表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/20

第10話 未来都市Ⅵ

宙がホテルの自室に戻ると幸いなことに二人はまだ寝ていた。日はもう上り、携帯電話は9時前を指していた。

(そう言えば今日って平日だよな?学校に行かなくて良いのか?)

宙は2人を起こす事にした。ベッドに寝ている2人の肩を優しく揺する。


「う~」と言う声を上げながらテイネが起きた。

「頭痛~い」とネイアが悲鳴を上げる。

「寝起き直後で悪いが、2人とも学校は大丈夫なのか?」

宙のその一言は2人の眠気を吹き飛ばした。2人は仲良く悲鳴を上げ、ベットから飛び起きる。そして更に宙を見て悲鳴を上げた。

「何でアンタが居るの!?」

「此処、どこ~!」


二人とも記憶が飛んでいる様だ。宙は半ばパニックに陥っているテイネとネイアをなだめながら、説明をして行く。何とか落ち着いたみたいだが、時間は待ってはくれない。刻々と時間(遅刻)の2文字は迫って来た。

「マリア」宙は天下の宝刀に頼む事にした。


<畏まりました。テイネ様、ネイア様。お車を手配しました。……その前に服をお着替えください。新しい制服を用意しました>

テイネとネイアは自分の服装を見る。着て寝た所為でよれよれのしわしわだった。マリアの用意した新しい制服を手に2人は部屋を出て行った。テイネは部屋から出る時に宙に「覗いたら殺す!」と釘を刺した。


宙を含めた三人はエレベーターに乗り、エントランスに着いた。ホテルの外に出ると其処には黒塗りの高級車が止っていた。地球で言えばリムジンだろうか、見ただけで高級感を感じさせるその車体は鈍く輝いていた。宙が高級車に乗ると、テイネとネイアが恐る恐ると言った感じで乗車した。車内は、かなり広く窮屈さを感じ無い作りでソファーが置かれ、小型の冷蔵庫まで完備されていた。


「さて2人とも、突然だけど今日の午後に帝都を発つ事に成った」

「えっ!」「そんな!?」とテイネ、ネイアは驚いていた。

「後8日は此処に居るんじゃないの?」

とテイネが宙に聞いてきた。

「それが……問題が起きちゃって、急いで事態を収拾しないとイケなくて」

「そっか……それじゃ仕方無いね。でも、もう会えない何てことは無いよね?」

「正直に言えば判らない……でも、運が良ければまた会えるよ」

「絶対に! また会おう!」とテイネが口調を強めて言った。


「う、うん、きっとまた会えるよ」

車は目的地の学校に着いた。周りにはテイネ、ネイアと同じ学校の生徒が至る所に居て、此方に視線を向けてくる。

「なんか降り辛いわね……」

「テイネそろそろ行かないと遅刻しちゃうよ?」

テイネとネイアが車から降りる。

「それじゃあまたね宙!」

「宙さんまた会いましょう!」

「ああ、また会おう」宙はそう言いテイネとネイアに手を振った。2人も手を振ってくれた。


宙は2人が完全に見えなくなるまで2人の後ろ姿を見ていた。


***


「さて……仕事の時間だ」宙の纏う雰囲気が変わる。観光は此処まで、宙はネクタイをきつく締め己を戒める、運転手にビジュ帝国本店ビルに向かう様に伝える。

ビルの周辺は騒然としていた。押しかける報道陣、宙と同じ様な高級車に乗った身だしなみの良い人物で溢れかえっていた。宙はこの中では最年小の様だ。


周囲から奇異の視線を多分に感じる宙だが、そんな事はお構いなく入口の自動ドアに向かっていく。ビルの中に入り、受付の人に会場を聞くとカードの提示を求められた。宙はもう慣れたという感じでカードを見せる。


そして会場の階を教えて貰うと、エレベーターに乗り向かった。目定の階はワンフロア丸ごと会場に成っていた。現在はオークションに掛けられる様々な商品が、所せましと展示されており、会場は人でごった返していた。その全てに人がゴールドカードを持っている人と言う事になる。宙は、こそこそと、準備を始める事にした。


このフロアを一周し自らの魔力で印を付けていく。

(まぁ、こんなもんか……ん? あれは、リーアさんか挨拶しとこうかな?)

宙はリーアの基に向かって歩き始め。だいぶ近づくと声を掛けた。

「こんにちは、リーアさん。先日はどうも」


すると、リーアは宙に気付き驚きの表情を浮かべでいた。

「こんにちは、宙さん。来てらしたのですか?」

「はい、まさかリーアさんが、こんなに偉い方だとは思いませんでしたよ?」

「すいません……あの時は店の抜き打ちの調査だったのです」


リーアと宙が話していると報道陣のカメラが向かってきた。

「すいません、宙さん。それでは楽しんで下さい」

そう言うと、リーアはインタビューを受け始めた。宙は此処から離れる事にした。宙は歩きながら、展示されている宝石類を見る振りをしながら、周囲を見渡す。宙の視界にかなりの数の目標を視認した。確認した人物に自らの魔力を付け何処に居ても位置を把握できる様にする。


(やっぱり集まって来たか……来たのは正解だったな。……それにしても全員悪そうな顔してるな……)

宙は歩いて人間観察をしていると、会場に居る10%程度は、戦闘を経験した事の有る人間だと推測した。

(武器を携帯しているか……まぁ小火器程度なら全く問題ないけど)

その時だった――

会場のドアが開きある人物が入って来た。すると会場中に散っていた報道陣が一斉に集まり、カメラのフラッシュが連続して何回もたかれる。


この国の大統領、アウエル・シュテットが登場した。大量のSPらしき人を連れて。

(現在この会場に居る目標は34人か……外の方は1人につき20体で良いか……さて)

「さて、マリア始めようか」

<畏まりました>


宙は目を瞑り身体の魔力を全身に行きわたらす。すると宙の足元に魔法陣が刻まれ始めた。報道陣のカメラが此方を向くが構わない。

宙はパンッと手を叩く、それほど大きい音では無かったが、会場全体に響き会場は静まりかえった。


「≪吸収型無点結合結界≫」宙はそう言った瞬間、異変が一部の人に起きた。其れは生放送をしていた。報道陣のカメラだった。映像がスタジオに送れなくなっていたのだ。

宙は上位の魔術結界をこのビル全体を覆い尽くす様に張った。それでこのビルは完全に外界と遮断された。


宙はツカツカとわざと靴が鳴る様に歩く、そして会場前、司会者が立つであろう場所に向かった。着くと、大きく息を吸う。そして――

「レディース&ジェントルメーン!! 本日は皆様方、よくお出で下さいました」

宙は手を大きく上に広げ高々と言い放った。会場から視線が一斉に向けられる。

「それだは自己紹介に移らせてもらいます。私は、この国を脅かす悪いテロリスト、そして最高神直属対戦略用御前て・ん・し見習い青野 宙と申します」


宙はまだ何が起こったか理解していない人々が簡単に理解できる様にした。宙は懐から銃≪デザートイーグル≫を抜き、最初の目標、あの男に向ける。SPらしき男が射線上に入ったが、構わず引き金を引いた。

.50AE弾はSPの男の頭部を貫通し、あの男の頭を吹き飛ばした。一瞬静まり返り、次の瞬間、阿鼻叫喚の四文字がとてもぴったりな空間になった。


会場内のほとんどのSPらしき人物は、護衛対象を連れこのフロアから逃げて行ったが結局はこのビルからは逃げる事が出来ない。

会場に残った武装をした人達は宙に弾丸を放った。しかし、当たると思われた弾丸は宙の少し手前で光の壁の様な物に阻まれ届かなかった。宙が発動した魔術結界である。


宙はパチンッと指を鳴らす。すると宙の後方の空間に黒い亀裂が5つ生じ中から漆黒のアーマーを装備したOT-A1が50体現れた。OT-A1は武装SP集団に対してH&K G3/SG1とH&K MP5のフルオート、瞬く間に殲滅して行った。


室内の掃除が終了すると、追加で7つの亜空間の扉を開く。

宙は口を開き命令する。

「目標以外で無抵抗な人間には絶対に危害を加えてはいけない。此方から先に攻撃は、けしてするな。だが、攻撃をされたら容赦するな全力を持ってひき潰せ!」


《ラージャ》一斉に120体のOT-A1はこの会場から出て行った。しばらくすると銃声が聞こえてきた。

宙はこの会場に居なかった44人の居場所に亜空間を2個ずつ発生させ様としていた。座標は先日手に入れたデータから調べた物なので心配はいらない。宙は一斉に88個の亜空間をそれぞれの座標に開いた。

宙がOT-A1に出したオーダーは3つ。


1、無抵抗な一般人に決して危害を加えてはならない。

2、此方からは先に危害を加えてはならない。

3、目標達成次第、宙の居る座標まで自力で帰還する。

その際、生じた障害は1,2を遵守し排除せよ、だった。

宙は現在自身が保有する知識で創り上げた、OT-MS1が何処まで通用するか試していた。

88の亜空間が無事、帝都全域に展開された。すぐに外が騒がしく成って来た。


宙はビルの窓ガラスから帝都を見まわす、帝都の一般住人は最寄りの避難シェルターに逃げ込んでいた。

(是ならほとんど一般人への被害は出ないな……いや、間接的とは言え結局は人殺し……

俺も大量殺戮犯の仲間入りか……。其れにしても、俺もいい加減壊れてきたかな?全く罪悪感がわかない。人を殺しているのに……)


***


テイネは授業を受けていたが、授業内容が頭に入ってこなかった。

(あ~あ、宙に振られちゃった……結構、好きだったんだけどな……)

テイネは酒を飲み、酔った勢いで宙に告白の紛いな事を言ったが冗談では無く半ば本気だった。そんなテイネの救いは、宙がきっぱりと無理だと言ってくれた事と、大量に酒を飲み酔い潰れ寝てしまった事だった。


(今日は、寝て過ごそうかな……)

その時――

ドゥンと何かが爆発した様な、重い音が響いた。更にジリジリジリジリと緊急避難警報の音が鳴り響く。クラス全体をやらせの練習とは違う、異質な不安感と恐怖が支配していく。すでに隣のクラスはパニックを起こし、騒ぎ出す。恐怖や不安感は伝染し、テイネのクラス中に蔓延する。その時、誰かの口から小さな悲鳴が零れた。


クラスと言うコップに、表面張力を起こすまで注がれた恐怖と言う液体は、その小さな悲鳴と言うひと雫で零れるには十分だった。

決壊した恐怖がクラスをパニックへと導いた。教師の指示を聞く生徒はおらず我先にと教室を出て行こうとする。このままでは、避難場所であるシェルターに着く前に死人が出るだろう。

ただ1人、この状況下で冷静さを失っていない人物がいた。その人物は座っていた椅子を手に持ち、おもいっきり窓ガラスにぶつけ、叩き割る。廊下からは先ほどまで聞えてこなかった、悲鳴と怒鳴り声が鮮明に聞こえて来た。


その出た音で、このクラスだけが時間の止った様に静かに成った。そしてガラスを叩き割ったクラスメイトに全員の視線が集まる。

「……みんな、先生の指示に従って、冷静に、素早く非難するわよ。それじゃあ先生、後よろしく」

テイネはみんなを安心させる様に笑顔で指示を出した。今度は教師の方に視線が集まる。教師は指示を出し始めた。


その時、テイネの手はかすかに震えていた。


***


目標をクリアした20体のOT-A1は宙の居る座標に向けて移動していた。この部隊は目標に小銃を向けられたが引き金を引く前に射殺し、今の所は無傷だった。周りは喧騒に満ちており、正にシェルターに避難している最中だった。ビルの隙間から所々、黒煙がもうもうと上がっているのが見える。


前方から4台のパトカーと装甲車2台がランプを点灯させ現れた。それらはOT-A1の進む道を塞ぐように停車した。パトカーからは警官が装甲車からはヘルメットで顔を覆い身体中にプロテクターを付けた、都市迷彩色の集団が降りてくる。そして拳銃とサブマシンガンを向けて来た。


『そこの武装集団、今すぐ武装を解除し投降せよ!!』

警察の1人が声を拡声器に通して警告してきた。頭部から足先まで防護アーマーで覆っていた事と、この世界で普及している人型ロボット特有のぎこちなさが無く、正に人間の様な動き方に警察はOT-A1がアンドロイドだとまだ気づいていなかった。


宙の命令を忠実に守り座標に向かおうとしたその時、パンッとOT-A1に警察官の1人が発砲した。手の震えによる誤射だったが。そんなことはOT-A1には関係無かった。瞬時に戦闘態勢と成ったOT-A1はすぐさまカバーポジションを取り発砲し始めた。16のH&K G3/SG1が火を噴いた。瞬く間に警察官と都市迷彩部隊は血の海に沈んでいく。警察官は全滅し残った半分程度の都市迷彩部隊は装甲車の影に隠れ反撃してきた。


幾ら撃ってもらちがあかないと判断した、OT-A1は装甲車に向けてRPG-7を1発放った。

ドゥンキンッ!! と爆発し装甲車は跳ね上がった。

殲滅を完了したOT-A1は、敵が落とした火器を回収し、そして目的地に進もうとした時、カツッンと金属音がした。音と共に1体のOT-A1が仰け反った。全てのOT-A1がまたビルなどの物影に隠れた。OT-A1はスナイパーだと判断した。撃たれた機体にほとんどダメージは無く、弾丸は見事に額に命中していたが、アーマーに防がれ、その下の装甲にすら届いていなかった。


狙撃されたOT-A1は撃たれた角度から場所を割り出しH&K G3/SG1を向け1発発砲した。弾丸は見事にスナイパーの額を撃ちぬいた。すると一斉に辺りのビルの窓から銃が向けられた。隠れる場所が無いと判断したOT-A1は、隠れていた場所から抜け出した。すると何百と言う弾丸が銃口から吐き出された。OT-A1は弾丸の雨を受けるが全てアーマーにストップされる。


敵の部隊をOT-A1は確実に仕留めながら、目的地に向けて進行し始めた。


***


帝国警察組織は帝国で起きる33の同時多発大量殺人事件と、各国の資産家や帝国の重要人物が多数居る。ビジュ本店ビルを覆う様に出現した結界で、機能がほとんどマヒしていた。


事件の制圧に向かった警察や特殊部隊はことごとく殲滅され、創設以来初の殉職者数を叩き出していた。

しかも警視庁本部にOT-A1が2部隊40体現れたことにより目標である総監と副総監を殺害。銃を向け発砲した警察官はことごとく射殺された。警視庁本部はOT-A1が出現してから300秒で機能しなくなった。

40体のOT-MS1は警察庁から外に出ると銃の一斉砲火にさらされた。今までの警察関係では無く軍隊が出て来た様だ。警察庁の周りは装甲車や多脚戦車が何十と並べられ、空には武装ヘリが無数に飛んでいた。40体のOT-A1は射撃された事により相手を敵性勢力と判断し戦闘態勢に移行した。


36体のOT-A1が援護射撃をし、4体のOT-A1が銃を背中に仕舞い走り出した。目にも止らぬ速さで多脚戦車に近寄りながら手榴弾のピンを抜き、多脚戦車の車体を駆けのぼる。手榴弾をハッチに置き戦車から離れる。残りの3体も同じ様にする、手榴弾が爆発しハッチが歪む。また多脚戦車に駆け上り歪んだハッチに指を掛け無理やりこじ開ける。H&K G3/SG1を中に乱射し中にピンを抜いた手榴弾を放り込む。爆発音が4連続で響いた。


更に突然戦車上部に亜空間の扉が出現。追加として排出された十体のOT-A1は戦車に張り付くとハッチを無理やり引きはがし、内部から破壊していった。

RPG-7を装備したOT-A1は思考していた。RPG-7は対戦車用で、対空ミサイルでは無い。かなりの距離が有り、武装ヘリに当てるのは困難を極めた。もちろんH&K G3/SG1でのスナピングは行ったが装甲で阻まれた。


ドゥルルルルルと連続した銃声――武装ヘリに装備されたガトリング砲が火を噴いた。

障害物が豆腐の様に砕け1体のOT-A1がガトリング砲をもろに約2秒受けた。弾丸はアーマーを貫き装甲に達し、装甲の1か所に運悪く10発以上弾丸を浴びついに装甲が貫かれ機能を停止した。ヘリの搭乗者は歓喜していた。


しかし、武装ヘリにとって約2秒の制止は致命的だった。OT-MS1がRPG-7を発射し武装ヘリに命中、爆発した。

破壊されたOT-A1の真下に亜空間が生まれ、亜空間の穴に沈んでいった。技術の漏洩を防ぐため宙がOT-A1の機能が停止した時、自動で回収するために付けた機能だった。

OT-A1は落ちている武器弾薬を回収しながら、交戦し目的の座標に向かった。


***


――帝国軍本部最高指令室――

其処には様々な立体映像が映し出された戦闘映像がリアルタイムで表示されていた。何十人と言うオペレーターが指示をだし、情報が集められて行く。

その後方には軍服を着た10人の男とスクル帝国副大統領が半円状のテーブルに備え付けられた椅子に座っていた。


帝国軍本部最高指令室の最高権力者は大統領であるアウエル・シュテットで有ったが、現在、ビルの中に捕えられていると判断され突入しようとしたが、宙の結界でビルに入る事が出来ずにいた。そして、手を拱いている中に被害は拡大して行った。

そこで止むを得ず大統領から副大統領に指揮権を移し先ほどやっと軍を動かす事ができた訳である。

しかし、軍は当初、敵勢力は人だと思っていたが、そうでは無かった。現代の帝国では再現できない程精巧に造られたアンドロイドだった。


当初指令室に確認されたアンドロイドの数1000体程度だったため、一個機甲師団と一個航空旅団を投入し、速やかに排除するつもりだった。

しかし、敵部隊を全滅程度まで追い込んだ辺りからアンドロイドの個体数が一度に八倍以上に膨れ上がった。これにより形勢を逆転され、都心部という事もあって大規模な攻撃を行なえなかったために部隊に多大な損害が発生した。


アンドロイドはどれも多脚戦車並みの装甲を持ち、恐怖を感じず、熟練させた兵士の様な正確で洗練させた銃捌きであり、数的優位が崩れれば大損害を出すのは必然であった。

指令室には様々な情報が瞬時に入ってくるがどれも、朗報は無かった。


「第1第2戦車師団……壊滅しました」

「第3戦車師団、交戦開始」

「第15航空部隊、損害が多く後退します」


その報告に指令室はざわめく、約40000人の兵と600台の軽装甲車、300両の多脚戦車、武装ヘリ40機を投入したが、まだ30分すら経過していない。アンドロイドは障害を確実に、障害を排除し、宙の居る座標に移動しているだけでこの被害が出た。

「馬鹿な!!」


と周りから声が上がる。

「相手を何体破壊できた?」

「現在確認されている数で520体です」

「報告によると、破壊された機体は黒い穴の様な物の中に沈んで行ったとの事です」

「何だ、それはもっと正確に報告したまえ!!」


その時また指令室に情報が入る。

「敵アンドロイドはビジュ帝国本社ビルに向けて集結していると思われます」

「よし、そこに集結したと同時にミサイルで殲滅すれば――」

「そのビルには何百人と言う各国の資産家や我が国の大統領がおられる。手を出す事が出来ない、しかし其処に動かせる部隊を全て配置しておけ、数で一気に叩く」


そう副大統領が命令した

かすかに希望が見えて来た指令室だった。

その時――

指令室を警報が鳴り響き、赤い警告ランプがともる。

「何事だ!!」

「何者かがクラッキングを仕掛けてきています!」


オペレーターの1人が焦った声で報告してきた。全てのオペレーターが指示を出すのを放棄し、指で忙しなくキーボードを叩く。

「クソ、なんて早さだ!!」

「ファイアーウォール展開……突破されました!」

するとまた警告が鳴り響いた。

「セクター3に侵入!」

「不味い!! セクター3はメインコンピューター制御関連だ、何としてでも死守しろ!!」


何重ものファイアーウォールを突破し、ついにメインコンピューターの制御を奪われた。現場に指示を出す事も出来ず、新たな部隊を投入する事も出来なくなった。それどころか帝国が現在保有する大量破壊兵器の発射スイッチを奪われた事を意味していた。


「物理的に阻止しろ!! 機能を停止させれば……」

副大統領が声を荒らげる。

「無理です……メインコンピューター本体は此処にはありません、宇宙に打ち上げた人工衛星に搭載されています。今の指令室はメインコンピューターと完全に切り離され、もうほとんど機能しません。我々の負けです」

「そんなことが……」


声を荒げた副大統領は力無く椅子に座りこみ頭を抱えた。その時――

<こんにちは、指令室の皆さん>

突然、音声だけの通信が入った。

「誰だ!」と副大統領が尋ねる。

<私は、メインコンピューターにクラッキングを仕掛けた、マリアと申します>

「君の目的は何だ!? 何故この様な事をする!」

<それに就きましては、私の口からはご説明しかねます>


「なに……」

<今から、今回の事件の首謀者にして超カッコいい――、はぁー宙様いい加減茶番はよしましょうよ……>

「そうかな? マリアも意外と乗っていただろ」

と、先ほどまで座っていたオペレーターの1人が制服では黒いスーツを着て、無く親しげにマリアに話し掛けていた。


「き、貴様は誰だ……何時からそこに……」

副大統領は驚愕し額に汗を浮かべていた。

「俺ですか? 俺はこの国を脅かす悪いテロリストにして、最高神直属対戦略用御前て・ん・し見習い、青野 宙と言います。ちなみに何時からと言う質問は“初めから”ですよ」

副大統領は鼻に何か鉄の様な匂を感じた。するとみるみると顔色が青ざめて行く。


「やっと気付いた。結構、鈍感だな」

宙は口調を変える。

1人副大統領を除いて10人の軍司令官が血まみれに成って死んでいた。

「あの後転移してさ、お前らがまごついている間にオペレーターに成り替わって幻覚を見せる。≪敵アンドロイドはビジュ帝国本社ビルに向けて集結していると思われます≫って誰かが言ったのを覚えてるか?それは俺だよ、全く幻覚魔法は威力がすごいな、入ってくる情報を全て間違って理解する」


宙の顔に表情は無く、たんたんとしていた。

「それとな、全てのアンドロイドは俺に向かって移動している。さっき言っていたよな、動かせる部隊を全て配置しておけだっけか。すると残存する4023体のアンドロイドが手薄な軍本部で暴れまわるわけだ、と言っても初めの110体でほぼ制圧したけど」

副大統領はすでに話を聞いて居なかった。


「魔法、この言葉に覚えは有るだろ? お前がアウエルにけしかけ無ければ、こんな事には成らなかった。真の元凶はお前だ」

そう言い宙は額に銃を押しつける。

「そうか、お前が神祖世界最高神直下の者だな」


突然、副大統領の姿が変化していった。そして現れたのは銀色の髪に銀の瞳を持った少年だった。

少年はどこか諦めた表情をすると静かに言った。

「早くしてくれ」

「それじゃあお望み通りさっさと地獄に行きな、多分あると思うから」

宙は引き金を引く。乾いた音が響き、空薬莢の落ちる音が高く響いた。


***


テレビを点けたニュースが放送されていた。

『――帝都を恐怖のどん底に突き落としたテロリスト青野 宙は謎のアンドロイド集団と共に姿を忽然と消しました』

チャンネルを変える、ニュースが放送されていた。

『続いてのニュースです。今日、正午過ぎビジュ帝都本社ビルで起きた謎のエネルギーフィールドを使用したと思われる立て籠もり大量殺害事件によりアウエル・シュテット大統領が殺害されました』


チャンネルを変える、ニュースが放送されていた。

『帝都全域で発生した33の同時多発主要人物殺害事件はアンドロイドを使用した人為的なテロ行為と政府は判断。それにより軍が動き、帝都全域で激しい銃撃戦が展開されました。其れにより死傷者は5万人を超えましたが、一般人への被害は軽微で奇跡的に死亡者は出ませんでした』

チャンネルを変える、ニュースが放送されていた。


『帝都全域を巻き込んだ一連の事件の速報いです。本日午後1時からビジュ帝国本店で開催される予定だった、オークション会場に今回のテロ行為の首謀者青野 宙を捉えた映像を入手いたしました。この映像は事件発生前の物と思われ、この直後に一連のテロが発生したと思われます』

映像が流れ始めた。


『それだは自己紹介に移らせてもらいます。私はこの国を脅かす悪いテロリスト、そして最高神直属対戦略用御前て・ん・し見習い、青野 宙と申します』

テレビを消した、どのチャンネルも今日起きた事件しか伝えなかった。

(宙……なんで……なんでよ)

自室でテレビを見ていたテイネは、膝を抱え丸くなり蹲る様にして、唯ひたすら、また会えると約束した少年の事を考え続けていた。

「何で何も言わなかったのよ……ばかぁ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ