第二十八幕 久隠と運命の輪
と、言う事で、盾にされました…これでも武蔵家を支える家政夫、少し切ないナオキです。
「ん、少し気温が下がったな」
俺は目の前に立ち塞がる黒服を片手で軽く吹き飛ばすと、ふぅ、と一息ついた。
「気温?ん〜確かに今日は寒いけど」
「そういう訳じゃない。確かに今夜は寒いけどな。俺が言ってるのはここの工場内だけの話だ。先程とは冷たい…というか乾いた感じがする」
「オレにはさっぱり分からないや…」
「まぁ、これから精進すれば分かるようになるさ」
「それって、やっぱり分からないといけないものなの?」
「正直、生活にはいらないけどな」
小さい頃からこいつらを見てきた俺にとっては、あまり関わって欲しくないのが本音だが。
…正直、俺や零、あと一応渚の使える『モノ』は絶大な力だ。強い力は強い力を引き付け合う。それは必ずしも良い方向とは限らないからな。
強すぎる力で最後に滅びるのは自分自身だから。
「私は少し分かったわよ」
ムサシの後ろにここぞとばかりピッタリと背中にくっ付く蘭が言う。
「蘭は元々そういうのに敏感だからな」
「才能よ、才能!」
えへん、と誇らしげな顔をする蘭と、少し悔しそうなムサシ。
「…渚。あと敵は?」
「はい、え〜と…あすかちゃんまでの道にはもういませんね」
「…そうか」
少し不自然な感じもするが大丈夫だろう。ただ…気温が下がったという事は、零が本気を出したことだからな。用心はしなければ。阿久津の古株が出てきたのであれば、必ずアイツが現われるはずだからな。
「そ、そこの黒いやつとその他ッ! 」
ほら、呼んでもいないのにやってきた。
「こ、ここはこの私、久隠が立ちふさがっているのです! 」
思わず、俺以外の三人は何やら日本語がおかしいヤツの方へとへと振り向く。
そして固まる。
そりゃそうだ。隅っこで恥ずかしそうにこちらを見ている刺客がいれば誰だって固まる。
「うわっ!?なんか物凄く淋しそうで、且、キャラが濃い人が何か叫んでるよ!このままじゃ私、影が薄くなる一方で…」
嘆くな、蘭。いつか日の目が当たる日が来るさ。
「……うるさい」
「何よッ! あなたがキャラ濃すぎなのが悪いんじゃない! 」
「それは…嫉妬? 」
「…うん」
泣くな、蘭。いつか目立てるときが来るさ。
「とりあえずッ! こ、ここは通さないんだからね、理由はわかんないけど」
「久隠、久しぶりだな」
「あれ、ナオキ……久しぶり」
「ナオキ…あの引き篭もり寸前な乙女と知り合いなの? 」
隅っこで渚に慰められていた蘭は涙目でちらりとこちらを振り向く。
「まぁ、一応な。久隠は昔は暗器使いの達人でな」
「暗器……何それ? 」
「暗器って言うのは簡単にいえば…まぁ暗殺用の武器だと思えば良い。例えばクナイとか短刀とかな」
「まぁ、そう言われてみればそんな格好してるみたいだけど……」
「あれは……久隠の趣味だ」
と、俺は高台から降りてこない久隠を見上げる。
「……普段着だもん」
と、こちらを泣きそうな表情で見つめられても困るのだが。
「で…俺の邪魔をするのか? 」
ううん、と首を横に振る。
「ナオキとタイマン張るほど私は馬鹿じゃない……ここは無条件で通してあげる。」
「ん…すまないな、久隠」
俺が礼を言うと、久隠はふっ、と一瞬、姿を消し、瞬時に俺達の目の前まで現われる。
「ただし……ナオキに少し話があるからナオキは借りる」
「俺に話? ……ムサシ、別に先に行っててもいいぞ。俺は後から追い掛ける」
「……分かった。先に行ってるからさ」
先を急ぐムサシ達に手を振り、俺は久隠の方を振りかえる。
「で…話っては? 」
「今回のお詫び」
あぁ、と俺はそこらにある木材の上に座り、ちょうど久隠と向き合うように座る。
「まだ時間はある。ゆっくりと昔話にでも花を咲かせようじゃないか」
と、俺はもじもじしている久隠に笑いかけた。




