第二十五幕 武蔵零の憂欝
私こと、武蔵 零はお酒に強い。ぶっちゃけビールなんぞアルコールの低い液体は酒と認めたくないくらいだわ…まぁ、おいしいからいいけど。
さて、前置きはここまで。私が言いたかったのは、飲ませた女より先に、夢の世界へと旅立ってしまう男をどう思うか、って事よ。まぁ、私の場合は…
…爆音が起こる数分前…
「分かった、任せる」
どこぞやら見憶えのある、先端が細く横に突き出ている鉈を持ち出していたナオキを勢いで説得し、惨劇が起こる前に部屋から追い出すと、私は眼下で爆睡している中年オヤジを眺めた。
「…まったく女に対する礼儀がなってないわよね」
私は思わず呟く。まぁ、そんな事いっても男の思い通りにはさせないけど。
「さてと…何で起こすかな? 」
私は周りを見回したが、あるものは、何か執念が籠もってそうな名前入りバットくらい。
…ん、『聡史』の名前入りバット?
いやいや、今回はスルーよ、スルー。
「他には…おっ、アレなんか…」
と、私は異様な存在感を放つ使い古したバットを跨ぎ、何故か、部屋の隅に置いていたハリセンをひょい、と拾い上げる。
「というか、何故こんなものが…ま、ご都合主義ってやつかしら」
私はハリセンをブンブン振り回しながら、熟睡している鉄に向かって行く。
「さ〜て、その身で受けなさい!いざ、卍解!」
私はハリセンに氣を注入し、スーパーハリセンへと進化させる。
「威力は当社比七倍!!狙うはクリティカル!!ス〜パ〜ハリセーン…ギガスラーーッシュ!!」
ドガシャャャャャャン!!!!
「ハリセンでギガスラッシュか…いや、すんげー身体中が痛いと思ったんだよな…」
「零、少しは謝れよ。結果的に起こしたとはいえ…」
「いや、謝ったら負けかな、って思ってるし」
何にだよ、と私を睨むナオキをスルーし、ようやく夢の世界から引き摺り上げた鉄に私は話を始める。
「実はね、鉄。かくかくじかじか…でね」
「ほ〜、ウチのあすかが誘拐ね〜!…誘拐!?」
「いいリアクションね」
で、どうすんのよ、と私は鉄に問う。まぁ、答えは決まっているようなものだけど。
「決まってんだろ!!戦争じゃい!」
「…どこの誰とよ?」
「今日、お前らを呼んだ理由がそれじゃい!犯人は…阿久津しかいないわ!」
「阿久津…?あの危ない筋の?」
「おぅ、決行は今夜。」
「展開が早いわよ!!作戦とか無いわけ!?」
私が怒鳴ると、鉄は不思議そうな顔をし、
「は?あるわけないだろうが!」
と、言い放ちやがった。
…失礼、言葉が悪いわね。
「と、も、か、く!今夜、相手の基地に乗り込むからな!」
「…先が思いやられるわ」
「…確かに」
ヤル気満々の鉄を前に私はナオキと共にため息を吐いた。
…ほーんと、先が思いやられるわ。