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日常平和録  作者: 絵描きさん
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最近、足太くなったんじゃね?その2

 おいラグナ、足太くなったな。


 理由があるとするなら、この一言だろう。既に理由なんて両者共にさっぱりと忘れてしまっているが、クトゥア・ベイがその日、自分の背中に跨るリーナ・ラグナロックに言ったこの一言こそ、世界を崩壊させた終末のラッパの一吹きだった。もし真実を知ればアースガゼルの人々は激昂するに違いない。

 だがまぁ例え世界中の生命が激昂しようとも、この二匹の化け物をどうにか出来るわけがないが。


「ぎぃぃぃぃぃぃ!?」


「ごぉぉぉぉぉぉ!?」


 光が渦巻き霧散していく。天地を貫く槍が沈んでいく。世界が生まれる前の、原初の混沌の風景が展開されていた。ただ暴力的な力と力が混ざり合い、爛れて溶けて空へ、または大地へと消えていく。原初の暴力に晒された大地は悲鳴をあげ、その在り方を無へと変換していき消えて行った。

 残ったのは、彼方まで広がる破壊の傷跡。地下深くまで刻まれた傷跡は、まるでブラックホールのような暗闇で覆われ底が見えない。それが彼方まで、地平線を超えてさらに向こう側まで広がっていた。

 極限の光と、神罰の一撃の激突は、互いに相殺し合うという結果に終わった。

 リーナは残存魔力のほとんどを消費して、かつ黄金よりも美しい体には幾つもの裂傷が刻まれている。呼気は荒く、ダメージは深い。しかし目は爛々とほの暗い光を放ち、三日月を描く口は未だ余裕の表れ。

 一方ベイには傷という傷は見当たらなかった。魔力もリーナに比べたらそこまで消費していない。ただし、切り札の一つである心鉄金剛は、暫くの間、少なくともこの戦いが終わるまでは使用出来ない。他の心鉄金剛ならいざ知らず、ベイが今回使った苦悶する底なしの沼は、そう何度も使用出来るものではないのだ。

 故に、必殺だった。直接的な戦闘能力では、現状僅かに劣るベイだからこそ、初手に全てを賭けなければ勝利は見えなかった。

 なので、リーナも相応の兵装を出すと思ったが、まさか心鉄金剛をただの魔法で迎撃するとは予想外だった。

 直撃を受けても、死なないだろうという予感はあった。そも、死んだとしても問題はないのだが、まさか完全な相殺とまではいかないものの、たかだか魔法でここまで防ぐとは夢にも思わなかった。

 だから感動した。素晴らしい。最高だ。やはり主こそ我が花嫁に相応しい。賛美の言葉が後から後からベイの心に浮かんでくる。愛しい怨敵よ、なればこそ我が業火が主には相応しい。


「……なぁラグナよ」


 なので、ベイはただ感心したままに。


「主は、馬鹿か?」


 そう、率直な言葉を口にしていた。


「ヒャハッ」


 血濡れのリーナは奇怪な笑い声をあげる。

 返す言葉はない。

 心鉄金剛は、過去、未来、全てにおいて最強の武器の一つだ。使われれば最後、その効果に属した力に沿った魔法を使用して、上手く力をいなすのが一番賢い対処の仕方である。

 それを、真っ向から、唯の火力だけで相殺しきる。確かに敵性存在と呼ばれる化け物共ならあるいは可能だろう。だが、あくまで可能なだけであって、今のリーナのようになるのは必定である。いや、場合によっては、あの一撃で決着がついてもおかしくなかった。

 例え創世の光を破壊の一点に変換したものをぶつけてもだ。心鉄金剛とは、そういう代物である。仮にこれから何億年と時を重ねて、さらにリーナが強くなったとしても、心鉄金剛だけは侮れないし、怯えなければならない。

 何故ならそれは究極だからだ。大陸を消せようが、星を潰せようが、銀河を消し飛ばせようが、宇宙を握りつぶせようが、心鉄金剛の特性、この一点のみに関しては、ありとあらゆる常識を削り取る。

 故に神殺し。敵性存在が恐れ、敵性存在が切り札とする、敵性存在すら縛られてる原初の法則の塊だ。

 それに結果として上手く相殺したのは、一重に離脱を上手く果たしたことと、全力で防御を固めたからだ。確かに脅威、確かに恐怖、しかし、心鉄金剛を防いだアドバンテージは大きい。

 最も、代償は随分と高くついたが。笑みを浮かべながらも、リーナは冷静に自分の状態を確認した。


(あふん、体中の傷がゾクゾクくるぜぃ。残念だったなぁベイ、あたしってばMっ気も全開だからこの程度は性癖の範囲内なんだぜぇ、ヒャハッ……真面目な話、左半身は沼に食われて使い物になんないし、何より最近思いついた切り札でも心鉄金剛をある程度防ぐしか出来なかったのはかなりショックだわ。さてさて、どうしましょ)


 リーナ・ラグナロックの全霊を賭けた回避と防御も、アポリオンの一撃を完全に回避することは出来なかった。表面上は問題ないが、リーナの左半身の内部は、アポリオンに溶かされて、中身は完全にスカスカとなっている。何とか溶解をそこで食いとめたはいいが、未だに溶解と再生を繰り返す体組織は、この戦闘中では回復は望めないだろう。

 つまり、リーナは全世界最強、赤熱の魔神に対して、実質、左半身消失というハンデを背負って戦わなければならない。

 今更、私の負けでいいから喧嘩するの止めようぜ。という考えはない。この戦いは、理由はともかく、何処かで決着しなければならない戦いだ。

 人族の集合体か、魔族の集合体か。種族としてのトップを決めるために、避けては通れぬ道。


「ヒャハッ」


 とはいえ、そこらへんの理由などもどうでもいい。

 どうだっていいのだ。

 こいつが最強で。

 アタシも最強で。

 なら、どっちが最強かを決めるのは、当たり前な帰結で。

 リーナは笑い声を一つ。今にも崩れそうな体に鞭を入れて魔力を広げる。世界一つを丸々と包み込むような魔力を容易に吐き出したリーナh、その魔力を意志一つで魔法と化して世界に現出させた。

 偽・黒点背徳と呼ばれる術式が、無詠唱、無魔法陣で容易く、総勢百万にも及ぶ規模で展開。それらがまるで散弾銃の如き勢いで、虚空にたたずむ狼に向けて放たれた。

 一射一射が、Bランク程度なら致命傷を与えるその虹色、あるいは無色の光を前に魔神皇帝は不動。むしろつまらなげにため息を吐き出すと、息を軽く吸い込み。


「■■■■ッッ!」


 宇宙まで轟く遠吠えが、迫る魔弾の全てをかき消した。たかが遠吠え一つ、しかしそれも魔神皇帝のならば、それだけで暴力的な力となる。

 しかしその程度、リーナは予想しなかったわけではない。右手に展開するのは、古びたマスケット銃。先の魔弾に比べて、あまりにも頼りないそれを、いつの間にかベイの背後に回りこんでその体に向ける。


「『接続─セット─』!」


「『炎獄』!」


 ベイの口から、リーナ目掛けて凝縮された白色の炎が放たれる。その密度は、常人が届く限界を何億も束ねたほどの規模、余波だけで海すらも蒸発させるそれが迫るというのに、リーナはマスケット銃を構えたまま、壮絶な笑みを浮かべた。


「『回れ回れ回れ回れぇぇぇぇぇぇ─リボルバー─』!」


 炎熱に対して矮小すぎる銃口から、リーナの号令と共に乱回転する恐ろしい魔力の本流が吐き出された。

 それは本来異能を全て燃やし尽くす白炎すらも食いちぎり、勢いのままベイの口内に突き刺さる。


「ぐるぁぁぁ!」


 だが、食らう。恐るべき魔神は、貫通という点で特化された魔力を、あろうことかその牙で噛みとってみせたのだ。

 だがそれでも勢いは止められない。魔力に押されるがまま吹き飛んだベイは、遥か彼方、数千キロ程度を瞬きで滑空してからようやく魔力を噛み千切った。

 そして、射線から体を捻って逃れる。なおも彼方へと突き進む魔法は、その威力を減衰させるまでにどのくらいの時間がかかるだろうか。

 それでも、それだけの威力を持ってしても、魔神が受けたダメージは僅かに口を切り裂いた程度である。互いに小さな点にしか見えない─『平行に広がり続けているこの世界では』地平線は存在しないのだ─姿を見て、どちらもその顔に浮かんでいる笑みをしっかりと見た。


「ふん……お得意の概念武装か……しかしラグナ、『加減した武装で』我を仕留めようとはお笑い種よ。そんな玩具を使わずに、まともにやってはどうだ?」


「んなことを言ってもよぅ。こちとらオタクの切り札ですっかすかになってるの。だからこうしてちまちま牽制して、隙作って、ゲージ溜めて、超必殺技でも撃たねぇと勝てないのよ、わかる?」


 遠すぎる距離を挟んでいながら、まるですぐ隣にいるかのように二人は会話を楽しむ。

 笑顔で話しながら、一方で二匹の化け物は体の内側で魔力を練り上げていく。吐き出すのではなく、内側で溜め続ける。

 その密度は、放出されればすぐにでも新たな崩壊が起こるような規模。それらの運用方法を脳裏で構築。現状で可能な出力の最大値を、敵手の命に叩きつけるまでの流れを。


「ヒャハッ」


 先に動いたのはリーナからだった。笑い声が響く前に、空間転移を使いベイの真下に移動。魔力を纏った右手を、その背中目掛けて振るった。

 力任せの乱暴な一撃は、その見た目とおり暴力的な威力を発生。ベイが身を翻してそれを回避すると、天の青を突き抜ける魔力が、暗黒宙域を走る新たな流星となった。

 それだけの威力、幾らベイとはいえ、直撃を受ければ必死の一撃を難なく回避した刹那、ベイの口内が再び開いた。


「『■■■■ッッ』!」


 魔力の乗った雄たけびが、煌きとなってリーナの左腕に直撃した。

 根こそぎ消滅する腕と、直下に出来た空洞がさらに深く破壊されていく音。下など見えないと思った、世界一つを包み込む空洞が、ベイの魔力砲撃によって光に照らされた。

 だが片腕、しかも使い物にならないほうが食われただけだ。リーナは噴水の如く出血をする左腕の付け根に右手を這わせた。

 瞬間、ほとばしる鮮血が生き物のように蠢いて、ベイとリーナの間に魔法陣を象った。


「愛してるぜ、ベイ」


 そして、投げキッスをしつつ、リーナは右手で魔法陣をノックした。

 破裂。超越生命の血という、あらゆる至宝を凌ぐ宝を媒体にした魔法は、赤色の何かをベイの体に叩きつけた。


「ぬぐぅ……!?」


 咄嗟に距離を置いたベイの体が煙をあげて溶けている。だが所詮は心鉄金剛には及ばぬ模造品。表皮を僅かに溶かしただけで、ベイの溶解は止まっていた。

 だがその僅かな時間だけでいい。ここを逃したら勝機はないと確信。敗北の闇へ追い込まれていっているスリルと恐怖。

 最早、リーナ・ラグナロックに残された手はほとんどない。自由の利く右手の手のひらに魔力を収束。切り札を使う時間もない今、最後の手は純粋魔力を直接その体にぶつけることのみ!


「おりゃああああああ!」


 振るった右腕は、違うことなくベイの腹部に突き刺さった。叩き込まれた魔力がベイの体の内部で乱舞して、その中身をぐちゃぐちゃにかき乱す。

 しかし、その程度の物理的な負傷は、敵性存在には意味がない。痛みを無視して爪を翻した、リーナの二の腕が深々と切り裂かれる。

 それもいい。それも予測していた。どちらも考えうる最善手を尽くしながら、結末に向かって突き進む。

 一合ごとに大気が割れ、空が狂い、世界が震えた。中心にいる彼らの体が壊れるたびに、あらゆる常識も砕けているようだった。

 終わらない激突は、しかし初めから勝敗のわかりきった出来レースだ。

 リーナ・ラグナロックには打つ手がない。初手を違えたことこそが最大の敗因。左半身のない状態で、クトゥア・ベイを落とすなど不可能だった。

 だから、負ける。リーナの最善に、ベイも最善で応えている。であれば、押し負けるのは間違いなく自分で、徐々に削れて行く意識の中、あぁ、こりゃやばいわなぁと何処か他人事のように自分の敗北を予感した。


(まぁしかし、これはこれでよかったかもしれねぇぜ。何せ私ったらあらゆる意味で、超☆無敵、みたいなキャラだったし? ここらで伸びきった乳首もとい鼻をへし折られたほうが、ヒロイン属性としては完璧かもしれねーぜ……ってもなぁ、このままガチバトルってはい負けましたってのもあれだしなぁ……どうしたもんかなぁ)


 ついに防戦一方となったリーナは、血まみれの脳みそに閃きを感じた。

 ぶっちゃけると、ただのヤケクソだった。


「そうだ、脱ごう」


「ハァ?」


 そして、ついぞここまでたわわな乳房を守り続けていた鉄壁のスポーツブラを、リーナ・ラグナロックは豪快に脱ぎ捨てたのであった。






「懐かしいなぁ」


 しみじみと昔を懐かしむ。あの後、私のナイス機転でベイ……もといヴォルグアイの奴、超慌てて、その隙に必殺のおっぱいミサイルでケリつけたんだよなぁ。

 うんうん、いやぁ、アタシってばいっつもそうだけど、こと戦闘におけるセンスは神レベルじゃねーのかって思うわけよ。

 な?

 君もそう思うだろ?

 ん。

 やっぱしね。アタシってば天才的よねぃ。アレから露出の醍醐味に気づいてさ。でもまぁ、アタシがチラリズムに目覚めるっていうのは、世界的に見ても素晴らしい出来事なわけ。

 え? 話を聞く限りだとモロリズムであって、チラって感じじゃなかったって?

 ははは、確かにアタシは勢いよくブラはいでびんびんになったアレを見せ付けてやったわけだがね。

 ちゃんとその後すぐに見た目だけ再生させた左腕でポイントだけは隠したから、やっぱしチラリズムなわけよ。

 そもそもチラリズムっていうのはね……あ? そういうのいい?

 そう。

 そりゃ残念だ。

 いやホント。

 ……。

 ホントに聞かない?

 ……うん。

 で、まぁそんなこんなで、あれから結構な時間が過ぎてさぁ。いい加減アタシもあいつのこと忘れてきたころにさ。

 あいつ、魂だけで星の炎従えて復活しやがったの。

 あれは流石に驚いたね。幾らアタシでも星の炎を貫く技は結構限られてるからさ。それにちょうどそのときクソをひりだすぎりぎりで堪える快感を楽しんでたから、あ、こりゃクソ漏らしたわぁとか思ったよ。

 でもあいつ、なんかかなり性格丸くなっててさ。復讐に来たんじゃなくて、ちょっと近くに来たから挨拶に来ただけで、すぐに自分の家に戻るって言ってさ。

 いいよねぇ。あいつ、新しい趣味に目覚めたみたいでさ。かれこれ数千年はそれ楽しんでるんじゃない。

 アタシもいつかはあぁいった趣味でも持ちたいものだよ。まっ、折角だから趣味探しの一環で、ゲームでも作って遊ぼうとは思ってるけど。

 だけどさぁ。

 だけどねぇ。

 やっぱし、アタシに一番性に合ってるのは戦いなんだよねぇ。

 命削ってさぁ。本気で殺しあって、勝ったり負けたり死んだり死なせたり。


「だから、彼らはそんなアタシの暇潰しに選ばれたのでした」


 そう言って、リーナ・ラグナロックは、世界を荒らした三体の魔王もろとも沈み、今は湖となった場所を指差した。

 応じるのはまるで何かを封じるように四肢を包帯と鎖で押さえつけられた、線の細い優男だ。


「実は特訓がてら一体くらい回してほしかったりしたんですけど……」


「ヒャハッ、そいつぁ悪いことをしちまったね少年。でもまぁいいじゃねぃかい。少年には本命がいるわけだしよぅ」


「その本命とやる前に特訓したかったんですけどね」


 あはは、と乾いた笑いを浮かべた男は荷物を担ぐと、リーナに背を向けた。


「では行きましょうかマスター」


「エロスマスターとでも呼びなさい」


「それはやだなぁ……」


 そうして化け物一体とその従者は旅を続ける。

 その旅路の決着が何処にあるのかは、今はまだ誰も知らない。


例のアレ


おっぱいミサイル。

当たったら死ぬ。

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