第11話 会社設立Ⅰ
――界の狭間――
「お疲れ様、其れじゃあこれが報酬の39兆円だよ、受けとって」
「おう、サンキュウー、それにしてもこの眺めは圧巻だな」
宙は椅子に座りながら周囲をグルっと見まわす、辺り一帯金しかない。報酬の39兆は国家予算に匹敵する金額だ、金が力と言うのであれば、地球では最強の部類に入るだろう。
「このお金をポイントに返還する?全部返還すれば3900万ポイントになるよ」
「そうだな……はっきり言って39兆有っても使う用とがないからな、1兆を残して全部ポイントに変えてくれ」
「分かった」そう言うと最高神の目の前にいつもの本が現れる、と同時に今まで有った金がほとんど消えて無くなった。
最高神は本を宙に渡してきた、宙は本を受け取り開く。
「何か習得して行く?」
「そうだな……使ってみてかなり魔法関係が便利だったから、この本に載っている全ての魔法、魔術を習得したい」
「了解、もう分かっていると思うけど魔法は魔術に比べてとても危険な物が多いから、むやみに使っちゃダメだよ?」
「わかってるよ、自分でやって理解した……」
「ならいいや」最高神はにへらっと笑った。
「じゃあ始めるね、この本に有る残りの魔法、魔術の80%で130万ポイント」
宙を白い光が包む、光が収まると宙は本にまた見始め有る事に気がついた。
「なぁ此処に並んでいるのは能力じゃないよな?」
「それは世界の名前だね、言わばチケット見たいな物だよ、ポイントを払えばその世界に行く事が出来る。ちなみにアニメの世界なんかもあるよ、今度、観光にしに行くのもいいんじゃない?」
「やっぱり、アニメや漫画の世界もあるのか……」
「およ? 気付いていたんだ、なんで?」
「向こうでこんなのを見つけた」そう言い宙は創造主を発動、あの電子書籍を創りだした。
「……宙が悪魔に成ってる……天使なのに……ブッ」
最高神はあからさまに笑いを堪えていますと言っている様な顔だった。
「笑うなよ……結構気にしているんだから」
「ごめんごめん、じゃあ次に移ろうか」
「そうしよう、……≪創造主≫以上の創造系の能力を習得できるか?」
「残念だけど出来ない、創造系は言わば神の特権みたいな能力だからね、御前天使見習いだと≪創造主≫で限界だよ」
「残念、あとはそうだな……この≪想像者≫の上位能力、想像主ってやつを頼む」
「≪想像主≫だね、了解っと。10000ポイントだから、3660万ポイント」
「まだ、そんなに有るのか……」
宙は習得したばかりの能力≪想像主≫を発動し思考速度を速める。
「あ! そうだ、1つ世界をくれるとか言ってなかったか?」
「そうだったね、忘れてた」
(忘れるなよ……お前が言った事だろ)
宙は文句を言いたかったが我慢した。文句を言った所で最高神のマイペース? が治るわけがないからだ。
「で、くれるのか?」
「いいよ、あげちゃう。どんな世界が良い?」
「そうだな、人間と外見が似ている宇宙人が様々な種類居て。魔術が有る世界かな?」
「それなら、全く問題ないよ。初めから宇宙の覇者みたいに成ってみる?」
「いや、それはいい。まぁ気が向いたら覇者を目指すけど、先ずは、ゼロからやりたい。どうせ時間はたっぷりあるからな」
「わかった、手配しておくよ。準備が完了したら、電話するから楽しみにしてて」
「おう。――さて、どんな能力を覚えようかな?」
***
結果、宙は≪毒状態無効≫≪呪状態無効≫≪病状態無効≫を習得状態異常にならなくなった。
そして≪銃使い≫の上位能力≪ガンマスター≫、≪戦士≫の上位能力≪アイアンハート≫、≪周囲認識≫の上位能力≪絶対認識≫、≪空間収納≫の上位能力≪空間生成≫そしてその更に上位能力≪万能空間生成≫、傷の自然治癒速度が格段に速く成る≪再生者≫。
計9つの能力を129万ポイントで習得した。残りは3541万ポイント。
「なあ、マリアって居るだろ? コンシェルジュの」
「居るね」
最高神は創りだした、椅子に座り≪クリスタルの勇者リリスと一匹の悪魔{上}≫を読みながら答えた。
「実は、会社を造ろうと考えてるんだ」
「“あの”目的のために?」
「そ、そうだ、悪いか……」
宙は腕を組みプイッと視線を反らす。
「別に全く問題は無いよ、それで?」
「マリアを俺の秘書にしたい」
「いいよ。てゆうか、マリアはもともと宙専属の部下だよ?」
「そうなのか?」
「そう、マリアに会ってみる?」
宙は頷く。宙はマリアに会うことに少しの緊張を覚えた。
「もうすぐ来るからちょっと待って」最高神がそう言った2分後にドアをコンコンとノックする音が聞こえた。
「入って」
「失礼します」
入って来たのは、宙のマリアに対するイメージ通りの人物だった。
金髪を後ろで結い、銀縁の眼鏡から覗かせる鋭い目、彫の深い顔立ちで、碧眼。日本人には無い肌の白さが金髪を引き立たせていた。
黒いビジネススーツを着て、ハイヒールを履いている。正にキャリアウーマン風のいでたちの美しい大人の女性だった。
「こんにちは、最高神様、宙様。本日はどういった御用件でしょうか?」
「うん、実は宙が会社を造るんだけど。マリアには宙の秘書を務めて欲しいんだ」
「畏まりました。 宙様これからよろしくお願いします」
そう言い丁寧にお辞儀をしてきた。
「こちらこそ、よろしく」
宙も椅子から立ち頭を下げお辞儀をし、握手を交わした。
「そう言えば、なんて社名にするの?」
宙は薄く微笑を浮かべ。
「それならもう決まってる」
「へー、何て言うの?」
宙は自慢する様に――
「エンジェル・カンパニーだ」
***
「先ずは今俺が持っている知識を吸収させながら、自立進化プログラムを成長させようと思う」
宙は最高神、マリアの2人にエンジェル・カンパニーの方針を話していた。宙も勿論、無計画で会社を造るなんて言っている訳では無いのだ。
「会社を興すだけの資金は有るし、円が使えない世界なら能力を使えば簡単に金は増やせる、今回実践して分かった。それに最高神にはバレてるみたいだけど俺の目的は金儲けじゃない」
マリアが少し驚いているようだった。
「マリア……俺が金の為にだけに仕事してると思った?」
「はい」と何のためらいも無く言われた。
「まぁ……5割、6割……いや7割くらいは金だけどさ……」
「ほとんど金しかないじゃん」
最高神が呆れたとばかりにソファーにもたれかかる。
「とにかく!! 当面の方針はエンジェル・カンパニーがさらなる技術を保有する事、それだけだよ。そのためには場所と時間が要る。最高神がくれる世界をエンジェル・カンパニーの根城にして、有る程度組織が大きく成ったら地球に進出するつもりだ」
「僕も宙には出来るだけ協力するよ。でも、仕事は続けて貰うよ?」
「おう! 分かってる。マリア、そう言う訳でしばらく秘書としての仕事は無いから後少しコンシェルジュを続けてくれないか?」
「畏まりました。御用がお有りでしたら、いつもの様にお呼び下さい」
「ありがとう。さてそろそろ帰るよ」
「うん、数日中に此方から宙に連絡するよ。宙に任せる世界が完成すると思うから」
「完成って……これから創るのか……」
「まあね。≪万物独創≫が有れば時間が少し掛かるけど世界が無から創れる。どう、見直した?」
「……帰るか」
宙は座っていた椅子から立ち転移魔法を発動させる。本に有った転移系魔術、魔法を全て習得した事で宙は1人で世界の行き来が出来るようになった。勿論、自由に様々な世界に行ける訳では無く、宙が認識出来ている世界。つまり、1度行った事が有る世界しか行く事が出来ないが。
「無視!? ……宙」
最高神が珍しく真剣な顔だったので宙は帰るのを一旦止める。
「宙が最後に殺した帝国の副大統領……天使だった」
「そうか」宙はどうでも良いとばかりに返す。
「別に天使や神が生物を幾ら殺そうが、世界を導き発展させれば構わない……しかし“あれ”は世界を壊そうとした。……世界には寿命が有る、世界が死ぬと新しい世界を創る為に、その世界を管理する最高神に僕が莫大なポイントを給付する。“あれ”はポイントを給付させるために故意に世界を壊そうとしていた。……今回は宙のおかげで阻止する事が出来た、ありがとう」
最高神が何か言っていたが宙は無視しマリアにだけお辞儀をして元の世界に帰って行った。
***
転移した宙は無事に自分の家に着いた。宙は仕事用では無いもともと自分が持っていた携帯電話を亜空間から出し見た。するとメールが一気に5件送られて来る、案の定送信主は全て未来だった。
(大体の内容は想像が付くな……)
メールの内容は宙の予想通りで、要約すると『何で帰ったの?』となった。
宙はそれに当たり障りの無い様に、嘘の中に事実を織り交ぜながらメールを打ち送信する。若干の罪悪感が有ったが、宙が今までした事を話した所で信じて貰える訳が無い。
最後に明日はちゃんと学校に行くと書いたメール送り携帯電話をしまった。
(……能力使いすぎてまた眠く成って来た。10000体のアンドロイドを創るのがキツかったな)
しかし、前回の様に気を失うまでには行かないのは宙の成長が速いからだろう。
宙は一階のあまり使っていない物置部屋に向かった。ドアを開けると至る所に物が積み上げられていて足の踏み場が無く、ホコリも酷かった。
宙は亜空間を形成し、手当たり次第に物を掴み放り込んで行く。床に散らかっている物だけは何とか片づけに成功することができた。
創造主を発動、物置部屋の床、中央に穴を創った。創った時の素材で頑丈な2枚扉を創るOT-MS1製だ。
扉を開けると、穴が出来ていて床下の地面が丸見えだった。宙は其処に≪万能空間生成≫を発動し穴の縁ぴったりの亜空間の入口を形成した。
この≪万能空間生成≫が今までの≪空間収納≫と違うのは作り出した空間を自由にアレンジする事が出来ると言う物だ。≪空間収納≫で形成した亜空間は生物を入れる事が出来なかったが、それも可能になり。亜空間内で流れる時間の速さを変える事も製作者の思うがままになった。
宙はその亜空間に生物が入れる様にし、時間の流れを弄った。そして、宙が現在いる世界と生成した亜空間を同調する様に設定する。
いずれは新しい世界にもこの亜空間の入口を作る為である。宙が新しい世界に居る時は地球では時間が流れない、宙の居る世界の流れに合わせて、また亜空間外での1秒を亜空間外――宙の居る空間――では2分に相当させた。
宙は若干の抵抗を感じながら亜空間内部に入る、其処には何もない闇が永遠と続いていた。
宙はスーツの内ポケットから≪contraction≫で圧縮した帝都の情報屋ポドリアを取り出した。圧縮を解凍すると、全長数kmに及ぶ巨大な建造物が出現した。まるでブドウの房の様に無数の大小様々な塊が付き。全ての塊は細い管で中央の太い茎に繋がっていた。その巨大建造物を、空間を操り亜空間の入口≪先ほど宙が入った所≫の所に移動させ、更に空間を操り建造物を固定した。
転移し建造物内に入った。
転移した先はレベル6の応接室だった、しかし宙には電気が来ていない為、真っ暗で何も見えない。宙は魔術を発動し明りを灯す。
この建造物は亜空間に有り、しかも入口が宙の家の物置部屋なので侵入者は居ないだろうと判断した宙は、面倒なセキュリティーを全てとっぱらった。
宙は制御室に入り自家発電を起動させる。次に空気清浄化装置、メインコンピューターと次々に起動させていった。
***
宙は今、第一実験室なる所に来ていた。四方を白い壁に囲われた部屋で天井がとても高かった。
宙は内ポケットから大きなアタッシュケースを取り出し、其れを床に置いた。
アタッシュケースを開けると球体状の自立進化プログラムが有った。
(これってどうすれば良いんだ?)
何かに組み込むなら、何かの接続口が無いかと探すが見当たらない。1か所だけ1mm程度の透明な結晶が埋め込まれていたので触ってみた。
『マスター権限者登録確認』
と突然音声が発せられた。
眠気と戦いながら≪想像主≫を発動する、そして思い出した。
(マスター権限……そう言えば、帝都図書館の電子書籍の中に1文だけ有ったな……権限一者集約型だったか)
権限一者集約型とは登録された1人に全ての権限を委ねる物で、登録者以外の命令は一切受け付けないと言うシステムだった。
宙は帝都で買ったパソコンを取り出し、起動させる。宙は自立進化プログラムをパソコンに近付けた。
その瞬間――球体状の自立進化プログラムが発芽した。
としか表現できない状態に成っている。植物の種から根が出る様にコードが球体から生えて来た。コードはパソコンにヤドリギの様に絡みつく。しばらく宙は“それ”を茫然と眺めていると、パソコンのモニターに文字が勝手に現れた。もはや、完全にホラーの域だったが、宙は臆せずに其れを読んだ。
『もっとたべたい』
ノイズだらけの合成音声で自立進化プログラムが始めて行った、宙へのコンタクトだった。
宙は帝都で買ったパソコンを全機種1ずつ残し、それ以外全てを自立進化プログラムの“ご飯”にした。
自立進化プログラムは全てのパソコンにコードを絡ませ自らの一部にして行った。
宙は実験室の床に直接胡坐をかいて座った。
「なぁ」
自立進化プログラムに宙は話しかけた、全く機械に話しかける事に抵抗を感じない事に、自らの事ながら驚いていた。
『なんですか?』
自立進化プログラムが先ほどとは比べ物にならないくらい、滑らかな合成音声で言葉を発してきた。
「俺の名前は青野 宙って言うんだ、宙が名前で青野が名字だよ。……君には名前有る?」
『いえ、有りません』
「じゃあ名付けていい?」
『はい、宙』
「そうだな~……ノアってどう?」
『はい、分かりました。宙、今から私はノアです』
宙はノアとしばらく話していた。そして帝国図書館で記憶した電子書籍を≪創造主≫を発動し制限で発動しなくなるまで出した。其れをノアに見せる。ノアはコードをまるで手の様に扱い電子書籍を読んでいた。
「ノア、俺は帰るよ」
『はい』
「次に来るのは……480時間後だからね」
『はい』
「それまでにその電子書籍を出来るだけ読で居て」
宙は山の様に積み上げられた電子書籍を指差す。
『はい』
「この部屋からは出ないでくれ」
宙はとても寝むそうで目が今にも閉じそうだ。
『はい』
「よし、じゃあ……480時間後にまた会おう、転移」
宙は転移し実験室から姿を消した。パソコンに取り付けられていたカメラがその姿を捉える。ノアはうねうねとコードを使い電子書籍のタッチパネルに触れていた。
今この亜空間にはノアしかいない。