第9話
大和は、エレナのいる世界に移動する時のみたいにはならなかった。微笑みながらその空間を進んでいく。力んだのか、握っていたエレナの手を強く握ってしまう。
「痛いぞ、ヤマト」と少し怒った顔をして大和を見る。
「ご、ごめん!エレナ…」とヤマトは言う。
「別にいいが…やる気はあるみたいだな、ヤマト。まだリラックスしてればいいよ。」先ほどの怒った顔ではなく、少し微笑んだ顔になっているエレナ。
大和はその顔を見て、また前を見る。遠くに、小さな白いものが見える。そこが大和の暮らしている世界の入り口だった。そこに近づくにつれ大和は緊張してしまう。
「そろそろ着くぞ、準備しろ」とエレナが一言いう。大和はそれを聞き深呼吸を1回する。そして睨みつけるように白いものを見る。
2人の目の前が真っ白になり大和は一瞬だけ、目をつむる。
ゆっくりとまぶたを開けるとそこには大和の暮らしている町の街並みが広がっている。どうやら地元にある山頂に出たらしい。大和自身、この景色を見るのは本当に久しぶりだった。
「久しぶり…だな…」と大和は街並みを見ている。
まだ魔王たちは来ていないようで街はまだ、平和のそのものだった。
「まだ来てないみたいだな…よかった」
「確かに…いつくらいに来るのかな…」
「そうだな…まぁ情報によれば今日か明日のどっちかだ…」
「今日だったら困るな…」
2人はそんな会話を交わしている。次第に空色はオレンジ色に変化していく。夕方だ。
「明日来ると…信じよう。今日は家に帰って体を休ませよう。」と大和はエレナに言う。エレナもそれに賛成してくれた。向かうのは、大和の家だ。
「歩いていくか?飛んでいったほうが近いと思う」とエレナは地面を蹴ると、エレナの体が浮いた。空を飛べるのはエレナの冗談だと大和は思っていたが冗談ではなかった。
「私と同じようにやれば、ヤマトも飛べるはずだ。簡単なことだろう?」とエレナは大和の前へと来る。大和も言われた通り、両足で地面を蹴る。
「うわっ!えっ…ん?浮いてる…?」
地面を蹴ると、大和の体は本当に空を飛んでいる。最初はバランスを取りづらかったがそれも次第に慣れた。
「じ、じゃー行こっか、俺の家に」とエレナに言い、先導するためにエレナより先に空を飛んでいく。
街中を2人は飛んでいく。人の上を飛んでいきその光景を見てその人たちは驚いている。当たり前だ、機械も何もつけずに空を飛んでいるのだから。
大和の家が見えてきた。家の前にある道路に2人は降りる。そして2人は大和の家へと入っていく。
部屋へと案内し、エレナは椅子へと座る。
「ヤマト…お腹すいた」と真剣な顔をしてそう言う。なんだろう、不思議な感じ、と大和は思った。
「わかったよ、適当に作ってくるよ。少し待ってて」と大和は装備を外し、部屋のドアを開け階段を下っていく。
台所へ着くと、まず冷蔵庫の中を確認した。軽い食事は作れそうな食材はあった。
「うーん…何作ろう…炒飯でいいか。簡単だし」と冷蔵庫から、炒飯に使えそうな食材を取り出し、台所にあるまな板の上に乗せる。
「あ…ご飯…」
肝心なものを忘れていた。白飯を炊いていなかったのだ。今から炊くと時間がかかってしまう、そう思った大和は台所周辺を探した。その時、ある物を見つけた。
「よかったー…スズキのご飯、常備しててよかった…」それを2、3個持ち電子レンジの中へと入れ、温める。その間に材料を切り、卵を割りお椀へ出すと菜箸でかき混ぜる。フライパンをコンロの上に置き火をつけ、しばらくしてフライパンに油を少しだけ注ぎ、その油を伸ばしていく。
ご飯の温めが終わり電子レンジから取り出す。お椀に持ち替え溶き卵をフライパンへ流し込む。そして菜箸で広げていく。
ご飯を入れ、食材と炒飯の元をフライパンへと入れる。混ぜ、塩胡椒を入れまた混ぜる。しばらくしてからいい匂いが広がってくる。
大和は、新しいお椀を取り出しエレナの分はちょっとおしゃれに盛り付けてみた。
おぼんに飲み物と炒飯、スプーンを置き部屋へと行く。階段を上り頑張って部屋のドアを開け中へと入る。
エレナが「何か」を見ている。
「なに…見てんの?」とエレナに聞く。
「ヤマトって…大きいほうが好きなんだな」エレナはそう言う。エレナはベットの下に隠していた大人向けDVDのパッケージをまじまじと見ている。
「エレナ!それ見ちゃダメだって!」とDVDを取り上げる。
「その女…《自主規制》してるし…やはりヤマトはそういう年頃なのか…?」とエレナが疑問を持っているような顔をしている。
「そうだよ、そういう年頃なんだよ。女の人の《自主規制》を見たくなっちゃうんだよ」
「気持ち悪い」とエレナがど直球で、そう言ってくる。
「そんな事いいからご飯!作ってきたよ。お口に合わなかったらごめんね。」と先に大和は炒飯を口に運んだ。エレナはゆっくり、ゆっくりと口に運ぶ。食べた瞬間、エレナの顔が笑顔になる。その手は止まらなかった。
「そんな美味しい?」
「うん…」とエレナは食べる事をやめない。
一足先に食べ終わった大和はベットへ飛び込んだ。しかし、だんだんと眠くなる。
そして、大和は眠りに入ってしまった、