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 一応、二つ目。

 またもやまとまらない文に嫌気が差します。

 どうか読んでいただけたのなら嬉しいです。


 五月某日、東京都市付属高校三丁目。


「らぁしゃせー」


 先週まで暖かいなと思っていたが未だに季節はずれの寒波が来るようで、昨日から肌寒い日が都内では続いていた。

 来年より、ほぼエレベーター式に付属系列の大学に進学する為、先月より十八歳になったのをきっかけに、あと、これからかさむ学費の為に青年はアルバイトを始めている。

 特に特徴もない通りに面するチェーン店のコンビニ。

 青年はここの特にキツイ、深夜のシフトを主に組んでいた。

 深夜なのだから、客足は少なくて済むだろうと高をくくっていたのがダメだった。

 確かに客足は少ない。

 しかしその分、羽目もタガも外れた客が来るのでは、普通の肝しか持ち合わせない青年に心労という労力が普通の労働と変わらない辛さを与えていた。


「……眠ぃ…」


 青年はブンブンと頭を振って、レジを挟んで対峙する時計を見る。

 時刻は午前二時五十分。

 あと十分でシフト終了というのを励みに、この苦学生は眠気と闘っていた。


「お疲れっ、江楠少年。シフト交代だ。

 …おい、大丈夫か?後は俺がやっとくから、早く帰って寝ろよ」


 いつの間に寝てしまっていたのだろう。

 うつらうつらとしていた意識が肩を叩かれて覚醒する。


「…あ…あぁ!スミマセンッ先輩」


 慌てふためく俺を見て先輩はクシャっと笑う。

 先輩、と言っても同い年なのだが、俺よりも長くここに勤務しているので俺は先輩と言っている。


「ハハッ、いいから帰りなよ」


 この気さくという言葉を具現したような、人の良い先輩に礼を言って、俺はとっとと機械にタイムカードを差し込んだ。


 03:02 江楠カイト


 おぼつかない足取りで学生寮に帰宅する。

 普通よりも羽振りがいいとこの時間帯を選んだが、習慣になかった時間帯に起きて仕事をするというのは以外にしんどい。


「シフト…変えてもらおうかな…」


 オレンジ色の肌が不健康に映る街灯の下でそんなことを呟く。

 まぁ、呟くだけで出来るはずもない。今貰っている給料でもカツカツな生活なのだから、若さに鞭打って今は過ごすしかない。

 むこう一年間はこんな生活かと思うと、その事実はかなり精神に来るものだった。


 ―――なんか、面白くないな


 今の自分が思うのは、この一言だけだった。


 ほとんど倒れるようにして、部屋の中央の万年床に倒れた。

 置きっぱなしにして今日は忘れてしまった端末を手に取ると、着信の履歴を知らせて光っている。

 電話とメールに五件ずつ。

 見なくても分かる。恐らく、一応彼女と言う体で付き合いのある女からだ。

 このひと月でくたびれてしまった青年の心では、それすらも煩わしく感じてしまっていた。

 意識が落ちる前に返信しようとアイコンに触れた途端に、ブツリと電源が落ちる。


「………」


 そう言えば、学校から帰ってきてから充電器に挿していなかった。

 …まぁ、いっか。

 青年は電源が入らないのを好都合だと、そのまま電池切れように眠りに落ちた。



 睡眠時間は僅かに四時間。

 学生である彼にとってはかなり短い眠りだった。

 しかし、学生の本文は勉強にある。

 いくらアルバイトをしても、進級試験に落ちてしまってはどちらの努力も水泡と化すだけ。

 それだけは絶対にダメだ。

 自分のなかでいつの間にか定基文となっている文句。

 最近、この定基文を起こす事が増えた気がする。

 心労から来るネガティブがそうさせるのか、それとも知らないうちに根付いてしまった強迫観念なのか―――。


「考えるだけ無駄か…」


 鏡に映る、疲れきっている自分にそう言って答えを出した。

 別に、付属高校というブランドの為じゃない。

 恐らく自分は、積み上げたモノが無くなることが許せないんだ。


 手早く身支度を済ませて、買い置きの食パンを立ったまま食べながらテレビを見る。


『―――これで、三人目になった辻斬り事件の被害者は……』


 どうも、近所でまた最近流行りの辻斬りが記録を更新したらしい。

 辻斬り、というのは今月から暴れている通り魔のことで、なんでもその通り魔は辻斬りの名の通り、長い刃物を獲物にしているらしい。

 無理やりパンを口に押し込んで、500のミルクで流し込む。


「ま、俺には関係のないことだな―――」


 ブレザーに袖を通してバックパックを背負う。

 いくら近所で人死が出ようと、こうしてニュースで報道されれば、それはテレビの出来事としての範疇を超えない。

 多分どいつも、ソレが目の前で起きてみないと現実とは受け止め切れないだろう。

 そういえば―――最近、何を怯えたのか、この寮を出た奴がいた。

 逃げてもそこで、流行ってない普通の通り魔が居たっておかしくはないのだ。

 刺されても、車に撥ねられても、転んでも、突発的な発作でも、生きるか死ぬかの確率に変わりはない。半々だ。

 だから、俺にも誰にも関係の無いテレビの出来事。

 我ながら冷めた所感ではあるが、これが俺の中でのルーティンだった。

 作業の様な朝飯を終えると、カードキーを握って外に出る。


「行ってきます…」


 返す人間なんかいる訳もないが習慣的にそう言って、寝るだけにしか使わない部屋を後にした。


 寮の門から道路を挟んだ向かい側にある路地口に人だかりが出来ていた。

 野次馬の隙間に見えたのは、『立ち入り禁止』を示す黄色のテープで仕切られるブルーシートのテント。

 先ほど、テレビでも見たアングル。


「へぇ…ホントに近所だったんだな」


 それも、テレビで知ったテレビの出来事。

 青年はそう思うだけで恐れることはなく、いつもどおり登校するだけだった。



 端末に入れてあるお気に入りの曲を四回と半分ループした辺りで、やたらデザインに凝ったガラス張りの校舎が見えた。

 東京都市付属高校。

 俺はここの三年二組に在籍している。

 規模はデカイくせに階段でしか昇降の手段がない事に、いつも腹立たしさを覚えながら階段を上がる。

 未だに眠っている体では登山をしているような気分にすらなる。

 やっとの思いで教室に到着するや否や、俺は机に突っ伏した。

 バイトと学校生活の両立。

 こうして空いた時間に寝ていないと、その実現はできないのだ。

 朝礼までの十分間、騒がしくはあるが安らかに眠ろうとしていると、バンッ!と机が叩かれた。


「………」

「おはよう、カイト。何で昨日返信してくれなかったのかな」

「悪い、寝てた」

 笑顔ではあるが仏頂面。

 この時間だけは会いたくない奴だ。

「電話は無理でも、メールくらい読めたでしょ?」

「読めはしても電池が切れたんだからどうしようもないだろう。

 ―――頼むから、今は寝かせてくれ」

「充電しながらでもできたでしょうに。

 ホント、私みたいな彼女がいるっていう自覚はないのかしら」

「埋め合わせはちゃんとするから、それでいいだろ」

「はぁ…またそれか。―――分かった。じゃあ放課後にでもお願いするわね」

 彼女はそう言うと、さっさと自分の席に戻っていった。

 今月に入ってからずっとこんな感じで、彼女の機嫌を損ねては埋め合わせをするということが増えていた。

 勿論、俺に落ち度はある。しかしそれはどうしようもない。

 俺自身、誰かと一緒に居続けるには適さない性格なのは分かってる。それでも彼女と居続ける理由はなんだろう。

 そう考えると、途端に行き詰った。

 そもそもの付き合い始めた理由も時期も思い出せない。忘れている。

 結局思い出せないまま、一時間目が始まるまで眠り込んでしまった。


 もう寝ているのか起きているのか分からないような感じで六時間の授業が終わった。

 休み時間の度に寝落ちしている俺の前に忙しなく彼女が何か騒いでいたが、埋め合わせをするのだから構わないだろう。

 「行こう」と言う彼女に連れられて放課後の学祭通りに繰り出した。


「―――まぁ、バイトで疲れているってのは分かるけど、メールの一つでも寄こせないの?」

 歩きながらに彼女は、俺に対する愚痴を振りまいている。

 学校から出てからずっとこの感じで、一向にその愚痴が止まらない。

「そうは言っても、実際全然タイミングが合わないんだ。

 それと、いちいち報告を入れながら生活するってのが男女交際っていうなら俺は喜んで別れるぜ?」

 正直言って面倒くさい。

 この際別れ話に持って行こう。そう思ってあからさまに返す。

 しかしどうして、彼女はそれに笑って返す。

「それだけじゃないでしょ、男女交際ってのは。

 良い事だってあったでしょ?」

「………」

 どうだろう。すぐに思いつかないあたり、良い事ってのはあまりないのだろうか。

 強いて言えば―――、

「強いて言えば……そうだな、人に見栄を張れる、とか」

 その俺の答えに彼女は呆れた顔を向けてきた。

「見栄って…あのさぁ、カイト。もっとマシな答えはなかったの?」

「そうは言うけどさ。

 結局、彼氏彼女ってそう言うステイタスみたいなものだろ?

 事実、俺もお前も周りの目を気にして付き合ったところもある。それで楽になったところもある。付き合っているっていう事実が欲しくて付き合うんだろ。

 こういうのってさ、見栄って言うんじゃないの」

 そう言い切って彼女を見やる。

 何故か感心したように頷いている。

「身も蓋もない言い方だけど、話は分かる。

 大概は周りの為だろうしね―――」

 急に進路を変えて、小洒落た喫茶店に入る。

「―――だけど、私は違うな。うん」

 俺の手を取ってキツく指を絡めながら彼女は微笑む。

「違うって何が」

 手の甲が彼女の頬に触れる。桜色なのにどこかヒンヤリと感じる。


「だって―――私の男女交際には“愛”があるもの」


 次は、一応この続きをと考えております。

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