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まよなかのカレーライス

初めて短編を書いてみた。読者よ、こんなつまらない書き物でも見てくれるとは、かたじけない。

 その日ぼくは、おかあさんといもうとと一緒にお休みなさいをして寝た後に再度、おとうさんに起こされた。


「せがれよ…死んでしまうとはなさけない」

「…おとうさん、なんか用? いまは『泣く子も黙る』丑三つ時だよ」

「…せがれよ、それを言うなら『草木も眠る』丑三つ時だ。寝惚けたことを申すな」

 誰のせい?とぼくは心の中で思ったけど言わなかった。それよりもおとうさんのお話を早く切り上げて、お布団に潜って夢の中に帰りたかった。

「で、なんか用? 何もないならお休み」

「まあ、待つのだ。せがれよ、親の話を聞かないとは堪え性がない」

「だって眠い」

「疲れてるのはおとうさんも一緒だ」

「じゃあ寝よう」


 ぼくはもういい加減に寝たかったけど、お父さんはたとえそうであっても自分は今寝るわけにはいかないのだと言って聞かない。今、ここで諦めてしまっては、後になって、否、生涯に渡り、そのことを悔むだろうて、真剣な顔して言うものだから、ぼくも気になった。だから、おとうさんの話を聞いてみることにした。


「おとうさんは、結局どうしたいの?」

「せがれよ、昔から親の話を聞く良い子だから世話がかからない」

「ぼくは今、おとうさんのお世話してる気分だよ。で?」

「せがれよ。いま、おとうさんは」

 そこでおとうさんはぼくの目を真っ直ぐに見つめてきた。ぼくは、間違ったことをして見つかった時みたいにドキリとした。おとうさんはぼくの目をじっと見つめた後、こう言った。


「カレーを所望しておる」

「知らないよ」


 カレーならおかあさんに頼めばいいじゃん。ぼくがそう言って布団に戻ろうとすると、おとうさんは寝ているおかあさんの寝顔を見つめて何とも言えない顔した。


「せがれよ、おとうさんの好みの女性のタイプ、知りたくないとは言わせない」

「『強制』なんだね」

「このおとうさんがな、どんな女性を好むのかと言うとだな」

 正直に言うと、ぼくにとって、おとうさんの好みのタイプなんてどうでもよかった。

 そんなぼくにお構いなしに、おとうさんは鼻息を荒くして語りあげた。


「このおとうさんは『寝ている女性』を好む。」

「それってタイプて言うの?」

「寝ている女性が好きだああ! 愛してるぞ、ゆりこお!」

 あんまり大きな声だとみんな起きてきちゃうよ。ぼくがそう言って、おとうさんは落ち着きを取り戻した。

「見苦しいところを見せた。せがれよ、我が子に注意を受ける父親とはなさけない」

「しっかりしてよ」

「そうだ、このおとうさんはこれからカレーを食べなければいけないのだ。引き受けてくれるな?」

「それも強制なんだね」


 こうして、おとうさんとぼくは、草木も、おかあさんも、ぼくの弱みには鋭い勘がはたらくいもうとも眠る丑三つ時に、よくわかんないけどカレーライスを作り始めた。


 炊飯器を開けると、ごはんが残ってた。


「せがれよ、潤沢にご飯があるとは。ゆりこに足を向けては眠れない」


 おかあさんに隠れてコソコソしといて何言ってるの、この人。

 ぼくの視線に気がついた様子もなく、おとうさんは、おかあさんがするようにお湯を沸かして包丁と俎板を洗って、野菜を取り出すと切り始めた。それを炒めて、鍋に入れて煮込み始めると、急にぼくの方を向いて言った。

「せがれよ、ここまで親に付き合ってくれるとは済まない」

「もうなんでもいいや」

「せがれよ、何をしている。急に冷蔵庫を漁り出すとは落ち着きがない」

「カレーだけじゃ喉乾くでしょ。ぼくは牛乳にする」

「おお、せがれよ。お父さんにも気を利かせてくれると申し分ない」

「はい、麦茶」


 ぼくは、はじめは眠かったけど、おとうさんの野望に付き合ううちに、真夜中のカレーライスの魔法にかかったみたいだ。なんだか、だんだんと目が冴えてきた。

 しばらくして、おとうさんは鍋にルーを割り入れて溶かしながら言った。


「せがれよ、おまえにこの真夜中のカレーの半分をやろう」

「わーい」


 ぼくはカレーが大好きだ。流しの白い照明だけがついた薄暗いリビングで、おとうさんと二人だけで用意したカレーライスは、おかあさんにも、いもうとにも秘密にするという命知らずなマネだと思うし、真夜中に食べることも体に良くない気がする。


 それでもカレーライスは美味しい。



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― 新着の感想 ―
[良い点] なにこのお父さん、楽しそう。 [気になる点] 夜に読んでいたので、無性にカレーが食べたくなりました。 [一言] おとうさんとぼくとのごっこ遊びだったとか?
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