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日常平和録  作者: 絵描きさん
6/7

終末大戦─幕間・『黄金流星』─

リハビリ用に書いた書きたいシーンだけ書いた書きなぐり。寝たばれてきな何かを含み、さらには世界観崩壊確定するのは間違いないので、常識的なお話を読みたいという方は、読まないことをお勧めします。

でもまぁ、この短編を読んでるレベルの猛者なら、多分大丈夫でしょう、はい。





 見渡す限りが黄金だった。星屑すらも黄金、手元にあるのも黄金。暗黒の世界に幾つもの黄金が散らばっている光景はとても幻想的で、思わず思考が止まるくらい美しいけれど、残念ながら芸術に浸れる程の余力は何処にもなかった。

 疲弊した肉体が休息を欲して悲鳴をあげている。だがそんな肉体の意志を強靭な精神で屈服させて、絶世の美女が炎のように真っ赤な髪を暗黒宙域に咲かせながら、縦横無尽に暗黒世界を飛ぶ。

 周囲には粒子となって散っていく黄金色の魔力が、光速を容易く突破した軌跡の跡に伸びていた。さながら夜の山道に光るテールランプ、アクセルを踏みつけて、排気ガス代わりの魔力を吐きだして、今もこの身体を奪い尽くそうと追いすがる黄金の山羊の群れを突き離す。


「発情しすぎてアタシの尻が恋しいってか?」


 悪態をつくが、その表情に余裕はない。宇宙空間そのものに圧迫されている身体は、一秒ごとに深海の圧力に押しつぶされるように悲鳴をあげていた。身体に張り付く真空すらもこの身の敵。迫りくる相手は影響を受けないというのに、こっちだけ一方的に自滅させられるとは何たるインチキだろうか。

 何て言う愚痴を思考する余裕がまだあったことに小さな驚き。同時に両手に束ねた黄金を解き放ち、これで何個目になるか忘れるくらいの宇宙空間を吹き飛ばして、次元断層へと滑り込むように逃れる。

 しかし安息は世界の隙間にすら存在しない。遠目から急接近する無数の蛇が絡みあったような奇形を見据え、両手に黄金の炎を銀河規模のサイズで召喚する。


「『腹ぺこな炎』だ……受け取れぇぇぇぇ!」


 迸る衝動を熱に変換して、物理法則すら焦がす黄金の炎が蛇の軍勢に着弾して、巨大な黄金を次元の狭間に顕現させた。その余波で幾つもの異世界が一瞬のうちに破壊され、または新たなエネルギーの発露を切っ掛けに宇宙が無数に生まれる。

 創世と世界崩壊をまとめて引き起こすほどの恐るべき破壊の中、しかし蛇はその身体を溶かしながらもビッグバン程度では比較にすら出来ない威力を越えて尚健在。燃やせたのは全体の総量の三割にも言っていないだろう。


「へへっ」


 だが女に絶望した様子はなかった。所詮はただの時間稼ぎ。本命は既に我が手を越えて世界の中へと滴り落ちて生まれ出る。

 黄金を越えた蛇達を迎えたのは再び黄金。天と地に並ぶ巨大な魔法陣から、神聖な光を溶かし尽くして、例外なく咀嚼して溶かし尽くす剣と言う名の赤い牙の群れが生まれおちた。

 天と地に並ぶ牙の一本一本こそ、濡れ滴る溶解液。黄金の炎に燃やされ続ける蛇を、黄金もろとも消化するそれこそ、今や三つにまで減った七つの極限の一つ。


「『苦悶する底なしの沼─アポリオン─』」


 溶け爛れろ、楽園の乙女。

 獣の口のように蛇を取り囲んだ牙が、女の号令と同時に閉口する。溶かすという一点に特化した牙は、対抗策を用意する暇もなく蛇を咀嚼して、まとめて無へと消化した。

 その末路を見届けながら、女は傷だらけの身体に僅かな安息を与えるべく回復魔法を唱える。


「ふぅ……」


 瞬く間に傷が癒されていくその一瞬、溜息を漏らしたその時、突如激痛が腹部より発生した。


「ご、ふ……」


 溢れ出る熱血が口から溢れる。見下ろせば、腹部より飛び出て鮮血に濡れた細い腕。

 振り返ればそこには、魂すら感じられぬ色彩の失った瞳で、無表情にこちらを見る懐かしい顔。


「ばーか」


 女は感傷に浸ることなく、慣れた手つきで少年のような少女のような相手の顔を鷲掴みにすると、水風船でも潰すように握りつぶした。頭部を失った人間の姿を象った化け物の身体が弛緩する。女は吐血しながら突き刺さった腕を引き抜くと、風穴の開いた腹部を気にするでもなく、周囲を取り囲む魂のない人形達を見渡した。

 黒髪をなびかせる同じ姿をした人型に見据えられて、女は薄く笑みを浮かべる。いやはや、飽きさせないように趣向をこらしてもらえるとは有り難い限りである。


「ったく、まだ残党が居やがったのかよ……あんにゃろう、相討ちすんならちゃんと全員連れてけよな」


 今はもういない誰かの小悪魔染みた笑顔を思い出す。アレは、周りを取り囲む人形達と同じ姿をしながら、自分達と同じく命を愛していた優しい化け物だった。

 もう年月すら定かにならないほど遠い過去、激闘の先陣を切って、自身と同じ法と対消滅を果たして死したことも同時に思い出す。いやな思い出だ、いい笑顔浮かべて、「仲間を守って相打ちとかかっこよすぎるだろ?」なんて言ってそのまま消滅したのだ。


「まっ、尻ぬぐいくらいはしてやるぜ、アトちゃん」


 ならば、自分は物語りの主人公のごとく、劇的な勝利を飾ってみせようではないか。

 女は両手を広げると、無限すら超えた膨大な魔力を解き放って操り人形達と対峙する。戦闘の兆候を感じ取ったのか、人形達もその掌に規格外の魔力をかき集めて、敵手である女にその銃口を向けた。

 数の差は億対一。気が遠くなるような数字だが、これも当時の無限に等しい総量に比べたら微々たるもの。

 つまり、相手もそんな微々たる戦力を投入せねばならないほど追い詰められている証拠に他ならない。


「手向けだ。華々しく散りやがれ」


 全力を賭す必要はない。

 それでも、あの日々の名残を思い出させてくれた感謝の念を込めて、女はその豊満な自信の胸に両手を這わせると、黄金の全てを一点に収束させた。

 直後、その手が見えない何かを掴む。

 黄金に象られた姿なき小さな光。輝く何かとしか形容出来ぬ光の結晶に対して、人形達は先んじるようにかき集めた紫色の破壊を女に向けて解き放つ。

 だが、遅い。


「あばよ。アート・アート」


 女は寂しげに目尻を下げると、一つ一つが宇宙を消し飛ばす破壊力を誇る億の弾丸に、線香花火のようにか細い光の粒子を投じた。

 破壊の総軍に対して、あまりにも弱々しい閃光。だが、津波に向かう木っ端よりも頼りないと思われた光は、投げられた直後、次元断層を融解させ、余波だけで人形達はおろか、宇宙破壊規模の光すら消し飛ばしてその輝きを広がる中、リーナは聞くこともおぞましいその光の名を。

 最強の名を告げる。


「■■■■■■」


 あぁ、黄金の終焉よ。

 物理法則も、魔法原理も、太極の理も、そしてそれらを内包した世界法則すら駆逐する栄光の破滅よ。

 破壊すら破壊する究極の光は、一瞬で人形の群れを飲みこんだかと思えば、白昼夢のように瞬く間にその輝きを消失させた。

 そして残ったのは只一人。

 赤熱。

 炎のように赤い髪をなびかせる麗しき姫君。

 星の意志に抗う気高き敵の一人よ。


「さってと……」


 傷口を癒した女が周囲を見渡せば、視界一面に文字通りの暗黒天体である宇宙の群れと、そこに内包された黄金の羊達が、未だ命の種をばらまく前の無垢な光を守るために、敵である女目がけて殺到している。それらの隙間には、異世界を渡り歩き、異世界からの来訪者をせき止める蛇の軍勢。

 かつてはそのいずれかの一つでも女の手に余るはずだった敵達が、冗談みたいな数の暴力でこちらを飲みこまんとしている。


「まだまだ」


 だが女は笑う。傷だらけの身体を押して、宇宙を突き破り、次元の壁を撃ち砕き、太極の理すら掻き分けて。

 世界真理の向こう側、確率の消滅する『ゼロ地平』に至るという無謀を果たさんと。


「お楽しみはこれからってな」


 その無謀を行う女の名こそ、今やその数をかつての半数以下にまで減らされた星の敵。

 敵性存在が現第一位。

 『超越生命』リーナ・ラグナロック。


「おらぁ! 愛されたい奴からかかってきなぁ!」


 その最後の輝きをもって、星の意志たる七法の先兵が一、第六法『消えた魂』と呼ばれる恐るべき怨敵の元目がけて特攻を仕掛けていた。






 終末大戦。

 敵性存在の中でそう名付けられた大戦は、起きた瞬間に敗北が確定するという災厄のことである。そして現実は容赦なく、限られた時間の砂は全て落ち切り、予想に違うことなくその大戦は静かに幕を開けた。

 第六法『消えた魂』の覚醒。

 第七法『終末』が目覚める前の単なる前哨戦に過ぎないはずの相手との激闘によって、大戦開始から僅か数千年で、敵性存在は十八の内の五柱を失った。

 その代わりに一法と二法を完全消滅させることには成功したが、戦況はそれ以降劣勢を極め、追い詰められたうえに、さらに四柱が削られたというのに、七法側には被害を与えることすら叶わず、悪戯に戦力を消耗させられていた。

 だがそれは当初から予想されていた通りのことであり、終末戦争が始まる直前、異世界からの侵略者を撃破した時から消耗しきっていた彼らでは、この戦いを乗り切ることは不可能であった。

 敗北が決まっている出来レース。

 確率を駆逐する化け物が現れる以上、勝利するという未来は失われ、いずれ彼らが築き上げた命の灯火は全て消え去ることになるだろう。

 だからと言って抗うことを止めるわけにはいかない。武器を持ち、顔を上げ、いっそ清々しい笑みを張りつけながら彼女達は赴く。

 その最終局面。ついに余力を失った敵性存在が現本拠地である、膨張し続ける宇宙と同じく、無限に成長し続ける巨大戦艦の艦橋にて、今や半数を切った敵性存在の生き残りのリーナ・ラグナロックは、同胞であるリームシアン・ヴァーミリオンと、最後の会話を楽しんでいた。


「まぁ、充分満喫しただろう? 既に我が艦隊も奴らの破壊に修復が間に合わなくなってきている。善戦はしたが、終わりは案外に呆気ないものであったな」


 完敗だよ。リームシアンは隣に立つ女性からグラスを受け取って、並々と注がれた赤ワインを一飲みすると、静かに敗北を悟った。

 だが、トップである彼女が敗北を認めたというのに、艦橋に居る者達に諦めた様子や怒りの感情は見られない。それはリームシアン本人も同じで、その瞳に宿る意志は、決して敗北を認めた者とは思えないくらい、堅牢な鋼の戦意に溢れていた。


「だから、アタシがこれから逆転の一発をぶちかましにいくんだろ?」


 リームシアンと対峙するリーナは、旅行を前にした子どものように瞳をキラキラと輝かせて言う。

 その両腕に握られているのは、およそこの世でこれ以上は望むことが出来ない恐ろしい武器だ。左手には向こう側の景色が透けるほど透明な色をした青色の刃が二本、とぐろを巻くように絡み合った不思議な刀剣だ。刀身には七つの特徴的な文様が刻まれており、剣先は絶えず透明な雫を滴らせていた。見るだけで安らぎを覚えるような美しい刃は、とぐろを巻いていることもあり、およそ実用性とは無縁で、式典用だと言われたら納得してしまうほどである。だがその刀身にこめられた、慈愛に満ちた虚無とでもいうべき恐るべき何かの気配が、この剣が決して式典用なのではなく、全てに平等な平気であることを物語っていた。

 一方、右手にある武装は、左手のそれとは比べるでもなく、脆弱そのものだった。たとえるならば命を吸い尽くされた細い枯れ木。子どもが少しでも力を加えたならば、たやすくへし折れてしまいそうな白木は、ただの道楽でリーナが持ってきたわけではない。

 込められているのは消滅、ただそれだけの意思が感じられるその枯れ木を前にして、リームシアンですら僅かに緊張をするほど、その枯れ木は心胆を震わせ、魂を凍てつかせる脅威を孕んでいた。


「楽園の吐息─ゴッド─と射殺す栄光─ロンギヌス─……いいのかな?」


「あぁ、この二本を餌にして、あの糞ったれにアタシのとっておきをかましてやるよ。幸い、あいつらは戦い方に関しては何百、何千、何万、何億年たとうが素人のまんまだしな。上手くはまってくれるよ」


 リーナは目つきを鋭くすると、両手の武装をいつものスポーツブラの隙間に押し込んだ。どういった構造になっているのか、明らかに胸の谷間に収まるサイズではないというのに、二本の規格外は手品のようにあっさりと谷間の中に消えていった。


「……それはあいつらに戦いをしているつもりがないからだろう。私たちはどう足掻いても奴の敵にはなれない。まぁ、雑兵の基本が宇宙レベルという時点で、普通戦いにすらならないがな」


「今時、思春期の少年でも考えないくらいのインフレ具合にアタシじゃなくてもびっくりするのは間違いないぜ」


「違いない」


 二人はそろって笑い声をあげると、同時に一際大きな揺れが戦艦を襲った。


「次元改竄障壁、絶対硬式、空間固定結界、まとめて突破されました! 第三法『夢見る獣』、スーパーヴァーミリオン内部に侵入! 数、約五万!」


「次元断層で第三法近隣を隔離。もろともパージして対消滅砲で因果地平にでも吹き飛ばせ」


「で、ですがそれでは『群れなす心臓─レギオン・ハート─』の第六機関が……」


「わかっているだろ私。反撃の機会を考えればこれ以上の動力消失は考えられないが、私の目的は最後の楽園に望みを託すことだ。そのためにここで全滅するのだけは避けられない。今ここで躊躇えば、これまでの抵抗が泡沫と帰す」


 オペレーターの絶叫染みた報告に対して淡々と指令をする。指令を受けた男は、僅かな逡巡を見せたが、黙して頷くと、すぐに指令を全域に伝えた。


「悪ぃな」


 その様子を見ながら、これから先、仲間を失いながら、敵うはずのない戦いに身を投じる同胞を思って、リーナの口かららしくない言葉が漏れる。

 だがリームシアンは出来の悪い冗談を聞いたように鼻を鳴らすと、やはり面白そうに笑っていたリーナの胸を軽く小突く。


「気にするな。終末の奴が出てくるのを考えれば冗談みたいな言い方だが、可能性が高いほうに私は賭けているだけだよ。だから貴様も、このタイミングで行くんだろ?」


「……んだよ、ばれてたか」


「いつからの付き合いだと思っている。貴様の考えくらい察しているさ」


 最初の総力戦で背走した時点で、彼らは自分たちの勝機が失われたのを悟り、可能な限り時間を稼ぐようにこれまで戦ってきた。

 だがそれも限界だ。旗艦も堪えることは難しく、このままでは数の暴力に押しつぶされるのは自明の理。

 だからリーナは行くのだ。例え第六法の撃破こそが『終末の始まり』だとしても。第六法が死した後に出来る僅かな期間があれば、リームシアン以下、残った敵性存在は戦線を建て直し、第六法にこのまま押される千年よりも長く、七法による蹂躙を持ちこたえることだろう。

 そして、現状で第六法を落とすのに、リーナ以上の適任は存在しなかった。

 リームシアンは知っている。

 その結果、リーナがもう二度と戻らないことを知っている。

 第一法、第二法もろとも沈んだ同胞と同じく。

 リーナ・ラグナロックはその命を燃やし尽くして、灰となるだろう。


「そういうわけだ。行ってくるぜ」


 だが泣き言一つ言うことなく、リーナは散歩にでも行くような気軽さでリームシアンに背を向ける。

 掛ける言葉はない。そして、この程度で泣き言を言うならば、彼女たちは敵性存在んあどなりえなかっただろう。

 二度と会えぬ。

 だからどうした?


「さよならリーナ」


「あばよダチ公」


 互いに浮かべるのは、眼前で待ち構えている楽しい楽しい闘争への歓喜の笑み。

 あぁ犬畜生が。飢えた狼にすら劣る悪鬼共。

 破滅の栄光すら美しい。狂気を持って絶望に赴くその意思こそ、彼らが星の敵となりえた証なのだろう。






 そして傷だらけの戦乙女は至る。

 そこには何もなかった。白でも黒でもなく、視覚では認知できない無色透明の領域には、当然のように天も地もなく、ただ何もない場所としか形容できない空間が、リーナの前方に広がっている。


「……久しぶりだぜ、アカシックレコードの終着点」


 あれこそ、世界の終わりそのもの。あらゆる可能性が存在しない無。

 無限地平に相反する最悪の回答。


「ゼロ地平……」


 そこにはゼロパーセントしか存在しない。抗う術すら存在せず、例えリーナだろうが、入るだけで存在を即座に抹消されるしかない恐るべき廃棄処理場。

 アレを見たからこそ、敵性存在達は初手の総力戦で撤退を余儀なくされたのだ。未だ形を持っていない星の意思が介在する前の真空状態のそれは、現象を司る第六法が消えていないからこそ、ぎりぎりで押さえつけられていたのだから。

 だがそれも最早限界、このままいけば第六法に蹂躙されるか、ゆっくりと規模を広げる終末に飲み込まれるかの差異しか存在せず、その進行速度を予測した結果、第七法の蹂躙のほうが、まだ時間が稼げると判断されたのだ。

 故に、リーナの目はすでにゼロ地平にではなく、その手前で門番のように立ち塞がる巨大な眼球にのみ向けられていた。

 人間の眼球をくり抜いて巨大化させただけという異様な姿。それこそ、七法の尖兵が最後の一。

 第六法『消えた魂』。

 光を飲み込む漆黒の瞳には、この歪な世界で生まれ、そして死んでいったありとあらゆる存在が記録されており、第六法はその全てを無限に再生することが出来るのだ。しかも同一存在すらも際限なく再生して、己の尖兵とすることが可能である。

 それは同胞であるはずの七法ですら例外ではない。どれほど巨大だというのか、第六法の周囲を取り囲む小さな塵のようなものの一つ一つが、黄金をたらふく腹に押し込めた宇宙なのだ。さらにこれまでの戦いで死したあらゆる生命体の姿も確認できた。

 世界が生まれて。

 そして現在に至る全て。

 生命体だけではなく、第六法の再生は無機物に至るまであり、リーナは今、単身で過去から現在に至る全ての戦力を無限に倍増させた戦力と対峙していた。


「……だが、テメェにも再生できねぇのがある」


 星の意思の敵となり、存在したという記録を抹消させて散っていった敵性存在。

 そして、お前を寸断した星の仇敵より作られた、濡れ滴る月光の牙。


「『苦悶する底なしの沼─アポリオン─』」


 リーナをはさむように巨大な黄金の魔法陣から、現象を全て溶解させる牙が飛び出す。


「『射殺す栄光─ロンギヌス─』」


 右手に掴まれた枯れ木が、その銘を告げられたと同時に時を巻き戻すように瑞々しくなり、ついには二メートルを超える長大な木の槍へと姿を変えた。


「『楽園の吐息─ゴッド─』」


 左手のとぐろを巻いた剣もまた、銘を告げられると同時に、剣先から清らかな水を放出する。するとその量が多くなるにつれて刀身も短くなっていき、刀身がなくなるときにはリーナを中心に、見るだけで心が洗い流されるような美しい竜が二頭、あふれた水を媒介にして顕現していた。

 心鉄金剛。星に蔓延る害虫たる我らを作り出した月光から象られた七本の爪。これこそ第六法の記録にすら記載されぬ異端中の異端なり。

 本来は一本あれば十分とされるこの三本の牙を持って、ここで終末を迎え入れる最後の闘争を繰り広げよう。


「さってと……」


 笑みを浮かべて戦意を漲らせるリーナ。しかしその体はすでに、この場所に到達するまでの戦いで傷だらけだ。

 例え心鉄金剛を使おうが、消耗した体の前に立つのは、ここに至る戦力をはるかにしのぐ数と力の軍勢。

 しかもこうしている最中にも増え続けているという素敵仕様。

 たまらないね。リーナは内心、こんな舞台を整えてくれた第六法に感謝の言葉を告げると、振り返ることもなくゼロの終末目掛けて突撃した。


「愛してるぜぇ! テメェらぁぁぁぁぁぁぁ!」


 咆哮と同時、殺到してくる総軍を突き抜ける一筋の黄金は、百年の時を超えて第六法へと炸裂した。





(中略)






 心鉄金剛は砕け散った。

 一殺を確約された『射殺す栄光』ですら、第六法があらゆる記録の結晶体であるという特性上、そこに記録されていた内のたった一つを抹消するだけでとどまり、その他の心鉄金剛も、記録と再生の前に押しつぶされて散ってしまった。


「ひ、ひゃ……」


 それでもリーナは生きていた。絶えことなき激痛と、今にも途絶えそうな意識を、強靭な精神力と、こみ上げてくる歓喜で縫い付けて、欠損した四肢と心鉄金剛を振り返ることなく、ついに第六法の前へと立つ。

 サイズ差は考えるのすら馬鹿らしい。宇宙と蟻を比べるよりも至難だ。

 そんな相手を前に、リーナに出来ることはなんだろうか。今もなお絶え間ない破壊に体を嬲られながら、ただ前へと突き進む姿は愚かなだけか。

 否。

 リーナの瞳には諦めは存在しない。


「『栄光に果てることなく、栄光に潰されることなく』」


 削られていく肉体と意識とは裏腹に、体中から噴出す魔力は増加の一方。まるで己の肉体を代償に魔力を得ているかのようで。


「『手に取る英知に溺れることなく、私はただただ頭を上げる』」


 魔力を耳垢ほどすら余すことなく両手にかき集めていく。そしてその量から考えればあまりにも少ない術式が、膨大な魔力の縄で指先に刻まれていた。


「『おぉ、この終末に語ろう。私の吐息は貴方を焼き、私の視線は貴方を貫く。栄光と英知の灼熱の担い手となって、この一振りこそ黄昏の響きとしよう』」


 黄金の印に手首まで飲まれたそのとき、リーナは己の胸部に自らの両手を突っ込んだ。豊満な乳房の間を掻き分けて、両手は体の中へと進入する。しかし、手のひらが胸を貫いたというのに、その体から出血はなかった。

 赤い血の代わりに溢れ出すのは黄金の雫。胸の間から輝きが飛び出して、祈るように組まれた両手のひらの間から、抑え切れぬ輝きが零れてだす。


「『其は祈りの罪科。民草の思い描く破滅の狼煙』」


 組んだ手のひらを開く。浮かんだ笑みを黄金に染めながら、リーナの両手の間に、無形の黄金が生まれた。

 其は神罰。

 あるいは願望の結晶。

 命の望んだ『無意識の破壊』。


「『我が一撃……絶壊なり』」


 その名前にも刻まれた願いこそ、星の敵たる証拠物品。

 願望兵装、第一刑。


「『終焉に轟く不変の黄昏─ラグナロック─』」


 第六法すら駆逐して余りある願いの具現を振りかぶる。

 込められるのは命の意志。あるいはリーナという個人が託した命の意味。


「くたばれぇぇぇぇぇぇ!」


 己の身すら削りながら、鮮血の超越生命が命の炎を燃やし尽くす。

 放たれる黄金終焉。終末を招き入れるのにこれ以上ない終焉にその身を焼きながら、唯一無二の最強の一角は、最後まで笑みを絶やすことなく、黄金の閃光に消えていくのであった。


 そしてこれを切っ掛けに『おわり』は産声をあげる。無に有るという矛盾を両立させる災厄。それほどまでに恐ろしき、神すら慈悲を願うしかない化け物が最初に見たのは、目を焦がす黄金の流星で──。


例のアレ


リーナ・ラグナロック

若き王者が帰ってきたッ!どこにいっていたんだッ超越生命!俺たちは君を待っていたッッッ(死人も含めて)

リーナ・ラグナロックの登場だーーーーッ!


黄金の羊

敵性存在対策は完璧だ!第三法『夢見る獣』!


宇宙さん

デカァァァァァァァァい!説明不要!宇宙サイズ!第五法『果てのない目の前』!


蛇さん

異世界からパクった実戦魔法!七法のデンジャラス!第四法『届かない現実』!


少女のような少年のような人型の人形。

人間の前でも魂がないので本気を出せる!第二法『世界を描く者(残骸)』


リームシアン・ヴァーミリオン。

なんでもありならこいつが怖い!第三位!リームシアン・ヴァーミリオンだ!




こんな感じ。






以下、閲覧注意。









第六法『消えた魂』

世界が生まれてから現在に至るまで、無機物も含めてあらゆる存在を記録しており、それらを支配下に置いたうえで蘇生(再生)出来る。しかも同じ存在を何体でも再生可能。

情報の塊のようなもので、核と呼べるものがこれまでの全ての情報。なので、第六法を撃破したとき、第七法が侵略しやすい虚無に近い状況が生まれることにより、第七法の覚醒が早まることとなる。


第七法『終末』

可能性のゼロ領域。またの名をゼロ地平と呼ばれる場所(?)に生きる『無』。

例え心鉄金剛だろうが願望兵装だろうが、無であるために傷をつけることすら不可能。だというのに、終末の本体はそこに『有る』という矛盾を両立させている。

文字通り、『無』敵の存在。

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