星に跳ぶ
四月、新生活の季節。僕は学校を卒業し、社会人になったばかりだった。
もはや、自分のために何かを研究し、学ぶ学生ではない。自分のしたいことを、したいように、自由に行動することも許されない。換言すれば、僕は不自由になったのだ。
僕の人生の軌跡は、あらかじめレールが敷かれていたかのようだった。
思いがけず合格したまずまずの大学、就職に有利な学科、そして学校推薦で入社した大手企業。これはおそらく、世の中の九割の人が成し遂げられない「円満な人生」というやつなのだろう。
しかし、これは僕がやりたかった仕事ではない。
僕は音楽家になりたかった。いちから音楽を学び、自分のために奏で、自分のために歌いたかった。
着慣れないスーツに身を包み、来る日も来る日も会社へと向かう。
僕は正装が大嫌いだった。せめてもの最後の抵抗として、オフィスカジュアルなセットアップを選んで着ていた。
五月、働き始めて最初の月。僕は案の定、心を病んでしまった。精神科を受診して服薬を始めたものの、それでもなお、幻覚が見え始めた。
「君は、誰?」
「彼女」は何の答えも返さず、ただ僕が退勤する時間になると、客待ちのタクシーの運転手のように、遠くの道路から僕をじっと見つめていた。
ある日、ついに僕は彼女の方へと歩き出した。
彼女は振り返り、僕を連れて電車に飛び乗った。
そうして最終的に、彼女が僕を導いたのが——「戸部駅」だった。
電車を降り、ホームに立ち、線路を見つめる。
この駅には、停車する列車がそれほど多くない。ただ、目にも留まらぬ速さで、何本もの通過列車が次から次へと通り過ぎていくだけだ。
「とべ。」
そんな声が聞こえた気がした。
跳ぶべきか。跳ばざるべきか。
すべての意識を失った後、僕はまたあの幻覚の――「彼女」を見た。
彼女はとても華奢で、その目鼻立ちは一輪の花によって遮られていた。それなのに、彼女は息をのむほど美しかった。
彼女はホームの向かい側に立ち、僕に気づいているようでいて、同時に無視しているかのように、ただそこ佇んで行き交う電車を見つめていた。
突然、あたりが静寂に包まれた。そして、彼女は跳んだ。
彼女の顔に咲くあの花が、さらに鮮やかに咲き誇った。その瞬間、僕は理解した。彼女はきっと、幸せなのだと。
だから僕も、一瞬の恐怖のあと、少しだけ考えてから跳んだ。
そこにあったのは、終わりなき星々の海だった。
僕はきらめく繁星の中へと跳び込んだのだ。
そこでようやく、僕は彼女の姿をはっきりと捉えることができた。
彼女は本当に美しかった。紫色の星々がうごめく群青の中で、彼女は手を差し伸べ、僕を遊泳へと誘った。
僕たちはあらゆる物理法則を無視して、ただ互いの手を強く握りしめ、どこまでも、どこまでも歩き続けていった。




