第3話 トルテ村勇者物語
奇跡って有るもんですね。
約一年半ぶりの投稿です。
変更点
主人公の名前が空から宙に変わっています。読みはソラで一緒です。
リース国トルテ村付近の森
森の地面に魔法陣が描かれ始める。本来は平面だがこの魔法陣には厚みができ立体的な球状になっていく。
「お! 着いたかな?」
魔法陣から出ると森だった早速、≪周囲認識≫を発動、半径3キロ以内に敵性反応なし、南に2キロのところに生命反応が一か所に集まっている。
「たぶんトルテ村だな……」
今度は、土を素材に≪創造主≫を発動、武器を作る事にした。
(達成目標は魔物の討伐か……村が1つ全滅するんだ、かなり強い魔物何だろう。敵が強い魔物なら、さらに強い武器を創るまでだな)
宙は、RPG-7、M16A2とその弾薬RPG-7が3発分、M16A2、マガジン7本分210発を創った。
宙は自分の服装を見た。学校の制服姿である。
「創ったわ、良いけど持って行けないな、亜空間に入れてもいいけど、とっさの反応が出来ないからな……そうだ!」
宙は、漫画に出てきそうな頑丈な服を創ることにする。
(そういえば亜空間に貰ったケプラーとカーボンが有ったな)
亜空間から素材を取り出し、服を創り上げていく、生地を何十重にも重ねる、さらにチタンを創り、厚さを5mmほどにのばし、服の至るところに仕込んでいく。
そして、頭を守る鋼鉄製のメット、ケプラー繊維の手袋、口元を隠すマフラー、金属を仕込んだ安全靴をそれぞれ創る。
普通の人間なら重さで動くことも叶わないが宙はもう普通の人間では無い。
創った装備を付けてみる。異世界に一人の兵士が誕生した。
「チタンとは言えや金属をあれだけ入れても、普通の服と感じる重さがほとんど変わらないなんて」
宙は、自分の身体が、人間とはかけ離れていることに落ち込みながら、火器、弾薬をせっせと拾った。
全身黒尽くめで怪しいことこの上ないが、何時その魔物が出てくるか分からない、そのため、この格好で村に向かう事にした。
10分ほど歩いた所で宙は、≪周囲認識≫を発動、村の東2km付近に敵性反応が出た。かなりのスピードで村に接近している。
「くそっ!!」
宙は全力で走った、村がどんどん大きく見えてくる。それと同時に黒い大きな塊が村に接近しているのが見えた。希眼を発動、視力を最大まで上げる。宙の黒かった虹彩が紅く鮮やかに発光した。
希眼を発動したことで黒い塊が大きなイノシシの“ような”物だと分かった。だが体長が4mを超え足が6足有り、尻尾が2匹の蛇の生物を果たしてイノシシと呼んで良いのだろうか?
もう魔物と村との距離は300mも無かった。宙は、≪戦士≫、≪銃使い≫を発動RPG-7を肩に担いだ。
「魔物だ――!!」その時村の人々はこれから村を蹂躙するで、有ろう存在に初めて気がついた。
ブオオオオオオォォォォ――――と大気を震わせ、まるで自らの存在を誇示するように魔物が啼いた。
宙は、更に加速し黒い風のように駆けた。
トルテ村 青年視点
今日も清々しく、いつもの素晴らしい1日になるはずだった。太陽がちょうど真上の頃「魔物だ――!!」そう子供が叫んでいた。始めは、たちの悪い悪戯だと思った、村の皆も無視している。さらに続けて子供は、「まっ、魔物だ! 魔物が来たんだ! 本当だよ!! 東の森から黒くて大きな生き物が出てきなんだ!! 信じてよ!!」まったく演技の上手い子供だ。
その時だったブオオオオオオォォォォ――――と魔物の啼き声が村中に響きわたった。村は、火が付いたように騒がしくなる。子供を無視していた村の皆は慌てふためいていた。
ドーン!と今度は何か爆発した音が響いた、ブォォォォ――――また魔物が啼いた、しかしその声には明らかな苦しみと苦痛の叫び声だ。何が爆発したんだ? 何で魔物は呻いているんだ? 皆逃げることも忘れて呆然としていた。バッララララ――小さな破裂音が連続で響き皆が音のした方を向いた。そして見た。……魔物より暗い黒の服を身に纏い、背中に長い筒のような物を背負い、手に持った黒い筒から音と光をまき散らし、煌々と目を紅く光らせながら1体の悪魔が南から駆けてくるのを。
☣☸☸
能力、≪銃使い≫、≪戦士≫、≪想像者≫のおかげで冷静にそして的確にRPG-7を叩き込むことができた。
≪戦士≫は発動することで恐怖、不安、緊張を抑え戦闘能力や身のこなしを底上げする能力だ。本来は熟練した兵士が血の滲むような努力の末に獲得できる力である。
≪銃使い≫は文字のとおり発動者の射撃の正確さ、銃器の扱いの上手さが上昇する。思考能力も≪想像者≫にアシストされ冷静な判断、分析、状況理解が可能だった。
これら3つの能力は宙に最適な能力だと言えた、平和な日本で生まれ育った者では武器を渡され、戦えと命令された所でなにも出来ず敵に殺され終わるだろう。
今の宙は恨みや憎しみの感情は抱いていない、唯、単純にそして純粋に敵を殺し生き残る闘争本能を獲得していた。
(やっぱりそう簡単には死んでくれないな。ダメージは負ったみたいだけどRPGに耐えるなんて……まあ勝てるでしょ)
宙は敵に接近しながらM16A2の5.56mm弾をばら撒く。弾が無くなったらマガジンを入れ替えまた撃つ、それを4回ほど繰り返した。
100発以上叩き込んだがまだ生きている。魔物の生命力は尋常ではなかった。
初弾のRPGで左中足? を吹き飛ばされ動かなかった――宙はそのうちにM16A2で攻撃した――魔物は呻き声を上げながら宙に突進してきた。
創造主を発動、土を使い地面の中に対人地雷10個を密集して創り出した。宙は魔物、地雷、自分が一直線に成るように地雷原から60mほど走った。
ドーン!ドンドン!!と、けたたましい爆発音と共に10個の対人地雷が炸裂した。
グォォォォ――――
(まだ生きてるよ……)
土煙が晴れると魔物が身体を横たえていた。左右の前足がちぎれ、身体の至るところから血を流している。
M16A2を掃射する。3回マガジンを換え最後のマガジンの弾を撃ち尽くそうとした時、薬莢がつまった。M16A2を素早く手放す、背負っていたRPG-7を肩に乗せ構える。
発射、と同時に最後の一発を先端に装着、発射した。2発のRPG-7の弾頭は着弾、爆発し土煙を巻き上げた。
宙は手に持ったRPG-7を≪創造主≫で5つ手榴弾に創り換える。ピンはもともと抜いてある状態で創り出したので、5つを間髪置かずに手榴弾を全力で投げる、生肉に鉄製のなにかが食い込んだ様な音が宙の耳に届いた。御前天使見習いの補正で60mていどなら余裕で届く何処ろか、食い込んでしまったらしい。幸い土煙で何も見えなかったが。手榴弾が爆発した、くぐもった破裂音と水が飛び散る様なびちゃ、べちゃと言う音をBGMに土煙を巻き上げ更に視界が悪くなった。
土煙が晴れる。そこにはミンチになった魔物だった物と歪で小さなクレータが残った。
(目標討伐完了~はぁー疲れた。そういえば報酬5億だったな,何しようかな~カップラーメン100個ぐらい作って1口ずつしか食べないとか。う○い棒を腹いっぱい食べるとか余裕だよな~)
宙は意外と小さかった。
『目標達成おめでと~よく頑張ったね。宙、君さ~戦いになったとたん雰囲気変わったからさ。かなり怖かったよ、ガクブルガクブル』
最高神のおどけた声がいきなり頭に響いた。
(これっていわゆる念話かな?)
『そうだよ、そんな感じ。心で思ったことを相手に伝えるのが念話だね。宙も御前天使見習いだから使えるよ?』
『こんな感じか?』
『そう。うまい、うまい。とりあえずどうする? もう帰る? それとも君が守った勇者に会ってく?』
『いや帰る村の人に歓迎されて無いみたいだし』
村人は皆怯えていた。あんな大きく恐ろしかった魔物を1人で倒してしまった。黒い服に身を包んだ宙に。その時だった。
「さっさとどっか行けー! 悪魔!!」
そう村から子供の声が響いた。宙は村の方を見た。7、8歳くらいの少女が大人の村人より1歩前に出て叫んでいた。
『なあ、勇者って女なのか?』
『そうだよ、良く分かったね。ちなみに名前はリリス・ミリアム、将来、クリスタルで出来た剣を使うからクオーツ・プリンセスとか敵のどんな攻撃も防ぎきるからクリスタルの盾なんて通り名ができるよ』
はぁーと溜息をつきながら宙は少女の方に歩いて行った。少女以外の村人は宙が近づくと逃げて行った。
???
私の目の前に悪魔がいる。全身真っ黒だ。怒ったのかも知れない。怖くてたまらない。でも弱みは見せない、おばあちゃんが悪魔に会ったら絶対に弱みを見せちゃだめって言ってたから。私は勇気を振り絞った。
「こっちに来ないで! 速く出てって!」
「なあ君の名前は?」悪魔がそう聞いてきた。
これもおばあちゃんが言ってた、悪魔に自分の名前を教えちゃいけない! 私はとっさに嘘をつく。
「ア、アリスよ」
「嘘だな、君の名前はリリスだ、違うか?」
どうしよう!! この悪魔、私の名前を知ってる。頭が真っ白になった。
「俺は君に害を加えるつもりは無いよ、今日はリリスにプレゼントを持って来たんだ」
「プレゼント?」
私は茫然とオウム返しをした。
「そうプレゼントまあ、あんまり女の子には相応しく無いけど」
そう言い悪魔が1歩下がる。悪魔が右手を地面向ける、その右手が青く光った、私はその光が単純に綺麗だと思った。
「まずは剣から」
地面の土が丸く削れて行き、その中心から棒のような……剣? 徐々に柄、そして刃が出来て来た。持ち手と柄が銀色で刃は教会の窓ガラスみたいに透明だった。
「持ち手と柄が純銀、刃がクリスタルで出来ている。特殊能力も付けておいた。視力、動体視力、体力、腕力、脚力、魔力、治癒力、思考力が上昇。さらに相手の魔法、物理攻撃をある程、跳ね返すリフレクト。さらに剣を持っているだけで全ての状態異常に陥らない。しかもこの全ての能力はリリスとその血縁者以外が持っても発揮しない。持ってみて」
剣を持たされた。
「か、軽い……」
その剣はとっても軽かった。私の身長ぐらいの長さが有るのに。
「君が願えばその剣は例え家に置いたままでも君の前に現れるし消すことも出来る。消えろと念じてみて」
消えろ……本当に消えた……。
「出したい時は出ろと念じてくれ。よし次、鎧」
また青く光った。銀色と青色を基調にした鎧がそこに出てきた。
「まあ、さっきの剣と同じ能力が付いている。それとこの鎧はどんなに傷ついても自動で修復される。さらにこの鎧はいつも装着者に最適な大きさになる。もちろんリリスとその血縁者が付けた時にしか能力が発揮されない。出したり消したりもできるぞ。最後に盾だ」
青い光が今までのより強く輝いた……。
「剣?」
「ああ、確かに剣だよ」
そう言って鞘から剣を抜いた金と青で細やかに装飾されていた。私は思わず見とれていた。
「この剣の名前はエクスカリバー、戦いの勝利が約束された剣だ。盾はこっち」
そう言って私に大きな盾を持たせた。
「その盾はアヴァロン、君をどんな脅威からも守ってくれる。ちょっと貸して?」
私はアヴァロンを返した。
「この2つは君をどんなピンチからも救ってくれると同時に、とても危険なものなんだ、だから君が本当に危険になったら使えるようになるよ」
そう言って剣を盾の裏側にはめ込んだ。
「じゃあそろそろ行くね」
「あ、あのどうして……こんなに」
「ん?ああ、それはな――
悪魔はかぶり物と口元を隠していた布をとった。
――君が世界を救うからだよ」
悪魔は笑っていた。
宙(悪魔)
「じゃあね、リリス」
そう言って宙は手を振った。少し歩いた所で立ち止り振りかえる。
「それとー俺、悪魔じゃなくて! 天使だからな! まだ見習いだけど!」
『じゃあ帰るか。なあ、あれって別に問題ないよな?』
『ないない、むしろ魔王を倒すのに掛かる時間が速くなった』
『それで、この後どうなるんだ?』
『うんとね、最後の魔王の戦いの時に、魔王の攻撃であのクリスタルの剣が折れちゃうの。絶体絶命に成るんだけど、その時エクスカリバーが初めて鞘から抜けるの、それでエクスカリバーで終了。世界に平和が訪れました。めでたし、めでたし』
『ハッピーエンドなら良いか。よし帰ろう。報酬よろしく』
宙の足元に魔法陣が刻まれる。
そしてこの世界から宙は消えた。