表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/10

第7話 勝ち方の罠

 勝てばいい。


 ——そう思っていた時期が、私にもありました(三回目)。


【現在の評価値:Safe(安定)- 常連の入り口】

【目標評価値:Trusted - 勝ち方の美学】


 招待状は短い。


「今夜の議題:勝負」

「勝っても嫌われたら負け」


 矛盾。


 セレスティアの趣味が悪いのか、育成が上手いのか。


 扉が開く。

 香りが刺さる。

 笑みが並ぶ。


 ESFJ・セレスティア・ヴァレンヌが扇を開く。


「今夜は“勝ち方”を学びますの。

 貴族は、勝ってはいけません。

 勝たせねばなりません」


 意味が分からない(二回目)。


「分かるよ」


 ENTP・ユリウス・スカーレットが笑う。


「勝った瞬間から、君が悪者になるんだ」


 黙れ。


 ゲストが二人。


 ISTJ・マグヌス・グレイ。

 今日も止血の匂い。


 ESTP・ルカ・ブラッドリー。

 今日は“勝負の匂い”。


 ルカは入ってきた瞬間、楽しそうに言った。


「よし。何でやる? 腕相撲? カード? 走る?」


「走るのは室内では禁止ですの」


 セレスティアが即座に潰す。


 ルカが笑う。


「じゃあ、賭けだな。

 “誰が一番、場を動かしたか”」


 場を動かす。


 それは私の目的と重なる。


 私は盤面帳を開いた。


 私は脳内の盤面帳に、勝利条件を書き殴る。

 得点ではない。評判だ。

 相手の面子を絶対に潰してはならない。

 そして撤退路——私自身が、笑って降りられること。


 ——理解している。

 頭では。


 問題は、手が勝ちに行くことだ。


 セレスティアが、赤いリボンをテーブルに置いた。


「勝者は、次回の上座の隣。

 敗者は……その勝者を褒めてくださいませ」


 罰が罰になっていない。

 しかし、私には罰だ。


 ルカがニヤリとする。


「INTJ・レオン。お前、頭いいんだろ。

 勝ってみせろよ」


 挑発。


 ユリウスが囁く。


「勝つなよ」


 矛盾。


 私は天才だ。

 だから矛盾も処理できる。


 ——できるはずだった。


 勝負は、意外にも簡単だった。


 ルカが“場を動かす”ために、わざと大げさに振る舞う。

 私はその導線を読み、最小の言葉で最大の反応を引き出す。


 セレスティアは笑う。

 ユリウスは笑う。


 ——勝っている。


 私は気づかないまま、勝ってしまう。


 そして決定打。


 ルカが言った。


「なあ、こっち来い。

 俺の席、譲ってやる。

 お前なら、上座の隣でも死なないだろ」


 譲る。


 譲られる。


 第2話の勝ち筋。


 私は反射で答えた。


「合理的ではありません」


 言ってから気づく。


 合理的ではない。


 それはルカの“善意”だ。


 善意を否定した。


 場が冷える。


 セレスティアの扇が止まる。


 ユリウスの笑みが、ほんの少しだけ消える。


 ルカの目が、細くなる。


「……へえ」


 短い。

 しかし短い言葉は、刃だ。


 私は言い訳を探す。


 直接否定は禁止。


 だが今夜の敵はルールではない。


 “面子”だ。


 マグヌスが一歩前へ出る。


「規定により、勝負の最中の席移動は——」


 止血。


 しかし止血は、血が出てからでは遅い。


 ルカが笑う。


「いいよ。

 分かった。

 天才様は、合理しか愛せないってさ」


 嫌な語り。


(合意後の語り:最悪)


 私は盤面帳の余白を、握りつぶしたい。


 セレスティアが微笑みのまま言う。


「INTJ・レオン。

 あなたは勝ちました。


 そして——負けました」


 私は息が止まる。


 ユリウスが囁く。


「ほらね。

 最短って、最悪に近い」


 黙れ。


 私はルカを見る。


 ここで必要なのは、謝罪ではない。


 撤退路。


 相手が笑って降りる道。


 私は一拍置いて言った。


「……あなたは、強い」


 褒め。


 しかし“評価”ではない褒め。


「あなたの善意は、場を守る。

 私の合理は、場を壊す。


 だから——今夜は、あなたの勝ち方を真似したい」


 ルカが目を瞬かせる。


 私は譲歩を切る。


「次回の上座の隣。

 その席は、あなたのものにしてください。


 私は……その隣で、あなたの勝ちを褒めます」


 セレスティアの扇が、ゆっくり動く。


 ルカの口角が上がる。


「……言えるじゃん」


 ユリウスが拍手する。


「うわ、やだ。

 INTJ・レオン、いま“負け方”で勝った」


 マグヌスが淡々と頷いた。


「ぎりぎりでございます」


 私の盤面帳の評価欄、一度は警告色に染まりかけたそれが、再び静かな青へと戻っていくのを感じた。


 私は天才だ。


 だから、勝ち方には種類がある。


 そして貴族の勝ちは——


 相手が笑って降りることだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ