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【第四幕】 月夜の追憶 《開幕》




少女が連れて来られたのは高級住宅街に佇むマンションの一室だった。

玄関ドアはカードキー式のオートロックであり、エントランスにはコンシェルジュが常駐し、部屋も一人で住むには明らかに広く、何よりマンションの自動ドアからして住人および招待された人しか入れない、高級仕様だった。


「なに・・・このマンション・・・・・・高級ホテル? 」


半ば無理やり連れて来られた少女だったが、マンションを目にしてその大きさを認識し、中に入り高レベルの設備・サービスを体験していくうちに、恐怖とは別の感情から少女の足はだんだんと震え、銀月の部屋へ上がりその内装を見たが最後、膝がピークを迎えたのか、その場にへたりこんでしまった。


「いい、一般人な私が・・・こ、ここんな場所にいていいのかにゅっ・・・?! 」


緊張のあまり、舌が乾燥して上手く回らないのだろう。

すごく痛そうだ・・・


「まあ、これでも飲んで落ち着きなよ・・・」


そう言って銀月から渡されたのは、いつの間にか用意された薄黄色をした飲み物・・・

喉がカラカラだった少女には非常にありがたい。

一気に飲み干さないよう少し口に含む・・・


「・・・ぴぎゅ!? 」


奇妙な悲鳴を発しながらも、少量だったのが功を奏し、少女は辛うじて口の中のものを放水しなかった。


「あぁ、言うの忘れてたけど、レモネードだから傷口にしみないように気を付けて飲んでね」


「・・・っ! そう言うことはもっと早く言ってください! と言うか、こうなることが分かっていて渡しましたよね!? 」


痛みが酷いのか、口元を手で覆いながら涙目で睨む少女に銀月は微笑みを浮かべる。


「もちろん。でも・・・緊張取れたでしょ? 」


少女は気付く・・・


先ほどまで、自分には場違いなところに来てしまったと緊張して震えていた手足が今は収まっていた。


その心遣いは今の少女にとって本当にありがたい。



「で、でも、もうちょっと刺激の少ない方法でもよかったんじゃ・・・」


「 ( ̄ー ̄) 」


「(違う! 絶対、面白そうだから何も言わずに渡したんだ・・・!! )」


銀月の少女に対する扱いは桜に対するそれと同じだった。


少女をここへ連れて来た理由はどこへやら・・・


「まあ、遊びはこれくらいにして、本題に入ろうか・・・」


「・・・」


少女のジト目を歯牙にもかけず、銀月は話を続ける。


「取り敢えず、自己紹介しよう・・・私は上弦銀月(かみいと しづき)。因みに、さっきまで一緒にいた巫女さんのコスプレした痛いお姉さんは陽宮桜(ひのみや さくら)。サービスシーン担当だから別に覚えなくてもいいよ・・・それで君は? 」


ついでに紹介された今は亡き、いや泣き、ではなくてここにはいない桜だが、その扱いの酷さに、同情を禁じ得ない少女。


そして、銀月の自分に対する扱いと似通う点を感じたのか、秘かに仲間意識が芽生えるのだった。


「あ、はい。私は姫地夜耶(ひめぢ やや)と言います。この街から駅ひとつ隣の街にある高校に通っています。決して中学生や、ましてや小学生ではありませんからね! 」


最後の方になるにつれて語気が荒くなり、さらに迫力が伴う。

銀月は夜耶が何を言いたいのか初め理解できなかったが、少女の姿を眺め、頭から足先まで往復した頃、ようやく気付いた。


140~150程度の背丈、最近の女子高生からしたら薄化粧のナチュラルメイク、そして元々幼い顔つき・・・

確かに中学生くらいか、下手をすれば小学生に見えなくもない。

特に最近の小中学生は発育が良いので余計に間違われるのだろう。

しかしながら、彼女の年頃からすれば平均か、それ以上の大きさの胸に、括れた腰、小さすぎず大きすぎずなお尻・・・トランジスターグラマーな体つきは彼女を年相応とは違った魅力を引き出していた。


だが、銀月は敢えて少女の望む言葉を返す。


「気にする必要ないって。最近はそっちの方が需要あるみたいだから」


笑顔で親指を立てる銀月に夜耶の目が細まる。


「な・に・か・い・い・ま・し・た?」


「うん? なに? 聴いてなかった」


夜耶からは少女とは思えない殺気が発せられていた。

しかし、高々17、8の小娘が発する様な殺気が、吸血鬼を易々と倒してしまう銀月に通じるはずもなく、さらりと流されてしまう。


「・・・それで、あの男はなんなんですか? 吸血鬼とか言ってましたが・・・」


「そうだね・・・記憶を消せない以上、納得してもらった上で協力してもらうのが最善かな・・・」


銀月は少しの間、目を閉じて考えた後、そう告げた。


「本当は協会の方に許可を取らないといけないんだけど・・・あそこはできる限り私に関わりたくないみたいだし、まあいいや」


「協会?」


その言葉自体は知っているのだろうが、どこかニュアンスの違いに戸惑いを感じている夜耶。


「その話は追々ね。長い話になるから飲み物を入れ直してくるよ・・・」


そう言って、銀月は夜耶のカップを手に立ち上がった。


「・・・あ、もう刺激物は結構ですからね!」


二度も同じ目には会いたくない。

しっかりと釘を刺すことを忘れない夜耶。


銀月は初め、夜耶が何を言いたいのか分からなかったが、夜耶がカップの方に視線を向けると、その意図を理解した。


「ふふふ・・・安心して、次は私のとっておきを持ってくるから・・・」


夜耶の必死な様子が可笑しかったのか微かな笑みを浮かべ、銀月は扉の向こうへと消えた。


ずっと仏頂面だったから気付かなかったかも知れないが、完成され尽くした美しさをもつ銀月、そんな彼女が微笑むとどうなるのか・・・


結果はこうなる。


「ほえ~・・・」


この後、銀月が戻ってきてもしばらくの間、夜耶の意識はお花畑へと旅立っていた。



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