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第13話 会社設立Ⅲ

 

 宙の今の気持ちはとても晴れやかだった。

 未来に呼び捨てで呼ぶ事を許可され、お土産のネックレスはとても気に入ってくれたからだ。

 今日は宙の16年の人生の中で最高の日になるはずだった、家に着くまでは……。

 宙が家に着き、玄関から入りリビングに向かう時、ある部屋のドアが宙の視界に入いる。

「忘れてた……」

 其れは、物置部屋のドアだった。

 

 宙はドアを開け中に入り、中央の扉からラボ――宙が決めた旧ポドリアの名称――に入る。

 ラボに入ると内装がガラリと変わっている事に気が付いた。白かった壁か黒く染まり薄暗い印象をうけさせた。

(まるで、悪の秘密基地みたいだな……)

 宙は試験室に向かった。向かう途中、大小様々な宙の知識を持ってしても使用方法不明な機械が宙の隣を横切って行く。

「……完全に迷ったな」

 宙は試験室に向かおうとしていたが、なぜか辿りつけない。

「道は有っているハズ何だけどな?」

 

 宙は≪絶対認識≫、≪完全記憶≫を発動、≪絶対認識≫でソナーの様に構造を読み取り、≪完全記憶≫で構造を記憶して行った。

 結果、ラボは完全に別物に成ってしまった事を宙は理解した。

 ブドウの房の様だと以前は表現したが、現在ラボの構造は樹の根に良く似ていた。

 もともと宙が≪万能空間形成≫で造り出したこの亜空間はラボを増築する事も考え木星がスッポリと入る程度の広さが有る。

 なので、樹の根の様に増築された現在のラボは三次元的に複雑に絡み合い、下手な迷路よりよっぽど迷路らしい構造に成っている。

「ヤバいな……これ。約1日だから……約120日でこれだけ増築されたのか」

 

 宙は取り敢えず記憶した、ラボの構造の中で一番大きな空間に転移で向かう事にする。

 その空間に生命反応は無かったが無機物、恐らく機械が一番集まっていた。

「転移」

 

 ***


「なんだ、こりゃ……」

 宙の目の前では機械が機械を作っていた。機械のアームが自動で動き、自動車工場の様に宙の見た事の無いアンドロイドを作っていた。

(装甲が有る……恐らく戦闘用だな。型は似ている、だがOT-A1より装甲が薄い、何の金属を使っているんだ?)

≪完全記憶≫をONにし謎のアンドロイドに最上級解析魔術≪解≫を掛ける。宙の掌から青い魔力光が現れ、アンドロイドの構造を事細かく宙に伝えて来た。


(装甲表面の材質はOT-A1かその他は未知の材質で構成されてる……成るほど複合装甲にして、第一装甲に丸みを持たせることで対弾性を高めたのか……この構造生み出すのにどれだけの時間を掛けたんだ?)

 宙は感心しながらそれらの知識を吸収していた。

 ――その時、宙は誰かが叫んでいるのを何となく聞き取る事が出来た。その声はだんだんと宙に近付いているようだった。

「死にさらせぇー!!」

 宙は声の主が後ろから迫ってきているので後ろに振り返る。


「だ――」宙は最後まで言う事が出来なかった。

 宙は時間が止ったかの様に思えた。裸足の揃えられた、白く小さな可愛らしい足が顔に迫る。右足は宙の両目に押しあてられ、左足は宙の鼻を押しつぶす。衝撃が相手の足から宙の顔、頭部全体、首と伝わる。宙は痛みより自身の足が地面から離れるのを先に感じた。そして次にじわじわと痛みが伝わって来た。顔から足が離れる、そして宙は天井を捉えた。宙は自分が仰向けの状態で飛んでいるのだと理解した。そして痛みが治まって来た≪再生者≫が発動したのだ。≪再生者≫は折れてしまった鼻の軟骨を一瞬という言葉が適切ではないと言えるほどの速度で回復するが、回復と引き換えに体力を消耗する。


 次第に天井が遠ざかって行く。後頭部から両肩、腰、両腕の順に地面に激突する、一瞬視界が真っ暗になり、すぐに視界が鮮明になって行く。此処でようやく宙は自分に起きた事を理解した。オイルの匂いを嗅ぎながら。

「――人生で初めてドロップキックを受けた……」

 すると仰向けに寝ている宙を誰かが上から、見下ろしてきた。絹の様でとても長いシルバーブロンドの髪が宙の鼻まで届き、鼻孔をくすぐる。

「おい!」

 ドロップキックをした、小柄で銀髪の少女が宙に話しかけて来た。


「兄貴!! 何でもっと早く来なかった!!」

 宙は、はて? と思考する。自分には妹は居ないハズである。そもそも、この少女の髪は銀色でとても日本人には見えない。

「誰?」

 だからこの問いかけは正しハズで有った。しかし、宙の言葉を聞いた、この少女の表情は誰から見ても激怒していると分かるだろう。

(……地雷踏んだな)


「この、バカッ!! タコッ!! 兄貴なんか死ねば良い!!」

 少女は足で宙の顔を何度も踏みつける。

「ちょ――待って、痛い――……ノア!!」

 するとノアと呼ばれた少女は踏みつけるのを止める。

「やっと思い出したか……兄貴。3034時間23分46秒ぶりだな」

 ノアはそう言いつつ宙の腹の上に跨り、座る。

「本当に……ノアか?」


「ああ、自立進化プログラム:ノアだ」

「その身体は……バイオロイド‐S4……完成させたのか?」

「そうだ。今、オレが保有している技術を使用し、長い時間を掛け完成させた、と言ってもこの体は言わば端末で完成には程遠い、現在は本体からデータを受信しているに過ぎない」

「そうか……それでもノア……すごいな。新しい技術だ」

 宙はノアに右手をのばし、頭をなでる。すると突然、宙の頬に水滴が落ちて来た。

「な、なんで――う、ぐずっすぐに……来なかったんだよぉ。もう来ない、かもって、何回も、何回も、考えて……捨てられた――って思って。寂しくて」

 ノアはうつむきながら泣いていた時々涙が頬を伝って落ちる。


「ご、ごめん。悪かった。捨てたりなんか絶対にしないから!!」

「ほ、本当に?」

「ああ、本当、本当。約束する」

「絶対に?」

「ああ、絶対に」


「此処から出て良い?」

「ああ」と言って宙は気付いた。

(今、此処から出て良いと言わなかったか?)

「やったぜ……ついに、ついに! この空間から出れる!!」

 その直後、地響きが聞こえた。そしてラボの壁に亀裂が走り、何処からか現れた、コードが生物の様にはい回っている。

 第一実験室に有るであろう、自立進化プログラム本体が宙の『ああ』を許可と認識し移動を開始のだ。

 ノアは立ちあがり、不敵な笑みを浮かべ、その仁王立ちに先ほどまでのしおらしさは微塵も感じなかった。


「お、おい。お前、猫被ってたな!」

「はっ!! 自分から引っ掻かっといて良く言うぜ。これで俺はこの狭苦しい空間から広い地上に出れる!!」

 宙は少し罪悪感が有ったが、自立進化プログラムが地上に出たらパニックになる。其れを防ぐため、マスター権限を行使する事にした。

「自立進化プログラム、機能停止」

 宙が命令すると地響きがピタリと止った。

「な、何でだよ!? 何で邪魔する!! 俺は地上に行きたいんだ!!」

 しかしバイオロイドは起動し続けていた。


(マスター権限でも機能が停止しない。……端末と言うのは嘘、スタンド・アローンでも行動できるのか……)

「ちくしょうッ!! あと少しなのに!!」

「なぁ、そんなに外に出たいのか?」

「ああ、そうだ!! オレは空が見たい!!」

「……じゃあ出るか? ここから」

「えっ?」

「本体は大き過ぎるから無理だけど、その機体なら平気だ」


「ホントか?」

「ホントだ」

「やったぁー!!」

 ノアは両手を上に挙げ、顔に満面の笑みを浮かべ硬直していた。

「……ノア?」

 宙はノアの肩を人差し指で軽く突くと、両手を高々と上に突き出した、そのままの状態で受け身も取らずに真横に倒れた。

(……S4型バイオロイドは嬉しすぎるとフリーズするのか?……やはり感情プログラムが重過ぎるな)


 ★★★


 宙は、今ノアと共に街を散歩していた。

 何の事は無い、寄り添いあう訳でもなく、手を繋いで歩く訳でもなく、唯2人でゆっくりと宙には見慣れた街を歩くだけの散歩。

 それなのに、ノアの瞳は輝き、興味、好奇心そして喜びに満ちている。

 大空を見上げ歓喜し、地面の土に触れ驚き、電柱、ポスト、ガードレイル、マンホールを指差し逐一『これは何か?』と笑みを浮かべ実に嬉しそうに尋ねてくる。

 宙には見慣れた物、当たり前の物でも、生まれてから待ち焦がれ続けたそれらは、ノアにとっては未知で不思議で驚きに満ちているのだろう。


 2人は某有名コーヒー店で休んでいた。宙はキャラメルマキアートを飲んでいたが、ノアは食物の摂取が出来ないので、ただ座っているだけだった。

「満足したか?」

「まだだ!! まだ満足していない!!」

 宙とノアが会話をしたのはこれで3回目だった。

「今日はもう良いだろ? また明日来ればいい」

「ここでの“明日”はオレにとって120日後だ、待ってられるか!」


「――亜空間への出入りを自由にしておいた」

「それって……」

「好きな時に研究して、好きな時に出て来れば良い」

「……」

 反応が無かったので宙はノアに視線を向ける。

 ノアがまたフリーズしていた。


 ***


 宙はノアがフリーズしてしまったので、ノアを背中に背負い家に帰る事にした。転移を使いたかったが、人が多すぎた。

 ノアが目を覚ましたのは、宙が家に着きノアをソファーに横にさせた後だった。宙は反対側のソファーに腰掛けている。

「そのフリーズ直した方が良いと思うが?」

「そんな事分かってるよ……この身体だとメモリが足りなくて、一定以上の感情の高ぶるとフリーズする。今、この身体以上の規格を考えている」

「へぇ、S4を超えるのか……」

 S4は帝国での次世代型バイオロイドで完成はおろか、形にすら成っていなかった代物であった。元ポドリアのメインコンピューターに企画書が有ったらしく、ノアが完成させた物だった。


 そのS4ですら外見だけで人間と見分けるのは不可能に近い、S4以上とはいったいどの様な物だろうかと宙は考えた。

「話変わるけど、兄貴がよく使う、物を創り出す力が有るだろ?」

「ああ」

「見ていて思ったんだ、兄貴は生物や生物を原料とした物を創り出す事が出来ない。有ってるか?」

「有ってるその通りだ、どうして分かったんだ?」

「兄貴はコーヒー屋でシュガースティックを創り出さずにわざわざ持って来た、砂糖はサトウキビから出来る、サトウキビは植物で生物だ、兄貴の能力はデタラメの様に見えて……実際デタラメだけど……法則が有るんだろ?」


「……良くそれだけの事で、推理出来るな……その通り『制限3、生物または生物を使用し生成した物は創造できない』ってのが、有る」

「3って事はまだ有るのか?」

「有るよ、1から6まで。がんじがらめ……おまけに能力を使うと、とても疲れるんだ」

「それでも、その能力は危険すぎる。兄貴って何者なんだ?」

「……」

 宙がどう答えようか考えていると――


 Pipipipipipi音と共に亜空間に入れておいたハズの携帯電話が宙の目の前に出現した。宙は携帯電話を掴む。

「マリア、あいつから?」

<はい宙様、最高神様から電話です>

「なぁ兄貴、誰からだ?」

「う~と……上司?」

『ハロー宙、なんか女の子の声が聞こえたね~あっ! もしかしてヤッてる最中だったりした? ごめんそんな――』


「違うからな!! お前もう分かってるだろ……」

『妹さんかー良かったじゃん宙、家族が出来て。宙って結構寂しがり屋だから、かなり嬉しいでしょ?』

「……ぁぁ」

 宙は蚊の鳴くような小さな声で頷く。

 宙の小さな肯定を聞くと、ノアは嬉しそうに目を細めた。

『それでも、“あれ”は必要?』

「勿論だ、今は良いかもしれないが……1日に8000tでは足りなさ過ぎる。エンジェル・カンパニーの発展には豊富な資源が要る」


『分かった、もう何も言わない。……≪万物独創≫で世界が完成した。今すぐに行ってみる?』

「ああ、行く」

『分かった……で宙の妹さんはどうするの?』

「できれば一緒に連れて行きたい、出来るか?」

『構わないよ? それじゃ、2名様ごあんな~い』

「あ、兄貴ッ!!」

 ノアは自分の足元に広がった魔法陣を見て今まで最も驚いている様だ、魔法、魔術の知識が有る今の宙はこの魔法陣凄さを理解していたが、ノアが魔法陣を見て驚愕している。


(あ! そう言えば魔力の研究をしてたか)

 宙とノアは転移した。


 ***


 ――界の狭間――

「オッス! おら最高神! ……とまぁ冗談はこの辺にして……始めまして、妹のノアちゃん」

「何でオレの名前知ってんだ?」

「それは僕が最高神だからだよ、自立進化プログラム:ノアちゃん?」

 最高神とノアが話をしている隣で、宙とマリアは椅子に座り優雅に紅茶を飲んでいた。


「なぁマリア、この紅茶美味しいな」

「そうですね、宙様」

「呼び捨てで良いよ」

「ですが……」

「上司命令」

「……はい。分かりました、宙」

(……なんか視線を感じるが無視しよう)


 ***


「自己紹介も済んだ事だし、出来たばっかりのエンジェル・カンパニーの拠点に行ってみようか?」

 初めから、今までの事をノアに全て包み隠さず話した。

 ノアに宙が『俺実は天使なんだ』と話した所、いきなり笑われた。天使だと言う事は信じるが、『兄貴はどう考えても天使なんて似合わない』だそうだ。

 宙は自分でも似合わない事は自覚しているのでグウの音も出ない。

「おう! ……でその拠点となる星には何が有るんだ? やっぱり進んだ科学技術か? それとも豊富な資源?」

 すっかり最高神と仲良くノアが最高神に尋ねる。


「いや、科学技術は平均して地球での中世、もっとも発展している所でも19世紀後半、基本的に魔術……向うでは魔法かな? ――魔法が発展してる。宙のご要望通りの星だね、近くの別惑星に危険性の高い生命体も居ないし」

「勿論宇宙人は居るよな?」

 宙が最高神に尋ねる。

「勿論、でもまだ手を出さない方が賢明だね……前回行った帝国の技術を遥かに凌駕してるから」

「マリア、またバックアップを頼む」

「お任せ下さい、宙」

 マリアが頬笑みながら腰を45°に折り礼をする。


「じゃあ行ってみようか宙、ノアちゃん」

 最高神が魔法陣を展開する。

「宙はもう一回行けば何時でも転移出来るから大丈夫だね……まぁ疲れるだろうけど」

「その辺は考えが有るから大丈夫だ」

「そっか、宙なら安心だね。それと忘れてないと思うけど仕事が出来たら呼ぶよ?」

「分かってる、電話してくれ」

「よし、じゃこれをあげよう、行ってらっしゃい。それでは――新生世界≪エルティナール≫」

 転移直前に最高神が宙にリモコンの様な物を渡すと、白い光が部屋全体を包み込む宙とノアの2人は転移した。


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