第十一幕 不安の予兆
この話からストーリー性が強くなります。シリアスも入りますがよろしくお願いします。
さ〜て、遂に私の出番がやって来たわね! 待っていたわよ、姉さん天下が! 天上天下唯我独尊よッ! …失礼、興奮してしまったわ。今日は私、武蔵零がお送りするわ。
春うらら…我が家、武蔵家の庭にも桜の花が咲き誇って私に春を感じさせる。
「気が付いたらもう春よ、ナオキ。早いものね」
「…春を感じるのもいいが早く仕事に行け。お前が春を感じてるうちにもう十時過ぎだぞ」
フフフ…と私は縁側で一人怪しく笑う。
「大丈夫よ…今の科学技術の結晶、パーソナルコンピュータ。いわゆるPCがあれば家に居ながら仕事が可能な時代になったのよ! 科学万歳だわ! 」
私は前もって持ってきておいた缶ビールをプシュ、と勢い良くあけて喉に流し込んだ。朝からビールが飲めるキャリアウーマンなんてそうそういないわよ。
「…ああ、ただ単に面倒臭いから家で資料まとめておくって事にしたのな」
「あら、よくお分りで…さすがは長年の付き合いね」
さすがはナオキ。私の考えてる事なんてちゃーんとお見通しな訳ね。醒めた顔してよくやるわ。
「とりあえず、あなたも一杯やる? ちょっと話したい事もあるのよ」
私はちょいちょい、とナオキを手招きした。ナオキは無表情のまま私の隣に座った。
「まぁ、とりあえず飲みなさい。……なに嫌な顔してるのよ、あなたイケる口でしょ? 」
「だまらっしゃい、酔っ払いが。もうアルコールが回ってきたか? 」
「まさか。アルコールなんて私にとっちゃ水よ、もしくは炭酸飲料」
「炭酸飲料な…確かお前炭酸飲めないんじゃなかったのか?」
「…例えよ、例え!それより話したい事があったのよ。ムサシのクラスに転校してきた子の事なんだけど」
ああ、とナオキは無表情のまま頷く。まったくこれじゃイイ男が台無しよ。長年一緒にいる私だって今でもあなたの美しさには引かれるものがあるのだから。
「ムサシのクラスに転校してきた子思いだしたのよ。神田あすか…神田家の愛娘よ」
「神田家? あの極道一直線みたいな一家か?確かにムサシと仲はよかったと思ったが」
「そう。しかも私のムサシを婿に迎えたいなんて…私を舐めてるのかしら? 」
「そう言う訳じゃないだろう。神田家にはあすか一人しか子供がいないからな。跡取りにしたいんだろう。ムサシだって武蔵家だ。婿に欲しい家はいくらでもあるさ」
確かにムサシを婿に欲しい家はいくらでもあるはず…我が武蔵家の長男を婿に迎えれば、武蔵家利用しまくれるもの。今は権力をほとんど持っては無いといえ、それほど武蔵家は影響力はあるのよ。
「まぁ、ムサシ自身は嫌がってるから今はいいけど…少し心配だわ」
「何、そういう事に関しては人一倍鈍いムサシの事だ、大丈夫だろうよ」
「それもあるけど…神田家は最近ちと問題事が多いって聞くわ。巻き込まれないと良いけど…」
「…珍しく弟想いの姉らしい発言をしたな」
「あら、失礼ね。私は家族は大事にする方なのよ」
「ほぅ…それならオレの家事でも少し手伝ってもらうかな、家事想いのお姉さんよ」
「…それはそれ、これはこれよ」
私は空になった缶ビールを持ちながら真っ青な空を見た。清々しく青い空に桜の花は散って、私に再び春を連想させた。
だけれど、私のちょっとした不安は私たちをゆっくりと、そして確実に巻き込んでゆくのだった。