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二人、ろくな会話もせずに互いにチラチラと見ながら帰って行った。
そんな時間が長いこと続いた。陽夏の家の方に来たみたいだ。
だいぶ山がちなところに住んでいる。
「わざわざ家までありがとう。」
「いっ、いいよ別に。」
もう空は暗い。
山がちでほとんど電灯もついていない道一本。
「ところで家はもうすぐなの?」
ここから歩いて帰ると、大分時間が掛かりそうだ。親には怒られるだろうな。でも、陽夏と帰れたのだからいいか。そんな事を考えていた。
「ここ。」
?
意味が分からなかった。
こんな暗い夜道。俺はてっきり、この一本道を超えたところにある地区の中に家があるのかと、思っていたのに。
あたりに家らしきものは見当たらない。ここは真っ暗な道だ。
「ここでね、昨日人が死んだの。」
「・・・?」
「私が死んだの。」
「何を言っている?」
冗談にしてはとても笑えない。本当に彼女は勉強のやりすぎでどうにかしてしまったのではないか。いや、そうに違いない・・・!
ここの地名が突然、頭に飛び込んできた。
「大森地区」
急に陽夏であってないものが睨んでくる。
顔が段々と皺くちゃになり、角が生え、歯が鋭くなり、血管は不気味に浮き出ている。僕を映す黒目が周りの白目を覆って行く。
鬼だ。こちらを見て笑う。体が上手く動かない。死が目の前で立っている。
「でも・・え?なんで、」
立ち上がろうとしても上手く立てず、仰向けに倒れてしまった。きれいな星々が目に入った。
「陽夏もこんな空を見ていたんだろうか」
鬼が笑いながらこちらへすたすたと歩いてくる。
情けない。自分はついに何も分からず何も出来ずにしぬのか・・・
すると突然上の方から、厳密には後ろから強い光が近づいていた。自動車だ。中から二人の男が出てくる。
「カンが当たりましたね、来島さん!」
「そうだな。しかし、ゆめゆめ油断するな。今回のは人を殺せる。」
そう言って、その来島と言う男は胸の前に拳を作り、人差し指と中指を胸と垂直に立て何か唱える。
鬼はそれを見ると怒りの顔に変わり、手の甲から刀を出して男へ走って行く。
すると、その男のもとに神神とした光をまとった直衣を着た男が現れた。
「あの鬼を食い滅せ!」
すると光をまとった男は鬼に近づきしがみ付く。
鬼は刀を振り下ろそうとするが光の男が刃をつかみ容易く折ってしまった。
光の男は鬼の頭と肩をつかみ首に噛みついた。
すると鬼は末端からボロボロと灰の様に崩れ夜風に吹かれていった。
頭の中が真っ白になっていた。
「では、処理を頼む。」
「分かりました、来島さん。」
すると指示を受けた青年は僕の額に手をかざした。
僕の体から力が抜けていく・・・