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第6話 未来都市Ⅱ

 

 宙は目を開いた。そこは正にSF小説の中の様だった。

 まず目につくのは人、人の山。前後左右が人で溢れていた。朝の満員電車とまでは行かないが、真っ直ぐ歩く事が困難なほどの人だ。

 その中に宙はロボットらしき存在がいた。宙は能力、周囲認識を界の狭間に居た時から発動し、いつでも転移できる準備をしていた。

 この世界についた瞬間から、周囲の索敵をしていた宙の感覚に幾つか“物”を捉えた。しかし回りを見ても人しか居ない。しかもその“物”は移動していた。これらのことから宙は人と見分けがつかないほど精巧なロボットが、この世界では存在していることを確認した。説明は受けていたが、やはり自分の眼で確認しなければ実感が持てないのだ。

 宙は珍しく興奮し辺りをきょろきょろと見まわした。完全なおのぼりさんである。

 地面から若干浮いて滑る様にして進むタイヤの無い車。其処らかしこに目につく立体映像。天を衝くような超々高層ビル群。今まさに宇宙から来たであろう宇宙船がビルの上に降り立った。

 冷静さを欠いていた宙だったが、ここで一旦落ちつきを取り戻した。また視線が集まってきたからだ。宙は今の服装が学生服だと気付く。近くに公衆トイレらしき建物を発見した宙は其処に掛け込んで個室に入りドアに鍵を掛けると宙は一息ついた。

「マリア、聞こえるか?」

<はい。何でしょうか?>

 宙はマリアに確認を取りたいことが有った。

「今回のこの仕事に期限はあるのか?」

<はい有ります。今から1カ月以内だそうです。ですがこの世界に何日いても宙様の世界ではほとんど時間が進みません。最高神様からの配慮だそうです>

「ありがとう。またなにかあったら質問するよ」

<はい。それでは失礼します>

 宙は携帯電話をポケットにしまい取り敢えず服装を整えることにした。さきほどの人ごみの中に見たスーツを自分の体形に合わせて創造主を使い創り出した。

 縦にラインの入った、上下黒のスーツに白いYシャツ、左手首に銀製の腕時計、黒い革靴を履きダークブルーのネクタイを締めた。人ごみの中で見たスーツと自分の中のイケメンビジネスマンのイメージを合わせたこの服装が宙は気に入ったようだった。

「先ずは先立つものが必要だな」

 宙は縦15cm横25cm厚さ5cm程の銀色のアタッシュケースと、10から30カラット程のダイアモンド、ルビー、サファイアなど様々な宝石を適当に創造主を使い創り出す。

「ホントにこの能力便利だな、 日本円なら100億有ってもここだと紙切れだからな……。」

 アタッシュケースの中に衝撃吸収材を創りだし“石”を無造作に放りこんで行く。

「さて、売りに行くか」

 宙は路地裏から表道理に出た。先ほどとはまた違う目線が宙に注がれる。宙は気にせず宝石店を捜しに繰り出した。

 

***


 宙は5分程歩いた所で宝石店を見つけた。宙は店内に入る。中には高額であろう宝石の数々が、所狭しとショーウインドーに飾られていた。宙の周囲認識のレーダーに背後から近づいて来る反応を捉える。宙がゆっくりと振り返ると宝石店のスタッフらしき30代後半の男が居た。

「お客様。本日はご来店いただき、ありがとうございます。どういった物をお探しでしょうか?」

 男が話し掛けて来た。

「今日は買いに来た訳ではありません。この宝石を買い取って欲しいのですが?」

 宙の言葉に男の顔が若干曇る。宙はさらに続けて言った。

「そちらの言い値で構いません。どうでしょうか?」

「少しお待ちください。今、オーナーを呼んでまいります」

 男は走って店の奥に行ってしまった。2分程で先ほどの男と20代後半ぐらいの女性が来た。(この女性がこの店のオーナーだろうか?)

「はじめましてジュエリーショップ、ビジュのオーナーのリーア・シェフトと申します」

「青野 宙と言います。宙が名前なので宙とお呼び下さい」

「判りました、宙様早速ですが買い取りはお持ちの宝石を見せてもらってからでも、よろしいですか?」

 宙は先ほどと口調を変えた。

「構いません」

「それでは此方へどうぞ。別室を用意しました」

 そう言い歩きだしたリーアの後を追う宙、その別室にはすぐに着いた。室内に窓は無く。革製であろうソファーが2脚と、それを挟む様におかれたテーブル程度しか無かった。

 リーアと宙は向き合う様にしてソファーに座った。初めの男はソファーには座らず。ドアの横に立っていた。リーアが口を開いた。

「それでは早速、拝見させて貰ってもよろしいですか?」

 宙はテーブルの上にアタッシュケースを置き、そして開けた。中から様々な宝石類が輝いていた。

 リーアの息を呑むのが宙にも分かった。宙が創りだした宝石は綺麗にカットされ様々な色の輝きを放っていた。

(す、すごい。見たことも無い宝石も沢山あるわね。それにこの大きさ。うちの店の一番大きい宝石よりおっきい……)

「で、幾らで買い取ってくれますか?」

「……5億アウエルでどうでしょうか?」

「あなた達の言い値で構いません。それと見れば分かると思いますが俺は外国人で。ここの物価が分かりません。教えてくれないでしょうか?」

 リーアは一瞬きょとんとした顔になりなるがすぐに戻し説明を始めた。

「そうですね……1アウエルの価値としては……自動販売機などで飲み物が一つ買える程度でしょうか」

(すると……500億か!! そんなに支払って大丈夫かこの店?)

「それは随分と、高く買い取ってくれてありがとう」

「いえ、此方としても良い商談でした」

「そうだ。何か1つ買って行きたいのですが?」

「そうですか!では今、お持ちいたします。すこしお待ちください」

 リーアが走って出て行き約5分後に数人のスタッフと共に現れた。スタッフが持って来た宝石類がテーブルに置かれて行く。どれも大きい石の使った高額そうな物ばかりだ。

「お客様の宝石の代金でございます。ご確認ください」

 そう言ってリーアは金色のカードを宙に差し出した。

(電子マネーみたいな物か?)

 カードには5億Åと記してあった。

(Åがアウエルか……さすがに現金での要求は無理だな。最高神の所為で最近、金銭感覚がマヒしてるな……)

「たしかに……ではこれをどうぞ」

 宙はアタッシュケースを閉めリーアに渡した。

「はい、たしかに。ではお買い物をお楽しみください」

 宙はふと有ることを思いつきポケットから携帯電話を取り出した。

「マリア」

<はい、何でしょうか? 宙様>

「女子高生が喜びそうなデザインはこの中にあるか?」

<宙様、さては好きな女性でも居るのですか?>

「ち、ちがう!友達へのただのお土産だよ」

 リーアは驚いていた。宙というこの少年の纏っていた息苦しくなるほどの気迫は霧散してしまったからだ。

 宙は戦士の能力を無意識に発動していた。無意識での精神や身体能力を強化させる能力の発動は発動者の精神や身体能力がその能力の域に達したことを意味している。宙は現在、戦士、銃使い、想像者の能力を無意識で発動することが出来る。

 宙が戦士で纏っていた気迫と落ち着きがマリアの一言で霧散してしまった。これはその“友達”のことが気になると言っている様なものだった。

「とにかく! どれがいいかな?」

 宙は携帯電話のカメラに宝石を映しながら尋ねた。

<中央のトレーの右下、そのピンク色の宝石をあしらったペンダントなんてどうでしょう?>

 それは2カラット程のピンク色の宝石をセンターに1つあしらった。派手すぎず、尚且つ安っぽく見えない高級感が有るペンダントだった。

「ありがとう、マリア。これにするよ」

<はい、それと宙様、男性から女性にネックレスやペンダントを送るのは独占欲の表れなのですよ? それでは失礼します>

 そう言って向こうから切れた。

(まったく、違うのに。)

 宙は気を取りなおし。リ―アに尋ねた。

「このペンダントはいくらですか?」

 宙は取り繕うことを止め普通にはなしかけた。

「はい、5万Åになります」

「それで、お願いします」

「ありがとうございます。ではこれに先ほどのカードをかざしてください」

 宙はカードをかざした。

「お買い上げ有難うございます。プレゼント用の包装をいたしましょうか?」

「それじゃあ、頼みます」

 それから包装された包みを手に持ち宙は帰ろうと個室から店内に戻ると従業員が一堂に整列していた。

「本日はお買い上げ、ありがとうございました」

 40人ほどが声をそろえ一斉に頭を下げた。


***


 宙はペンダントをポケットに形成した亜空間に丁寧に入れた。

 宙はしばらくこの世界に滞在するつもりだったので、ホテルを探すことにした。しばらく歩くと真下から見上げると、首が痛く成りそうな程高いホテルを見つけた。

 ドアマンに重厚なドアを開けて貰い中に入る。床には大理石の敷き詰められた天井の高いエントランスが有った。

 宙は早速、受付に向かった。

「今日は当ホテルにようこそお越しくださいました。どの様なお部屋をご希望でしょうか?」

 受付の男性が丁寧に話し掛けてきた。

「このホテルで一番高い部屋を頼みます。」

「失礼ですが、お客様のお持ちのマネーカードを拝見させて貰ってもよろしいでしょうか?」

 受付の男性は怪訝そうな顔でそう尋ねた。

 宙は高級そうなスーツを着ているが中身は高校二年生で有る。ましてや日本人だ。外国、異世界ではさらに幼く見えるだろう。

 宙は内ポケットの亜空間からカードを取り出す。金色のマネーカードを見た瞬間。

「しっ、失礼しました。」

 怪訝そうな顔が一転青くなった。

 宙は知らないことだが、このマネーカードにはグリーン、シルバー、ゴールドの3種類有る。それぞれのカードの差異はチャージできる金額の上限で有る。グリーンが10万Å、シルバーが1000万Å、ゴールドは上限が無い。

 グリーンカード所持者がシルバーカードを手に入れるには10万Å以上の資産がゴールドカード手に入れるには1000万Åの資産が必要になる。よってゴールドカードを持っている宙は必然的に1000万Å以上の資産を所持していることを表していた。もちろん盗難、紛失の対策も万全で、所有者以外使用することが出来ない様になっている。

「最上階のスイートルームの御提供が出来ますが? いかがいたしますか?」

「それではそこで、30日程度滞在します。料金を先にまとめて払っておきたいのですが?」

「はい可能でございます。1泊1万Å、30泊30万Åになります。此方にカードをかざしてください」

 宙は示された機械にカードをかざした。

「それではカードが最上階7701号室のカードキーになります。それではごゆっくりお寛ぎ下さい。」

 ***

 宙はエレベーターに乗るといつもの様にボタンが無い。困っていると、一緒に乗っていた30代程の男性が「こうやるんですよ」と宙が受付で貰ったカードと同じカードを日本ではボタンが有るはずの所にかざした。すると37階という表示が立体で浮かび上がった。

「ありがとうございます」と宙とお礼を述べた後、先ほどと同じ様に宙はカードをかざした。77階の表示が浮かぶと同時にその男が固まる。

 37階で男が降り、更に10秒程で77階に着いた宙はエレベーターを降りた。エレベーターを降りると目の前が7701号室だった。

 宙はドアにカードをかざし部屋に入る。

 中は1人で過ごすには広すぎる部屋だった。落ち着きながらも機能性とデザイン性が追求されたインテリア。天井は高く、床は大理石だった。浴室も広く公衆浴場かと思うほど。

 そして何より77階からの見渡しだ、夜にきっと1万Åの夜景を見せてくれるだろう。

「さて、行動開始しますか、マリア」

<はい。何でしょうか?>

「この帝都一番の図書館と家電量販店、デパート、ドラックストアそしてガンショップなどの武器屋、またはそれに類する店が何処にあるか調べてくれ。できるか?」

<お任せを。2分程お待ちください、データはそちらの携帯電話に送りますので>

「わかった」

 2分後、丁度データが送られてきた。すると携帯電話折りたたみ部分がスライドしレンズが現れた。携帯電話の液晶に『立体映像を表示しますか?』という表示が出た。宙は決定ボタンを押した。

 更に『テーブルや床の上に置いてください』という表示が出た。宙は従いテーブルの上に置いた。

 その立体映像は緻密で詳細が事細かく記されていた。宙が希望した店にとどまらず、と言うよりこの帝都の街並みを3次元的にそして完璧に網羅していた。ご丁寧に今回の目標であるアウエルの現在位置まで記されている。

 宙は有ることに気付いた。アウエルが現在居る場所はこのホテルから約2000メートル離れたビルの中だった。宙は希眼を発動し視力を7.7まで上げるとガラス越しに見えるビルの最上階を見た。そして……、

(居た)

 40代後半程の男だった。背が低く小太りで金髪をオールバックにした男がナプキンを胸にかけ食事をしている。

 今回の目標、アウエル・シュテットをガラス越しに捉えた。


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