君との出会い
どうして泣いてるの?
さみしいから 悲しいから 泣いてるの
君は泣きながら無表情でゆっくりこたえた
君は死んでしまった。どうして?このことを考え始めると自然と涙がこぼれる。
君は嘘が大嫌いだったね。だから僕は、本当のことをこの物語につめこむよ。
学校の帰り道。空は白っぽく霞んだオレンジ色にそまっている。何匹かカラスが無言で飛んでいる。その光景を背中に僕たちは家に向かっていた。
「もっときれいな空気だったら空が真っ赤にそまっているところが見られるのかしら。」
少し後ろを向きながら君は言った。
「汚くなんてないでしょ、星もあんなにきれいに瞬いてる。」
夕焼けとは反対方向にぽつぽつと現れた星を見て僕は答えた。
「星がちかちか瞬くのは、空気が汚いからなのよ。」
「そうなのか・・・」
がっくりした僕を見て、きみは微笑んだ。
「でも、星が瞬くところはとってもきれいよね。」
今日は随分とやさしいね。そう言うと、今日はってなによ。と君は笑った。
君は絶対に嘘を吐かない。だから、星がきれいだと言ってくれたのは君の気遣いではなく、君が本当にきれいだと思っているということだ。それが僕はうれしかった。
君の家に着くと、君にご飯を作ってあげる。君は作らなくてもいいと言うけど、何も食べないで倒れて救急車に運ばれた日から僕は毎日君にご飯を作って
あげている。
「どうしてご飯を食べさせてくれるの?」
「また倒れたら嫌だからだよ。」
「どうして嫌なの?」
「どうしてって・・・。」
君はよくどうしてと聞いてくる。
「わからないのね。」
そうじゃない。君が大切だからだよ。好きだから。
なんて本音を言えるわけもなく、僕は尋ねた。
「どうしてご飯を食べないの?」
「食べても意味がないからよ。」
「意味?食べることに意味なんて必要ないだろ」
「あなたには食べる意味があるかもしれないわね。」
なんのことだかさっぱりわからない。
「でも、あなたのご飯は、おいしいから好き。」
君はまた微笑んだ。
僕は君が食べ終わるのを見届けると、君の家を後にした。
すっかり暗くなった空を見上げて星が瞬くのを見ると、君の顔が思い浮かぶ。
君が倒れたあの日、僕は君にどうしてご飯を食べないのか既に質問していた。
君は「自分がおいしいと感じていると、罪悪感を感じる。自分が生きるための行為をしていると、罪悪感を感じる。空腹に苦しんでいるとき、とても気持ちが
楽になる。」と答えた。
当時の僕には君が何を言っているのかわからなった。
今日同じ質問をしても答えてくれなかった理由も僕にはわからなかった。
君には家族がいない。
君のお父さんは君が小学四年生の時に事故で亡くなった。
その一週間後、君のお母さんは夫を亡くした悲しみと未来への不安から、君を殺そうとした。ビンで君の頭を殴り、気絶した君を死んだと認識してその後自分も自殺した。
大きな音に異変を感じた大家さんが部屋に入り、急いで救急車を呼んだ。君は一命をとりとめたが、君のお母さんは助からなかった。
こうして孤児院で暮らす僕と君は出会った。
君と同い年の子供は僕だけで、部屋が一緒で小学校にも一緒に通った。
でも君はなかなか小学校のクラスに馴染めなかった。いや、馴染まなかったといったほうが正しいかもしれない。
君はとにかく僕以外の人と話さなかった。
君は夜になると院を抜け出していた。最初、僕は気づかないふりをしていた。でも毎晩いなくなる理由が気になり、ある晩、後を付けることにした。
院は七時を過ぎたら外に出てはいけないことになっていて、八時には消灯だった。
院を出たのは十時。ルールをやぶるという行為をするのは初めてで僕をドキドキさせた。
初めて見る夜の世界。
気を抜くと、どこかに吸い込まれてしまう気がした。
重くのしかかる孤独感。反対に、夜を全て自分のものにしたような満足感。いろいろな感情が混ざり合い不思議な気分になった。
これ以上は無い。というくらい自らを真っ黒に染めた空。僕の知らない空だった。
どれくらい歩いただろう。君は歩みを止めない。孤独感が一歩ずつ進むたびに大きくなっていくのを感じた。君は河原で足を止めた。
川をずっと眺め続けていたかおもうと、突然泣き出した。
「うっうっ・・・うわあああああああああああああああああ」
びっくりした僕は近くの小石に気づかず、つまずいてしまった。僕を見た君は、またしゃくりあげながら川を眺めだした。
どうして泣いてるの?
自分でもわからないの。
わからないの?
うん。
院へ帰ろう?
うん。
僕は焦っていた。つけていたことがバレてしまったこと、君が泣いていたこと、たくさんの驚きが、僕を焦らせた。
僕たちはもときた道を歩き出した。君は一向に泣き止まない。僕は君の手を握った。
君の手を握ると、なぜか勇気が湧いてきた。
その勇気は君を守るためのものだと確信していた。
僕は君に言った。
「今日から僕が君を守る。辛いときは僕と一緒にいて。僕がいつもそばにいるから。」
君は表情を変えずに僕を見た。君は何も答えなかった。そのかわりに、声をあげて泣いた。
院が近づき、夜遅いのに子供の泣き声が聞こえることに異変を感じ、院の先生たちが出てきた。
次の日、僕たちはこっぴどく怒られた。
でも、その日から君はクラスメイトと関わりをもつようになっていった。
そんな思いでを思い出していると、僕は家に着いた。
僕はおおらかで優しい家族に引き取られた。君は、遠い親戚に引き取られたが、君が望んで、中学生になってから君は僕の家の近くのアパートに一人暮らしをはじめた。
家に入ると、お義母さんとお義父さんが温かく迎えてくれた。
「あの子はちゃんとご飯を食べたかい?」
お義母さんはよく君のことを尋ねてくる。
「うん。よく食べたよ。」
お義母さんとお義父さんは君を心配して一緒に暮らすことを提案したが、君はそれを断った。
「女の子が一人暮らしなんて危ないだろうに。心配だ。」
お義父さんは口癖のように言う。
君が一人暮らしを始めて二年目。僕たちは中学二年生になっていた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
来週は学校生活に動きが・・・!?
お楽しみに。
三代木 花衣