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変わった世界――The strange world  作者: 足利義光
第五話 変わった世界――The strange world
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ストレンジワールドpart1

 

 みんなの心が私には分かる。いいえ、分かってしまう。


 今の私には、周囲、ううん、見たことすらない人の心まで観えてしまう。


 邪な心も、希望に満ち溢れた心も、灰色な心も。


 その全てと私は繋がってしまう。


 ううん、違うか。

 これは一方通行だ。

 だって私がそこにいる事を皆は知らないんだから。


 一〇年間この力の事を忘れていた。


 あの頃は何も思わなかったけど、今なら分かる。


 これは、とても危険な力だ。


 それを確信したのは、学園の皆を″戻した″事だ。

 皆、グチャグチャに混ざり合っていた。

 それを私は全て元通りにした。

 その事自体は何の後悔もないし、あれは正しかったと思う。


 でも時間が経つに連れ、自分がどんな事をしてしまったのかを実感した。


 あの時、私は皆を戻した。

 でもそれは一人一人ずつなんかじゃない。

 文字通りに全員、全ての人に繋がり、それを同時進行で行ったのだ。

 まるで、機械みたいに。


 その中で皆の心も知ってしまった。


 怖かった、自分が怖い。

 こんな力、何で私は持ってしまったのだろう?


 私は、普通じゃない。



 聖敬、私はあなたに言わないといけない。

 ゴメンナサイ、って。

 あなたをここに連れてきてしまってゴメンナサイって。



 ◆◆◆



 WG九頭龍支部にて。

 西島迅は、準備が整いつつある事をその目で確認していた。

 今この支部には支部の全人員の内、五〇人程が残っている。

 これから行うあるイベントを行うに際して、協力してくれる者だけがここには残っている。


「さて、準備は整いましたか?」

 モニター越しに迅が話しかけたのは、その部屋にいる前支部長である小宮和生である。


「ああ、整った。あとは君の妹の力を【借りる】だけだよ。そちらこそ準備はいいのか?」

「こちらはもう少しだけ時間を下さい。実施するにしても晶の【理解】があるのとないのとでは事態の推移には雲泥の差が出るでしょうし」

「わかった。だが出来るだけ手短に頼むよ。日本支部も流石に気付いたはずだ。急いては事を仕損じるとは言えど、急いだ方がいい」

「ええ、分かっていますよ」


 プツリ、とモニターが切れる。

 どうやら日本支部はまず通信制限から仕掛けて来ているらしい。


「と、なると……お次は」


 直後に電源が落ちる。

 室内の電灯が落ち、重病者や手術室などの非常用電源以外は落とされたに違いない。


「やれやれ、流石にやってくれますね」


 だが迅のその表情から焦る様子は一切窺えない。

 その訳は簡単で、この程度の事態はとうに想定済みであるからだ。


「流石にこれ以上の直接攻撃までには少しばかり猶予があるはず。その間に片を付ける、そういう計算ですか?」


 井藤が問いかける。

 この場に於いて彼だけがある意味部外者である。


「ええ、まぁそうですよ。僕としてはそうあって欲しいですよ」

「ならば、何故【不確定要素】を見逃したんです?」


 井藤の言葉尻には含みがある。

 迅の眉がピクリと上につり上がる。


「……不確定要素とは何の事でしょうか?」

「私も含めた三人です。何故、我々には何故きちんと【誘導】しなかったのですか?」

「…………」

「言いたくない、という事ですか。なら私が代わりに言いましょう。あなたはこの先に起きる出来事について失敗のリスクを考えている。あなたの計画は確かに凄い。ですが同時に極めて危険な事態を招く恐れを孕んでもいる。そこで予期せぬ事態になった場合の【保険】として家門さんに林田さんを敢えて半端な【誘導】で済ませた。そういう事ではないでしょうか?」

「成る程、確かにそういう考え方もありますね。

 しかしそれならば何故、井藤支部長。あなたを逃がさないのですか? 保険、という意味でならあなたが現状もっとも危険な存在だ。あなたのイレギュラーであるあの【毒】ならば文字通りに切り札、として最適なのではありませんか?」

「いや、私の毒は切り札どころか無関係な人まで殺しかねない、というリスクが付きまといます。あなたは目的遂行の為ならあらゆる選択肢を選べる人ですが、ですがその中でもっとも被害が低い選択をする。そういう人です。そんなあなたにとって私のイレギュラーは【危険】過ぎる。だから、もしも切り札、として使うのならば外に放つのではなく、自分の手元で。コントロール出来る近くで、……そういった所ではありませんか?」


 井藤はその見立てに自信があった。

 西島迅、という男とは決して親しい間柄ではない。

 つい昨日までこの九頭龍、に於ける防人の顔役の一人としてしか見て来なかった。

 一見優男にしか見えないその見た目に騙されていたが、彼は陰謀家である。

 自身の表向きは中立、という立ち位置をフル活用して、WGはもとよりWDとも接触を。さらにそれ以外の何者かとも何らかの接触をしていた。

 強か、というよりは小狡い。恐らくは昨晩からの一連の出来事にも何かしらの協力をしていたのは間違いない。でなければまるでタイミングを図ったかようにWDが混乱状態に陥るのとほぼ同時刻にWGこちらでも騒動が起きるはずがない。

 そして迅は、その手を叩き賞賛を示す。


「成る程、流石はその若さで九頭龍支部のトップだ。なかなかの観察眼おみそれしました。

 そうですね。あなたの見立てはおおよそ正しいです。確かに井藤支部長の毒は危険極まりない。ですから敵対するのは避けたかった。だからこそ、あなたには【同盟】を求めたのです。彼を確実に排除する為に」

「聖敬君がそんなに恐ろしいのですか?」

「ええ、恐ろしいです。何せ彼は【向こう側】の来訪者です。今でこそ人間の姿をしてはいますが、その本質は異形です。一〇年前に彼は自身の記憶のほぼ全てを喪失しましたが、それでも彼はマイノリティとして目覚め、かつての自身へと徐々に立ち返りつつある。

 もしも、彼が元来の力を取り戻せば私には太刀打ちする術がない。だからこそ、その前に井藤支部長。あなたに彼を排除してもらいたいのです」

「成る程。私は聖敬君を殺す為にここにいる訳か。

 それで他の危険人物、例えば【クリムゾンゼロ】がこちらに来ないようにWDでのゴタゴタを起こしたのですね」


 井藤の目が細められる。

 確かに西島迅はあらゆる選択肢からもっとも被害の小さくなる選択をしているのかも知れない。

 だが、その小さな被害の中には昨夜からの混乱で機能停止したWDのエージェントや九条羽鳥に飼われていた殺し屋などが抑え役のいないのをいい事に暴走。

 何の関係もない一般人に警察関係者などが含まれている。不快だった、結果的に見れば一番被害が少ない選択肢だから、と割り切れるモノではない。

 そう思うと、今の自分がここにいるのが正しい事なのかどうか、足元がぐらつく感覚を覚える。


「ええ、なまじ中途半端な【仕掛け】ではあのクリムゾンゼロがこっちの件に首をつっこみかねない。

 まぁ、充分に首を突っ込まれましたがね。

 ですが、彼はもうこっちに関わるのは困難でしょう」

「その件に【ファニーフェイス】と【ベルウェザー】を巻き込んだのは何故ですか?」


 井藤が今、一番に問いただしたいのはその事だった。

 美影とエリザベスはもうここにはいない。

 先だって何者かに引き渡されたからだ。


「怖い目ですね。回答如何では僕を殺しかねない目だ、実に怖い」


 そう言った迅の言葉に恐れは全くない。

 そしてその表情こそ笑っているが、目は真っ直ぐに相手を見据えていた。

 何か動けば、覚悟しろ、とでも訴えるかの様に。

 二人の間に剣呑な空気が熟成されつつあった。

 ちょっとしたキッカケ一つで衝突しかねない雰囲気両者が静かに対峙していたその時。


 バン、というドアを開く音。


「井藤支部長ッッッ」


 今、九頭龍支部にいる人員の中で数少ない井藤自身の部下であるエージェントが慌てた様子で声を荒げる。それだけで充分であった。誰が今、この支部へ乗り込んでくるか等は自明の理である。


「どうやらここまでみたいですね井藤支部長」

「そのようです」 


 二人がモニターを、正面入り口のモニターを見る。そこに映っていたのは……聖敬達四人の姿であった。


「さて、聖敬君をお願いします」

「…………」


 井藤は迅の言葉に応える事はなく、ただ静かに部屋を後にするのであった。

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