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第二十話

「……魔王を倒す勇者の仲間になりたい魔王って、シグレくんはそれでいいの?」

「いいよぉ。だってボクにも倒したい魔王いるし」


 確かに魔王を倒せるのは勇者だけなのだから、魔王にも魔王は倒せないのだろう。無駄な戦いにしかならない。


「それに、これから先もひとりで旅をするつもりなの? 大変だよ、ひとりって」

「……うん……」


 いくら男が他の魔王たちを仲間や同族だと思っていないとはいえ、勇者である少女の仲間として魔王退治に行くのはどうなのだろうか。

 それに少女は未だ、目の前のなにも悪いことをしていない魔王を倒すべきなのかどうかすら結論を出せていない。

 もし倒すと決めたとき、この男が仲間として側にいたら。

 少女は勇者として、男を魔王として倒すことができるのだろうか。


「……」


 結論はすぐに出てくれそうにもない。

 悩み、俯き加減になってしまった少女の頭に男はぽんと手を乗せる。


「難しく考えなくてもいいんじゃないかな。ボクはたしかに魔王だけど、倒したい魔王がいるからリタちゃんの仲間になりたい。リタちゃんは今ひとりっきりだから仲間が欲しい。ほら、ボクのこといいように使っちゃえばいいんだよ。ボクだってリタちゃんと一緒にいればあの魔王に会えるだろうって魂胆だからね」


 利用していいよ、という男の声は優しい。

 他人を利用だなんて、曲がったことが嫌いな少女には難しいことなのだが。


「じゃあ、お試しでしばらく一緒に旅をしてみるっていうのはどう?」

「……それって仲間とどう違うの?」

「えーと、気持ち的に?」


 男も首を傾げている。

 少女は頭がいい方ではないのだからあまり難しいことを言わないでほしいと小さく唇を尖らせた。

 それで、と男の視線は再び聖剣に落とされる。


「これ……伝説の勇者の剣、なんだよね?」


 再度の確認。先ほどから、一体なにが気になっているのだろう。

 少女は首を傾げながらも頷く。


「………………………………ううぅん」


 今度は腕を組んだまま天を仰ぐ男。

 行動の意図がわからず、少女は更に首を傾げた。

 しばらく見守っていると、よし、と男はなにかを決意したように腕を解いて少女へ視線を戻した。


「あのね、リタちゃん。落ち着いて聞いてね」

「うん」

「その剣、………………………………魔王だ」

「うん?」


 マオウとはなんのことだろうか。

 少女は目を瞬かせ、男の目を見返す。嘘のない真剣な目だった。


「……マオウ?」

「魔王」

「伝説の勇者の剣が?」

「伝説の勇者の剣が」

「……魔王……?」

「残念ながら」


 あんぐりと口を開けたまま右手に持つ聖剣――男曰く魔王――を見下ろす。

 不意に、どろりと鍔にはめ込まれた青石が濁った。


「あ、」


 濁った青石の中で闇が渦を巻き、ドラゴンのような模様を描く。魔王の証だ。


『ふ、ふふふ……バレてしまっては仕方ない』


 頭に直接響く声。先ほどよりあくどい声色に感じるのは気のせいだろうか。

 そうだ、と聖剣の形をした魔王が肯定する。


『我は憑代(よりしろ)の魔王! バカな勇者め、我を手にしたことを後悔するがいい』

「あー……憑代の魔王か。こいつは肉体を持たない魔王で、こうして魔力のこもった器に取り憑くことで生き長らえている魔王だよ」


 つまり、と男は剣の形をした魔王を指差す。


「この剣自体は本物の聖剣なんだ。そこに、この憑代の魔王が取り憑いた。ってことはこの聖剣を壊せば、この魔王は死ぬ」

『ちょっと待て!』


 少女は右手の聖剣を見下ろす。

 焦った声で叫んだところを見るに、この魔王は自力で動くことはできないようだ。


「あれ、でもこの剣でゴーレム……魔王、倒せたよ?」

「それはこいつの本体は剣だからじゃないかな。魔王として倒したんじゃなくて、剣という機能と勇者の力で倒したってこと」


 なるほど、少女は納得して頷いた。

 だが、もう一つ問題はあることに気付く。


「でも勇者の剣がなかったら、どうやって魔王を倒せばいいんだろう」

『そ、そ、そうだぞ! 我が身がなければ勇者など取るに足らず!』

「別に聖剣じゃなくても、勇者が振るえばどんな剣でも魔王は倒せるよ。かつての勇者がこの剣で魔王を倒したことから聖剣と呼ばれているだけだし」


 一応、この聖剣自体の作りは特殊らしく、勇者の加護を十二分に引き出すことができるので他の武器よりも有利に戦えるとのことだが。


「リタちゃんが新しい剣を用意して、それで魔王を何体か倒したらそれがまた聖剣って呼ばれるようになるだけだよ」


 だから壊しちゃおう、と男は軽い調子で聖剣をつついた。

 白く美しい刃には指紋ひとつ付かない。


「で、でもこの剣は悪いことしてないし……」


 そうだそうだ、と憑代の魔王が声を上げた。


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