第二十六幕 セーラー服とシスコンと
で、今夜。ヤル気と殺気に満ち溢れている神田家で、ヤル気などさっぱりない俺ことナオキと、何故かセーラー服に着替えた零は、二人で静かに茶をすすっている訳だが…。
…今夜もナオキがお送りする。
「あ〜、お茶が美味しいわ…」
「…全く」
俺は、高級な茶なのだろうか、家の税込、二百九十八円の粗茶とは香りも味もまったく違う茶をすすった。同じようにセーラー服の零も茶をすする。
「まったく、いつまでどったんバッタンやってるのかしら」
「おやつが三百円までだからみんな焦ってるのさ」
「バナナはおやつに含まれないのにね」
確かに先程から周りで下っぱの皆様が忙しそうに走り回っている。手にはビニールシートやら、焼酎の瓶やら対装甲戦車用ロケットランチャーやら様々な物を持ち、運びだしている。
「で…零、何で今更セーラー服なんだ?萌えにでも目覚めたか?」
「あっ、これ?これは…ネタの下準備よ、下準備!」
「遊びに行くんじゃないよな、俺達…」
「人生にユーモアは必要なのよ。それをユーモアと感じられる心も必要だけど」
「しかし…何年前のセーラー服だよ。久しぶりに見たぞ」
「あっ、これ?型は同じだけどこれは私のセーラー服じゃないわよ。要はコスプレマニアの一品よ」
「まぁ、一応、それは無いと思うが、念のためな……一体誰のだ?」
「神田家当主の」
「ガッテム!」
やはりか…やはりあの親父はそんな趣味があったのか!だから零と話しが異様に合ったのか!!
「何、がっくりと肩落としてるのよ。ショックだったの?」
「いや、鉄殿だけはまともな人間だと思っていたからな…」
「武蔵家の知り合いにまともな人間なんていないわよ」
「…まともな人間、一人もいないもんな、ウチ」
「悲しいけど、これって戦争…じゃなくて事実なのよね〜」
「武蔵家の現当主がこれだから変人が集まってくるんだろうな…」
「あら、何か言った?」
「いや、なんにも…」
…で、深夜。
「ねぇ、鉄、ホントにここにあすかがいるわけ?」
「あぁ、携帯のGPSで確かめたから間違いないぞ」
自信満々の鉄と、疑いの色を隠せない、いや、隠さないのか、零は廃工場を目の前になんだかなぁ…、と納得に欠けている。
「火曜サスペンスみたいじゃない、何か廃工場に乗り込むなんて」
「おい、零…もう中じゃ誰かが暴れてるみたいだぞ?」
「…ナオキも気付いた?まさかだと思うけどね」
「俺もまさかだと信じてるよ」
「何、ごちゃごちゃ言ってんだよ!ほれ、突撃〜!!!」
ガンッ!とに錆びた鉄製の扉を勢い良く開き、鉄を先頭に突撃する下っぱ達の後ろからめんどくさそうに騒がしい廃工場中に入っていく俺と零。
「オラッー!!神田家当主、神田鉄自ら愛娘奪還しに来たぞぅ!!」
血眼臭い愛用の長柄ハンマーを振り上げる、アドレナリン急上昇の鉄が、刀やバットやパラソルなどを構えた下っぱと共に、先客に群がっている敵に突撃していく。
「うわっ!?なんだこのハンマー振り上げたおっさんは!」
「何、ムサシ!?よそ見したら危ないわよ!」
…何だか聞き覚えのある名前が聞こえたような気がするが。
「おい、零…あれって」
「ムサシィィィ!!今、お姉ちゃんが助けに行くわよ〜!」
「勝手に突っ込むな!」
セーラー服の零が物凄いスピードで鉄を追い抜き、群がる男共をすっとばし、ムサシ達と思われる先客の壁になったのは言うまでもない…。