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閑話 ある日のマンガ家の担当者

閑話です。中二病の担当編集者視点で、話が進みます。

「ようこそ……我を監視する者よ……」


 私は目の前で、痛いポーズをする中学生マンガ家の担当編集者。

 今日は闇月 サクヤ先生の原稿を頂きに来ました。


「サクヤ先生、原稿を頂きに来ましたよ」


「監視者よ……原稿など知らぬ。我は……ま」


「原稿を頂きに来ましたよ」


 私は笑顔で、サクヤ先生の言葉を遮る。

 サクヤ先生は、少し残念そうに顔から手を退けた。


「……はい、どうぞお上がりください」


 毎回サクヤ先生は、玄関前でこのような事をするので担当の私は強引に押し切る事にした。

 だって疲れるでしょ?

 私は役者じゃなくてただのマンガ雑誌の編集者ですので、サクヤ先生のお遊戯に”もう”付き合いませんよ。


 まあ、初めは付き合ってあげていたのですが……一応、私の担当マンガ家ですから。

 けれど……ある日、その日も玄関前でサクヤ先生のお遊戯に付き合っていたら……親戚の叔母さんに見られていたらしく、数日で親戚中に私の痴態が広がってしまいました。

 後でお母さんから連絡が来て、もう親戚の集まりには行けないと絶望したのは記憶に新しいところです。


「そこに座るのだ監視者よ」


 私はサクヤ先生に応接室に案内されて、ソファーに座るように促される。

 テーブルを挟み、サクヤ先生も対面のソファーに座った。


「監視者よ……受け取れ、これが我の魔道書の断片なのだ。だが……それには我の魔力が注がれておる。力無き者が、それをみれ……」


 テーブル下から取り出した原稿を私に見えるように手に持って、何かぶつぶつと言っているサクヤ先生。


「はい、はい、原稿を頂きますねー」


 サクヤ先生は原稿を渡す事にもお遊戯をするので、私は強引にサクヤ先生の手から奪います。

 お遊戯が終わるまで待つと、時間が掛かるのは経験済みですし。


「……ぼそぼそ」


 小さい声で、「いいもん……いいもん……レイヴンに慰めてもらうもん」とか言ってましたが……レイヴンって誰でしょうね?カラス?

 まあ、今はそれよりも原稿チェックの時間です。


 ………。


 今回も相変わらずの中二病展開で、サクヤ先生らしさが出てました。

 ですが……少し気になる所が、あるとしたら……。


「少し良いですかサクヤ先生? この回に新たに登場した……この青年の事、なんですが」


 サクヤ先生は得意顔で良くぞ聞いてくれたと言うように、ソファーに脚を組みふんぞり返る。しかし……私は傲慢な態度をするサクヤ先生に、その事について何も言わない……。

 初めからサクヤ先生はあのような態度だったので、慣れたと言うのもあるのですが。


 サクヤ先生は”今”は人気マンガ家だから、私は何も言わない。


「話の途中で唐突に現れて、主人公達より目立ってませんか? 私はこんなキャラが登場するとは、一言も聞いて無いんですが?」


 サクヤ先生は何故か頬を赤くして、そっぽを向いた。

 銀髪を左手で弄って何だか言い難そうに、もごもごと口を動かしている。


「……サクヤ先生、この青年は何ですかって私が訊いているんですが?」


「まどうしょ……ぐっ!?」


 ふざけた事を言い掛けた対面に座るサクヤ先生を、私は両手を伸ばして頭を掴みこちらを向かせる。

 サクヤ先生は私の突然の暴挙に、目に涙を浮かべてぷるぷると身体を震わせて怯えているみたいだ。

 ごめんねサクヤ先生……私仕事しなきゃいけないので、私に分かる言葉で話して欲しいの。


 サクヤ先生にこんな事をするのは……けっして、親戚に腫れ物扱いされるようになった恨みではないですよ?


「んっ? 何ですか? 良く聞こえませんでした。それで、この青年は何ですか?」


 顔を近づけて、隻眼のサクヤ先生の赤い瞳をじっと笑顔で見つめる。

 赤い瞳に映る私は、目が笑ってませんでした。

 だってキレてるんですから私。


「うぅ……主人公達の新しい仲間……。いずれは主人公の良き従者として、生涯を共にする予定なのだ」


「報告・連絡・相談は大切ですって、初めに言いましたよねサクヤ先生? まあ、サクヤ先生は中学生ですから実感が沸かないのかも知れませんが……仮にも担当編集者の私には、一言欲しかったです」


 私はそう言って、サクヤ先生の頭から手を離します。


 サクヤ先生はまだまだ子供なので、ホウレンソウの大切さを知らないのは私も理解してますけど……あのままサクヤ先生が大人になった時に、せめてホウレンソウぐらいは理解していた方が他社とトラブルにならないだろうと思っただけです。


 私の予想ではサクヤ先生の実力なら絶対、今よりもマンガを扱う会社と多く取引をする筈ですから。


「ごめんなさい……」


 私の顔を窺うように、サクヤ先生は涙声でそう言った。

 私の言葉に落ち込んだ様子のサクヤ先生に、少し罪悪感を覚えてしまう。


「次からはちゃんと、一言連絡くださいね?」


「……赦してくれるのだ? 我は次も書いて良いのか?」


 サクヤ先生は、眉を八の字にさせて心配そうに私の事をじっと見つめる。

 私に怒られて次からは、マンガを書かせて貰えないと思ったのだろう。

 サクヤ先生は唇を軽く噛んで、私の次の言葉を待っている。


 私は笑顔を意識して、サクヤ先生の顔を見返す。


「次もサクヤ先生にお願いしますので、安心してください。私はサクヤ先生のマンガが好きですから、書かないで良いとは言いませんよ?」


 サクヤ先生のマンガが大好きな読者も、マンガを書いて貰わないと困るでしょうから。


「良かったぁ……次も書いて良いんだ……」


 私の言葉に子供らしくぱぁっと笑顔に変わるサクヤ先生。

 何時もの不敵な笑みではない、素直な笑みだ。


 だが、その子供らしい笑みも続かなかった……。


「ククク……!」


 また不敵な笑みに戻ったサクヤ先生はソファーから突然立ち上がって、腕を組んで私の事を見下ろす。


「うむ、我の魔道書を心待ちしている者が居る限り……我は書き続けるのだ!」


「はい、はい、書き続けてくださいサクヤ先生」


 鼻先は赤いままだが、何時もの調子に戻ったサクヤ先生。

 それを私は一瞥して……不安そうな顔よりは、不敵な笑みのサクヤ先生の方がまだマシだと私は思いました。


 ………。


「では、サクヤ先生。原稿を頂いたので、そろそろ失礼しますね?」


 サクヤ先生から原稿を頂いたので、もうこの場に長いは無用です。

 会社にはまだ仕事が残っているので、帰って仕事を片付けないと家に帰れません。


「待つのだ監視者……実は、新作の相談したい」


 私が鞄に原稿の入った大きめの封筒を入れていると、サクヤ先生がこれとは別の封筒を持っていた。

 少し真剣な表情のサクヤ先生に私は一旦手を止めて、話を聞く事にする。


「それで新作は、どんなお話なんですか?」


 サクヤ先生は緊張してるのか、私が聞く姿勢になると「ふぅ」っと息を吐いた

 どうやら聞いて貰えるか、心配していたみたいです。

 脚をもじもじさせて、サクヤ先生は私に封筒を渡した。


 何かサクヤ先生の顔が、すごく赤くなっているんですが……?

 これには恥ずかしい何かが、書いてあるのでしょうか。


「それは……これを見てくれた方が、話が早いのだ」


「どれどれ……うーん、文字ばかり。これは小説ですか……ふむふむ」


 封筒から取り出した紙には、絵は無く……文字だけでした。

 つまり、小説です。

 どうやら、マンガにする前に新作のお話を小説にして私に意見して欲しいようです。

 私の専門はマンガなのですが……まあ、良いでしょう。


「結構長いですから、終わるまで楽にして良いですよ? サクヤ先生」


 真剣な表情で、私の事をじっと見つめるサクヤ先生にそう言った。

 じっと見つめられると疲れるのです私が。


「さて、さて、どんなお話なのでしょうか……」


 私は文字を目で追った。


☆ 俺は異世界で、少女の奴隷になる。


「実は珍しい商品が手に入りまして……リーザ様に、是非見て貰いたいのです」


 全身を黒い布で覆った奴隷商人は、豪華な装飾を施された椅子に座る銀色の髪の少女にそう言った。

 奴隷商人にリーゼと言う名で呼ばれた少女は、興味深そうに床に跪く俺をじっと見つめる。


「………ふむ、黒い髪の男か……確かに珍しい。それで、この者をどこで捕まえて来たのだ?」


「……いえいえ、この者は捕まえたと言うより、私の商会が保護したのですよ。先日、とある街で飢えて死に掛けてたところを……私の商会が偶々通り掛かって、とりあえず保護したのです」


 俺は先日まで日本に居た筈なんだが、気が付いたら異世界の街の路地裏で膝を抱えて眠っていた。

 突然何も説明も無いまま異世界に放り込まれた俺は、ファンタジー溢れる街でさ迷い……最後には路地裏で、飢えて蹲っていた所を奴隷商人と言う人に保護された。


 奴隷商人と言うと悪いイメージが最初はあったけど……奴隷商館ではとても良くして頂いた。


 三度の飯に昼寝付きで夜には、広いお風呂に入れる。

 こんな見ず知らずの俺に、何でこんなにしてくれるのだろうと保護されてから思っていたが……昨日突然、俺の世話をしてくれていた、今隣に居る奴隷商人のお姉さんに「明日、君をとある偉いお方に売る事にした」と言われて納得した。


 俺は商品だったのだ、隣に居る奴隷商人のお姉さんの。


 別に悲観はしていない、寧ろこの世界に来てから途方に暮れていた俺を良く世話してくれたと思っている。

 そんな俺の様子に奴隷商人のお姉さんは、「ああ、そう悲観する事もないよ?寧ろココより君を良くしてくれる人の所に売りに行くんだから、安心して良いよ」と俺の頭を撫でながらそう言っていた。

 そう言う訳で、今日はその偉い人に俺を売り込みに来たのだ。


「飢えて死に掛ける……この者は、どこかの貴族に匿われていた男では無いのか?」


「いえ、それは違うみたいです。先日私の伝手で、この者を誰か探していないか調べて頂いていたところ……誰もこの者を探していない様子だと言われました」


 リーゼと言う名の銀髪の女の子は、椅子を降りて……俺の目の前に来た。

 そして、俺の顎をその白魚のような小さな手で掴んで……俺を値踏みしているみたいに、俺の顔をいろんな角度で見ている。


「ふむふむ……とても良い男ではないか、どこの者も探していないのなら……我が欲しいと言えば、売ってくれるのか?」


「そうですね……私の店で保護と言って居ますが、実質他の商品と同じ扱いしているので……。保護してからの経費諸々と少し色をつけて頂ければ、リーゼ様にこの者の保護する権利をお譲りします」


 奴隷商人のお姉さんは、俺をチラっと見てそう言った。

 スカートが短い黒い衣装を着た、リーゼ様は俺の顔をじっくりと眺めて……ふと、何か気がかりがあるのか、奴隷商人のお姉さんに向かって訊ねた。


「ちと訊ねるが……この者は……その……ど、童貞か?我はその手の魔法が、得意ではないので分からないのだ。もしこの男が童貞では無いのなら、少し我に考える時間を貰いたいのだが……」


 さっきまで毅然とした態度だったリーゼ様は、突如狼狽えた後様子で俺の童貞の有無を確認しだした。


 ―――なんだこれ?俺が童貞じゃないとどうして駄目なんだろ……もちろん、俺は童貞だけど。


「私の魔法でこの者を調べたところ、結果は女性経験ゼロと出ました。大丈夫ですよリーゼ様」


「そ、そうかまだ誰もこの者としたことがないのか……なら、この者は我が頂こう。それで、お前はいくら欲しい?」


「ざっとこのぐらいは、頂きたいのですが……どうでしょうか?」


「うむ、それで良いだろう。マリー!」


「はい、リーゼ様」


 何時の間にか、奴隷商人のお姉さんに女性経験の有無を調べられてた件……。

 そんな魔法があるのかこの世界には、別に男の俺の女性経験なんて調べてもしょうがないと思うけど。

 リーゼ様には重要な事なのだろうか?

 そんな事を考えていたら、話が終わったらしい。


「はい、ちょうど頂きました。では、君は今日からこのお方のところにお世話になるんだ。リーゼ様にご挨拶」


「は、はい、今日からお世話になりますリーゼ様」


 俺は奴隷商人のお姉さんに目の前のリーゼ様に挨拶するように促されて、ぼーっとしてたので慌ててリーゼ様に挨拶をした。

 そんな俺をリーゼ様は特に気にした様子もなく、見下ろしている。


「うむ、今日からお前は我の性奴隷だ。我を満足させてる間は、おまえにも満足の行く生活をさせてやる。精々我に愛想を尽かされないように、気を付けるのだな」


 せ、性奴隷……!?

 俺はそんな話は聞いてないと、奴隷商人のお姉さんの方向を向いた。


「君がリーゼ様を満足させている間は、私の所で生活していた頃よりも良い生活できるのは本当だよ?」


「なっ……!」


 奴隷商人のお姉さんは、口元をニヤリとさせて俺にそう言った。

 確かに良い生活は出来そうだけど、まさか性奴隷になるとは思わなかった。

 目を見開いて驚いてしまう。


「お前は我の性奴隷は、嫌か? だが、我はお前に我の夜の相手を任せたいと思っているのだが……」


 そんな俺の様子をその紫の瞳で見つめるリーゼ様は、少し寂しそうに言う。

 そのリーゼ様の様子に俺は、少し罪悪感が沸いた。

 リーゼ様は身元不明の俺の生活を面倒みてくれるのに、性奴隷ぐらいで驚いては駄目だ!


「俺はリーゼ様の性奴隷は嫌ではありません!寧ろ、リーゼ様のような美少女の夜の相手が出来るなんて最高です!」


「……我を美少女と言うのかお前は?」


 俺の”美少女”と言う言葉に反応した、リーゼ様は少し頬を紅潮させた。

 腰まで長い艶のある銀色の髪を、触って落ち着かなくなる。

 リーゼ様の後方に控えるマリーと呼ばれた若いメイドさんも、俺の言葉に驚いているようだ。


「リーゼ様、この男の目は腐ってるのでしょうか?それともマリーは幻聴を聞いたのでしょうか?どっちだと思いますかリーゼ様?」


 なんだかリーゼ様に負けず劣らずの美貌を持つメイドさん、リーゼ様に失礼な事を言ってないか……?

 そのメイドさんの言葉を聞いた、リーゼ様はやっぱり怒った。

 柔らかそうな頬を、膨らましてメイドさんの方に向く。


「どっちでもないわマリー!この者は、我の事を美少女と確かに言ったのだ……言ったよな?」


 途中までは威勢の良かったリーゼ様は、途中から不安そうな表情になり……俺の方に確かめるように、顔を向けた。


 ―――リーゼ様はなんでこんなに、顔に自信が無いんだ?こんなに、可愛い顔してるのに……?


「はい、俺はリーゼ様の事を”美少女”と言いました」


 俺の言葉を聞いたリーゼ様は、向日葵が咲いたような笑顔を浮かべた。

 毅然したキリッとした表情のリーゼ様も良いけど、今の幼い女の子のような、可愛い表情も良いな……。


「ほ、ほら、聞いたかマリー!この者は、我の事を確かに美少女と言ったぞ……!」


 マリーさんは嬉しそうにしているリーゼさんを見てから、俺の方に顔を向けた。

 その蒼い瞳で俺を見つめるマリーさんの表情は、とても冷たい。

 俺はその視線に、身体を強張らせてしまう……。


「リーゼ様、この者は奴隷……ご主人のご機嫌を、取るのも仕事でございます。本心で言っているか、分かりませんよ?」


 マリーさんの俺の本心を疑うような言葉に、俺の心が傷つけられた……。

 俺を見つめる澄ました顔のマリーさんに、俺は食って掛かった。

 一言言わずには、いられない気持ちだったのだ!


「俺は、本心でリーゼ様の事を美少女と言っているんです!本当なんです!」


「奴隷が主人の断りなしに、発言するとは死にたいのですか?」


「ぐっ……!身体が重い……!?」


 ズシンと俺の身体に重しが乗ったような、謎の圧力が掛かる。

 俺はその力に抗うように、両手を地面に付いて……マリーさん……マリーを睨みつけた。

 俺の様子にマリーは少し表情を動かした、目を見開いただけだが。


「もちろん手加減をしていますが……マリーの魔法に抗うなんて、この奴隷は……”何者”なのでしょう?」


「ふふふ……私は”珍しい”商品と言いましたよ?ただ髪の色が黒いだけで、私は珍しいとは言いません」


 奴隷商人のお姉さんは、俺のこの状況を見て……心底楽しそうに笑っている。

 マリーさんはそんな奴隷商人のお姉さんを見て、不愉快そうに眉を寄せていた。


 ―――奴隷商人のお姉さん、笑ってないで俺を助けてくれよ!


 俺のSOSの想いが通じたのか、お姉さんは口を開いてこう言った。


「君はもう私の保護対象じゃない……だから、自分で何とかしたらどうだい?出来るだろ?」


「で、出来たら……くっ……苦労しないって!」


「いや、いや、そんな事はない。女性経験を調べたついでに、君の能力を調べたのだけど……とても愉快な能力を持っていて、あの時は年甲斐もなく喜びの声を上げてしまったよ。だから大丈夫だ、君にならこの不条理に対処出来る」


「俺の……能力?何だよそれは……?」


「ふふふ……もちろん教えたら面白くないので、教えないよ?」


「おま……ふざけん……なぁ!」


 奴隷商人のお姉さんは、口元に人差し指を持ってきて”ナイショ”のポーズをした。

 もちろん俺は、その行為に激怒する。

 数日世話になったけど、今奴隷商人のお姉さんに感じていた恩が吹っ飛んだ!

 そんな俺を見ていた奴隷商人のお姉さん、顔を別の方向に向けた。


「ところで……君のご主人は何も言わないけど、どうしたんだろうね?」


「!」


 確かに俺は、リーゼ様に今日から保護されたのだ……なので、俺のこの状態に何かアクションが無いのはおかしい……。

 俺は重たい身体を動かし、リーゼ様の方に顔を向けた。


「お前は……本当に本心で我に言ったのではないのか?お前の言葉を疑うようで悪いが……我は……我は、今まで”醜い”と言われ続けていたのだ。今日会ったばかりの男……それも奴隷の言葉を、我は信じられるほど……我はお前を知らない」


 リーゼ様は形の良い細い眉を八の字に変えて、とても苦しそうに俺を見つめている。

 そんなリーゼ様に俺は……しかたが無いと思った。


 ―――しかたが無いよな……今日出会ったばかりの男の言葉を、信じろなんて……なら、どうすれば良い俺?


 どうすれば良いと俺は自分に問いかけたが、もうすでに俺の頭には答えが出ていた。

 簡単な話だ。

 リーゼ様を俺が、美少女と呼べる事を証明すれば良いのだ!


 ―――その前に、これをどうにかしないといけないよな!


「あぁああああああああああ!俺はリーゼ様に、美少女と言った事を嘘じゃないと信じて貰いたいんだぁあああああ!」


「くっ……!ただの奴隷が、マリーの魔法に抗いますか……!少し痛めつけて、奴隷としての自覚を認識させるだけでしたが……このままでは、マリーも本気にならざる負えないです!」


 ―――さらに身体が重くなった……でも、耐えられないほどじゃない。まだ、俺は大丈夫。


 身体がもう駄目だと非鳴を上げ始めているが、俺の心はまだ大丈夫だとGOサインを出している。

 こんな事で俺の本心を、否定される訳にはいかない。

 そうだろ……俺?


「やっと君は、本気になりましたか……この程度の魔法なんて、君に取っては児戯にも等しいのだから。早く跳ね除けてしまいなさい。そして、ご主人に自分の言葉が、嘘じゃないと伝えてあげることだ」


 ―――奴隷商人のお姉さんが言った通り、俺にズシンと圧し掛かる力が時間経過と共に大した事が無いように思えてきたけど……何でだ?


「そ、そんな嘘です。マリーの魔法を……奴隷風情が跳ね除けるつもりです。そんな事はマリーには赦せないのですよ!」


「……っ!?その魔法は、止めるのだマリー!」


 今まで圧し掛かっていた力とは違う……とても、強大な圧力を俺の頭上に感じた。

 このままでは俺がどうにかなると、直感的に感じる。

 だが……どうにかなりそうと思えたが、そんなに不安にならなかった。


「ふふふ……君にその程度の魔法で対抗するなんて時間の”無駄”なのに、何時までやっているのかな?そろそろ私は商会に帰りたくなりましたので、君にさっさと決着をつけて欲しいのですが?」


 その割にはとても楽しそうに、俺達の様子を見ている奴隷商人のお姉さん。

 ……と言うか、俺の近くに居て平気なこの奴隷商人のお姉さんも普通じゃないよな?

 まあ、良いか……今はそれより目の前の事に集中するとしようか。


「俺は……何て言われようと、リーゼ様を……美少女と言いたいんだぁああああああああ!」


 途轍もない痛みが走る脚に力を入れて、俺は立ち上がろうとする。

 それに伴いバキン……バキン……と、近くで何かが割れた音がしたような気がした。

 いや、気のせいじゃない……確かに何かを俺が”割った”のだ!


「我の目の前で、マリーの魔法が消えていく……。今まで魔法に関しては、特別だったあのマリーが……」


「いやぁあああああ!マリーの魔法……マリーの”特別”を奪わないでぇえええええええええ!」


 今まで澄ました顔だったマリーは、初めて表情を苦悶に歪めていた。

 まるで子供が、大切にしていたおもちゃを奪われたような反応だ。

 俺はそんなマリーの様子を気にせずに、これで最後だと言わんばかりに全身に力を入れる!


「うぉおおおおおおおおお!」

「や、やめてえええええええええ!」


 マリーの非鳴と共にパリンと人一倍大きい音がすると……ふっと、俺に圧し掛かっていた力が消えた。

 どうやら俺は、マリーの魔法の力を打ち破ったみたい。

 だけど……その代償なのか、とても身体が熱い……。


「マリー……無茶しおって」


 リーゼ様の後方で、ドサリと音をたてて倒れるマリーが見えたが今は気にしない。

 俺はリーゼ様の元に向かうために、一歩脚を進める。

 リーゼ様はマリーの様子をチラチラと横目で見ているが、近づく俺の方が今は気になるらしい。


「はぁ……はぁ……リーゼ様、今から俺がリーゼ様の事を美少女だと言った証明をします」


「しょ、証明だと……?お前は、今から何をする気なのだ?」


「こうするのです!んむっ!」


「んんっ!?」


 今は奴隷だとかそんな事を気にしている場合じゃない。

 俺が今一番大切なのは、俺の気持ちを伝える事なのだ。

 だから……手っ取りばやく、俺の気持ちが分かってもらうためにリーゼ様を襲う事にした!

 夜の相手をする奴隷としてリーゼ様に貰われたのだ、今から俺の役割を実行しても構わないだろう?


「んぷっ……お、お前は我のこの唇に口付けをしても平気なのか……?」


「平気です。寧ろ美少女のリーゼ様にキス出来るなんて、ご褒美ですよ!それに俺のファーストキスが、リーゼ様で良かったと思っているほど!」


「お、お前の初めての相手が我……んぷっ……ちゅっ……んんっ……♡」


 リーゼ様が良い終わらない内に、俺は再度口付けをした……それも舌を入れてのディープキスだ。

 俺は女性とキスなんて初めてだ、だから今まで噂やゲームで得た知識をフル動員する。


「んちゅ……ちゅぷ……んんっ……お前は……ちゅっ……ほ、本当に初めてなのか……?」


 透き通るような白い肌なので、リーゼ様が頬を紅潮させればすぐに分かる。

 俺と口付けを続けるリーゼ様は、顔がとても赤くなっていて……額には薄っすらと汗を滲ませている。


「初めてですよ俺は、でも俺は知識だけはあるんです。だから俺は美少女のリーゼ様に、この知識を使って満足して貰いたいです!」


「お前のその知識がどこから来たのか我は、気になるが……今はお前とのこの行為に、浸っていたい……ちゅっ♡」


 リーゼ様も遠慮がちだが、俺の舌の動きに合わせるように絡めてくるようになった。

 ぢゅぷ、ぢゅぷと俺とリーゼ様のお互いの唾液塗れの舌が擦れあう。

 俺は知らなかった……こんなにも、舌が気持ち良いとは。


 トロンとした目で俺と見つめ合うリーゼ様は、俺の背に細い腕を回してくる。


☆ 担当編集者


 途中ですが、一旦顔を上げます。

 気になるのか、ソファに座りながらも私の顔を真剣な目でまだ見ていたサクヤ先生。


「……だいたいのお話は、読んでいて分かりました。それでこの物語の世界では、リーゼのような子は不細工な扱いをされているのですね?」


「うむ、そうなのだ。だが……異世界から来た主人公の男にとっては、リーゼは絶世の美少女。一目見て、リーゼを意識してしまうのだ。面白いであろう?」


 ……主人公から見たら、この物語の世界の不細工な女性は美少女、美女になるのですね。

 あまりみない発想で、サクヤ先生がもしマンガにしたら読者に受けるとは思うのですが……一つ問題があります。


「面白いのは間違いないのですが……サクヤ先生が書くには、問題がありすぎます」


「な、何故なのだ?我の何が問題なのか、言ってみるのだ……!」


 サクヤ先生は頬を膨らませて、信じてたのに裏切られたーみたいな顔してますが……。

 このお話をマンガにするには、今のサクヤ先生にはどうしても無理なのです。


「年齢です。これ……どう読んでも、成年誌ですよねサクヤ先生?まだ中学生のサクヤ先生が、世に出してはいけないお話ですよ」


「うぐぐ……我の期待の新作が、仮の身体の年齢ごときで潰えるのか……!?」


「サクヤ先生があと数年してから、この作品を世にだしましょうね?その時にまだこの作品を書く気があるのなら、担当編集者の私が相談にのりますよ」


 バンバンと床を手で叩く、私が担当するマンガ家。

 現実は無情である事を、理解したようだ。

 悔しすぎて、涙をぼろぼろ流しているサクヤ先生。


「うぐっ……書きたい……あの夜、我とレイヴンの体験を活かした物語なのに……!どうして、もっと早く我は生まれなかったのか……!も、もしや、これも結社の妨害なのか!?」


 この話がサクヤ先生の体験した事を、参考に書かれた?

 まさか……あのサクヤ先生に男の知り合いが居るとは、思えないのですが……?

 ちゅ、中学生のサクヤ先生に、男が居るとか信じられませんよ。

 きっと妄想を実体験と勘違いしたんでしょ……そうに、決まってます。


「サクヤ先生……妄想の男との体験を直ぐにマンガに出来ないくらいで、そんなに悔しがらなくても良いじゃないですか?」


「妄想じゃないもん!レイヴンはちゃんと居るもん!キスだってしたんだから……首元にだけど」


「あはは……もう、サクヤ先生は冗談は上手いんですから……私に彼氏いないのに、サクヤ先生に男が居るとか……笑えない冗談ですよ?」


 びりびりびりと何か私は、破っているような気がします。

 まあ、大した物では無いのでしょう。


「ああああ……!?我の新作が!何をするのだー!」


「新作?何の話ですか?今日は、原稿を頂いたので帰りますね。ではー」


 そういえば、私……仕事ばかりしてたから。

 有給を取るの忘れてました。

 会社に帰ったら、上司に有給を申請しようかな……あはは。

この話だけで、1万文字超えたみたい。

閑話なのにね。

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