16.どうやら、注目されているようだ。
16話です。前回に引き続き主人公は、街に居ます。
俺は身体を鍛えるために街中をランニングをしている最中に、マオさんと出会った。
「とりあえず歩こう?」
人通りのある道で、二人で立ち止まっていたら邪魔だろうし。
話をするなら歩いて話した方が、良いだろう。
それにやっぱり俺は男だからなのか、みんな注目しているので……この場にじっとしているのは、なんだか恥ずかしい。
「そうだね……行こう小守さん」
「!」
マオさんはそうする事が当たり前のように、自然な動作で俺の左手を優しく握った。
前方に顔を向けている毅然としたマオさんの顔は、少しばかり頬を紅潮させている。
色素の薄いマオさんの長い髪が、一歩進む度に左右に揺れていた。
「手を握っておけば、小守さんと逸れなくてすむから……もしかして、嫌だった?」
俺がマオさんに握られて、少し戸惑いを覚えていると……その事に気がついたマオさんは、少し恥ずかしそうにそう言った。
マオさんの手の平は、少ししっとりしているけど女の子らしく柔らかい。
俺は別に手を握られて嫌とかでは無く、突然の事で戸惑っただけなので大丈夫だと伝える。
「嫌じゃないよ」
「そう……良かった」
マオさんは俺の言葉を聞いて、胸の中央を左手で抑えて……ほっとしている様子だった。
俺もマオさんと手を握るのは、悪くないと思っている。
知らない仲じゃないし、なんだかマオさんとは親近感があるので手を握られても嫌じゃない。
チラっと、俺の横を同じ速度で歩くマオさんの顔を盗み見る。
マオさんは目が少しきつい印象を与える以外は、顔は整っているし……スタイルも悪くない。
最近では初対面の時より髪の艶が良くて、身嗜みもちゃんとして女の子らしくなっているので……会う度に綺麗になっているマオさんに、俺は少しドキドキしてしまう。
―――あの男の人、掲示板の目撃情報に乗っていた人じゃない?
―――あっ、本当だ!でも、隣に女の子が居るよ?
―――うーん、一人じゃないのか……どうする?
―――構わないよ、声を掛け……るのは止めとこうか。
―――ん?どうしたの?
―――……男の人の隣を、見てみ?
―――隣って、うわ!?なんか睨んでる!それに目が怖!
―――でしょ?今日はとりあえず姿を、拝めただけで良しとしとこうよ?
―――うん、今日は声を掛けるのは止めとこう……。
二人で歩いていると……少し年上のお姉さん達の集団と擦れ違った時に、話している声が聞こえた。
……もしかして、俺ってこの街で噂になっているのか?
俺はマオさんの方に顔を向けると、その事に気がついたマオさんが口を開いた。
「小守さんは、ネットの掲示板で街で見かけるって噂されてるよ」
「そ、そうなんだ」
「今日も小守さんは、街で目撃されて掲示板にその情報が書かれてた。今の人達は、その情報を元に小守さんを狙ってた人みたい。あたしが来なかったら、小守さんは今頃あの人達と一緒にどこかに連れていかれてたかも」
マオさんが手を握る力が、少し強くなった気がする。
俺はマオさんの言葉を聞いて、もう一度お姉さん達の集団を見るために背後をチラっと見た。
お姉さん達は肌の露出の多い服を着ている、特に胸の大きな人は胸の谷間が見える人までいたのだ。
「……っ!」
お姉さん達の一人で……艶のあるポニーテールに結った黒髪に色白で猫目のお姉さんが、俺が見ているのに気がついたのか……軽く俺に爪が長い左手を左右に振った。
―――えへへ♪
猫のように好奇心が強そうな瞳が、俺をじっと見つめている。
口に孤を描かせて、頬を上気させたその表情は……何故か妹の顔が、脳裏に浮かぶ。
俺を見つめるポニーテールのお姉さんの雰囲気が、猫科の猛獣を連想させた。
そのアンバーの瞳を見続けていると、吸い込まれそうな気がして……急いで目を逸らす。
お姉さんの一人に見ているのに気がつかれて驚いた俺は、急いで前を向いた……。
胸をどきどきさせていた俺の背後で、お姉さん達の声が聞こえた。
―――どうしたの、手を振って?
―――さっき擦れ違った例のあの男の人が、私の事を見てたの♪それも目があったんだよ?
―――気のせいじゃないの?
―――ううん、気のせいじゃないの!きっとあの男の人は、私の事が好きなんだよ♪
―――落ち着きなよ、ただ目が合ったからって相手が好きだと限らないでしょ!
―――えー、そんな事無いと思うなぁ。そうだ、連絡先聞かなきゃ!
―――いきなり連絡先聞くとか……って、待て待て行くな!みんな、止めるぞ!
―――は・な・し・て!この出会いは運命なんだから!
―――少年漫画の読み過ぎだって、こんど少女漫画貸すから今は落ち着きな。
背後でお姉さん達が、騒がしい事になっている……。
少し気になるけど、今振り向いたらもっと大変な事になるのが分かるので振り向けない。
まさか、目が合っただけでこんなに事になるとは……俺はアイドルか?
まあ……男の少ないこの世界では、俺は似たような存在かもしれない。
「小守さん……小守さん……」
俺が注意を背後に向けていたら、マオさんが俺の事を呼んでいた。
ジト目のマオさんは少し拗ねたような表情をしている……気がする。
うーん、未だにマオさんの表情が瞬時に理解出来ない。
「どうしたの?」
「もしかして小守さんは……あの人達のところに行きたいの?」
まるで行かないでと言うように、俺と繋いでいる手をぎゅっと強く握るマオさん。
気のせいかも知れないけど、俺とマオさんの距離が先ほどまでとは行かないけど……また、近くなっている。
俺を見つめるマオさんの、ぱち……ぱち……と瞬きをする間隔が早くなった気が……。
「いや、そんなことないけど?」
その言葉にマオさんは、ほっとしたように頬を緩めた。
それと伴い、近かったマオさんとの距離が離れる。
「そう、良かった。小守さんが、後ろの人達を気にしてたから……もしかしたら、あたしよりあの人達と一緒に居たいのかなって心配した」
「ごめん、俺を狙ってる人ってどんな人達か気になって」
今まで妹にさんざん外の女性は危険だと言われ続けていた俺は、実際に俺を襲いそうな人達を街中では見ていなかった。
だから俺を実際にこの目で、危険な女性はどんな人達なのか興味が出てしまい……今の俺を狙っていると言うお姉さん達の事が気になって、俺の背後を見てしまったのだ。
それで実際にお姉さん達を見た印象は、肌の露出の多い服を着ている人が多いけど……一部の人以外は、心に余裕のありそうな人達だった。
俺を狙うのは無理と分かった人達は、一部の人以外は既にこの後どこで遊ぶか話をしていた。
まあ、その一部の人に運悪く目が合って背後のお姉さん達が大変な事になっているのは申し訳ないと俺は思っている
「それで、気が済んだの小守さん?」
「うん、十分過ぎるくらい」
―――おーい!あんたら歩いてないで早く行ってくれ!こいつ、抑えるの大変なんだ!
―――いてっ!ちょっとあんたいい加減にしないと、怒るよ!
―――小守君って言うの?さっき私と目が合ったよね?私の事が好きなんだよね?連絡先交換しよ!
―――コイツ女子高で確か、運動部で何か賞取ってなかったっけ?
―――ああ……武道の何かをやっていたような。学校にトロフィー持ってきて、自慢してたね……。
背後のお姉さん達から、歩いてないで早く行って欲しいと言われた。
確かに背後から鬼気迫る何かを感じる……それも俺の妹が豹変した時のような迫力だ。
お姉さん達が言っているように、この場を早く離れた方が良いみたい。
「行こうマオさん」
「……うん」
俺はマオさんと繋いだ手を強く引いて、歩く速度を上げる。
マオさんは俺に強く手を引かれても、バランスを崩す様子も無く付いてくる。
そして俺とマオさんの背後でお姉さん達は、頑張って暴走した一人を取り押さえていてくれた。
―――あ、待ってよ小守君!み、みんな、私の邪魔をしないの!
―――邪魔するに決まってるでしょ!今のあんたが男に何するか分からないんだから、友達の私達が止めるに決まってるのよ。
―――高校で部活を引退してから、少年漫画ばかり読んでるから少しおかしくなってると思ってたけど。ここまでとは……私達がちゃんと見てやれば良かったね。
―――小守君が行っちゃう!こーもーりーくーん!絶対に見つけて、会いに行くから待っててね?
お姉さん達の声を背に受けて、背筋にぞくぞくと悪寒を感じながらも俺とマオさんはその場を後にした。
話もまだ序盤なので、わりとお話の展開はゆっくりだと思います。