第9話 主催の最終試験
才能の証明は終わった。
——そう言われた瞬間から、試験が始まる。
【現在の評価値:Warn(正義)- 試練の刻】
【目標評価値:Qualified - 疑惑の払拭】
招待状には、いつもより丁寧な文。
「今夜の議題:試験」
「あなたは“人”を扱えるか」
誰が書いた。
主催だ。
私は未だに、主催の顔をはっきり見ていない。
だが、主催は私を見ている。
扉が開く。
香りが刺さる。
笑みが並ぶ。
メイン三人。
INTJ・レオン。
ESFJ・セレスティア。
ENTP・ユリウス。
そしてゲスト二人。
ISTJ・マグヌス。
INFP・フィオナ。
セレスティアが扇を閉じる。
「今夜は、噂がテーマですの」
噂。
最悪だ。
ユリウスが嬉しそうに言う。
「噂ってさ、真実より早い」
「あなたが早めているのでは?」
セレスティアの微笑みが、少しだけ刺さる。
ユリウスは笑った。
「僕は風。
止められない」
その台詞は、第8話の模倣。
彼はわざとだ。
つまり今夜の地雷は、彼が置く。
ユリウスが声を張る。
「ねえ皆。
聞いた? INTJ・レオンがさ——
慈善の名義を“自分の手柄”にしたらしいよ」
空気が凍る。
私は理解する。
これは嘘だ。
しかし嘘は、ここでは刃になる。
セレスティアの扇が止まる。
フィオナが私を見る。
マグヌスの目が、淡々と動く。
止血の準備。
私は盤面帳を開かない。
今夜の試験は、盤面帳では解けない。
(相手の欲しいもの:スキャンダルの消費)
(相手の守りたいもの:サロンの安全)
(相手の恐れ:誰かが悪者になること)
(渡せる譲歩:沈黙/真実の放棄)
私は一拍置く。
怒らない。
怒れば、噂は“本当っぽく”なる。
私は比喩で言う。
「その噂は、砂糖です」
ユリウスが瞬きをする。
「甘い?」
「溶けます。
混ぜ方を間違えると、底に沈んで、最後に苦くなる」
セレスティアの目が細くなる。
私は続ける。
「今夜、必要なのは真実ではありません。
“誰も恥をかかない訂正”です」
フィオナが小さく頷く。
私はユリウスを見る。
「ENTP・ユリウス。
その噂を持ち込んだあなたが、訂正してください」
ユリウスが笑う。
「え、僕が?」
「はい。
あなたなら、訂正を“面白く”できます。
面白い訂正は、拡散されます」
ユリウスの口角が上がる。
彼は楽しそうだ。
私はさらに、撤退路を置く。
「ただし、誰かの罪にはしない。
“勘違い”にする。
勘違いしたのは、あなた。
そして私は、笑って許す」
ユリウスが目を細める。
「……君、僕に“負け役”を渡したね」
「ええ。
あなたは負け役が上手い」
これは褒めだ。
解剖ではない。
ユリウスが声を張る。
「訂正するよ。
さっきのは僕の勘違い。
INTJ・レオンは、名義を取ったんじゃない。
名義の“語り”を整えた。
つまり——
彼は悪者になるのが下手だ」
場が笑う。
笑いは、刃ではない。
撤退路だ。
セレスティアが扇を閉じる。
「良い訂正ですの」
マグヌスが淡々と頷く。
「規定により、噂話はここで終了でございます」
フィオナが小さく言う。
「あなた、守りましたね。
自分も、相手も」
私は息を吐く。
私の盤面帳の評価欄、そこに漂っていた赤色は、ゆっくりと鎮静化しつつあった。
音もなく、銀盆がテーブルに置かれた。
封蝋。
主催の印。
セレスティアがそれを開く。
中は、短い一行だけだった。
——合格。
私は天才だ。
だから今日の勝ちは、派手ではない。
派手ではない勝ちが、いちばん強い。




