学校生活の変化
そんなある日、僕にとって人生で一番と言っていいほどの事件が起こった。
クラスの女子、葛飾麻衣が僕たちが登校するなり、
「ねえねえ。二人っていつも一緒にいるけど、付き合ってるの?」
僕は困った。僕は君が好きだ。付き合えるものなら付き合いたい。でも君が僕にそんなことを思っているとはとうてい思えない。君は何と答えるのだろう。
「どうしてですか?付き合ってないですよ。」
正直僕は悲しかった。心のどこかで君が「付き合ってるわよ。」って答えてくれるのではないかと期待していたのだ。
「えーじゃあなんで一緒にいるのよ」
葛飾が聞いてくる。
「辛いときは一緒にいるのですよ。ね?」
君は僕を見た。
「あ、あぁ。そうだな。」
僕は逃げるように席に座った。
「ますます怪しい。ほんとに付き合ってないの?」
「どうしてそんなに気になるのですか?いつも一緒にいると付き合っていることになるのでしょうか?」
君は尋ねた。
「そういうわけじゃないけど・・・」
すると、一人の男子が割り込んだ。
「俺、この間、二人がアパートに入っていくところを見た。」
ざわっ。クラスが騒がしくなる。
「え、それってやっぱり付き合ってるのかな。」
「やってんじゃね?」
など、ひどい言われようだった。僕は赤面して
「勝手なこと言うなよ!ご飯を作りに行ってるだけだよ!」
さらに教室は騒がしくなってしまった。答えた後、言ってしまったことを後悔した。
クラスの男の子が、クラスの女の子の家に上がりこみ、ご飯をつくっている。
頻繁に耳にする話ではない。
君は自分の話題をされているというのに、一人で本を読み始めていた。まるで、君のいる席だけ違う世界のようだった。
僕も平常心を取り戻し、今日ある漢字テストの勉強を始めた。そのとき教室の後ろからの
「付き合ってないって。良かったじゃん。」
「いや。やっぱり付き合ってるだろ。」
「なにビビってんだよ。早く告っちゃえよ。」
という男子の声を僕は聞き逃さなっかった。その男子の声の主は、木村飛鳥。
木村はかなりイケメンで、スポーツができて。モテる奴を具体化したみたいなやつだった。
木村が君に告白する・・・?考えてもいなかった展開に僕は困惑した。
だからさっき葛飾が付き合っているのかきいてきたのか。
おそらく、木村のことが好きだったのだろう。木村が君に告白するという情報をどこかから仕入れ、焦った葛飾は、付き合っていることを発覚させ、木村に諦めてもらおうとしたのだろう。
その作戦は成功と言えるかもしれない。僕が君と付き合ってなくても、男が毎晩君の家に上がり込んでいるのだ。
木村も諦めるに違いない。僕は内心ホッとした。
次の日事件は再び起こった。
僕たちのことを知ったクラスメイトが僕たちの事情を知る担任に聞き込みをしたのだ。
バカで間抜けな担任は、君の両親が死んでしまった理由から僕が毎日君にご飯を作っている事情まで、全てを説明しやっがった。
その噂は一瞬で教室へ、隣の教室へと広がっていった。一週間後には世界中に広まってしまいそうな勢いだった。
僕たちが教室へ入ると教室は静かになった。葛飾麻衣がまた寄ってきた。なんだか怒っているようだ。
「あんた親が死んでるんですってね。それをネタにして木村くんに言い寄ってるって聞いたわよ。ホントに汚い女ね。」
クラスの目を気にしてか、葛飾は君の耳元で小声で言った。
とんだホラ話だ。と僕が言おうとすると君が先に口を開いた。
「えぇ。私の親は死んでいます。それが木村さんになにか関係があるのでしょうか。藤崎さん。」
いつも葛飾の近くにいるとりまきの一人。藤崎奈央はこちらを向いた。
「え?なに。」
こちらもなぜか喧嘩腰だった。
「私の親が死んでいることと、木村さん。なにか関係があるのですか?」
「なんであたし?麻衣に聞きなよ。」
「なぜ葛飾さんに聞くのですか。私が木村さんに言い寄っているという嘘の情報を葛飾さんに伝えたのはあなたでしょう。」
なんでわかるのか。僕にはわからなかった。でもそれは本当のようだ。葛飾が頷いている。
「なにこいつっ!敬語がまじでうざいっ!こんなやつ親に殺されるのもわかるわぁ。」
「まだ殺されてないし(笑)生きてるから(笑)」
「奈央うける(笑)」
「あははは!」
「てかやっぱりあいつうざくない?」
「だよねー」
葛飾のとりまきどもは、葛飾と藤崎を輪に入れて話し出した。
僕は憤りを感じた。藤崎は君が殺されるのがわかると言った。僕は殴ってやりたくなった。
でも、それをすることで君がまた傷つくことを言われるところが目に見えるので、僕はこらえた。木村はうつむいたままだった。
君は、また自分の世界に入っていった。
昼休み。みんなの話題はまだ君のことだった。
すると木村が立ち上がり、君に近づこうとした。僕はこのままではまた君が女子に悪く言われると思い。
君に話しかけて木村を遮ろうとしたが、その必要はなかった。君から僕に話しかけてきた。
話の内容は今日の夕飯の注文だった。
「今日久しぶりに二人で餃子を作りたいな。」
「いいね。材料を買わなきゃな。」
「材料なら昨日買っておいたわ。」
「また夜一人ででかけたの?」
君はニヤっといたずらに笑った。
「危ないから十時以降は外に一人で出ちゃダメっていつもいってるだろっ!」
「へへへ」
「なんか親子みたいだな」
木村が割り込んできた。君の笑顔に気を取られていたせいで、木村が近づいてくるのに気付かなかった。
教室の端で輪を作っている葛飾たちがだまってこっちに耳を澄ましているのがわかった。葛飾に少しでも多くの情報を!と、思っているに違いない。
「そうですか?」
君は笑顔のまま木村を見た。
(そんな笑顔を木村に見せるなあああああああああ!)
と僕は心で叫んだ。それは葛飾も同じだったようだ。葛飾が、がたっと立ち上がる音が聞こえた。
「いきなりで悪いんだけど、今日の放課後。俺の家に来てくれないかな。家に親い
ないから、気使わなくても大丈夫だよ。ちょっと話したいことがあって。」
とうとう木村が勝負にでた。君が二人きりで木村とお話だと?!僕は焦りに焦った。
「それは急用ですか・・・?」
君は早く餃子が食べたい様子だった。
「うん。急用。」
「わかりました。」
めずらしく君は誰かの誘いに乗った。君はいつも誰かになにかを誘われても断って、いつも僕と一緒にいた。
僕はショックだった。君は、先にひき肉と具材を練っておいてください。と僕に部屋の鍵を渡した。餃子のことをまだ考えてるところが君らしくて笑えた。
さっきから僕と同じような心境にいる葛飾がついに動き出した。
「ね、ねえ。私も一緒に行っちゃだめ?木村くん」
「えっと・・・」
木村は言葉を選んでいた。
「俺は二人だけで話がしたいんだ。」
木村ははっきりと答えた。
「そんな・・・。」
葛飾は相当ショックをうけているようだ。木村はトイレに行ってしまった。もう、ふられたも同然だ。
しかし、忘れてはいけないのは葛飾のとりまきだ。何かをしかけてくるに違いない。そう思った矢先、藤崎奈央が動き出した。
「さっきから見てたら、あいつ調子乗っているようにしか見えなくない?」
「私もそれ思った!」
また君の悪口を始めたようだ。
「ちょっとあんた。木村君に気に入られてるからって調子乗ってんじゃないわよ。」
「私ですか?」
君はいつもの調子だ。
「あんたに決まってんでしょう。そういうのもまじうざい。そんなんだからいつも一人ぼっちなのよ。」
「親にも見捨てられてさ。ほんとうける。」
「人とうまく関われなくてKYな子はうちのクラスにはいらないんだよねー。」
「さっさと消えろよ。」
君は表情一つ変えない。でも僕の怒りは抑えることができなかった。
「おい、さっきから聞いてれば勝手なことばかり言ってるな。」
「あんたには関係ないでしょ。あんたも本当の親に見捨てられたくせに。」
僕の悪口が始まったところで、君が立ち上がった。
「私は親に見捨てられて人とうまく関われなくてKYな子はこのクラスには必要ないですか?」
君は表情を変えずに言った。
「お言葉を返すようですが、私は親に見捨てられたのではありません。深く事情を知らないのに、知ったかぶるのはあまりいいことだとは思いません。そして、人とうまく関われなくてKYですか。あなたたちのように周りの顔ばかり気にして空気を読もうとしないと友達ができない人には言われたくありません。はたしてあなたたちは本当に友達なんですか、教室の陰で丸くなり、人の悪口を言い合い、誰かのご機嫌をとるのが友達ですか。そんな悲しい友情しか知らないあなたたちにクラスの不必要なものを決められるのは不安があります。友情だの愛情だの、下らない。結局は自分に利益がなければ捨ててしまうものなのです。」
論破された葛飾たちは何も答えられないでいた。
「わかったのなら、彼に言ったことを訂正してください。」
「え?」
僕にいったこと?
「先ほど葛飾さんが彼に、本当の親に見捨てられた。といったでしょう。それを訂
正しろ。といっているのです。」
「なんでこんなやつのためにっ」
「ほんとうざい!」
女子たちは各々の捨て台詞を吐くと、教室の隅にまた集まりだした。
君は僕を見た。僕はどうしたらいいのかわからなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
なんで藤崎奈央ってわかったんだ?きみ!
僕はほんとに優しい・・・。
次週は木村君ががんばります!君の過去も少しづつ見えてくるかも・・・?
お楽しみに!
三代木 花衣