第二十二幕 蘭はいつ石の仮面を見つけたんでしょうか…
ぶっちゃけ、逃げることにしました。武蔵ムサシと愉快な仲間たちです。
え〜、前回。すでにあすかが居なくなっていたことに気が付いた、うっかりな仲間たちこと、オレと渚ちゃんは、零ねーちゃんに話を聞くべく一旦逃げることにしました。
が、
もう殺る気満々で飛び出していった蘭を迎えに行かないと行けない訳で。
…怪我とかしてないといいけど。
恐いお兄さん達が。
「渚ちゃん、蘭居た? 」
「前に恐いお兄さん達がしっかりいるじゃないですか!数百メーターしか距離無いんですから見えますよね? 」
と、渚ちゃんに突っ込まれながら蘭と恐いお兄さん達の所へ走るオレでしたが、
「あぁ…遅かったか」
と、目の前に転がる死体…じゃなくて、疎いお兄さん達が痛々しく横たわっていた。
「二人だけですね。あとの二人は…? 」
「奥…だよな? 」
辺りを見回してみたが、ここら辺は異様に入り組んでおり、先は奥まで進まんと分からない状態になっている。
「いやだなぁ…一犯罪犯した後だったら」
「そうじゃないことを祈りましょうか」
オレと渚ちゃんは、蘭目指して角を左に右に、右に左に、右かと思ったら左に、左と見せ掛けて右にと、路地を抜けると、
行き止まりでした。
「…あら? 」
「…あら? って、どしたのよ渚ちゃん! スタント不調? 」
「いえ…確かにこの先に蘭がいるはずなんですが…おかしいわ」
「もしかしてさ…そのスタント、最短距離しか表さないって事はないよね? 」
途端、渚ちゃんが視線を逸らした。オレが合わせても視線を逸らす。
「渚ちゃん、まさか…」
「…すいません、役立たずで」
「やっぱし…」
オレはへこむ渚ちゃんの肩をポンッ、と叩くと、どうしたもんだか、と目の前の壁を見上げた。
「登る訳には行かないよな…さすがに」
「さすがに直角はよじ登れませんよ…ハァ…」
「かといって抜け道があるわけじゃないしなぁ…」
「壊せる厚さじゃありませんし…ハァ…」
「渚ちゃん、もう溜め息吐かなくてもいいよ。正直、オレまでへこんできた」
「いや、この方が反省しているように見えるかな、って思って」
たまにキャラが壊れる渚ちゃんをほっといて、オレはん〜、と唸る。
さっぱりいい方法が思いつかない。
「とりあえず…来た道戻らない? 」
「…帰り道、覚えてます?」
「いや、さっぱり…」
と、帰り道は分からない、前には道はない。犬のお巡りさんも困っちゃう状況の最中、
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ! 」
と、聞き覚えのある台詞と声が。
「…蘭だよな? 」
「蘭ですね…反対側の壁で、ラッシュ攻撃しまくってます」
蘭の無駄無駄ラッシュと、鈍い爆音を響かせながら、オレ達の目の前の壁は白い粉塵を立ち上げ始める。
オレの脳裏にいや〜な予感が通り過ぎた。
「無駄ッ! 無駄ッ! 無駄ッ! 」
「ムサシ君、壁が…」
渚ちゃんの指差す壁を振り向いた時、我が身に降り掛かるコンクリートの雨に、オレの意識は吹っ飛んだ……
「…サシッ! ムサシッたら! 」
あぁ…声が聞こえる。天の声だろうか…
「ム〜サ〜シ!! 起きなさいよ、ムサシッ! 」
うぅ…まったく、乱暴な天使だな。そう揺らさんでもオレはちゃんと然るべきところへいくさ…
「このッ〜! 貧弱ゥ! 貧弱ゥ!!! 」
ハイ、飛び起きました。
アレは天使なんかじゃありません。絶対ありません。もしも天使なら、
「貧弱ゥ! 」
なんていうコトバは使いません。
こんなコトバ、使うのは時を止められるあの方しかおりません。
「あっ、起きた! 」
「デュ…じゃなくて蘭か…」
「しかしムサシさんも災難ですわ。蘭がラッシュで破壊した壁の下敷きになるなんて」
「やっぱりあの無駄無駄ラッシュは蘭だったのか…」
「ゴメンね〜ムサシ!迎えに、それに向こう側の壁の下にいるなんて全く知らなかったからさ」
そりゃそうだ、とオレは所々が痛む身体を起こすと、蘭を見上げた。
「…で、一犯罪犯した感想はどうだ?
「大丈夫よ、死んじゃいないから」
「…なぁ、蘭。傷害罪って知っているか? 」
アハハ〜と、笑う蘭の向こうの先にはスタントラッシュによって、ぼこぼこメチャメチャになっている黒服さんが。
「…とりあえず、零ねーちゃんに電話しよう。あすかが居なくなったのは本当に事件だ」
「あすかが誘拐ねぇ…」
オレは壊れていないことを祈りつつ、ズボンのポケットを探ると、共に生死をさまよう戦場を潜り抜けた携帯が。
「んじゃあ掛けるぞ」
呼び出し音が少しの間続き、携帯の向こうからナオキの声が聞こえたのはすぐの事だった。