表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

第九話

 そうだ、思い出した。

 男の左頬にあるドラゴンのような模様のアザ。それは魔王の証。

 しかし男の目は本気で、嘘や冗談を言っているようにも見えない。

 男は「あれ、気付いたんだ」と眉を下げて笑う。


「確かにボクは魔王に分類される存在だ。でも、世界をどうこうしようとも思わないし、モンスターだって操れない。他の魔王と結託するつもりなんてさらさらないし、むしろ倒したい魔王がいるくらいだ」


 魔王は三百六十五人いるとされている。それら全てが同じ目的をもって行動しているわけではないと男は説明した。

 仲間になってくれたら、それは確かに頼もしい存在だろう。魔王は勇者によってしか倒されることはないのだから、彼が道半ばで倒れることもない。


「まぁ、効きが悪いとはいえ毒だって効くし、怪我もするけどね」


 風邪だってひくし、と男は茶化したように肩を竦める。

 でも。

 少女は首を横に振る。


「魔王を倒しに行く勇者の仲間が魔王だなんて、変だよ」

「えー?」


 手当ての終わった足を見る。丁寧に巻かれた包帯が眩しいくらいに白い。

 それに礼を言って少女は立ち上がる。あちこちについた泥はもう乾き始めていた。叩いて落とせるだけ落とす。

 このまま町に戻るのは大変だろう。宿だって、受け入れてくれるだろうか。


「アザ隠せば普通のヒトだよ?」

「というか、魔王に魔王って倒せるの?」

「……いやぁ、どうだろうね。試したことないからなぁ」


 男は首を傾げる。そもそも全身真っ黒なローブを着込んだ黒髪で背の高い男だ。アザを隠したところで不審者感は否めない。


「ねぇ、仲間にしてよ」


 立ち上がった男はやはり背が高く、少女は見上げることになる。


「……やっぱりダメ。魔王が仲間の勇者だなんて、変だもん」


 ええ、と男は唇を尖らせる。だがふと気付いたというように、にっこりと口端を上げた。


「じゃあ、勝手についていくことにしようっと」


 え、と少女は目を瞬かせる。

 男の顔は笑顔だったが、やっぱりその目は真剣そのものだった。



 □■□



 よし、とリタ・エリオは頷いて、ぽんと新しいポーチバッグを軽く叩いた。

 ポーチバッグの中には薬草やポーションはもちろん、細々としたものも入っている。

 レイクワームのウロコが思いの外いい値段で売れてくれたので、泥だらけになった衣類はもちろんバッグからなにまで新調できたのはいい誤算だった。

 ほとんど泥だらけの恰好で町に戻ったときは胡乱な目で見られたが、森のモンスターを倒したことが知れると一気に歓迎ムードになったのには少々複雑な気持ちだ。

 宿で風呂に入ることもできたので、今の少女は頭の上から爪の先までピッカピカ。気分もスッキリして、昨夜はベッドでぐっすりと眠れた。

 ついでに古くなってきた剣も砥ぎに出して綺麗になっている。

 結局、仲間になってくれる人は現れなかったが、気持ちも新たに旅立つことができそうだ。

 鼻歌でも歌いだしそうな気分で歩き出した少女の後ろを、当然のように男――シグレがついてくる。


「シグレくん、本当についてくるねぇ」

「仲間にしてくれるまでは勝手についていくって決めたからね」


 そう言う男の左頬には大きなガーゼが貼られている。アザを隠すためだろう。

 それ以外は相も変わらず上から下まで真っ黒な恰好だ。割と不審者この上ない。

 町中ではつかず離れずのところをついてきていた。下手をすると完全にストーカーの類いだがそれでいいのだろうか。

 少女は町では男に声をかけることなく、できるだけ気付いていないふりをした。男も話しかけてくることはなかったし、まぁ、いいだろう。


「だってシグレくん、魔王じゃん」

「魔王差別はんたーい。魔王だってたくさんいるんだから、一人くらい勇者の仲間になってもいいと思いまーす」

「そうかなぁ?」


 そもそも少女は勇者として三百六十五人の魔王を倒す使命を帯びている。男はそのうちの一人。……と、なると、やはり仲間ではなく倒すべき対象ということになるが。

 むしろ今ここで倒しておいた方がいいのだろうか。

 しかしこの魔王は人類を滅するだとか国を侵略するだとかモンスターを操ってあちこちに被害をもたらすだとか、そういったことをしたことも、するつもりもないと言った。


 その言葉に嘘は見えなかった。

 そうなると少女はなにも悪いことをしていない男を倒す気持ちにはなれない。それが魔王だとしても。


「シグレくんは、どうして仲間になりたいの? 人間の仲間でいいの?」


 んん、と男は目を瞬かせる。そうだなぁ、とのんびりとした口調で続けた。


「むかーし、お世話になった人に『簡単に人間を滅ぼそうとしない』って約束したんだ」


 遠いところを眺めるように、男はここではないどこかを見ているようだ。

 少女が見上げていることに気付いて、すぐに笑顔を作り直すと、冗談めかしたように、


「それに人間の作るお菓子って美味しいよね。滅ぼしたら食べられなくなっちゃうだろうし、それは困るなぁ」


 少女は脱力してかくりと肩を落とした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ