4 シンデレラの中世脱出! 異世界転移のテンションは低め
■前回までのあらすじ
下級貴族の次男坊シンのもとに、魔女を名乗るかわいいナルが現れ言った。
「あなたはとっても惨めなので〜、女の子にモテモテになる魅了チートを授けに来ちゃいました〜」
シンは言った。
「魅了チートより力をくれ!」
必要なのはまず力! ハーレムはその結果としてついてくるんだ! 力をくれ! 俺はナル嬢に筋道を説いた。
曰く、いざという時に護ることができないのでは、ハーレムのご婦人にとっても不幸であること。
労なくして得たハーレムよりも、自分の功績で築きあげたハーレムの方が、俄然拡げたいとも守りたいとも思うこと。
世の中には公正というモノが大事なのであって、色々すっ飛ばしてハーレムというのは、俺がハーレムに相応しい男だとの確信が持てず、空しいと感じかねないこと。
「はあ〜……。お城で貴婦人達といちゃいちゃこいつめ〜はお嫌ですかね〜? 諦め切れません〜。
真にご自分が求めることを深く見つめ直してはいかがでしょう〜? どうせモテたいだけのくせに〜」
どうせモテたいだけ、だと? なかなか哲学的な事を問いかけられてしまったかもしれない。確かに多くの騎士物語では騎士は美しい王女を得る。深淵に踏み込んでいけば、そうした答えになるのだろうか。再考すべきなのか?
ナル嬢はくにゅっと魅惑的な太ももを折り曲げて、円やかな臀部を踵の上におろした。つま先立ちで顎を手のひらで支え、悩ましげに眉根を寄せて俺を見つめている。
いや、まずはっきりさせるべき事がある。考えるのはこれを聞いてからだ。俺はナル嬢に答えを求めた。
「求めることは今言ったとおりだ。できるか出来ないのかをまず教えてくれないか」
「そりゃあまあ、出来ますけど〜。まだるっこし過ぎてテンション下がります〜」
うっ、婦人にはやっぱり分からない感じなんだろうか。だが最重要な点はそこじゃあない。「まあ出来ますけど〜」の部分にこそ着目すべきだぞ。
「出来るのならば是非頼む! 俺は力で名を上げたいんだ!」
「こちらの世界では〜、剣の時代とかとっくに終わりそうなんですが〜。あと半世紀も待たず〜、本格的に火筒の時代になると思いますよ〜?
……まあ結構です〜。貴方の望みは〜、剣の時代で剣を使った活躍できゃーきゃー言われたい〜。
後悔しませんね〜? 剣と魔法の異世界で英雄! とかも、興味あったりしてます〜?」
「ん? ああ、願ってもない。確かに心が踊るな!」
俺の高揚しかけた感情とは裏腹に、ナル嬢は恨めしそうに目を伏せて息をついた。
「よーくわかりました〜。諦めきれませんので〜、ちょっとドレスとレースの貴婦人成分補給してから〜実行します〜」
え? き、貴婦人成分? 永遠の美のために若い乙女の生き血を啜るとかそういう……? お、俺大丈夫かな……。
俺が妙な言葉に面食らっているうちにナル嬢は音もなく俺の目の前から消えた。数分間も置かず再び彼女を目にしたとき……辺りの空気ごと体が上方に吸い取られるかのような強い力を感じ、きつく目を閉じた。
◆◆
「きゃああああああああ!」
花弁を掴まれ、そのまま引っこ抜かれたような悲鳴が耳に響き、俺は眇めていた目をぱっと開いた。
若いご婦人の悲鳴!? 何処から?
「いやああああああ、あっちいけえぇ……死ねっ、しねぇぇえっ……っ」
頭上、ほぼ真上に近い位置から燦々と日の光がさしている。森と言うには開けた、草原と言うには木や草が生い茂った場所。
「お望み通りの〜、異世界転移ですよ〜。剣の使い手なら〜、活躍も期待できるでしょうね〜」
殆どダレているとも言えそうなほどのったりとしたこれはナル嬢の声。
さっきまでは日暮れ時で、俺はナル嬢と屋敷の中にいて……いや、それよりも優先すべきなのは悲鳴だ!
やり過ごすべきか、悲鳴の主を救えるのか、まずは状況を把握しなければ! 俺は背中に剣があることを確かめると、素早く抜いて駆けだした。