第一章 呪詛 3
その少女はとても美しかった。美しいとは彼女のためにある言葉のようにも思えたほどだった。長い黒髪が巫女の姿に良く映えている。
その美しさは僕に刻銘な驚きを与えた。
「ちょうどいい。君の事について説明するには彼女が必要だ。君の一時的な死と云う奇妙奇天烈な現象は彼女によって起こされた。勿論、死んだ人間が生き返る訳があるまい。それなりの、簡単に云えば魔法のようなものを君に施した。それにより」
「死んだ人間を生き返らせる魔法なんてあるんですか!」僕は彼の話を遮り身を乗り出して尋ねていた。男は驚きの表情を見せている。僕は姿勢を元に戻した。人の話も良く聞かずに突発的な行動に出てしまうなど恥ずかしい。
男は咳払いをして話を続ける。
「君の例外だ。普通は出来んよ。マヤ、その少年に見してやれ。」
はいと一言挨拶をして彼女は僕の横に腰を落とし、着ていた巫女服の胸をを開けさせた。大理石の様に白い肌の上、首から胸元にかけての部分にくすみの様な紋章が赤く浮かび上がっていた。丸い枠の中に横向きの楕円と縦向きの楕円が十字状に重なっている。
突然、僕の胸に痛みが走った。胸から肩、肩から腕へとその痛みは伝わる。いや、動いている。腕を見てみるとそこには彼女にあった紋章と同じ物が御器噛りの様に這っていた。
あまりの驚きに無意識のうちに目を見開き、口をあんぐり開けたまま動けずにいた。人間とは仰天すると悲鳴もあげずにただ呆気にとられる事しか出来ないのだろう。その蜚蠊は丁度小手のあたりで止まった。刹那
焼印でも押されたかの様な痛みがと突然脳に叩きこまれる。どうやら紋の形に腕を焼かれたようだ。
「これで契約成立だな。」
「契約?」
「契約したんだ。君は今は忘れてしまっているだろうがね。君を生き返らせる、そして君は守り神を殺すとね。君の生存本能がそうさせたんだ。そこの彼女は君を憑代ととしてここに存在できるよって君は彼女についていくこと、そして彼女に活動するためのエネルギーを供給する事が君の仕事だ。守り神の退治自体は彼女に任せればいい。それと君はこの契約で幽霊などと云ったものが見えるようになったが、見つけたとしても無視するように。救ってほしいと縋り付いてくるからな。万が一、憑りついた場合はお祓いはしよう、金は取るがな。」不気味な笑みを浮かべた男が冗談だと呟く。
「ちょっと待ってください。彼女は何なんですか?それに守り神って」
「こっちの方が大切だったかな?」男がまた軽く咳払いした。