~40才も過ぎたら30代の両親も小学生も子供みたいなもんよ~
死ぬ時ってなに考えるんだろ?
常々、40で病に倒れて入退院繰り返して、何時も考えてた。
もしもがあれば次は美人に生まれかわりたいなぁとか、五体満足健康であればいっかとか、あれもしたいこれもしたいとか色んな願いを思ったり、力無くなる身体を怒ったり不安になったりって繰り返しの思考の中、私はいつも根底に思ってた。
私が死ぬ時は何を思う…?
ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…
不規則で弱々しい電子音とすすり泣き 「あけみちゃん…!」「駄目だ!あけみ!目開けろ…!」「あけちゃん!あけちゃん!いやぁぁぁ…」
かすれる視界、泣く両親と兄姉、甥姪…長いような短いような人生だったけど、やりたい事は全部やった。結婚だけはダメだったけどさ…でも愛する家族や沢山の友人が居て、やりがいある仕事もやって…私、幸せだった。本当に幸せだった。
泣く親しい愛しい人達…ゴメンね。何も返せなかった。最後は迷惑ばかりかけて…もっと…優しくしとけば良かった。自分優先だったけど、もっと両親に美味しい物奢ったり、兄さん姉さんに買って貰うんじゃなくてプレゼントしたり、甥姪に遊んだりしてあげれば良かった。…いつか出来るって思って全然油断したよ…こんなに早く逝くなんてさ…。
遠のく意識、視界、幸せだった事実に残る反省と後悔…そして私は山下暁美40才は確かに死んだのだった。
はず?
「伊集院雪華さん?目をさましましたか??」
目を開けたら、そこは確かに病院だった。でも、今までいたICUじゃない。そして白衣の天使様のナースさんが言う名前も私の名前じゃない。
「…はっ?」
びっくりして出した声にびっくりした。もう声も最後には出せなかったのに…。
「大丈夫ですか?伊集院さん?交通事故で頭を打たれてます。目眩や痛みはありますか?」
見慣れたナースさんじゃないナースさんが心配そうにこちらに優しく尋ねる。
ってか伊集院じゃないし…。
起き上がろうとしたら後頭部がズキッと痛んだ。
「痛っ…」
思わず頭に手をやって…更に驚いた。
私、動ける?もう動く力もないのに身体はすぐ動けますとばかりに頭は痛いが力強い。
「えっ…?」
私は手を見た。…小さい。姪位の小学生の手だ。
「はっ?」
身体を見るとドレスに近い愛らしいワンピースに小さな足が見える。
「ぇえ?」
混乱する私にナースさんが「どうしました?」と心配してくれている。
私は一言しか言えなかった。
「私は誰?」
記憶喪失者かっと脳内に思わずつっこんだ。
両親と言う人達、複数の医者に囲まれ、私は哀れな小鹿な感じで尋問…いやいや質問されている。
私は伊集院雪華、10才小学生4年生らしい。
んで、学校の帰りに交通事故で頭を打って意識消失していたらしい。
両親は知らない人達と言いたいんだが…なんか…ん~何か見た事有るんだよね?伊集院雪華ってーのも何か見た気する…はっきり伊集院雪華じゃないとは言えるけど、知っているこのモヤモヤ。
あ~…何だっけ…ここまで出てるんだけど…。もうさぁ30過ぎてから記憶力ってヤバかったんだよね~。何度同じ話を繰り返して友人につっこまれ、同じ物を買ったか…まぁウッカリ性格もあるけどさ。
曖昧な態度が中途半端な記憶喪失的扱いになった様で、私は1日検査入院して、明日自宅に戻る事になった。
自宅…山下家じゃないんだよね…?
私、生まれ変わっちゃった?寝たら夢オチ?
色んな考えをクルクル巡り、死の恐怖さえ有りつつも、目が覚めたら…私はやっぱり伊集院雪華だった。
やっぱり生まれ変わっちゃった?
でも中途半端だなぁ…赤ちゃんからとかじゃないんだ。
とめどなく考えていると両親に連れられ帰る車…ハイヤー…自宅…豪邸。
もしかしたら、私…お嬢様?
ってかこの屋敷も見た気が…あっ…執事・メイド…あれ?この人達も…??
伊集院雪華の記憶?いやいやいや…違う…これは私の漫画に出てきた話によく似た…確か主人公が「Tokimekiシンデレラ」の望月美奈子の家じゃなかったっけ?
「美奈子ちゃんは?」
私は思わずつぶやくと両親や執事・メイドさん達はギョッとした。
「あの子は小屋よ!あの子がどうしたの!?」
お母さんがヒステリック気味に声を荒げ、お父さんがビクッと顔を青ざめさせる。
……あぁ…そうだ…そうだ!
伊集院雪華のお父さんの浮気相手との子供が美奈子ちゃん。確か美奈子ちゃんが小学2年生の時に、シングルマザーで美奈子ちゃんを育ててたお母さんが亡くなって、伊集院家に引き取られたんだよ!そこに居たのが2才年上の異母姉が伊集院雪華じゃん!
そうだ!伊集院雪華って、あのいぢわるな子の名前じゃん!!…って私じゃぁーん…!!!! ……冷静になろう。
あの漫画ドキプリは完結している。
入院中読んだ沢山の漫画の中でそこそこ面白いから多少覚えているが…確か伊集院雪華って有り得ない位に主人公の美奈子ちゃん虐めるんだよね~…。
家では下女扱い。紅茶は床や美奈子ちゃんにぶちまけては「汚らわしい片付けなさい」が毎度のパターン台詞。学校では取り巻き使っては美奈子ちゃんの物を捨てたり、壊したりして母親に謝られせて美奈子ちゃんに「お金恵んで下さい」って強要するの。んで毎回「やっぱり浮気するような子は意地汚いわぁ」と吐き捨てるんだよね…もうドン引きレベル。
美奈子ちゃんが健気で頑張るから余計に醜悪で…また嫉妬も母似でヒステリックレベル。美奈子ちゃんが成績良いと通知表とか切り刻み、テスト前にワザと冬場は家に入れず風邪引かせたり、ヒステリックになると「貴女が居るから私の家は壊れたのよ!貴女なんて死になさい!死んでお詫びしなさい!」と喚き続けるシーンが盛り沢山。
少女漫画だったけど、40近い私は深いなぁと思った。私の趣味は2チャンネルの家庭版見るのが好きだったんだけどさ…雪華の家庭環境って歪むのは当たり前なんだよね。
浮気する父、ヒステリックな母、両親は仕事持ちで冷えた家庭。また始末が悪いのが父の浮気解るまで多少は両親での交流はあったんだけど、美奈子ちゃん引き取られてからは全く無くなって、父親は初めて真剣に愛した女性の子と美奈子ちゃん寄りなんだよね。
父親も伊集院家の会社の社員だったのを商才見込まれて伊集院家の娘である母親の婿養子で結婚してさ~色々思う事はあるだろうけど、誰が悪いってこの父親が私は地味に嫌いだった。
そもそも愛がない結婚だったって美奈子ちゃんに語る時もさ婿養子だって断れば良かったし、浮気する位なら離婚すれば良かったんだし、そもそも雪華を作って愛ないとか…愛ないならセックスすんなつーの。時たま美奈子ちゃんの味方するけど、家で虐められてる美奈子ちゃんほぼ放置だしさ…最後に雪華の母親が病気で倒れて、伊集院家の実権握って、美奈子ちゃんの味方に完全になって雪華も伊集院家から追い出すんだけど…雪華も実の娘だろ!と思わずつっこんだわ。
だからといって、雪華もダメなんだけどね。
結局、彼女は逆恨みして両親じゃなく異母妹に当たって、最後は鏡のように自分に返っていった。 父も母も色んな意味で無くし、取り巻きも酷い虐めに耐えかね裏切ったり、去っていく。また恋した人からも雪華じゃなく、美奈子ちゃんを選ばれ毛嫌いされる。家から追い出され、雪華は最後に更に逆恨みして美奈子ちゃんを刺そうとして警察に捕まえられ、気が狂い精神病院行きの結末…。
いやいやいや…他人ながら哀れだけど…自分の未来だと思うとゾッとするわ!!
鏡に映った雪華っちはさ、漫画の時も思ったけど綺麗な子なんだよね。
漫画は綺麗だから余計醜悪に見えたけど、私はそんな未来まっぴら御免!
そう、今度こそ…私は結婚したいし!死ぬ時、家族をもっと大切にしておけば良かったって後悔したくない!
多少人生経験積んだまだまだ若造な40才なれど…ここに居る父親も母親も美奈子ちゃんもみーんな私よりは若造だし、何とかしてみましょうかね。
…幸せにならない未来なんて私には有り得ない! さて、どうしようと考えて私は美奈子ちゃんに会うことにした。
確か美奈子ちゃんは小学生2年生でお母さん亡くして伊集院家に来て、2つ上の雪華に会うわけだから…雪華が小4なら、最近の話じゃん?まだ、関係悪化じゃないはず?…来て早々にいぢめてないよね…雪華さん?
内心冷や冷やしながら仕事で居なくなった両親を見送り、雪華の母親曰わく「小屋」に行ってみた。
まあ「小屋」って言っても充分庶民的な平屋な家で別に変に安普請でもないんだよね。ここらが金持ちとの意識の差なのかな?
私が美奈子ちゃんの家のチャイムを鳴らすと、割と直ぐに玄関は開いた。
「あっ…」
私を見て青ざめる美奈子ちゃん……やっちまったか、やっちまってたか雪華さん?仕事早いな…。
だが日は浅い筈!
「ごめんなさい。」
私は深々と頭を下げた。私のせいじゃないけど、私が雪華さんなら今までの悪行は私が清算しなければいけない。
悪い事には誠実な謝罪だ。
「えっ…せ、雪華様…?」
おいおい、来て早々にあの「汚らわしいから私を姉と呼ばないで下さる?私達は他人です。貴女は使用人よ!私の事は雪華様と呼びなさい!」ってシーンやってのかよ…!小4雪華ちゃんどんだけよ…!
「違うの!ごめんなさい!私…本当は貴女と仲良くなりたいの!ごめんなさい!私の話、聞いてもらえないかしら?」
慌てて、小さな彼女の手を取ると美奈子ちゃんは少し身体をビクッと振るわせたけれど、ジッと私を見つめ「はい…」と私を家に案内してくれた。
よし…第一段階は突破だ!
チラリと見る小2の美奈子ちゃん…激カワ…!……絶対に私は憧れの可愛い妹を手に入れて、親友のような仲良し姉妹になってみせる…!!