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変わった世界――The strange world  作者: 足利義光
第五話 変わった世界――The strange world
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夢幻その2

 

「「「!!!」」」


 小宮和生の言葉を受けて田島、進士に、凛の三人はそれぞれに身構える。


「一、油断するなよ」

「わかってる、今の状況でたった一人ここにいるなんてのは普通じゃない」

「何でもいい、面倒くさいから早く倒すだけ」


 場に急速に剣呑な空気が形成されていく。

 そしてそれを小宮は、はは、と微笑すると両手を上に掲げて、戦意がない事を示す。


「待ちなさい、こちらは君たちと戦おうだなんて毛頭思っちゃいないよ」


 そう言うと、ゆっくりと三人に見えるように腰に手を伸ばすと、護身用と思しき小型のリボルバー拳銃を取り出し、そのまま無造作に三人へめがけて投げてみせる。


「この通りだ。分かってはもらえないだろうか?」


 その元支部長の行動を前にして田島は、改めて怪訝な表情を浮かべると、「支部長、俺から質問していいですか?」と問いかける。


「どうぞ、……何でも聞くといい」


 小宮はあくまでも穏やかな表情を崩す事なく応じる姿勢を見せる。


「この事態は一体どういう事なんでしょうか?」

「はは、田島君。君は本当に正直なんだね」

「答えて下さい」

「その軽薄そうな見た目といい、そのイレギュラーといい、思慮深い本質を意図して誤魔化す事を主眼にしているのだと、改めて感心するよ」

「はぐらかすつもりですか?」


 田島は油断なく相手を見据える。

 何か怪しい行動を取れば即座にそれを防ぐ、例え元支部長であっても仲間を守る為ならば躊躇うつもりはなかった。


「待ちたまえ、そういきり立つのも仕方ないとは思う。だがね、私は決して私利私欲でこの事態を引き起こした訳ではないのだ。

 それだけは理解してもらいたい」

「…………」

「では僕が代わりに訊ねます。この件は何を終着点としているのですか?」


 怒りを抑え切れない様子を隠せない田島を制止しながら、進士が訊ねる。その面ばせはいつもの通り冷静ではあったが、小宮はその内心を眼鏡をした少年の手がギュ、と強く握り締められるのを見て取る。


「──ふん」


 同時に凛は、背中を向けた状態の進士の心音の変化から、冷静そうな外面とは逆の、沸々とした静かな怒りを察する。


「小宮支部長、答えて下さい」


 鋭く、刺すような言葉を飛ばす。

 実際、進士もまた怒りを覚えていた。


(どんな大義名分があっても、あなたがした事は許されない)


 それが進士の偽らぬ本心である。

 拘束,或いは最悪この場で排除する事も覚悟してもいる。

 云うなれば今、ここで問いかける理由はその前に、相手が何を画策していたのかを知る為でしかない。


(どうやっても言い逃れさせない。僕は田島ほど甘っちょろくはないんだ)


 そう考えながら、だがあくまでも外面上は平静さを保っていた。


 そして、数秒程の間が空いた後。

 男は口を開く。


「一つ問いかけをしたい、君たちはどうして世界から争いが無くならないと思うかね?」


 空気が一変する。

 ゆっくりとした、穏やかな口調ながら、周囲を圧するような重みのある問いかけを、小宮和生は三人へ向けてするのだった。



 ◆◆◆



『僕一人でこんな大それた真似が出来ると思うかい?』


 ふふ、とまるで悪戯をしようと考える子供のような何処か無邪気な笑みを浮かべながら迅は聖敬へと言葉を返した。


「──くっっ」


 聖敬は小さく舌打ちをする。

 気が付けば、周囲四方を炎と、竜巻、吹雪、落雷、という一度に起こるはずのない、同時に存在出来るはずのない現象に囲まれていた。


 チラリとそれぞれの現象を確認してみると、炎が発する熱波で聖敬は背中は汗を吹き出している。体感温度は最低でも六十度はあるだろう。炎自体の温度は、少なく見てもその数倍はあろう。

 竜巻、に目をやるとその猛烈な風で様々なモノがクルクルと回っているのが分かる。どっから持ってきた物なのか、メチャクチャに壊れた車に大木、それから白い金属の何かはガードレールだろうか?

 推測する限り風速百メートルはあるだろう。

 吹雪、については猛烈な寒さと何一つ見えない事からホワイトアウト状態だと思われる。氷点下の冷気をまともに受けては凍死も有り得るだろう。

 最後に落雷だが、その凄まじい雷鳴はかつて人々がこれを神の裁き、天の怒りだと思ったのも無理なからぬ事だと思える。これに身体を貫かれれば間違いなく死ぬだろう。


「とんでもない力、ですね。それに発動の兆候も分からない。これじゃ先手を打とうにも出来ないです」


 右手を握り締める。無効化出来るのはあくまでこの手で直接触れた現象のみ。動けば他の三つの現象が襲いかかるに違いなく、だから迂闊には動けない。


『動けないのは当然だよ、有り得ない事が起きたんだからね。

 だけど今の私の能力を理解してもらうにはこれ位はしてみないといけない、と思ってね』


 迅は、思惑通りに聖敬の動きを牽制出来た事に満足した。今の彼にとって最も望ましくないのは戦闘の長期化。

 今の、夢幻を使う自分が負ける可能性はない。

 だが懸念もある。聖敬がその身体能力を駆使して逃げの一手に徹すれば、捉え切れなくなる可能性があったのだ。


(だからこそ、少しばかり無理をしてでもこんな現象を起こしたんですが、上手くいきましたね。ですが油断は禁物。ここまで来たのです。この戦いを早急に終わらせて、そして目的を果たさなければ)


 そう、聖敬との対決はあくまでもこの後に控える事態の前の、最後の障害でしかない。ここで必要以上に戦いを長期化させようものなら、肝心要の計画に支障が生じてしまう。それだけは何としても避けねばならなかった。


『さぁ、これで幕を引こうじゃないか。終わりだよ、星城聖敬!』


 高らかな宣言と共に迅は、その右手を勢いよく上へと掲げ、一気に振り下ろす。


 それがキッカケとなり、四つの自然現象が一斉に聖敬へと迫る。


「く、でも、まだだ」


 ギリ、と歯を噛み締め、意識を集中させる。

 イメージするのは、かつての自身。

 今の自分のように″無効化″する能力を右手に集約化するのではなく、自分そのものをその力の化身へと。

 途端に、変化は起きる。

 聖敬の全身が光り出す。それは紛れもなくさっきまで右手に宿っていたモノ。かつての自分そのものの、異物を排除する為の存在へと立ち返らんと変化を遂げていく。ヒトからケモノへ、そして──。


「く、ううううああああああああああああああ」


 天をも切り裂かん、咆哮にも思える叫び声を発する。


『本性をみせたね、でももう手遅れだ』


 だが、そこに四つの自然現象が直撃した。


 炎は万物を焼き、そして灰に返そうと蠢く。

 竜巻は万物を飲み込み、何処までも吹き飛ばそうと唸りをあげる。

 吹雪は万物を包み込み、その全てを凍てつかせるべく吹き荒れる。

 落雷は万物を貫き通し、断罪せんと轟き叫ぶ。


 それらの現象は瞬時にたった一人の相手へと襲いかかる。


 次に起きたのは震動。この異界を揺るがす、凄まじいまでの閃光と生じさせ、歪ませ、亀裂を発する。


『く、ぐうううッッッッッ』


 ミシミシ、とした軋みと共に何かを失った喪失感が、迅には感じられた。間違いなく今、幾人かの犠牲があった。


『すまない、だがこれは必要な犠牲だった』


 いつしか迅の表情は沈痛なものに変わっている。


『でも心配はいらない、これで僕らの目的は達成出来るだろう。

 だから僕は君たちに感謝する。本当にありがとう』


 それは協力者達への、迅なりの葬送の言葉だった。



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