第7話 勝ち方の罠
勝てばいい。
——そう思っていた時期が、私にもありました(三回目)。
【現在の評価値:Safe(安定)- 常連の入り口】
【目標評価値:Trusted - 勝ち方の美学】
招待状は短い。
「今夜の議題:勝負」
「勝っても嫌われたら負け」
矛盾。
セレスティアの趣味が悪いのか、育成が上手いのか。
扉が開く。
香りが刺さる。
笑みが並ぶ。
ESFJ・セレスティア・ヴァレンヌが扇を開く。
「今夜は“勝ち方”を学びますの。
貴族は、勝ってはいけません。
勝たせねばなりません」
意味が分からない(二回目)。
「分かるよ」
ENTP・ユリウス・スカーレットが笑う。
「勝った瞬間から、君が悪者になるんだ」
黙れ。
ゲストが二人。
ISTJ・マグヌス・グレイ。
今日も止血の匂い。
ESTP・ルカ・ブラッドリー。
今日は“勝負の匂い”。
ルカは入ってきた瞬間、楽しそうに言った。
「よし。何でやる? 腕相撲? カード? 走る?」
「走るのは室内では禁止ですの」
セレスティアが即座に潰す。
ルカが笑う。
「じゃあ、賭けだな。
“誰が一番、場を動かしたか”」
場を動かす。
それは私の目的と重なる。
私は盤面帳を開いた。
私は脳内の盤面帳に、勝利条件を書き殴る。
得点ではない。評判だ。
相手の面子を絶対に潰してはならない。
そして撤退路——私自身が、笑って降りられること。
——理解している。
頭では。
問題は、手が勝ちに行くことだ。
セレスティアが、赤いリボンをテーブルに置いた。
「勝者は、次回の上座の隣。
敗者は……その勝者を褒めてくださいませ」
罰が罰になっていない。
しかし、私には罰だ。
ルカがニヤリとする。
「INTJ・レオン。お前、頭いいんだろ。
勝ってみせろよ」
挑発。
ユリウスが囁く。
「勝つなよ」
矛盾。
私は天才だ。
だから矛盾も処理できる。
——できるはずだった。
勝負は、意外にも簡単だった。
ルカが“場を動かす”ために、わざと大げさに振る舞う。
私はその導線を読み、最小の言葉で最大の反応を引き出す。
セレスティアは笑う。
ユリウスは笑う。
——勝っている。
私は気づかないまま、勝ってしまう。
そして決定打。
ルカが言った。
「なあ、こっち来い。
俺の席、譲ってやる。
お前なら、上座の隣でも死なないだろ」
譲る。
譲られる。
第2話の勝ち筋。
私は反射で答えた。
「合理的ではありません」
言ってから気づく。
合理的ではない。
それはルカの“善意”だ。
善意を否定した。
場が冷える。
セレスティアの扇が止まる。
ユリウスの笑みが、ほんの少しだけ消える。
ルカの目が、細くなる。
「……へえ」
短い。
しかし短い言葉は、刃だ。
私は言い訳を探す。
直接否定は禁止。
だが今夜の敵はルールではない。
“面子”だ。
マグヌスが一歩前へ出る。
「規定により、勝負の最中の席移動は——」
止血。
しかし止血は、血が出てからでは遅い。
ルカが笑う。
「いいよ。
分かった。
天才様は、合理しか愛せないってさ」
嫌な語り。
(合意後の語り:最悪)
私は盤面帳の余白を、握りつぶしたい。
セレスティアが微笑みのまま言う。
「INTJ・レオン。
あなたは勝ちました。
そして——負けました」
私は息が止まる。
ユリウスが囁く。
「ほらね。
最短って、最悪に近い」
黙れ。
私はルカを見る。
ここで必要なのは、謝罪ではない。
撤退路。
相手が笑って降りる道。
私は一拍置いて言った。
「……あなたは、強い」
褒め。
しかし“評価”ではない褒め。
「あなたの善意は、場を守る。
私の合理は、場を壊す。
だから——今夜は、あなたの勝ち方を真似したい」
ルカが目を瞬かせる。
私は譲歩を切る。
「次回の上座の隣。
その席は、あなたのものにしてください。
私は……その隣で、あなたの勝ちを褒めます」
セレスティアの扇が、ゆっくり動く。
ルカの口角が上がる。
「……言えるじゃん」
ユリウスが拍手する。
「うわ、やだ。
INTJ・レオン、いま“負け方”で勝った」
マグヌスが淡々と頷いた。
「ぎりぎりでございます」
私の盤面帳の評価欄、一度は警告色に染まりかけたそれが、再び静かな青へと戻っていくのを感じた。
私は天才だ。
だから、勝ち方には種類がある。
そして貴族の勝ちは——
相手が笑って降りることだ。




