第1話 初めての創造 前編
「はぁー!?」
訳が分からない、青野 空は心の中で悪態をついた。
「まあそうなるよね、分かりやすく説明するよ」
「当たり前だ!」
「あのさあ、僕これでも神なんだよ? 最高神だよ? まあいいけどさ」
腰まで届く長い白髪、細い肢体、その最高神は少年か少女かわからないなんとも中性的なものだった。最高神は肩を軽く落とし、ため息をついた。
「まず、ここは界の狭間というところ」
「界の狭間?」
そういってあたりを見回した、白い空間が終わりが見えないほどに続いていた。
「そう、異世界と異世界をつなぐ空間ってところかな? 分かりやすく言えば。さて、君がここに来た理由だけど、偶然だよ」
「……」
「そんなに、にらまないでよ。本当に偶然だったんだ、なにせ僕がダーツで決めたからね」
最高神は右手に人差し指と親指でダーツの矢を挟むジェスチャーをして「えぃ」と投げる動作をした。
「こんな、感じ。もちろんただ、ダーツをしただけじゃないよ。全世界つまり並行世界、異世界、天界、地獄、はてはアニメ、漫画、無限に等しい世界の中から、この世界この時代この地球の日本に住んでいる15歳から17歳の高校生。しかも両親がすでに他界し、ある程度心の傷がふさがっているもの。これが、ボクが投げたダーツに無作為に付加した条件だよ」
最高神は続けて言った。
「さらにダーツに当たった人物を、ここ界の狭間に強制的に転移させるようにしたんだ」
開いた口がふさがらない、まさに、「ありえない」この一言だった。
「そうまさにあり得ない、ボクも最初はただの暇つぶしのつもりで構築した、あんな陣でまさか君のところまでたどり着けるとは思わなかった。でも君はここに来た、だからバイトをしてもらおうと思う」
「はぁ? なにそれ? どう結びつくんだよ」
「これはもう決定事項だから、うん、立体型の転移魔法陣も発動させたし、あと1時間もすれば、ある異世界に転移するからね。そこで君は、目標を達成してほしい。簡単に言うとクエストかな? 当然、報酬も払うし目標が達成されたら元の世界に戻ってこれる」
怒りが臨界点をとうに超えていたが、空は急に冷静になっていくのを感じた。
(あれ、まてよ、これってチャンスなのか? これは俗にいう異世界でファンタジーな経験ができるのか? 剣に魔法、ドラゴン、魔王なんかがあったりするのか?)
「なあ、異世界に行くのは、やぶさかではないけど、このまま何の力もない現代日本人が行って何ができるんだ?」
「そこは大丈夫、いきなり無敵とかは無理だけど、それなりの能力ならいくつか選択できるよ」
「能力を選択?」
最高神はそういって突然手に平に“本”を出現させた。
(最高神なら何でもありか……)
もう考えないことにしようと心に決めた空だった。
“本”を受け取ってみる。大体A4サイズのでかなり分厚く、銀色の金属のようなものでできていたが、重量はそこまでなかった。
(すごいな、この本……? 何だ、これ2000?)
本の表紙の右下に2000とアラビア数字で書かれていた。
「なあこの数字はなんだ?」
「それは君のスキルポイントだよ。よくRPGとかでレベルが上がるとポイントを振るなりして能力が上がるだろ? 君のそのポイントを消費して本にある能力を取得するわけ。その2000ポイントはクエスト報酬の前払い金だとでも思っておいて」
「なるほど……」
(これは真剣に考えないと、“そういう”能力が必要なら命の危険も十分あるだろう)
空はぱらぱらと本をめくりながら目を通す。本はすべて日本語で書かれていた。
(お、これなんてどうだろう)
「この創造者ってなんだ?」
「そのまんま創造だよ、君が思い浮かべた物を作り出す能力。かなり制限がつくけどね。能力名の下に“お試し”と“解説”って円で囲まれて書いてあるだろ。そこに触れてみてくれ」
言われた通り解説に触れてみた。
『こんにちは~今回は創造者について解説するよ~』
空が解説の文字に触れた瞬間、立体映像が写し出された。
「なにこれ……」
「こんな風に、この本に載ってるすべての能力1つ1つに同じ機能があるだ、必要な時に使って」
「へー、それは便利だな、あとこの“お試し”ってのは?」
「それは、その能力を一時的に使えるようになるよ。ただし、ここ界の狭間の中だけだけどね」
あらかた説明を聞くと、まったく見ていなかった映像をまた初めから見直すことにした。
『――この創造者は、あなたが思い浮かべた物を作り出す能力だね。もちろんいきなり初めから宇宙とか世界なんか創り出されると困るから、かなりの制限が付くよ』
『制限その1、創り出すには、素材が必要』
『制限その2、創造物は使用した素材で構成される』
『制限その3、素材と創造物の質量は等しい』
『制限その4、生物または生物を使用し生成された物は創造できない』
『制限その5、1度に創造できる創造物の総量は3㎏以下また能力発動回数は1日30回』
『制限その6、質量の無い物は創造できない』
『――つまり土から鉄の剣は創造できない、鉄の剣を創造したいなら同量の鉄が必要になる。また聖具現その6により能力の創造はできない』
ここで映像は終わった。
「どうする? お試しする?」
空は頷きお試しの文字に触れた。すると同時に体を青い光が包んだ。「うわ!」空はあまりにもまぶしい光に声を上げた。
「大丈夫? 今のは、創造者がインストールされたんだよ」
「くらくらするけど平気。で、能力はどうやって使うんだ?」
「まったく……手間がかかるなー今回だけだよ?」
最高神はそういうと後ろを向き、右手を前にかざした。瞬間、白い輝きが空の視界いっぱいに広がり3回点滅した。
「こんなもんでどうかな?」
そこに突如として現れたのは、20mはありそうな鈍く輝く鉄の山だった。空はあたりを見回す。ついさっきまで一面白で塗りつぶされていた空間は何とも圧迫感のある場所になってしまった。
「これ、金か……あっちは白金……これだけあったら一生遊んで暮らせそうだな」
「それだけじゃないよ? さまざまな元素の単体、化学繊維などなど、一通り創ってみた、自由に使って練習してくれ」
空はもう何があっても驚かないと心に強く決意した。
「よし! やりますか!」
空は目の前の鉄の山の前に立つと、能力を発動した。空の両手が青く輝きを放った。右手で鉄に触れ、頭の中で、創りたいものを思い浮かべた。
(まずは、シンプルなものにしよう……ナイフなんて手頃かな)
空はおもむろに鉄を、能力を利用して粘土のように引きちぎった。
(お、意外と簡単だ)
空はちぎった鉄を右手に持ちイメージを固めていった。
手に持った鉄が生き物のように形を変えていく、手のひらから鉄が水銀のようにこぼれ、無駄な鉄をそぎ落としていく。みるみると形が整い、鋭い刃を持つナイフが出来上がっていた。
「すごい、すごいよ! この創造者はインストールしても習得するのにかなり時間がかかるんだ、補助なしで一発成功。空、君には才能があるよ! とびっきりの。それだげ、緻密な力のコントロールができたんだ。きっと魔術、魔法関連も才能があるはず」
今までの少し芝居がかった最高神の態度から一転していた。大声で空を褒め称え、心の底から驚き、そして笑っていた。
「お、おう。ありがとな……」
空は再度創造者を発動した。先ほどこぼれ落ちてしまった鉄を寄せ集めて、持ち手の部分を作り上げた、しっかりと自分の手がナイフを握った時にフィットするように丁寧にくぼみをつける。
「完成ー!」
「おぉー!」
ぱちぱちぱち、と最高神は初めて手品を見た子供のように目を輝かせた。
「さすがだね、空! ボクはこの創造者をマスターするのに15分かかったし、初めの一回目は発動させることもできなかった。3回連続発動なんて何回失敗したか、何回も言うけどボクは最高神だよ? 君は人間の身でありながら神を一時的に超えたんだ!! よし決めたよ空。君を今、この場で御前天使見習いにする!!」
「えーと、話についていけないんだけど……御前天使ってなに?」
「簡単に言えばボク直属の側近みたいなものかな? 見習いだから大した力もないし権力もないけど、そん所そこらの下位世界の神や天使じゃあ、手も足も出ない力を手に入れる事になるよ」
「世界や神にも上下があるのか?」
「あるある、基本的にそれぞれの世界は神ですらそう簡単に干渉できない。それを無限に等しい世界に干渉しながら空をここに呼んだボクと比べたら月とすっぽんだね。どう? 尊敬した?」
最高神は大した厚みもない胸を張った。空は面倒くさいのでとりあえず褒めちぎることにした。
「いやーそれほどでも、えへへー。――で、君はどうしたい? 御前天使見習いになる?」
最高神はとりあえず転移魔法陣を解除し、1柱と1人はゆっくりと話し合った。
空は御前天使見習いになることを決めた。
後半に続く。
これからもっとチートになっていきます。