第十六幕 零と鉄と交通法と
前回、俺と零は余裕かましながら総大将の兄ちゃんを例の『オラオラッ』で倒し、ボス戦…じゃなかった、神田家の親ビン、鉄と会うことになったんだな。
さて、最近、出番が多いナオキがお送りしよう。
「ある〜日」
「「ある〜日」」
「家のなか〜」
「「家のなか〜」」
「鉄ちゃんに〜」
「「親びんに〜」」
「出ィ会ったッァァァァ〜!!!」
…さっきから零始め、零の舎弟となった黒服のお兄さんたちの二部合唱が続いている。と言うか最後のオペラ風の歌い方は何なんだ、いったいどこで身につけた?
「零、一応俺達は招かれてやってきてるんだから少しはおとなしくしろ」
「ハ〜イ、ハイハイ! 分かったわよ。さすがに森の熊さん・イン神田家バージョンを歌ったのは反省してるわ」
「反省するなら猿でも出来る」
「あら、日光猿軍団と同じにしないでくれる?私、猿は超えてると自負してるんだけど」
「当たり前だろっ!猿くらい超えないか!」
「けどね…動物奇想天外とか見てるといつかは抜かされるんじゃないかって心配なのよね、猿に」
「猿にな…」
そんな他愛の無い話をしていると、いつの間にか何やら龍の描かれた豪華絢爛屏風の前に来ていた。少し悪趣味だな。
「…てぇぇぇぇつぅぅぅぃ!! 」
「な、零!? どうした? というか勝手に乗り込むな! 」
何故か怒り心頭の零は屏風を吹き飛ばさんばかりに、いや、訂正。
すでに吹き飛ばしていた。
「鉄ちゃん〜! 私は怒ってるわよー! 」
いや、怒る意味が分からん。今まで猿について語ってたではないか。しかも屏風は掌打で思い切り吹き飛ばしたな。龍の顔面部分に風穴が開いたぞ。
「おぅ、零ッ! どうした? 顔が怒ってるぞ! 」
部屋の奥にいたのは屏風ごときじゃ微動だにしない屈強そうな人物。
あれが神田鉄。神田家を率いるヤクザの親びんだな。ヤクザの親びんらしく、見た目は筋肉質のちょい悪おじさんだな。
「鉄ちゃんッ! 久しぶりね、何年ぶりかしら?」
「んー、五、六年ぶりってとこだろうよ、んなことよりおまえも飲めッ! 」
「あら、ありが…じゃないのよッ! 何あなた自分から招待しといて出迎えにこないのよッ! あなたの部下に勘違いされて大変だったんだから」
本当に大変だったのは、とばっちりを受けた鉄の部下だ。
「おぅ、それは悪かった。いや〜、いい酒が手に入ったから一緒に飲もうと思ってたんだがな、うっかり忘れちまったよ」
ガハハッ、と豪快に笑う鉄に零はため息を吐きながら出された一升瓶の酒を、いつのまにか持っていたコップに注いでいた。
酒となると行動が早いな、おまえは。
「おっ!? ナオキじゃねーか、元気してたか?とりあえず、お前も飲め」
「ご無沙汰していますね、鉄殿。俺は帰りの運転が強制的に決定したので酒は遠慮させていただきます」
「運転だぁ〜!? そんなの酒飲んでも出来んだろうが! 」
「あの…有名なことばを知ってますか?『飲んだら乗るな、乗ったら飲むな』と…」
「あぁ、知ってるぞ、飲みながらの運転はよ、こぼすからやめとけってヤツだろ?ツボついてるよなぁ〜、俺も一回ハンドルにチューハイこぼしてよ、あとからベタベタになっちまって」「…なるほど、そういう捉え方もあるか」
…妙に納得してしまった。そういう想像力は天才だな、馬鹿ってヤツは。やはり零と同種だな、鉄も。
…何、もう時間切れだ? しょうがない作者め。
次はムサシサイドだな。最近さっぱり出てないからなぁ…暇してるだろ。
賢明なる読者の諸君、たまにはムサシ達にもかまってやってくれ、こっちはこっちでどうにかするさ。