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目が合う

よく行く場所なんです

《どこで待ち合わせする?》


私は友達にラインを送る。


日にちだけ決めた遊ぶ約束。


詳しい事は当日決める。


昔馴染みの彼女とは、そういった行き当たりばったりの行動ができる仲だ。


《夏物見たい!原宿にしよう!竹下口ってわかるよね?》


あんまり原宿は詳しくないが、さすがに竹下通りくらいはわかる。


東京で職について五年もすれば、山手線の有名な駅なら大体降りてる。


まだどこにあるか分からない所もあるけれど。

築地と銀座があんなに近いとか思わなかった。


《わかった!池袋から向かうね!》


《りょ!あたし丸ノ内で新宿経由!》


ちょうど乗っている黄色い電車が池袋に着いた。


スマホケースに入れてあるICカードの残高は充分だ。


降りたホームから、山手線線や他のJRのホームも見えた。凄い人だかりだ。


今は土曜の昼下がり。ピークはとっくに過ぎているとはいえ、田舎者の私から見たらそれでも多いと思える。


改札を一度通り、地下街へ降りる。

もう一度改札を通って、看板を見る。

普段は池袋まで来ないし、未だに山手線のホームの階段が分からない。


ようやく見つけた新宿・渋谷方面のホーム階段を上がる。


上がってすぐの車両はあまり好きではない。

駆け込み乗車をする人がたまにぶつかってくるからだ。

そういう人に限って二、三人のテンションの高い人達だったりする。


階段の後ろをぐるっと回り、あまり人の集まっていないホームドアを探す。


ホームの中程に、誰も待機していない場所を見つけた。


もう少しで電車が到着する。別に座れなくても問題はないけど、できるだけ空いてる車両に乗りたかった。


天井の電光掲示版を見上げ、時刻を確認した。


なんとなく、本当に意味はなかったのだけれど、向かいのホームに視線を投げた。

































大きな顔があった。


それはとても大きい。私が横に並んで三人分ほどだろうか。


ホームの下で、横になっていた。


声が出なかった。視線も動かせなかった。


なぜなら、その大きな顔と目が合っていたから。


その目は敵意を隠さず、私をずっと睨んでいた。


この視線を外した瞬間、襲いかかってくる気がした。


女性の顔をしている。髪の毛は見当たらない。


あるはずの身体は見つからない。


ブツブツと唇を動かし、まるで呪文でも唱えているかのようだ。


ホームの上で、子供が走っている。


大きな顔の片目だけが、子供の足音に反応し、そちらを向いた。


息を飲んだ。声を出さねばと思った。


だけど、もう片方の目に封じられている。


私が口を開いた直後、その視線には殺意が篭ったのだ。


冷や汗が止まらない。


意味が分からない。


『彼女』はいったいなんなんだろうか。


なんであんな所に入っているのだろうか。


何が目的なのだろうか。


答えなんて出るわけがない。そしてその疑問を問えるわけもない。


視界の端に、スーツの男性が現れた。


助かったと思った。


しかし彼は、スマホに夢中で『彼女』に気づかない。


やがて、ホームに電車の到着を知らせるアナウンスが流れた。





































それと同時に『彼女』が叫んだ。


いや、声は出ていない。


表情だけが、彼女が叫んでいる事を表していた。


発狂、その言葉に相応しい鬼気迫る顔だった。


それでも目線を私から離してくれない。


片方の目は、ぐるぐると回っていた。


もう片方の目は私に固定している。


歯の奥がカチカチと震えている。


逃げ出したかった。


待望の電車がホームに入ってきた。


『彼女』と私の間に電車が通り、ようやく私は首を動かせた。


ホームドアが開き、私は乗り込む。


開いたドアの付近に立ち、決して奥に近づかないようにした。


そして見ないようにした。


発車の音楽がなり、空気音とともにホームドアから閉まる。次いで電車の中のドアが閉まった。


私は全身の力を抜き、閉じたドアに額を預けた。































『彼女』と目が合った。


そのまま電車が動き、『彼女』の顔がスライドしていく。


カバンからスマホを取り出し、私は友達にラインを送る。


《ごめん。今日泊めて》


終わり

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