餡×シ本 サンプル
サンプルなので本番はお預けです。
キスなどもないですが、押し倒してますので男同士が苦手な人はお気を付け下さい。
またその先が気になったという方は是非、ダバイ国のイベントで続きをお買い求め下さい。
「やらないか?」
投げかけられた言葉に、ドレイク=ランバートはおもわず耳を疑った。
彼の目の前に立つのは、先月知り合ったばかりの暗黒騎士。
しかし彼は驚くほどの無口だった。今の今まで頑なにその口を開こうとせず、兜の下の口を糸で縫いつけられているのではとドレイクは本気で思っていたほどだ。
宝を得る為に潜り込んだ古い遺跡でたまたま出会い、それからズルズルとパーティを組むようになって早1ヶ月。
暗黒騎士は寡黙ながら無駄に腕が立つので、手強い魔物がいる遺跡に潜るには好都合のパートナーだった。そして彼も己の腕を磨く為に魔物と戦いたいと思っていたようで、護衛を引き受けろというドレイクに何も言わずに付き従った。
会話は勿論挨拶もない。
唯一のコミュニケーション手段は頷きや視線だけだが、歪な骸骨の鎧はそれすらもわかりにくく覆い隠している。
だが不思議と、ドレイクには彼の言いたいことがわかった。だから二人きりで長いこと遺跡にこもっていても苦になることはなかった。
むしろ無駄にお喋りな相手とパーティを組むよりよっぽど良いとまで思っていた。
だから暗黒騎士の寡黙さをどうこうするつもりもなく、それどころか彼が喋るはずがないと心のどこかで思ってもいたのだ。
故に彼は暗黒騎士の言葉に、それはもう驚いた。
驚きのあまり1分ほど返事を忘れ、そのあとでようやくドレイクも口を開く。
「やるって何を?」
思わず尋ねたのは、この場には酒も無ければタバコもカードもないからだ。
ただ二人の間には少し大きめのベッドが一つあるだけ。
本当は2部屋か、もしくはベッドが2つある部屋を借りたかったが、空きがないと言うことで渋々ここに泊まることにしたのだ。
ちなみにベッドはドレイクが使い、暗黒騎士は床に寝ることになっていた。
別にドレイクがベッドが良いと主張したわけではない。ただ暗黒騎士が何も言わずに床に毛布を引きそこに陣取ってしまった結果だった。
だがもしかした彼の気が変わったのかもしれない。だから何かしらの勝負をしてどちらがベッドを使うか決めようと、そう言いたかったのかもしれない。
ドレイクはそう結論づけて、おもむろに金貨1枚取り出した。
「表と裏、どっちが良い?」
ベッドに腰掛けながら金貨を投げれば、暗黒騎士は小さく小首をかしげた。
「ゲームじゃないのか?」
「ゲームじゃない」
今度は先ほどよりはっきりと彼の声が聞こえた。
予想より低いなと思わず顔を上げた瞬間、そこには見覚えのない男の顔があった。
長い銀糸の髪に縁取られた美しい面の男は、悩ましげに眉をひそめドレイクを見ていた。
女性でも、ここまで曇りもない美貌を有する物は少ないだろう。なにせ男であるドレイクですら思わず見ほれる美しさである。
だからこそ、ドレイクは一瞬気づかなかったのだ。その男が、己の相棒であることに。
「別のことがいい」
声を聞いて、そしてドレイクは目の前の男が暗黒騎士であることに気づいた。
正確には近づいてきた胸に下がった黒いメダルで、彼は相手の正体に気がついたのだ。
最近では「冒険者」とひとくくりにされることが多いが、武器を持ち、世界を巡る者達は皆それぞれ「ジョブ」と呼ばれる職業を持っている。
ジョブはギルドと呼ばれる組合をそれぞれ運営しており、新人の冒険者はそのギルドに入り、そこでまず1年ほどジョブごとに戦い方や仕事の仕方を学ぶのだ。
そしてそれらを習得し終えると、はれてギルドの一員となり、ジョブの名前を名乗ることを許可する証を貰える。
その証こそが『メダル』だ。
例えばドレイクはシーフのギルドに入り、そこでシーフだけが使える様々な技を習得した。故に彼の首にはシーフの証である金のメダルが下がっていた。
そして暗黒騎士もまた、その首に黒いメダルを常に下げている。
髑髏をかたどるそれは歪で、その歪さはまるで暗黒騎士自身を表しているようだった。
間近で揺れるそれを見て、男が暗黒騎士だと認識して、そしてシーフ更に息を飲む。
メダルには持ち主の力量を表す身分証明の役割もあり、世に言う「レベル」はこのメダルに彫られた数字を指すのだが、暗黒騎士のメダルに彫られていたそれは、あまりに非現実的な数だったのだ。
習得した技や魔法の数、倒した魔物の種類、こなした仕事の数などでこのレベルは決まり、だいたいの冒険者が一生涯のうちに得られるレベルは50前後だと言われている。
だが今ドレイクの目の前で揺れているメダルにはⅨが二つ並んでいる。
つまりレベル99。
ギルドが定める最高位のレベルである。
「お前、一体何者だよ」
思わずメダルから暗黒騎士の方へと視線を上げれば、彼はまたしても小さく小首をかしげていた。
「暗黒騎士」
いや、そんなことは分かってるよ。見りゃわかるよと突っ込みたいのを堪えていると、奴はようやく合点が行ったという顔をした。
「レイド」
「名字は?」
「ない。ただのレイド」
レイドと口の中で繰りかえすと、奴は暗黒騎士とは思えない穏やかな顔で頷いた。
「それで、いいのか?」
レイドの問いに、ドレイクは今更のように彼の真意を確かめている最中であったことを思い出した。
「だから何をやるんだよ? つーかおまえ、さっきから近くねぇ?」
「近い方が良い」
「いやよくねぇよ。これじゃ俺、まるで押し倒された女みたいじゃん」
レイドの顔とメダルに見とれていたうちに、気がつけばドレイクの体はベッドに倒されていた。その上ドレイクに覆い被さるような体勢で、レイドはドレイクを見下ろしているのだ。
「つーかなに? レスリングでもやんの? たしかに丁度今、オリンポセアでスポーツの祭典やってるけどさ、お前興味なさそうだったじゃん」
半ば冗談のつもりで言って、ドレイクはレイドを押しのけようと肩に手をかける。
だがそれをレイドはきつく掴んだ。
「近い」
近い? そう訪ねようとした瞬間、突然ドレイクの来ていたベストのボタンがはじけ飛んだ。
あつらえたばかりなのにと考えて、そこでようやく彼は我に返った。
サイズが小さいわけでもないのに、勝手にボタンが弾き飛ぶなんてあり得ない。そう考えながら視線を更に上へと移動させたドレイクは、レイドの手に握られたナイフの存在に気がついた。
「お前…何…して…」
「鎧だとボタン外すの難しいから、取った」
取ったんじゃなくて切ったんだろと思わず突っ込んだ瞬間、レイドの口から飛び出したのは馴染みのある詠唱魔法だった。
「闇の鎖よ、かの物を拘束せよ……」
詠唱に続いて言い放たれた魔法の名が拘束魔法の物だと気づいたが、時既に遅かった。
動かない体に思わず悲鳴を上げれば、レイドは満足そうに頷く。
「よし」
「よしじゃねぇぇぇぇ!!! お前一体どういうつもりだ!」
「やる」
「何をだ!」
「レスリングみたいに裸で絡む奴」
それは限りなくレスリングではない。だが淡々と語る暗黒騎士にそれを言ってもきっと無駄だ。
「何でこんな事するんだよ! まさかお前、俺に……」
惚れてるのかと尋ねて、ドレイクは思わず赤面する。
それにレイドは小さく笑い、そしてドレイクのズボンに手をかけた。
「好きじゃないけど、なんかムラムラする」
拘束魔法がなかったら頭突きの一つでもしてやりたいと思った。いやむしろしてやらねば気が済まない。
なにか、手近に武器になる物でもないかと唯一動く視界と指先で枕元をまさぐり、そして彼は気がづいた。
枕元には何故か「撒き餌」と呼ばれるアイテムが転がっていたのだ。
撒き餌は一見クッキーのような形をしているが、それは魔物が好むニオイを発しており、魔物から逃げる時に注意をそらしたり、逆に罠にかける時などに投げて使う物だ。
単独行動を好むドレイクにとってその撒き餌は大事な武器の一つで、常に鞄の中に忍ばせている。
だがそれが、今日は何故かベッドの上にあった。それも、明らかに食べかけの状態で。
「おいお前……まさかここにあった餌くったのか!」
「餌?」
「クッキーみたいな奴だよ!」
「ああ。あれ美味しくなかった」
遠回しな肯定に、ドレイクは思わず天を仰いだ。
なぜならクッキーには幻覚剤の一種が入っているからだ。元々は魔物を混乱させる為の物だが、人間に使うと一種の錯乱と同時に欲情させる効果があると、前にシーフ仲間が言っていた。
だから女にかじらせてみろよともシーフ仲間は良い、それも良いかも知れないとドレイクは思っていた。
だがよりにもよって、それを食したのは男である。
それも暗黒騎士。ついでに言うとレベル99。
勝てる要素は何処にもない。
「とりあえず冷静になろう。お前は今ちょっと頭がおかしいんだ」
「そうなのか?」
「そうだ! だから冷静になろう! やりたいのは分かるが、それなら他に女を見繕ってやるから!」
女を引っかけるのは得意だからとドレイクは胸を張って主張した。
だがその瞬間、穏やかだったレイドの雰囲気が深く深く闇に落ちていく。
「それはいやだ」
言うが早いが、レイドはドレイクのズボンのベルトを派手に引き抜いた。
「ヤダって何だよ!!」
「君で良い」
「妥協すんな!」
しかしレイドに心変わりはないようだ。
「ダメだって! いつかほら、素敵な彼女が出来た時にお前絶対後悔するから! つーか我に返った瞬間ショックで引きこもりになったりするレベルだぞこれは!! ブログとかに『はじめてを、男にあげちゃうんじゃなかった(´;ω;`)』とか書いちゃうレベルだぞ!!」
とにかくレイドが考え直すように、ドレイクはひたすら言葉を紡ぐ。
だが結局、帰ってきた回答はシンプルな物だった。
「ブログは持ってない」
だから大丈夫と言うなり、美貌の暗黒騎士は自らの鎧の留め具に手をかけた。
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