいと言ってくれるコモルの笑顔に、胸が破裂しそうなほど嬉しい……です。

 コモルは……息子なのに……息子なのに……何ででしょう?

 最近の私は狂ってる。


 ○月Λ日


 おかしい、おかしい、おかしい、私はおかしい、狂ってる。

 息子の事を、女として愛している。

 毎日、毎日、毎日、女の私に優しくしてくれる男のコモル。

 そんな男の優しさを今まで知らなかった私が、毎日優しくされたら狂ってしまうのは必然……。


 政府主催のお見合いで、知り合った夫は他にも妻が居る。

 夫は息子のコモルと娘のユキちゃんを、私が産んだ後……他の妻の所に行ったきり帰ってこない……。

 夫が他の妻のところに行くのは、しょうがない事だと分かっている。


 私は二人も子供を産んだので、夫は他の妻にも子供を授けないといけないのは十分分かっているけど……夫には私だけを愛して貰いたかった。

 だからなのか帰ってこない夫の帰りを延々と待つ私は、男の優しさに飢えてしまっていたのだ。


 夫に会わないと……電話して、家に帰ってきてもらわないと……私が完全に狂う前に。


 ○月#日


 電話したけど……夫は、忙しいから無理だと言われた。


 きょうも こもると おひる ごはんをたべた 


 おいしいっていってくれれれれた あいしてる


 ○月β日


 今日もコモルさんと、お昼ご飯を一緒に食べました。

 美味しそうに私の作ったお昼ご飯を、食べる様子は私をとても幸せな気持ちにさせてくれます。

 私の事を”母さん”と呼んで欲しくないのですが……まだ、この関係を続けたいのでしょうがありません。

 最近、娘のユキちゃんがコモルさんにべたべたしてるようで、私はとても不愉快な気持ちです。

 

妹の母親なら、狂う素質があるよね。

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