9.どうやら夜中に誰か来たみたいだ?下
9話下です。10話は明日か明後日になるかも。
中二病の子がメインの話の後半です。
赤い隻眼が怪しく輝き、女の子は俺に一歩一歩近づいてくる。
俺よりも歳が下の筈の女の子の表情は、大人のように艶やかでとても中学生とは俺には思えなかった……。
「心配するな痛くはしない……我とお主は伴侶なのだぞ?直ぐに済むから、じっとしていろ……はぁはぁ」
「くっ……」
俺は女の子が出す空気に呑まれて、そのまま身を任せてしまいそうに。
そして銀髪の女の子は、白魚のような手で俺の衣服に手を掛ける……が。
その手は止まった。
銀髪の女の子は、先ほどまでの人を誘惑するような表情では無く……目付きが鋭くなり、この部屋のドアを忌々しく見つめる。
「なんだこの禍々しい気を放つ輩は……?とても人間とは思えんぞ、まさかこの世に我とレイヴン以外に魔を操る者がいると言うのか!?」
「?」
俺はホッして良いのか……残念な気持ちになってるのか分からないまま。
銀髪の女の子が見ている方を、同じく見て見る。
確かに……何か分からないが、あのドアの先にゾッとするような何かが居そうな感じがする。
俺は霊感ない筈だけど、もしかして目覚めたのか?
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ……!
「!」
「来るぞレイヴン!気をしっかり持ち、我を信じろ!我が記憶の無いお主を守ってやる、心配するな」
俺に安心するようにと言う銀髪の女の子は、左手で右腕に巻かれた包帯を掴んだ。
この先のドアの外に猛烈な勢いで、ドアノブを回してこの部屋に入ろうとするナニかが近くに来ている……。
銀髪の女の子の事を、中二病なんて馬鹿にしてたが……こんな事態になって、俺は銀髪の女の子に申し訳ないと思うようになった。
俺を守るように一歩先に出ている銀髪の女の子の小さな背を見て、そう思わずに入られなかった。
ガン……ガン……ガン……ガン!とドアが強く叩かれているのが分かる。
「ククク……この世界で我の右腕にかつて封印した、魔の力を解放する時が来るとはなんと人生は面白い。そう思わないか、レイヴン?」
口元をニヤリとさせて銀髪の女の子は、俺にそう言った。
人生何があるか分からないのは、俺には分かるよ?
だって世界を移動してしまった経験あるし……。
だけど、唐突のファンタジー要素は予想外かな……。
そんな事を思っていると、叩かれているドアの外から聞いた事のある声が聞こえてきた。
それも、ヤバイ感じの声でだ……。
「兄さん、開けてください……私にも良く分からないのですが……兄さんの部屋に行かないと後悔する気がするので、ここを開けて貰えませんか兄さん?何も無いなら、開けていただけますよね……兄さん?」
さっきからドアノブを回したり、ドアを叩いていた主は妹だった……。
「どうしたレイ……んんっ!?」
「静かにして……!」
ただ今を持って危険物に俺が指定した、銀髪の女の子の小さな口を手で塞ぐ。
女の子は、俺の唐突の行動に顔を赤くして驚いている。
俺がやってる事が、誘拐犯のソレと同じな気がするが……そんな事を気にして入る余裕は無い!
今ココに銀髪の女の子が居る事が、妹にバレたらヤバイのだから。
「ああ……今、開けるから静かにしてくれ」
「はい、待ちます。でも……早くしてくださいね?」
「わ、分かった」
時間に猶予は無い……この子を隠す場所は無いか……!?
上手い例えが見つからないが、親にこっそりと動物を外で拾ってきてしまった子供の気持ちと言えば分かるかな?
そうだ……俺は布団の中に銀髪の女の子を押し込む。
女の子の身体が外にはみ出さないように注意しながら。
「れ、レイヴンよ……あまりお尻を押すで無い……!その……変な気分になって……むぐぐ」
なんか女の子が言っていたが、聞いてる余裕は無い。
とにかく急がないと、俺の妹が何時ドアを蹴破るか分からないからだ。
よし、布団の中に押し込んだ。
女の子の身体が小さいのも助かった……。
後は電気を消してっと。
「いま、ドア開けるから」
「はい、お願いします兄さん……」
ドアが開く……俺は急いで布団に入る。
「ごめんなさい兄さん……私が起してしまいましたか?」
俺が布団に入っている様子を見て、妹は申し分けなさそうに言った。
妹は相変わらず俺のパジャマの上着を、パジャマの変わりにしているみたいだ。
「直ぐに済むので、少し兄さんの部屋を見て宜しいでしょうか?兄さんが眠いのは承知なのですが、私も何でこんな事をしているのか分からないのですが……どうしても兄さんの部屋を見ておきたいのです」
「俺は眠いから電気は消したままで勘弁してくれ……。それで不満が無いなら、部屋を見ても良いけど?」
「はい、兄さんありがとうございます」
妹が俺の部屋の中を歩く……。
その妹の瞳は何かを探すようにグルングルンと動く。
「匂う……匂います兄さん。この部屋に女が居ました……それも発情した状態の……小学生?いや、中学生くらいの女が……今はどこに行ったか知りませんか兄さん?」
妹は笑顔で俺にそう聞いた。
うん、知ってる。
その女の子なら俺の隣で、鼻息荒くして俺の匂いを嗅いでいるよ……。
「し、知らないな……俺はずっとこの部屋に居たけど、誰もこなかったよ?その……中学生の匂い?気のせいじゃないかな……きっとそうだよ。それに誰かここに来たなら、玄関からこの部屋を通るまでに階段を登ってくる筈だよ?今まで気がつかなかったのか?」
ふぅ……今まで、これほど長く喋っただろうか……嫌ない筈だ。
それにしてもなんか布団中に隠れてる女の子が、俺の腹を触ってくるんだけど……。
「確かに兄さんの部屋までには私の部屋を通る必要もありますし……誰か来たなら、私が気がつく筈ですよね……。どうしてしまったのでしょうか私は……それにこの匂いも思い込みだったりしたら」
少し冷静になった妹が、俺に申し訳なさそうな顔をしている。
「俺の事が心配だったんだろ?恐ろしい女に襲われないか?」
「そ、そうです!私は兄さんが襲われないか心配で……」
「で、どうだ?誰も居なかっただろ?俺を襲う女なんて」
「そ、そうですね……でも」
「何か問題が?」
妹はまだ未練があるみたいで、必死な様子で部屋をまだ見ている。
だけどもう行ってくれないと、隣で俺の身体を触っている女の子がヤバイ……。
さっきは頼もしいと思っていた銀髪の女の子は、今は俺の身体を遠慮無く触る変態になっていた……。
銀髪美少女は、ハイテンションな感じになって息が荒く……とても顔はお見せ出来ない状態になっている。
中学生か……異性の身体に興味がある時期だし、そりゃ触るか……。
「も、問題ない……です。それでは兄さん……お騒がせしました。おやすみなさい兄さん」
「おやすみ」
バタンとドアが閉まる音がこの部屋に響いた。
俺は出て行った事を確認すると、布団の中で顔を真っ赤にしている銀髪の女の子を引っ張りだそうとするが……。
「我は今日はココで寝るのだ!レイヴンと一緒に寝るまで帰らないと思え!」
俺のパジャマをしっかりと掴んだ銀髪の女の子は、俺にそう言った。
一緒に寝るまで帰らないね……なら!
「れ、レイヴン……!我を簀巻きにするとは、正気か!?」
「静かにしないと、妹が起きるので勘弁してください」
「うむむ、あの者は怖いからしょうがない……」
俺は女の子を布団で簀巻きにして、朝まで寝てもらう事にした。
簀巻きにされた本人は、何故か嬉しそうに匂いを吸っていたが気にしない事にする……。
「レイヴンに包まれているようで……我は嬉しいぞ!すぅはぁ……」
とりあえず銀髪の女の子には、朝陽が出たら帰ってもらう事にしよう。
中二病の子は、朝起されて家に帰されました。