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第8話 未来都市Ⅳ

 少しは読みやすくなったかな?

 宙は目を覚ました。いつもの癖でポケットから携帯電話を取り出す。

 午後だった。まあ仕方ないと自分に言い訳をしつつベッドから出た。


 ***


 データの閲覧を終えた後、宙はマリアに頼み携帯電話にリクエストをした情報を幾つかダウンロードしてもらった。髭面の男はもうこの店には居ない。宙が全てを買い取ったからだ。ここに有る兵器、良く分からない物品、膨大な情報、最先端の技術、この世界の英知の結晶が手に入った瞬間だった。


 宙は折角買った物なので全て持っていく事にする。今回、本から得た魔術の中でもかなり――≪Indra≫、≪断罪の蒼鉛Judgment≫は魔術では無く、魔法である――大掛かりな魔術を発動させようとしている。地下に並べてある全ての物品をその場に固定させる。更に空間の8つの隅に自身の魔力で目印を付ける。階段を上り切り、きたない店内に戻ると魔術を発動させる。


 魔術自体は難しくない、ただ規模が大きいだけの≪contraction≫物を収縮させる魔術だ、宙は≪contraction≫を発動。部屋全体を青い魔力光が包む。光が収まると宙の前に青い球体が現れる。亜空間を形成し青い球体をその中に入れる。階段の下は何もない空洞が続いていた。


「さて……帰るか」

 宙は転移魔術を発動、座標を7701号室に固定し転移する。

 7701号室に無事に着くと帝都のビルの隙間から太陽が顔をだしていた。

「人生初の朝帰りが異世界って……」


 ***


 昨日と同じウエイターが朝食を大量に運んできた。其れを宙は残さず平らげる。ウエイターが片付けて行った後、宙はガラスの向こうの2000m離れた隣のホテルに視線を向ける。

(あの情報によればアウエルは後、10日はあのホテルに居るらしい。今すぐ殺してやりたいが、まだこの世界の知識が欲しいからな)

「今日こそ上の目的地にいこう、武器屋はもういいな……まずは家電量販店にいくか」

 宙は今回は歩いて行くことにする。部屋を出て鍵を掛ける、部屋からエレベーターに乗り降りる。一階のエントランスに着くとエレベーターから降りる。受付に軽く挨拶をしてホテルを出た。少し歩いて行くと、地球での男子高校生らしき私服姿の学生5人のグループを発見した。


(サボタージュですか……まあ俺もそうだが)

 前を通りすぎると学生が宙を睨みつけてきた。宙は無視して歩いて行った。

 家電量販店に着くと宙はコンピューターを見始めた。

「すいません」

「はい、何でしょうか?」


 宙は定員に話し掛ける。お勧めを教えてもらう訳じゃない。

「ここから――此処までのパソコンの中で最新の物を10台ずつ下さい」

 宙はパソコンコーナーの端から端までを指差す。

「あのお客様――」

「カードでお願いします」

 懐からゴールドマネーカードを出し見せると。

「ゴールド……はいっ! ただいま!」


 定員が走って行ってしまった。すぐに先ほどの定員も含めた10人ほどが走って来た。

「ただいま、在庫を確認しております。少々お待ち下さい」

 そう言いまた走って行った。しばらくするとワゴンで大量のパソコンが運ばれて来た。100台は優に超えていた。

「申し訳ございません。お客様1機種だけ7台しか有りませんでした。どういたしましょうか?」


「では、7台で構いません。幾らになりますか?」

「はい合計34552Åに成ります」

 宙はカードで支払い5台のワゴンを引き連れ家電量販店を後にした。

「ここまでで構いません、迎えが来ますので」

 勿論嘘だが亜空間に物を入れるのは見せるのは不味いと判断した。……今更だが。


 ***


 家電量販店の裏に回り込み亜空間に仕舞った。その後、宙は図書館に向かう事にする。図書館に入ると完全記憶をONにし、電子工学、機械工学、ロボット工学、バイオニクスなどの書籍を読みあさる。完全記憶と想像者のおかげで斜め読みしただけで驚異的な速さで現代の地球より遥かに進んでいる知識を吸水性ポリマーの様に吸収して行く。宙はしばらく時間が過ぎていくのを忘れて知識の吸収に没頭して行った。


『閉館時間10前です。お忘れ物が無いようにお気をつけてお帰り下さい』

「もうそんな時間か……」

 宙は身体を後ろにひねり窓ガラスから外を見るともう外は暗かった。山の様に積み上げられた、電子書籍の所為で、前の壁に掛けられた時計すら見えなかったため、先ほどの放送でやっと気がついたのだった。


(まだ読みたい物が沢山あるのに……)

「明日も来ればいいか、後9日有るし……それにしてもこの量を10分は無理だろ……」

 宙は積み上げられた電子書籍の山を見る。


 結局、図書館の司書達に助けて貰い閉館時間を10分過ぎて片づけ終わったのだった。

「マリア、ホテルに夕食はいらないと連絡してくれ、今日は外で食べる」

<はい、畏まりました>

 宙はあまり腹が減っていなかった。完全記憶の能力を宙が使いこなしてきた為、力をほとんど消費しなかったからだ。宙は使った先から能力をまるで身体の一部の様に使いこなす。最高神の言っていた“才能”が目に見えて表れ始めた。

 宙は目的もなくぶらぶらしていると、裏路地から女性の悲鳴が聞こえた。


 ***


 魔力を全身に行きわたらせ身体の強化に回す。踏み込むと地面に足が食い込むが強引に強化した足で走り出す。亜空間から以前最高神から貰った鉛を取り出し、走りながら創造主を発動。創造物を懐から取り出す。更に周囲認識を発動、6つの生態反応、そのうち5つに敵性反応がでた。希眼を発動……。


(捉えた)

 それは家電量販店に行く前に見たサボタージュな学生達だった。5人が1人の同年齢らしき女性を囲みリンチにしていた。

「止めろ!!」

 宙は創り出したH&K U.S.SOCOM PISTOL≪屋内戦を想定したサイレンサー付きの拳銃≫の銃口を向ける。弾丸は暴徒鎮圧用ゴム弾なので目に当たらない限り問題は無いが、死ぬほど痛いはずだ。


 学生達は宙の声に反応し振りかえる。銃を向けられているのに気付くと、たちまち逃げて行った。

「えっと……大丈夫ですか?」

 意識が無く地面に横たわっている女性の身体の至る所に痣が有り痛々しい。宙は見かねて上級回復魔術≪revival≫を掛ける、青い光が女性の身体を包み痣が消えていく。


「うう……」

 意識が戻ったみたいだった、宙は一先ず安心し女性の身体を起こした。

「大丈夫ですか?……どこか痛い所ありませんか?」

「……っ! だっ誰よ、あんた! 私をどうするつもりよ!じゅ、銃で脅したって――」

 16、7歳くらいだろうか。整った顔立ち、長い赤毛を後ろでまとめ、活発そうな瞳には恐怖に染まっていたが生を諦めてはいなかった。


 宙は慌てて拳銃を見えない様に懐の亜空間に放り込む。自分に敵意が無いことを表すが信用してもらえ無かった。


 その時――

 ぐぅ~と、その女性の腹が鳴った。

 時間が止まったかと宙は思った。女性は顔を真っ赤にし、目に薄く涙が浮かんでいる。

「えっと……一緒に夕飯食べに行きませんか?」

 宙がそう問いかけると女性はかすかに頷いた。


「良かったら名前を教えてくれませんか?」

「……」

「自分の名前は宙っていいます。君は?」

「……テイネ、後、敬語使わなくていいわよ」

「……そうか分かった。じゃあテイネ、先ずは飯の前に服を買いに行こう」

 宙の言葉にポカンとするテイネは自分の服装を見て愕然とする。先ほど地面に寝転んだ所為で服は汚れ、所々破れていた。


「これでも羽織ってくれ」

「ありがと……」

 宙はスーツの上着を脱ぎテイネに掛ける。そしてポケットから携帯電話を取り出す。

「マリア、泊っているホテルと“例の”ホテル以外でこの帝都が見渡せる高さに有るレストランは有るか?」


<はい、有ります。しかし完全予約制ですが?>

「俺のマネーカードを幾ら使っても構わないから、貸切で宜しく」

<かしこまりました>

 マリアにお願いした後、宙はテイネに視線を向ける。

「それじゃあ行こうか、行きたい店とか有る?」


 ***


 宙はテイネの案内でいわゆる高級ブティックと言うやつに来ている。かなりちゃっかりとした性格の様だ、先ず遠慮が無い。地球に帰ればマネーカードも唯の板、宙としても、まだほとんど使っていない金を速く使いたい訳だ。


「ねえ! これどう?」

「……良いと思うぞ」

 金を使うのは構わない宙だったが……もう1時間ほどこの調子だ。テイネはブティックに入った途端目の色を変えた。気になった服を片っ端からカゴに入れ、試着室に駆け込み。その着た服を一々宙に笑顔で嬉しそうに見せてきた。最初は宙も満更では無かったが、30分が過ぎた頃から宙の顔に疲労が見え始めた。


(喜ばれるのは嬉しいが……長い、こんなにも長いとは思わなかった)

「テイネそろそろ決めてくれ……」

「もう少しだけっ、こんな沢山の中から選ぶの大変なんだから!」

「別に選ばなくても、テイネが気に入った服を幾らでも買うよ」


「え? 良いの!? やったー!!」

 宙の言葉にはしゃいだテイネは両手にカゴを持ち店内を走り回り、時々立ち止まりカゴの中に服を入れて行く。さらにバック、靴、アクセサリーなどもカゴに放り込む。両手のカゴ一杯に品物を持って来たテイネが宙の前に現れた。

「よろしく!!」

 はつらつとした笑顔で。


 ***


<宙様。ご希望のレストランを200万Åで貸し切る事が出来ました>

「ありがとう、マリア。また何かあったら頼むよ」

<はい。それでは……>

 携帯電話にマリアからの連絡が入ったのは高級ブティックを出た直後だった。連絡の後、現在位置からレストランまでの経路が送られて来たので、完全記憶をONにし目を通した。


 迷うことなくレストランの有るビルに辿りつくと。エレベーターに乗り最上階のレストランを目指した。エレベーター独特の浮遊感の後、目的の階に着いた。

「いらっしゃいませ。青野様ですね?」

 燕尾服を着たボーイに名指しで出迎えられた。きっとマリアが予約する時に使ったのだろう。


「はい、そうです」

「では、ご案内します。此方へどうぞ」

 そう言い歩きだしたボーイの後について行く。若干薄暗い店内には小さなキャンドルの置かれたテーブルが1つと2つの椅子だけ置かれ、ほかの椅子やテーブルは店内に置かれていなかった。この店で貸し切るとはではこういうことらしい。


 宙とテイネは椅子に座り宙は顔を左に向けこのレストランの自慢らしい帝都の夜景を見た。その瞬間、宙の顔が凍りついた。

「宙、どうしたの?」

 テイネが心配そうに見て来た。

「な、何でもないよ……」

 それでも宙は目線を反らそうとせず、ある一点を見ていた。

 Pipipipipipi


 携帯電話が“鳴った”このことが意味するのは1つしかない。宙はテイネに顔で詫びつつ席を立ち少し離れる。

「なんだよ……」

『なんだよ、じゃ無いだろー! まったく僕というものが有りながら現地の子と楽しく食事……羨ま――じゃない。仕事しろよ! 仕事!』


 最高神からのラブコールが掛かって来た。

「するよ、これから! 今、情報と知識を集めてるんだよ! それに“あいつ”が動くまでにはまだ時間が有る。それまで何して用がいいだろ!? それに、あれはなんだよ≪↑早くやれ≫って、あんな手の込んだことするなよ!」


 宙はそれを指差しながら叫ぶ様にして言った。そのビルの側面には≪↑早くやれ≫と各部屋の明かりで書かれていた。しかもそのビル、アウエル・シュテットが宿泊しているホテルで↑の先はご丁寧に目標の部屋だった。


『すごいだろーそれは僕がやったんだ! 下級異世界への確立の変動なんてこの程度、楽勝だよ』

 電話の向こうで薄い胸板を一生懸命に張る最高神が目に浮かぶ宙だった。

『まあちゃんと仕事してくれるなら何も言わないけど……実際にただ観光してるだけじゃなさそうだし。その自立進化プログラムだっけ? それ、かなりの掘り出し物だよね』

(やっぱり見てたか……)

『僕は基本的に宙のすることには口を挟まないから世界を消滅させないかぎり何でもして良いから。様々な国、様々な星、全宇宙を支配しても、人やその他の生物を幾ら殺しても構わない。それで世界が進化して行くならなお良い、宙が行おうとしていることは僕とっては大歓迎だよ。それじゃ頑張ってね~』


(すべてお見通しって事か……まぁ良いや自分の好きな様にやって行こう。あいつの許可も出たし)

 宙は最高神との連絡の後、椅子に戻った。テーブルにはオードブルが置かれていた。テイネは食べずに待っていた様だった。

「誰から?」

 テイネが言葉の隅々から好奇心が滲み出る様な声で尋ねてきた。宙は適当に誤魔化すことにした。


「会社の社長からだよ……仕事しろってさ」

「へ~、仕事してるんだ……宙って14歳くらいでしょ? 始め、中等学生だと思ったよ」

 テイネが宙へ感じた最初の印象は金持ちのボンボンだったが“仕事をしている”この一語で宙への評価が、がらりと変わった。自分よりも年下のこの少年が、社長と呼ばれる人物 から仕事の催促がくる。


 よほど頼られている事と先ほど見たゴールドマネーカードから余程の重要人物だという事の証明に成っていた。

「俺は16だけど? しかも現役の高等学生? だし」

「ウソ! アタシと同い年!? しかも学生しながら仕事してるの?」

「まぁそんな所、俺達の人種は幼く見られるからな」


「そうなんだ……じゃあ何処の高等学校に通ってるの? アタシは帝都第三高等学校、宙は? やっぱり第一?」

 宙はなんて答えたら良いか悩んでいたがテイネの話に合わせることにした。

「そう、第一。良く分かったね?」

「頭が良よさそう、金持ち、何でも出来そう。この三拍子が揃えば、ほぼ帝都第一高等学校、間違いなしよ」


(帝都第一高等学校はエリートの集まりらしいな……俺の高校、偏差値50に届いていたかな?)

 宙は知らない事を尋ねられると不味いのでこの話題から離れる事にした。食べながらポツリポツリと会話をする。テイネは実に美味しそうに料理を食べて行く。メインである肉料理が運ばれて来た後、2人はゆっくりと夕食を帝都の夜景を見ながら堪能した。


 ***


「今日は色々ありがと、しかもタクシーの代金まで」

「気にするな、もう日付も変わった。それにまたあいつ等が来ないとも限らない。……そう言えばあいつ等に何をしたんだ?」

 宙は1つ気になっていた事を聞くことにする。食事の時に聞く話では無かったので今聞く事にした。


「……友達の1人があいつ等の1人にストーカまがいの事をされて。アタシの所に相談に来たの。それでアタシはそいつにハッキリと気持ち悪いからもう近寄るなって言った。そんで証拠に電話でその友達の声を聞かせたら、いきなり怒り初めて。仲間を呼んであの有様……もし宙が来なかったら……想像もしたくないよ」


「まったく、その勇気はすごいけど、本当に危ないからもうするなよ?」

「もうしないよ……身にしみて理解したからね」

 その時タクシーがモーター音を小さく響かせ現れた。

「ねぇ宙、また会える?」


「会えるが……実は後9日で帝都を離れる」

「え?」

 テイネの顔に驚愕の色が浮かぶ。これはしょうがない事だ、この世界には仕事で来ただけ……目標が達成されれば地球に帰る。すでに決まっている事だ。

「帝都第一高等学校に通ってるって言ったけど、もう学校は退学した。今の仕事に本腰を入れようと思うんだ……。最近は図書館で調べ物してるから、もし会いたかったら図書館に来てくれ」


「うん、分かった……それじゃまたね」

「またね」

 テイネはタクシーに乗り帰って行った。宙もホテルに向かう事にした。転移を使えば一瞬だが、歩いて帰りたい気分だった。


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