第9話 未来都市Ⅴ
テイネと別れホテルに帰り、自室に戻った宙はベッドに入り寝ようとしたが寝付けなかった。本来、天使は食事をおろか睡眠すらほとんどとらない。宙がまだ見習いで有ることと慣れない力を使い続けたため食事や睡眠を必要としたが。見習いとはいえ御前天使の宙にもあまりそれらは必要では無い。
宙はベッドから抜け出すと、部屋の明かりを付けテレビを点ける。チャンネルを回していく。特に見たい物が無いので、ニュース番組に切り替え耳だけを傾けていた。
『次のニュースです。昨日、各国のセレブの間でも評価の高い高級宝石店ビジュ帝都本社から公式の発表が有りました。それによると明日、午後1時からビジュCEOリーア・シェフト氏主催のオークションがビジュ帝都本社ビルで催される模様です。オークションに参加するにはゴールドマネーカードを所持している事が条件だそうで、必然的に高額な商品の数々が出展されるとのことです。オークションの目玉はなんと37カラットを超える巨大な宝石で、8千万Åから開始だそうです。それを聞きつけた各国の資産家がこの帝都に続々と入国し始めています。さらにアウエル・シュテット大統領も訪れると言う情報も入っておりビジュ帝都本社ビルは厳戒態勢が敷かれております』
「あのオーナーCEOだったのか……道理で即断で5億Åなんて大金を動かせる訳だ」
宙はテレビの前から離れ、備え付けられたワインセラーからワインを1本取り出す。コルク栓抜きを探すが、見当たらないので創造主を発動し、コルクを純金にして体積が小さくする。純金はラムネのビー玉の様に落ち、沈んだ。宙はグラスにワインを注がず、ビンにそのまま口を付け、一気にワインをあおる。そしてブバッと思いっきり吐きだしてしまった。
「ゲホッ、ゲホッ。何だこれ不味っ! よくこんな不味い物を平気で飲めるな?」
辺り一帯がワイン色に染まってしまった。宙は創造主を発動し綺麗にしていく。
「はぁ~何してんだろ俺……それにしても明日か……仕事しに行ってみようかな?」
***
朝――
宙は会館と共に図書館に来ていた。勿論知識の吸収だ。≪完全記憶≫をONにし、これから必要になりそうな書籍を読みあさる。なぜか時々司書が現れ、「読み終わった本はどれですか?」と聞いてくる。宙が本を指差すとそれを持って行き元の場所に戻してくれた。ありがたい限りだ。
宙は一段落しようと椅子から立つ。ポケットから携帯電話を出し時間を確認する。1時を過ぎていた。読み終わった書籍を、抱える様にして持つ。1つ1つ元の場所に戻していく。完全記憶で正確に記憶していたので難なく戻せた。技術関連の書籍しか読んでいなかったので他の本も見てみる事にする。するとある1冊が目に止った。
「……クリスタルの勇者リリスと一匹の悪魔≪上≫って……」
それは前回の仕事の事が冒頭に記された物語で、隣を見ると中、下巻が有った。
(別の世界の出来事がこの世界では物語に成っている?……という事は地球での物語の数々も何処かの異世界の出来事なのか?)
宙は推測をするが憶測の域を出なかった。
(もし……それが事実ならアニメの中に出てくる様々な超科学がこの手に)
「それにしても……」
宙はその電子書籍を手に取り読んでいく。その中に書かれた宙は正に悪魔で、村を滅ぼそうとした魔物を倒し、今度は悪魔≪宙≫が村を滅ぼそうとしていた。そこに一振りの剣を持って現れたリリスが勇敢に戦うという感じで。初め、リリスは苦戦するが最後は勝つという王道だった。宙が上げた剣と鎧、そして盾は悪魔≪宙≫が倒された後それが現れた、と成っていた。
「かなり都合よく書き換えてるな……俺、天使なのに……」
宙はその場を離れまた技術関連の本を探しに向かった。
***
宙は閉館時間、30分前に図書館を出た。外は夕焼けで空が紅かった。ホテルに帰ろうと転移するか迷っていると――
「あっ宙!!」
後ろから声を掛けられた。聞き覚えの有る声だった。
「テイネ、こんにちは。いや、こんばんは。かな?」
振りかえるとテイネと知らない女子が居た。2人とも同じ服装でおそらく学校の制服だと宙は考えた。
「テイネ、この人が宙さん?」
もう一人の女子生徒がテイネに確認をしていた。
「テイネ……その子は?」
「そう、この人が宙、昨日危ない所を助けてもらったの。宙、昨日話した、アタシに相談してきた友達のネリアよ」
「初めまして、俺の名前は宙だ、よろしく」
そう言い右手を前に出す。
「こちらこそ、私はネリアです。テイネとは初等学校からの付き合いなんです。昨日はテイネを助けてくれてありがとう」
ネリアは宙としっかり握手をした。
「そうだ! せっかく仲良く成ったし全員で何処か食べに行こうよ」
テイネが2人に提案した。宙としては正直、腹が空いていないが、せっかくなので食べに行くことに賛成した。
「マリア、今日も夕食はいらないと伝えてくれ」
<かしこまりました。今日もまた予約を取りましょうか?>
「2人ともどうする? 何か食べたい物ある?」
宙が二人に聞くとネリアが。
「あっそう言えばこの間、雑誌で一生に1度は行きたいレストランって特集があって帝都で一番天国に近いレストラン――」
「ごめんネリア、そこ昨日行ったと思う」
テイネが申し訳なさそうに言った。
「うそ~!! まさか宙と行ったの!?」
「うん……貸し切りで2人だけで……」
「貸し切り!? 本当ですか? 宙さん!」
ネリアは宙に迫ってきたので宙は正直に話した。ネリアはかなりガッカリしていたが気を取り直して次の希望を話した。其れを聞くと宙は手に握っていた携帯電話に話しかける。
「マリア」
<宙様、ホテルに3人分の夕食を出す様に伝えました。よろしかったですか?>
「さすがマリア、いつも完璧だね」
<有難うございます。それでは>
2人の視線が宙に突き刺さる。
「じゃあ行こうか」
***
宙達2人は宙の泊っている宙の部屋で豪華な夕食を食べていた。宙以外の2人は終始ご満悦で満足しているようだ。途中からなぜかテイネが酒を飲んでみたいと言いだした。宙が理由を聞くと「アタシ、今までに1度もお酒を飲んだこと無いの」だそうだ。ネリアがジュースで割って飲む事を進め。2人は酒をジュースで割りちびちびと飲んでいた。
「それにしても宙って何者? あと時々話してるマリアさんとか……」
テイネが宙に尋ねて来た。テイネの頬には軽く朱が挿している。その疑問に宙は正直に話すことは出来なかった。例え正直に話した所で信じて貰えるはずがないからだ。
「少し金持ちでかなりラッキーな16歳の子供だよ、マリアは俺の部下の様なものだ」
「宙……絶対何か隠しているでしょ?」
(テイネってかなり鋭いな……というか俺がウソを吐くのが下手なのかな?)
「誰にでも隠しごとの1つや2つ必ず有る。無い、なんてそれは人間じゃない。人間だったら絶対に何か隠しているよ」
宙は自分に言い聞かせる様に言う。
「分かったわよ……其処まで言うなら何も聞かない。でも気が向いたら何時でも話して」
「ありがとう」
「ねぇ、二人って付き合ってるの?」
ネリアが二人を見ながらポツリと呟いた。ネリアも少し酔っている様だ、宙に対して遠慮が無くなって来た。するとテイネが口を開いた。
「昨日振られた。仕事に生きるからだって」
「振った覚えは無い、だけど――」とポツリと呟く。宙は酔っていなかった、というより酔えなかった。
「じゃあ付き合ってみる?」
テイネがおどけた様に尋ねて来た。
「……ごめん、それは出来ないや……」
「そっか……」とテイネは顔をうつむかせ呟いた。呟いた言葉に覇気は無く、萎んで行く様な声だった。
***
テイネとネリアはあの後も酒を飲み続け、結局酔い潰れてしまった。宙は若干呆れながら、2人をベッドに運ぶ、勿論、やましいことをする訳では無い。熟睡している2人にそっと布団を掛け宙はベットルームから静かに退室した。
宙はテレビの前のソファに腰掛け、明日の≪正確には今日の≫計画を練り上げていた。宙はほとんどこの世界に未練は無い、有るとすれば……新しく出来た二人の友達のことだ。宙が目標を仕留めればこの星は大きく揺れ動くだろう。それで生じたうねりに2人が巻き込まれる可能性が有るからだ。
宙はソファから立ち、2歩前に進む。宙の足元に魔法陣が描かれ始める。其れは転移だった。今回の転移場所は帝都では無い。それどころか国内ですらない。
***
宙は周囲を確認する周囲には木しか無かった。地面には土、其処は森の中だった。此処が予定道理の座標なら周囲150kmに民家は存在しないはずだった。しかし、宙は念を入れ周囲認識を発動、効果範囲限界まで上げて行く。周囲に人間は居ないと確認した後、宙は早速、準備に取り掛かる。宙は創造主を発動、周囲の木々を青い光が包み分解して行った。
光が収まると宙の目の前に巨大な金属の塊が出現した。その金属はくすんだ銀色で、本来この金属は自然界には存在しない金属だった。地下街の情報屋ポドリアで手に入れたこの金属を宙が創造主を発動し大量に創りだした訳だ。この金属の特性は熱が伝わりにくく断熱性に優れ、融点が8950℃と非常に高いため、まず形が崩れない。また鉄の約8倍の強度を誇りながらも重量は鉄の半分以下という夢の様な金属だった。
宙はこの金属をOT―MS1と命名した。OTは、オーバーテクノロジーの頭文字でMはメタル、Sはこの世界の名前セイチェントからだ
宙は目を閉じリラックスする。そして、この世界で手に入れた様々な知識をふんだんに使いイメージを細部にまで作り上げていく。宙はそうして三十分程立ち尽くしていた。宙はふと眼を開き、そして先ほど創り出した金属を使いアンドロイドを創りだしていく。足から、太ももそして下半身から上半身まで創り上げ。最後に首から上を一気に創り上げる。
そのアンドロイドは全身がくすんだ銀色、頭部はのっぺりとしていて、肢体は細く弱々しいが、宙は300kgまでなら片手で持てる強靭な両腕と設計上2500℃までの耐熱性、400mの高さから自由落下させても機能に一切の支障が出ない耐久性。さらに全身が先ほどの金属で出来ているため小火器程度では物ともしない鉄壁の強度を誇っている。
次に宙はそのアンドロイドの装備創りに掛かる。宙はこの帝国の軍特殊部隊が使用しているアーマーをモデルに改造を加えていった。防弾性、対刃性、衝撃吸収性が平均45%上昇し重量を20%抑えた。すでに原型を留めていない。そしてカラーリングを黒一色にした。
アンドロイド主兵装をH&K G3/SG1にする。少し重いが、このアンドロイドには関係なく、またスナイパーライフルとしても使用できる様にスコープを取り付けた。さらに手榴弾を5つ、閃光弾2つ、グルガナイフを持たせた。
(これじゃあ火力不足かな?……戦車の様な物が出てきたら厳しいか?)
宙は8割にH&K G3/SG1を持たせ残り2割にRPG-7を持たせる事にした。またRPG-7を持たせたアンドロイドにはサブウェポンとしてH&K MP5を装備させた。
宙は完成したその10体のアンドロイドをじっくり観察する。
「完璧だ……我ながら素晴らしいな……」
宙はルンルン気分で同じ物をアンドロイドと含め合計1000セット計10000体創りだした。
今、宙の前には全身黒一色のボディーアーマーを付け背中にH&K G3/SG1をくっつける様にして装備している8000体と、RPG-7とH&K MP5を装備した2000体。そして全てのアンドロイドは胸には4つの手榴弾と2つの閃光弾、腰にはグルガナイフが1本それぞれ装備されている。
フル装備の10000体のアンドロイド大隊が宙の目の前に整列している。
宙は確認を取る様に言い放った。
「全体カバーポジションから射撃体勢!!」
宙が言い放った瞬間10000体のアンドロイドは瞬時に散開し、周囲の木や岩に隠れ銃口を一斉に宙に向けて来た。
「全体整列」
構えていた、全てのアンドロイドが20秒とかからず前後左右、等間隔に整列する。
「これなら行けるかな?」
宙はこのアンドロイドをOT-A1と命名した。ちなみにAはアンドロイド、1は一番目である。
宙はアーマーをもう1つ創りだした、5m離れ、デザートイーグルを創りだしアーマーに向け発砲した。凶悪な.50AE弾がアーマーに着弾する。
宙は駆け寄りアーマー確認する。着弾した弾はアーマーを貫通せずストップさせていた。是ならばアンドロイドの装甲と合わせれば全く問題ないはずと、宙は考えていた。
確認するため、OT-A1の装甲だけを創りだし、木に取りつけ固定する。デザートイーグルを向け発砲。6発を撃ち切り確認に向かう。
「なんか……とんでもないもの創りだしたな、俺」
装甲の表面には若干凹みが有る程度で、これではOT-A1の機能に障害は全く出ないだろう。
「……是ならどうだ?」
宙は創造主を発動し対物ライフル≪GEPARD M1≫を創りだす。――弾丸は12.7mm機関銃弾を使用し、有効射程は2000mに及ぶ――本来地面に置き腹ばいになり撃つ代物だが宙は、両手で持ち上げ銃身をしっかりとホールドする。その長細い筒の様な銃身の先端に有る銃口を装甲に向けトリガーを引いた。約40gの弾丸が800m/s以上で発射され装甲と激突する。
当たった事を確認した宙は地面に対物ライフルを放り投げ、装甲の方に向かう。装甲は盛大に凹でいたが弾は貫通して無かった。宙は対物ライフル左手で拾い上げ、創造主を発動し銃弾を創りだす。弾を口でくわえ、開いた右手で空薬莢を排出する。弾を込め、銃口を宙の後ろに生えていた巨木に向ける、そして発射した。12.7mm機関銃弾は、巨木を易々と貫通し、さらにその後ろに生えていた木に食い込んだ。宙は満足げに頷く。
宙は亜空間を1000作りだした。入口を大きくしOT-A1を1つの亜空間につき10体ずつ入れて行く。
全てのOT-A1を亜空間にセットし終えた宙は、ポケットから携帯電話を取り出す。
「マリア、あいつと直接話しがしたい」
<畏まりました、少々お待ち下さい>
マリアがそう言い残した後、数秒で最高神が出て来た。
『宙から連絡なんて珍しいね?どうしたの?』
「確認したい事が有って連絡した。今回の目標アウエル・シュテットは確かに大量殺戮犯だ……しかし言い方が悪いが殺した人間の数は億でしかない」
『どういう事?』
何時も呑気な最高神の声が強張る。
「俺が此処に転移する前に、お前にアウエルの事を聞いた時≪殺した人間の数は万や億じゃあ済まない≫と言った。俺はこの事がどうにも引っ掛って、此方で調べた。そしたら出るわ出るわ……帝国歴8年に打ち上げられた100機の無人探査船の内36機が人類と非常に酷似した生命体を発見している。発見された惑星はパスだけじゃない。パスを除いた35の惑星でパスと同じような虐殺が行われているが、アウエルはほとんど関わっていない」
『情報が改竄されている……全く僕も舐められたな~気付かれないとでも思ったかな? 宙、仕事を増やすけど良い? 報酬は弾むから』
「関わっている人物78名の抹殺準備はほとんど整っている」
『さっすが~宙は仕事が早い』
(遅いって言った癖に……)
『宙のいる世界の管理を任せている最高神が情報改竄の黒幕みたい。最高神の方は僕に任せて、これは僕の責任だからね。宙の方は派手にやっていいよ』
宙は、最高神の声に怒りが混じっている事に気付いた。
「分かった……報酬は78倍の39兆円でよろしく」
『え~高か過ぎ~』
「お前の監督不行き届きだろ、それに報酬は弾むんだよな?」
『足元を見て~分かったよ。その代わり失敗しないでよ?』
最高神は渋々了解した。宙は通信を切り携帯電話をポケットに入れる。ふと宙は空を見上げる
暗かった空は明らみ始め、森を太陽が照らし始めていた。
「徹夜に成ったな、まぁ疲れはほとんど無いけど。さて戻るか」
宙は転移を発動させながら、おそらくもう起きているであろう2人の友達に、どんな言い訳を言うか考えていた。