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変わった世界――The strange world  作者: 足利義光
第五話 変わった世界――The strange world
121/121

いつか変わった世界で

 

「本当に良かったのかい?」

「うん、いいんだ」

「じゃあ、いくよ」

「うん行こう」


 光が広がっていく。



 ◆◆◆



「あれ? 何だここ」


 田島が目を覚ますとそこはいつもの部屋ではなく、見覚えのない湖の湖畔。そこに置かれた折りたたみ式のアウトドアチェアに腰掛けていた。


「何だこれ、……夢かな?」


 あまりにも突拍子のない光景。

 鳥が静かにさえずり、水面も静かに波紋を広げていく。

 周囲には全く人の気配はなく、ただただゆっくりとした時間だけが流れていく。

 それは本当に穏やかな時間。田島にとって心安らぐ時。


「そういやいつかこんな場所で晴耕雨読な生活をしたいって思ってたけどさぁ」

「そうだろ? だって僕に話してくれたものな田島」


 その声に思わず振り向くと、そこにいたのは聖敬。


「うおっ、何でここにいるんだよ?」

「ふ、くくっっ。はっはっは」

「ふん、ははは」


 驚きの余り、チェアから半ばずり落ちる。

 そしてそのさまを見た聖敬は笑い出し、田島も笑う。

 静かな湖畔に、二人の笑い声が響いた。



「で、これは一体どういうこった?」


 話を切り出したのは田島であった。

 もう彼も分かっていた、これはたんなる夢でなく、イレギュラーによると現象なのだと。だが悪意とかの思惑は一切感じない。


「やっぱりお前は勘がいいな」

「キヨちゃん、……いいから誤魔化すな」


 田島は理解していた。

 これが、この夢での対面が意味する所を。

 だけど、それを認めたくはない。


「俺はお前の口からキチンと聞きたいんだ。教えてくれ」


 表情を引き締め、真剣な眼差しで親友を見据えた。

 そこからはある種の覚悟すら伺える。

 聖敬もまた、その思いを真剣に受け止めると、コホンと咳払いを一つ入れて、話し始める。


「分かった。僕と晶は皆の前から消える事にした」

「そうか。うん、分かった」

「え?」


 聖敬は完全に虚を突かれ、驚く。この話をしたら絶対に、特に田島は誰よりも驚くだろう、と思っていたからだ。

 それがどうした事か、誰よりもあっさりとした表情でそれをすんなり受け入れた。


「あのな、もう少し驚く所じゃないのか?」

「だってよ、もう決めちまったんだろ?」

「ああ」

「だったらもう俺がどうのこうのとは言えないよ。最後に決めるのは当事者であるキヨちゃんに西島さんの二人なんだからな」

「…………」


 そんな正論で返してくる親友を見たのは初めての事だった。

 そういえば、とばかりに聖敬は思い出す。

 思えば目の前にいる一見すると誰よりも軽薄そうな少年は、その実誰よりも思慮深い男であったと。

 軽薄そうな見た目はあくまでそう演じているだけで、いつも誰よりも冷静な男だった。


「参ったな、これじゃ僕がどうのこう言っても何の驚きもないってのかよ」

「いいや、そんなことぁないぜ。俺だってこんな事なんかなって欲しくなかったよ。だってよ、自分の数少ない親友ってのがいなくなっちまうんだぜ」

「そうだな、……ごめん」

「だからいいって。でも教えてくれるか? 結局西島迅の計画ってのはどうなった?」

「分かった、結局迅さんは────」



 ◆◆◆



「…………何だろここ?」


 美影は一人そこにいた。

 何にもない場所だった。眩いばかりに真っ白な、それでいてどこか寂しげな場所だった。


「うーん、……夢だな。ともかく寝よう」


 思い立ったら即行動、それが怒羅美影、という少女の性質である。それに普段ならともかく、彼女は基本的にズボラである事もこんな行動に至る理由だった。


「ちょ、少しは何かリアクションとってよね。もう」


 思わず晶が慌てた様子で顔を出す。

 すると眠りかけていた美影も目を開く。


「やっぱりアンタの仕業だったか」


 と悪戯っぽく笑う。


「もう、美影は本当に意地悪なんだから」

「そうだよ。今頃知った? そりゃ残念でした、アハハ」

「うふふ、さぁ」


 晶は美影へ手を差し出し、美影はそれを手にして起き上がる。


「それで一体何か用事かな? そもそもここは何?」

「うん、やっぱり美影には今いち通じないみたいね。一応聞くけどここがどんな風に観えるの?」

「そうね、何もない真っ白な世界かな。キレイだけど、寂しい場所だと思うわ」

「そか、真っ白な世界、か」

「ん、何だか妙な反応ね。実際にはどんな世界なの、ここは?」


 美影は改めて周囲を見回すが、彼女にはやはり何もない白い場所にしか見えない。


「ここはね、心の世界かな。人それぞれが思い描く世界。心象世界って言い方が適当なのかも」

「へぇ、じゃアタシの心の世界ってのは随分とまた偏狭なんだね」


 思わず自嘲気味に笑う。

 それに対して晶はううん、と違うの、とばかりにかぶりを振る。


「美影の場合は、特殊なの」

「そうなの?」

「うん、何て言えばいいのか。美影の中には別の力が入ってて、それが色々と干渉してるの」

「う、──何かソレ、深刻そうね。アタシ大丈夫なワケ?」

「ううん、それはどうだろ。正直言って分からない」


 晶からの何とも曖昧で、不安を煽るような言葉を受け、普通なら怒るかショックを受ける場面。

 だが美影は、

「そ、じゃいいわ。分かんないならそれで」

 その口調はと言えば、実に淡々としたものだった。


「本当に美影は強いな」

「そうかな。そんな事はないと思うけど」

「ううん強いよ。だからきっと大丈夫だよ」

「そっか。うん、安心した。それで、行くの?」

「え、?」

「どうして分かるの、って顔してるね。何となくだよ、女の勘ってヤツね」

「うん、遠くに行こうと思ってる。もう会えないかも知れない」


 そこまで言うといたたまれなくなったのか、晶は美影から目を逸らす。一方的な話だと分かっていた。そしてもうあまり時間もない。だからこそ、夢の中でこうして話をしていた。

 ここで怒られても仕方ない、そんな事を思っていたのに。


「遠くに、ってそれは死ぬとかそういうコトなの?」

「それは違うよ、私も聖敬もそんな事絶対にしない」

「でも、もうここにはいられないんだね」

「うん。本当にゴメン」


 頭を下げる。

 決めた事とは言え、やはり心苦しかった。

 たった四ヶ月にも満たない時間だったけど、美影は監視役だとか何だのとは違う、本当の友達として接してくれた。

 美影だけじゃなく、WG九頭龍支部の人達が十年もの間ずっと陰から守っていた上で自分の生活は成り立っていた。

 それを一言の断りもなくむげにする事が申し訳ないと思ってしまう。決めたはずなのに、迷いそうになる。


「そっか、じゃアタシから会いに行くよ」

「…………え、?」


 思わず顔を顔を上げ、美影を見た。


「そっちからは来れないっていうのなら、アタシから行くよ」

「でも、本当に遠くなんだよ。誰も追ってこれないようにしないといけないんだよ?」

「でも、何処かにはいるんでしょ? じゃあ大丈夫、きっと何とかなるって。だから────ね?」


 美影の言葉、表情からは一切の不安らしきものを感じさせない。

 そして気付く、これは単なる気休めの為の口約束でなく、彼女は本心からいつかの再会を確約しているのだ、と。

 本気で自分を見つけるつもりなんだ、そう理解した。


「み、かげっっっ。ありがと」

「うん、アタシもだよ。本当にアリガトね」


 二人の少女は互いに涙で顔をグシャグシャにしながら抱き合った。



 ◆◆◆



「ン~? 何でオレはココにいるンだろな?」


 零二はそう呟きながら、そこで寝そべっていた。

 気付けば何もない空間だった。

 それは言葉通りの意味で、ここには何もない。

 色もなければ、光もない。ただ、漠然と″武藤零二じぶん″という存在だけは認識出来ている、そんな感じだった。

 だから寝そべってる、というのもあくまでも零二がそう思ってたからでしかない。


「で、いるンだろ。これはどういうこった?」


 零二はそこにいるであろう、いや、いなくてはならない人物を思い描きながらそう声をかけた。


「驚いた。まさか僕からじゃなくて、そっちから呼ぶなんてね」


 何もなかったはずの空間に、突如として姿を見せたのは聖敬だった。


「それにここに全く驚かないってのはどうしてなんだ?」

「あー、いやちょいとこういった異界、ってのには何回か来たコトがあるからよ。経験上焦っても仕方ないって知ってるのさ」

「あ、成る程ね。そう言えば君は、」

「ああ、天下無敵最低最悪の名門、【藤原一族】の分家なもンでな。

 なンつーか、こういうのには幸か不幸か慣れてるよ」


 まるで他人事のような口振りで零二は言う。

 ただ流石に一人ではなくなったからか、起き上がるや否や──聖敬へ殴りかかろうとする。


「う、わっ」

「ちぇ、逃げるなよ」


 心底から残念そうな表情を浮かべつつ、不良少年は聖敬を睨む。


「いや、逃げるでしょ。いきなり殴られそうならさ」

「へっ、何言ってやがるよ。分かるぜ、お前もう【別モン】になっちまったな」

「! 本当に驚いた。凄いな本当に」

「ま、伊達に九頭龍に帰る前に神様ってヤツを名乗ったバケモノとやり合ってないってコトだ。お前からも違うモノの匂いってか、気配がするのさ。いいから戦おうぜ。別に殺し合おうってワケじゃねェさ。互いに手合わせしたいだけだ」


 聖敬は目の前にいるツンツン頭の不良少年を再度見据える。

 すう、と深い呼吸を一度入れて、集中力を高める。


「分かった。でも、その前に謝っておくよ」

「何だよ肩透かしだなぁ。ま、いいや。何かやっちまったのか?」

「僕と晶は君たちの前から姿を消すよ」

「フーン。そっか──」

「──!」


 ガッツン、とまるで丸太を鈍器で殴打したかのような音と衝撃。

 突然の零二の攻撃により、聖敬の身体がズザザザ、と後ずさる。

「へっ、不意打ちは効かねェか」

 なら、と言いながら零二は身体を反転。左右の肘を打ち付ける。聖敬は今度は左右の手刀で受け流し、逆に相手の足を払う。

「おっと、あっぶね」

 だが零二は軽々と体勢を整えると、今度はタックルを食らわせる。

「う、おっ」

「せーの、うりゃっ」

 聖敬の腰に手を回し、そのまま持ち上げてから自分毎倒れ込もうと試みる。だが聖敬もそれに対して素早く手を切ると、相手を突き飛ばして同時に後ろへと飛び退き、間合いを外す。


「全く、これじゃ会話しようとしても無駄になっちゃうな」

「ったりめーだ、オレはWDの一員。要は悪党ってヤツなンだ。

 自由に好きな時に好きなコトをする。それが何処だろうとな」

「そうだった。君は悪の秘密組織の一員だったよ」

「そういうこった。だからよ、あンまし気にするな」

「え?」


 思わずキョトンとした顔になる。

 さっきから零二の言葉に驚きっ放しだった。

 最初から聖敬はここで一発殴られるつもりだった。

 でもその相手たる零二は思いの外冷静で、いつも通り好戦的で、それでいて……どこか達観しているように思える。

 だから聖敬は正直困惑すらしていた。


「一つだけ聞くぜ?」

「いいよ」

「去るって決断はどっちか一人で決めたのか、それとも二人で決めたのか、どっちだ?」

「もちろん二人でだ」

「そっか、ならいいンじゃねェのか。当事者二人がいいって思うならそうすりゃいいと思うぜ。オレやら誰かみたいな第三者なンぞ気にするな」


 これで似たような事を言われるのも何度目だろうか。ぶっきらぼうな口調ながらも、零二もまた一切の批判も何も言わない。それどころか背中を押す。

 零二は分かっていた。聖敬は何か大事な事をを決めたからこそ、こうやってここに自分がいるのだと。ならば、それをどうこう言うのは自分の役回りじゃないと。ただ、話すよりもこうして拳を交えた方が色々お互いに分かり合えるだろうと。


「いいじゃねェかよ。好きなモン守る為だろ? だったらそれを貫き通せよ。絶対に途中でやめるな」


 零二の拳が顔を捉えた。聖敬はよろめきながら踏み留まる。


「ああ、当然だ!」


 お返しとばかりに拳を叩き込む。零二もまたよろめく。


「へっ、いいぜ。トコトンまでやろうぜ」

「ああ、殴り合おう」


 そうして聖敬と零二は殴り合う。幾度も幾度も互いへ拳を放ち、倒れては起き上がり、起き上がっては倒れる。

 だけどそこに凄惨さは全くない。


「やるじゃねェかよ。でもなオレの方がつえェ!」

「いや、勝つのは僕だ!」

「上等、行くぜ」

「来いッッッ」


 ただただ二人は笑っていた。





「はっは、もうダメだ動けねェわ」

「全く、程度ってのを知らないんだな」


 二人は大の字になって倒れ込み、そうして上を見上げる。

 すると何もなかったはずの世界が、いつの間にか満天の星空に変わっている。


「でよ、結局のトコ世界ってのはどうなったンだよ?」

「変わらないよ。殆どね」

「でもちょっとは変わっちまう、そうだろ?」

「うん。迅さんたちの行動で世界そのものが変わる前に、何とか事は収めたんだけど……それでも世界に僅かながら波紋が生じてしまった」

「ソイツはマズイのか?」

「それが自然なモノなら何も問題ないよ。でも、今回のは本来生じないはずの波紋だからね……世界の流れを見ている存在からすれば充分に注意を引いてしまうんだ」


 段々と声が細くなっていく。

 これ以上聞くのは酷なのかも知れない。だが、零二は敢えて訊ねる。


「それで姿を消すってのか」

「ああ、そうしないといけない」

「ここで抗うってのはムリなのか?」

「うん、色んなモノが晶を見定めたら大変な事になるからね」

「具体的にはどうするつもりなンだよ」

「十年前に戻って、そこで晶は死んだ事にするつもりだ」

「オイ、──」


 思わず零二は起き上がる。

 それこそまさしく世界を変える行為だと分かったからだ。

 いつもならここで殴ってでも翻意させようと思った。

 だけど、


「ゴメンなさい。でもそれが一番なの」


 握り締めんとしたその拳に晶の手が乗せられた。


「おま、──本当にいいのか? それで」


 問いかけながら愚問だと思った。

 何故なら分かる。

 聖敬にせよ、晶にせよその表情を見れば一目瞭然だったから。

 もう、二人は覚悟を決めたのだから。


「分かったよ、お前らがそれでいいなら止めねェし。そもそも二対一じゃ分が悪いしな」


 お手上げとばかりに両手を大きく掲げて見せる。


「武藤君ありがとうね」

「いンや納得したワケじゃねェよ。それに西島が消えるってコトで色々変わっちまうンじゃねェのかよ? その世界ってのが」


 理解はしても納得は出来ない、それは零二の偽らざる本心である。


「うん。それは少しばかり変わると思う」

「だろ、大丈夫なのか西島?」

「うん、私がいなくなっても世界そのものの流れは変わらないよ。

 だからね、兄さんはやっぱり何かしら世界に干渉しようとして、きっと失敗すると思う」


 遠くを見据え、寂しそうに兄の末路を晶は語る。

 分かっているのに救えない。それがどれ程辛いのか、当事者ではない立場にいる零二には分からないが、やり切れない気持ちにはなる。


「何とかならねェのかよ?」

「うん、一度起きてしまった事実は基本的には変えられない。

 それをしてしまうと世界が歪むんだ。そうした歪みはよくないモノを生み出すキッカケになる。だから迅さんたちは理由は変われど、同じ結末を辿る」

「…………いやなコト聞いちまったな。気が利かなくてわりぃな」

「ううん、ありがとね武藤君」


 その晶の言葉と笑顔は零二の心を強く打つ。あくまでも明るく、気丈なその表情からは彼女がこの決断により多くのモノを失う決意を固めているのだと確信させるには充分であった。


「そんなにつらそうな顔しないでよ。本当に美影にそっくりなんだから」

「ドラミのヤツにも会ったのか?」

「うん、他にも凛ちゃんにも会ったし、リズにもね。聖敬は田島君とか進士君にも会ったはずだよ」

「で、オレには二人がかりってワケだ。こりゃ光栄だな」


 はっは、ツンツン頭の不良少年は声をあげて笑う。

 つられて晶と聖敬も笑い出す。

 そうしてしばらくして。


「そろそろ行くよ」

「そっか、変な言い方になっちまうけど達者でな」

「じゃあこれでお別れだね」

「そっか、でも死ぬワケじゃないンだろ? それじゃどっかで会えるかもだぜ」


 零二は大真面目に言い切る。聖敬は唖然とした表情を浮かべ、晶はついぞさっき美影にも同じ事を言われた事を思い出し、クスリと笑う。


「あのさ、僕らは皆とは違う世界をあちこち行く事になると思う。だから多分もう二度と」

「へっ、普通なら有り得ないコトなンざよ、数え切れない位にお目にかかってきたぜ。だから不可能だとは思わねェ、それにお前とはキッチリ決着付けてないし、な」


 零二は不敵な笑みを浮かべ、拳を突き上げる。

 そう、彼は自分達のいる世界が如何に奇妙で不条理なのかを知っていた。そして同時に、世界はどうしようもなくご都合主義というか時にビックリする程の大小様々な奇跡にも溢れていると分かっていた。


「じゃな、また会おうぜ」


 だから、あくまで彼はこれを終生の別れだとは思わない。

 これは一時的な別離であって、いつの日にか必ず再会出来るに違いないと何の根拠もなく確信していた。



 ◆◆◆



 そして世界は閉じる。

 今、ここからここにいるのは聖敬と晶の二人だけ。


「何か彼のおかげでまたいつか帰って来れそうな気がするよ」

「そうだね。本当にそうなるかも。だって、」


 そう、世界は日々少しずつ変わっていく。

 一人一人の心が世界を構成していくのであれば、例え一度は世界から離れる事になった二人もまた、いつの日かこの世界に戻れるのかも知れない。



「まずは十年前からね」

「ああ、つらいだろうけど許してくれ。世界に及ぼす波紋を最小限に抑えるなら今はこれしかないんだ」

「今更気にしないで。それに今はそうしないとよくないモノがもっともっと皆の世界に来てしまう。それじゃ武藤君と美影の負担が増えちゃうし」

「うん、分かってる。彼の言葉じゃないけど、本当に世界が変わったら僕たちはまたここに戻って来れる。それを信じて待とう」

「そうそう、二人なら何とかなるよね。聖敬」

「だね、行こう晶」




 そうして二人は互いに手を取り、旅立つ。

 それはこの世界からの逃避行。

 いつまで続くのか分からない、ひょっとしたら永遠かも知れない旅の始まり。

 だが世界、という広大な存在から見ればそれもほんの一瞬、まばたきする程の時間でしかないのかも知れない。


 二人は願う。

 いつの日か、変わった世界での再会を。


(完)


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