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第4話 真の報酬

 界の狭間


 魔法陣が現れ球体になって行く、その中から宙が現れた。

「お疲れ~、ま、座って、紅茶でも飲んで、ゆっくりくつろいでよ」

 最高神がにへらっと笑って言った。

「座るって……何処……あれ?」

「どう? どう? 中々の物でしょ?」

 ここ、界の狭間に初めて宙が来た時は唯の何もない白い空間だった。それが今では一言で表現するなら絢爛豪華、それは正に中世ヨーロッパの王族の部屋だった。金と赤の糸で丁寧に刺繡を施された椅子、金で装飾した黒色に近いこげ茶色の木製のデーブル、天井には巨大なシャンデリア、床には日本人だった宙がおもわず靴を脱ごうとしてしまうほど豪華な毛の長いふかふかの絨毯。どれも素人の宙が見ても一流の品だと分かる物ばかりだった。

「どうしたんだ、これ……」

「あまりにも殺風景だったからね。創ってみたけどどう?」

「あ、ああ良いと思うよ」

「よかった~気に入って貰えて! さて、宙お待ちかねのお金だよ、どうぞ」

 宙が無駄に豪華な椅子に座り紅茶をすすっていると。テーブルの上にアタッシュケースが積み上げられた状態でいきなり出現した。

「なあ、これ五億どころじゃないよね」

 宙の顔が引きつる。宙はそのアタッシュケースを“見上げる”。

「そうだね、1つのアタッシュケースに十億入ってる。それが……ここに有るだけで30個、あと残り112個有るね。宙が言ってた通りに五億円は君の名義でスイス銀行に口座を作って預けたよ。この1420億円は宙が救った人間の分の上乗せ金だよ。1人救うごとに百万円。君がリリスに剣と鎧を授けたことで、正史より2年速く魔王を倒すことができた。本来ならば死んでいたはずの人間、約十四万二千人分のお金だね。向こうの世界の神から宙へのボーナス、これは全て宙が命を張って稼いだお金だよ、だから受け取る権利が有る」

「わかった、じゃあ遠慮なく受け取る。なあこれをポイントに還元出来ないのか?」

「できるよ。正し、君が創造主で創った金やダイヤを売って手に入れたお金では、還元できないからね」

 創造主は金やダイヤは簡単に創り出すことは出来ても、完璧なお札を創ることが出来ない。創ったお札は確かにぱっと見ただけでは見分けることが出来ない。質感、手触り、透かし、ホログラム、極小のニホンの文字すらあり見た目は完璧だった。ただ1つだけ問題が有った、それはシリアルナンバーである。

 100枚のお札を作れば全て同じナンバーになってしまうためだ。

「そうか……百万で1ポイントだったな……420億円をポイントに、900億円をスイス銀行に残った100億円は俺が持ってくよ。悪いけどスイス銀行また振り込んでくれないか?」

「了解、了解……えい!」

 テーブルの上に積み上げられていたアタッシュケースが10個になった。宙は亜空間収納口を開きアタッシュケースを放りこんでいく。

「今、宙は42000ポイント持ってるどうする? 能力の習得しとく?」

「いまは良いや……なんか疲れた、速く家に帰りたいよ」

「疲れた? そんなはずは……ああそうか! 宙はまだ見習いだったね。まったく修錬もつまなかったんだ。いくら最高神直属対戦術用御前天使見習いの宙でも創造主なんてSランクの能力をあれだけ連発すればそりゃ疲れるさ」

「俺は何時からそんな仰々しい呼び名になったんだよ」

「今さっきからだよ、そんなことよりこれを渡しとくね」

 最高神は、宙に白い携帯電話を手渡した。携帯電話を開くとボタンが1つしか無かった。

「これは?」

「僕へのホットラインだよ。僕に連絡したい時はいつでも掛けて。僕も緊急の時とか仕事が有る時は連絡するから、肌身離さず持ってて、たとえ無くしても宙が念じるだけで手元に現れるけどね」

「わかった大切にするよ。じゃあそろそろ」

「うん、わかった。それじゃ送るね」

 宙の足元にいつもの魔法陣が展開された。立体型転移魔法陣だ。

「あ、そうだ宙ってもう今日は学校休むよね?」

「休む、すぐに寝たいし……」

「そう言うと思ってもう学校に連絡しといたから」

「サンキュー……って、はぁー!?」

 魔法陣が輝きを増し宙は転移した。



「ママ~あれなに~?」

「しっ! 見ちゃいけません!」

 小さい子供に指で指され、ベタな決まり文句を言われた宙はあまりの恥ずかしさに穴が有ったら入りたい気分になった。

(なんでこうなった……)

 宙は10分前のことを思い出す。


 ***


 まず初めに感じたのは音だった。先ほどの異世界や界の狭間には無い車の音だ、次がにおい、三番目が吹き抜ける風、最後が目に映る風景だった。

 宙は辺りを見渡す、そこは宙が生まれ育った町の商店街。最近は徐々にシャッターが増えつつ有るがそれでもまだ活気のある商店街だった。

 宙は普段の見慣れた風景が急に懐かしく思えた。まるで何年も離れ、久しぶりに帰郷したかのような――まだ経験していないが――感覚だった。

 宙は最高神から貰った携帯電話で時刻を確認する。7時過ぎ。それはちょうど宙が学校に行こうと時間だった。

(何時間も向こうに居たはずなのに、こっちじゃ数秒か……)

 ふと、宙は自分に向けられる視線が多い事に気づく。通りの真ん中に立っていれば邪魔になるのは当然だと思い、通りの端に移動する。その時、踏み出した右足が視界に入った。

 宙は自分の服装が今ここではコスプレにしか見えない事に、今、気づいた。

「っ!!」

 言葉が出ないほど恥ずかしかった。宙はパニックになり創造主を発動させようとするが一歩手前で思いとどまる。

(人の居る前でこれは使えないな……と言うか転移を絶対に見られた!!)

 宙は商店街の裏路地へ駆け込み、すぐさま創造主を発動しなかった。

「はぁ!?」

 思わず声が漏れる。何回も試みたが発動しなかった。しかたなく宙は想像者を発動、思考を始め最善の策を閃いた。宙はポケットを探り最高神から貰った携帯電話を取り出して開きボタンを押した。

 トゥルルルルルル――ガチャ

『現在、居留守中です。仕事、自分勝手な願い、愛の告白以外であれば。気が向いたら折り返しますので、メッセージをどうぞ。ピ――』

「全然ホットラインじゃねー! だろォォォォー!!」

 全力で地面に投げ携帯電話を足で踏みつけた。それでも携帯電話は壊れるどころか――これでも宙は最高神直属の御前天使見習いである。たしかに最高神直属の最下級天使ですら劣るが人間の一般男性に比べて遥かに強い力が有る――携帯は徐々にコンクリートを砕き地面にめり込んでいった。

「はぁ~しょうがない、歩いて帰るか……」

 宙は地面にめり込んだ携帯を回収、歩き出し路地裏から出る。ここで冒頭に戻るのだった。


 ***


 宙は恥ずかしさをこらえて、とぼとぼと家に帰る。もちろん走って帰りたかったが身体が鉛――実際、服に金属を仕込んでいる――のように重かった。家まで後、約10mというとこで宙の視界がぼやけ、かすんで出来た。

(うわ、これはヤバい……)

 ついに後5mというところで宙は膝をついた。その時だった。

「青野くん?」

 声を掛けられたが宙は意識を手放す寸前だったため、振りかえることも声を出す事も出来なった。

(誰……だった、かな?……この声……知っている、人だったら……やだ、な……)

 宙の意識が闇に沈んでいった。


 ***


 自分の放ったRPG-7の弾頭が魔物に着弾、肉が飛び、焼かれ、そして血が噴き出す。

 更にM16A2で弾を打ち出す、反動が手から全身に伝わり、弾丸に当たったそして魔物が血を流す。

 弾が無くなるとマガジンを変える、それが無くなったらまた変える。まるで精密な機械の様にそれを繰り返す。恐怖は無い喜びも無い、ただ無心で引き金を引く。

 ただ、喜びなどないはずなのに自分が笑っていることに気付いた。


 ***


「知っている天井だ」

 宙が目を覚ますと自分の部屋に居た。なぜか額に水で濡らしたハンドタオルが置かれている。

「あ、気がついた? 勝手に上がらせて貰ったけど良かったよね。じゃないと青野くん、道路の上で寝るはめになっていたんだからね。それに青野くんを運ぶの大変だったんだよ! なんであんな重い服着てたの?」

「あの……誰?」

「酷い!! まったく、席となりだよ? ……まぁ青野君は二年になってまだ1度も学校に来てないけど……」

 第一印象は活発、明るい、うるさい、だった。体格は小柄、アジア人特有の黄色みがかった肌。髪は癖がなく真っ直ぐで肩まであり、亜麻色に染められていた。絶世の美女では無いが十分に可愛い顔立ちをしている。さらに目も大きく、ぱっちりとして体格の小ささも相まってリスやハムスターの小動物の様な愛らしさがあった。

 だが正直、宙はよく言えば明るい悪く言えばうるさいタイプの人が苦手だった。宙はそれほど口数が訳では無くどちらかといけば1人で居ることが好きで。言葉をマシンガンの様に打ち出してくる人に、どの様なリアクションとればいいのか分からず、また話について行けなかった。

「とりあえず運んでくれて、ありがとう。おかげで助かったよ。」

「いえいえ、てゆーか何で休んでいるハズの青野くんが、あんな服着て何してたの?」

「う~ん……アキバに行ってた?」

「なんで疑問形……」

 その時、pipipipipipi<青野様、最高神様からお電話です>

 あの壊れない携帯電話から透き通った女性の声が発せられた。宙はポケットから携帯電話をとり出す。

「何そのケータイ!」

 宙はとりあえず無視した。

「君は?」

<はい、私は最高神直属で有る青野様専属のコンシェルジュ、マリアです。マリアとお呼び下さい。それではお繋ぎします>

『宙!! 無事!?』

 最高神の声が耳元に響く、最高神はかなり焦っていた。

「俺は無事だよ、一回気を失ったし誰かさんは、携帯に出なかったけど」

『それは本当に御免……その……アニメ見ていて気づかなかった。怒ってる?』

「怒ってないよ? あ、そうだ俺10万ポイントぐらい欲しいんだよなー誰かくれないかな10万ポイント」

『絶対怒ってるよね、正直に懺悔したのに……はぁーしょうがない10万ポイントだね』

「ありがと何時も感謝してるよ、能力はまた今度決めるからお勧めが有ったらよろしく」

『宙って意外と欲深いね』

「そんなことないよ、たった10万ポイントだろ?」

『たったって1000億の価値が……まあいいや、僕が悪いし。それに働いて貰うし』

「分かってるよ。その代わりに報酬は弾んでくれ」

『はいはい。じゃね、またこんど』

「おう、また」

 宙は通話を切った。そしてなぜか視線を感じた。

「じー」

(口で『じー』とか言う人本当に居るんだな)

「何を話していたの?」

「ゲームの話だよ」宙はとっさに嘘をつく。

「なるほど! ゲームだったんだね!」

(あっさり信じたな、頭、大丈夫かこいつ?)

「なあ、そんなことより学校は平気なのか?」

 宙は携帯電話で時間を確認する。8時だった。学校の授業開始が8時40分。

 ここから宙の通う学校まで約30分それも運よくバスや電車が捕まった時だ、つまり……、

「ち」

「血?」

「遅刻だあああぁぁぁー!!」

 慌てて宙の家を出て行ってしまった。宙はふと有る事に気づく。

「名前を聞くの忘れてた。まあ、良いか。どうせ席となりだし」

 宙は寝ることにした。



Pipipipi……pipipipi……

 窓から射す太陽の光が部屋を照らす。宙は目を覚ました。ベッドから降り、シャワーを浴びるべく風呂に向かう。シャワーを10分ほど浴び、眠気を覚ました宙は身体を拭きながら自分の部屋の有る二階に向かう。制服に着替えてリビングに行く。そこで宙は自分はあまり腹が空いていないことに気付く。

「あれ? あ、そうかもう人間じゃなかったな」

 宙は一人、呟いた。

「なんか作るか……」

 宙がなぜ、創造主を使わないのはほとんどの料理が生き物を加工して作られた物だからだ。食材である肉はもちろん、米、小麦、野菜、塩を除く調味料まで創り出すことが出来ない。よって食事は自ら作る必要があった。もっとも宙はほとんど食事をとらなくても平気な身体になってしまったが。

 宙はトーストとコーヒーを作った。テレビを点ける。ニュースを見ながらトーストをもそもそとかじった。

 宙はお弁当を作らなかった。

 携帯電話を開き時刻を確認する。7時。

「そろそろ行くか」

 鞄を手に取り玄関に向かう。玄関の前まで来ると宙はデジャブを覚えた。

 宙は玄関から外に出た。

「よし! 行くか!」

 宙は一カ月ぶりの学校に向かった。


***


 宙の通う高校は進学校やスポーツで有名などでは無くいたって普通の学校だ。

 宙は今、二年に上がって初めて自分のクラスの前に居る。珍しく緊張していた。ドアの向こうからクラスメイトの話声が聞こえる。

 宙は意を決しドアに手を掛け横にスライドさせる。瞬間、ドアを開けた宙に視線が集まり。時間が制止したかのような感覚に襲われた。

「お、おはよう」

 たまらなく宙はあいさつした。

 数人ほど挨拶を返してくれたが、ほとんどの生徒がひそひそ声で話し合う。どうせ聞こえないだろうという気持ちが心ゆるませ、悪意が滲み出る。常人では聞き取れない声も、常人では無い宙にははっきりと聞こえる。

【誰だ、あいつ】【あんな人このクラスに居た?】【ああ、あいつが噂の】【噂?】【そう噂、1年の時にしたケンカで他校の生徒を病院送りにして今まで謹慎してたとか】【マジ?】【だから噂だって】【あそこの席の人だろ?】【ああ、“あの”青野くんか】【そう“あの”青野くんだね】【出席とる時いつも佐藤のやつが『青野くんは?』って聞くと先生が『青野くんは良いから』て、言うあれだろ?】【何が良いんだろうな?】【どうせ引きこもりだろ】【あはははは】【くすくす】身体の内部に暗くドロドロとした感情か溜まって行く。これが殺意だと初めて宙は理解した。

 そして宙は……。


 その時、女神が舞い降りた。


「おっはよー! みんな元気!? むむ、どしたの?」

 宙はどこか聞いたことのある声が聞こえたと思った。それは確信へと変わる。

「おお!! 青野くんついに学校に来たんだ! おはよう!! 青野くん」

 それは昨日倒れた宙を家まで運んでくれた、名前すら知らないあの子だった。

「おはよう」

「元気ないよ~? ああ! 席がわからないんだね。青野くんの席はこっちだよ」

 そう言って案内してくれたのは。窓際の一番前の席だった。その時、開いていた窓から風が入り光がさした。窄まっていた視界にはそれがとても眩しかった。先ほどの黒くドロドロとした暗い感情が消え去り、暖かく心地の良い感覚に身体が包まれる。心臓の鼓動が早まった。

「なあ」

 意を決し話し掛ける。

 昨日はこんな暖かい気持ちにはなら無かった。もどかしいと感じることは無かった

「ん? なに?」

 今このクラスに宙の友達はもう居ない。そして宙は名前すら知らないこの“人間”と友達に成りたかった。

 だから――。

「友達になってください」

 揃い始めたクラスメイトが居る中、宙は彼女に頭を下げ、お願いした。

 彼女は慌てて「昨日の朝からもう友達だよ。だから頭を上げて!」と顔を真っ赤にしながら叫んだ。

その後、携帯のアドレスと電話番号を交換した。

 彼女の名前は、天音未来。

 底脱げに明るく、とてもうるさい、宙の初めての本当の友達だった。


 そしてチャイムが鳴る――。


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